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【特集】

JASRACの違法音楽配信サイト対策
~J-MUSE、プロバイダー責任法、電子透かし

菅原瑞夫送信部部長

 インターネット上の違法音楽ファイルの流通を巡って、日米で動きが活発になってきた。米国では、全米レコード協会(RIAA)が、ファイル交換ソフト「KaZaA」のユーザー情報をプロバイダーに開示するように求めた裁判に勝訴した。日本でも、ファイル交換ソフト「ファイルローグ」について、著作権侵害を行なっていると司法の判断が下された。

 ファイルローグ裁判でも原告の一翼を担った社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)では、独自に違法音楽配信サイトに対して活動を行なっている。今回の特集では、JASRACの菅原瑞夫送信部部長にインタビューを行ない、JASRACがとっているさまざまな違法音楽配信対策を紹介する。

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●監視システム「J-MUSE」~JASRACは常に見張っている


 JASRACの違法音楽配信サイト対策の根幹をなしているのが、監視システム「J-MUSE」だ。これは、インターネット上での音楽配信管理システム「JASRAC NETORCHESTRA SYSTEM」の中の1機能で、2000年10月23日から稼動している。1カ月あたりの検索能力は、約540万件。対象となる音楽関連ファイルは、HTML・JPEG・GIF・MP3・MIDIなど。歌詞の違法アップロードも対象とするために、テキスト検索機能も近日中に実装予定だ。

 稼動から18カ月間で延べ9,700万ファイルを検索し、そのうち音楽ファイルは3,000万ファイル程度だ。主目的は、違法音楽ファイルの所在情報をデータベース化することで、転々と移設を繰り返すサイトも追跡しながらブラックリストを蓄積している。JASRACでは、このデータベースを元に、違法サイトへの警告、公開停止を求めている。

 1カ月540万ファイルという数字を多いと見るか、少ないと見るかは人それぞれだろう。検出した違法サイトの最終確認は、現時点では数人の専任スタッフが実際に見て、音楽ファイルを聞いて確認している。今後、この数字は増えていくのだろうか?

 菅原氏は次のように答える。「実は、ハードディスクの容量によって540万ファイルという数字になっているだけなんです。今後、必要だと判断すれば、当然増強してくでしょう。このまま、インターネット接続環境がブロードバンド化していけば、映像コンテンツが増えていくでしょう。そうするとファイルそのものが大きくなっていく。それにあわせたアップデートは必要でしょうね」。これは、映像そのものを監視の対象とするというだけでなく、その中で使われているBGMなどの素材音楽についても目を光らせなくてはいけないからだ。

 2002年12月末時点で、J-MUSEがデータベース化した違法サイトは約6,000サイト。基本的には、日本のドメインのみだという。ただし、J-MUSEは階層構造をどんどんたどっていくため、違法ファイルだけを海外のサイトに置いているようなケースでも把握している。当然、HTMLを置かずに、音楽ファイルだけを公開している場合でも、リンクをたどって検出する。菅原氏は、「掲示板やアップローダーに関して、現時点では優先順位は低い。しかし、技術的には対象にすることは可能ですから、将来的には視野に入れていくでしょう」とコメントする。

 これまでの活動では、違法サイトと確定したサイトの運営者のメールアドレスが入手できれば、個別に警告メールを発送していたという。菅原氏は、「把握、追跡しながら、周辺情報との絡みの中で連絡先が見つかることもある。そのための蓄積でもあります」と語る。

●P2P型ファイル交換サービスを追跡できるのか?


 ところで、最近流行のファイル交換ソフトをもJ-MUSEの対象にすることは可能なのだろうか。

 「追跡は可能」と菅原氏は切り出す。「時間的な制約があるのでWebサイトのように、完璧に特定するというのは無理です。例えば、なんとかというニックネームの人が、ある時点で、なんらかのファイル交換ソフトを起動して、音楽ファイルを交換したという事実はつかめるでしょう。この場合、IPアドレスの特定も可能だと思ってます」。

 また、「WinMX」には対応しているが、「Winny」には対応していないといった得手不得手はないそうだ。新しいソフトや、新しい音源のフォーマットが増えれば、それをJ-MUSEに組み込んできたという。つまり、J-MUSEは、さまざまなファイル交換ソフトにも接続されているのだ。

 IPアドレスが取得しにくいと言われている「Winny」についてはどうだろうか。菅原氏は、「この手の新技術とは追いかけっこが続くだろう」と語る。「おそらくWinnyであっても、あるユーザーが、その時点で、どこのプロバイダーから接続しているかという情報は追跡することは技術的に可能ではないかと思ってます。個人ユーザーだと難しいかもしれませんが、接続元が学校だとか、企業だとかからであれば、そこに対する停止要請ができるでしょうね」。

