地図と位置情報

地図・位置情報の活用でニューノーマル社会を作る――Code for Japan代表・関治之氏らが議論

東京都「COVID-19対策サイト」の舞台裏から、Pokémon GOなど「Adventures on Foot with others」の今後まで

働き方の変化、オンライン授業、行政のデジタル化……コロナ禍で変わる社会

最初のテーマは「コロナによるニューノーマル」


一番変わったのは「働き方」お互いの事情、時間を尊重したコミュニケーションが重要

[那須氏]最初のテーマとして、新型コロナウイルスの影響についてお聞きします。みなさんにとってコロナによる「ニューノーマル」とは何か? コロナ禍は前進なのか、それとも後退なのか? という点についてお聞かせください。

[村井氏]コロナ禍になっていろんなものが変わってきたなと感じています。一番感じているのは、働き方が変わってきたことですね。ナイアンティックも早い段階から在宅勤務を推奨していまして、今でも在宅で働いている人が多くいます。これは本当にコロナの前は全く考えられなかった状況です。多くの会社が在宅勤務をしなければいけない環境になり