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●プロバイダー責任法の登場


 JASRACの活動において、大きな課題が1つ残されていた。把握している違法サイトのうち、半数近くが運営者の連絡先を入手できず、警告メールを送信できなかったのだ。この状況を一変させたのは、プロバイダー責任法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)の誕生だ。

 JASRACは、社団法人テレコムサービス協会(テレサ協)が作成した著作権関係ガイドラインにおける「信頼性確認団体」第1号だ。信頼性確認団体とは、ISPなどに対して著作権を侵害しているコンテンツの削除などを求める際に、著作権者に代わって手続きを行なうことを認められた団体だ。JASRACのほかには、社団法人日本映像ソフト協会、社団法人日本コンピュータソフトウェア著作権協会、ビデオ倫理監視委員会、社団法人日本レコード協会などが認定されている。

 プロバイダー責任法の成立によって、サイト運営者が不明な場合でも、直接ISPに公開停止措置を求めることが可能になった。JASRACでは、蓄積されている違法サイトが公開されているISPに対して、順次、停止要請を郵送している。ただし、いきなり6,000サイトを対象に作業を行なうわけにもいかないので、現時点では週に7~8サイト程度のペースだという。

 菅原氏は、「いきなり6,000サイト全部というのは、JASRAC側の作業も大変だというのもありますが、法律が施行され、ガイドラインが定められ、ようやく動き出したばかりなので、お互い(JASRACとISP)に作業をどのようにすすめていくのかという準備期間が必要です。慣れるまでに、たくさん出してしまって、混乱するだけで公開停止に至らないというのでは困りますから」と語る。

 この作業は、2002年10月15日から始められた。12月末までで、のべ74サイト(4,000超の違法ファイル)を対象に、28ISPに対して通知。これらを公開停止にこぎつけた。1月現在では、ISP延べ46社に通知し、ISP43社が違法サイトに対して公開停止措置を取ったという。この結果、102サイト(7,364ファイル)が対象となり、そのうち94サイト(7,242ファイル)が公開停止された。

 停止措置を行なっていないISPがいくつか残されている。これに対して菅原氏は、「停止措置に『応じられない』という回答をするISPはありません。初めて通知が届くと、事態を把握できないことがあるようで、JASRACとのやりとりに時間がかかる。そのような場合、テレサ協で定められたガイドラインを紹介し、JASRACのような信頼性確認団体から通知があった場合は、ガイドラインではこういうふうにするんですよと返事すれば、ほとんどのISPが停止措置に応じてくれます」と答えた。また、プロバイダーの運営方針の差も影響しているようだ。ユーザー加入時の契約や規約、ISPの削除ポリシーによって、反応スピードが違うのだ。

 違法コンテンツの停止に至った件を平均すると、JASRACが通知を発送してから4日程度で公開停止になるという。早いISPでは、JASRACが月曜日に通知書を郵送し、それが到着した翌日には公開停止措置をとるところもある。

 通知書を送るリストには、どのような優先順位があるのだろうか。菅原氏は次のように語る。「通知は、特にそのサイトが悪質だからということはありません。現状、関係者が『作業の流れ』というものを理解するための期間だと思っていますので、特に選別せずにデータベースの中から抽出しています」。JASRACでは、「できるだけ多くのISPに」という気持ちはあるそうだ。しかし、作業時間を考慮に入れると、データベースの順に通知している部分が大きいという。

 現在、通知書が送付されたISPは、トップISP10社から草の根ISP、教育機関、団体など多数。無料Webサービスなども当然対象に入っており、むしろ無料サービスのほうが削除が早いという。

 それでは、特に悪質なものに関して、何も対策を考えていないのだろうか。菅原氏によれば、将来的には、追跡データを元に、法廷で損害賠償請求などを行なう可能性があるとのことだ。

●電子透かしとの連携


 2003年1月22日、JASRACと日本レコード協会は、音楽ファイルに電子透かしを入れることでインターネット上の違法音楽ファイルの追跡に有効だとする実験報告を行なった。CD音源に電子透かしを入れておけば、それがMP3形式に変更されたり、ラジオ放送を録音されたりしても、著作権情報の追跡が可能になるというのだ。

 あくまでも、電子透かしを埋め込むのはコンテンツホルダーであり、JASRACが埋め込むわけではない。しかしJASRACでは、違法対策が必要だという風潮が広がっていくことを予想しており、J-MUSEに電子透かしを読み取るデコーダーを組み込んでいる。菅原氏は、「電子透かしに関しては、おそらく標準化されないでしょう。いくつかの種類の透かしが並存することになりますが、それらに対応したフィルターをJASRACが持てばいいことだと思ってます」と語る。

 電子透かしが浸透することの利点として、音源の特定が簡単になることが挙げられる。現状、人間の手によって行なわれている最終確認の作業が、電子透かしを読み取ることで自動化される。「今みたいなデータベース蓄積型ではなくて、巡回中にリアルタイムで特定も可能になりますよ」と菅原氏も期待する。

 また、コンテンツホルダーからみれば、自分のコンテンツだということを立証しやすくなる。現在、裁判において、「違法とされる音楽コンテンツが、間違いなくコンテンツホルダーから提供されたものかどうか」という同一性の認定作業がネックになっているという。そのほか、違う圧縮をかけたり、電子透かしを除去したとしても、その痕跡が残ることで、どこまでも追跡が可能になる。

 電子透かしの普及活動に対して、JASRACのスタンスは次のようなものだ。まず、違法対策が必要だということ、電子透かしが有効な手段の1つだということをアピールしていく。しかし、問題も残されている。1つはコストの問題、もう1つは電子透かしそのものの耐性だ。電子透かしの効果を強くすれば、その分音質が低下する。菅原氏も「この2つは、トレードオフの関係にあるため、『なんでもかんでも電子透かしを入れろ』とは言えません」とコメントしている。JASRACでは、これまでに「STEP2000」「STEP2001」と呼ばれる電子透かしの実用化実験を行なってきた。この結果、「この程度の品質低下ならば商用に耐えるだろう」という電子透かし技術をいくつか認定している。

 1月22日に発表された実験では、どのような情報が電子透かしとして組み込まれていたのだろうか。JASRACの発表によれば、著作権協会国際連合(CISAC)で定められた世界共通の作品コード「ISWC」を基本に、今後新しい情報の追加に対応できるようにプラスアルファの桁数を持たせたものを採用したという。電子透かしそのものには、ユニークなIDを与えておき、著作権情報は別途データベースで管理する方法だ。菅原氏によれば、電子透かしに何を入れるかという議論は欧州を中心に活発になされているが、「電子透かしをできるだけ軽いものにしておいて、クオリティとのトレードオフを成立させるという使い分け」が主流になっているという。

 それでは、著作権情報などのメタデータは誰が管理するのだろう。答えは、権利者がそれぞれ管理するということらしい。しかしながら、これらデータベースが共有化されていくことは予想にたやすい。例えば、JASRACでは、楽曲のデータだけではなく、ある楽曲がなんというレコードで、いつ発売されたかという統合データベースを持っている。このようなデータベースは単体よりも、複数のデータベースと連携されて使われることが多く、情報の共有化は当然の流れといえる。

 実際に、「Music J-CIS(Japan Copyright Information Service)」という統合データベースを、JASRACと日本レコード協会などが共同で構築している。これはすでに、インターネット上の「Music Forest( http://www.minc.gr.jp/ )」というサイトで公開されている。現時点では、音盤中心のデータベースだが、これから先、映像コンテンツも入ってくるだろうと菅原氏は予測する。

 ところで、電子透かしには、コピーコントロールとして使える技術も存在する。2002年から流通しているCCCDと違って、音楽CDの仕様に準拠した“コピーコントロールCD”が作成可能だ。しかし、JASRACでは、必ずしもその方向へ行くべきだと積極的に考えていないという。菅原氏は、「著作権保護技術というものはさまざまなものがあって、なんでもかんでも1つの技術でやらなくてはいけないということはないし、複数の技術を組み合わせて施したほうがいいとも思っています。そのためには、全体のコストが下がることが必要でしょうね」と語る。さらに、「ある電子透かし1つで全部をやろうとすると、例え、それを非可逆なものにしたとしても、なんらかのクラック技術というものが生まれてくると思います。理論的には可能なはずですよね。だから、複数の技術を用途別に使い分けておくということは、耐性が強くなるということにつながると思っています」という。

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●まとめ


 米国では、全米レコード協会が、ファイル交換ソフト「KaZaA」のユーザー情報を、そのユーザーが利用しているISP「Verizon」に対して公開せよと迫った。この決着は法廷に持ち込まれ、一審では「ISPはユーザー情報を開示せよ」との判決が下された。日本でも同様の要求は可能なのだろうか。

 これに対して菅原氏は、「法律上、発信者情報の開示の要請はできるようになってます」と答える。ただし、プロバイダー責任法では、個人情報を開示する場合は、ISPが発信者本人に開示していいかどうかを確認することになっている。このため、「実行上、ありえないでしょうね。同意を求められたユーザーは、絶対に嫌だというでしょうから」と菅原氏は笑う。続けて、「法律は、アメリカの法律に近い形になっていますが、実行されることは少ないと思ってます。そう思っているから、今のところJASRACでは身元開示請求をするつもりはありません」と語る。

 しかし、菅原氏はプロバイダー責任法を高く評価している。「サイトの開設者が把握できれば、直接警告して、本人に公開停止をお願いできたが、わからないときにはどうしようかというのが課題だったわけです。それが、この法律でもって停止ができる、というのが大変大きなことですよね。JASRACでは、これからも公開停止要求を継続していくつもりです」と意気込みを語った。

(2003/2/17)

[Reported by okada-d@impress.co.jp]

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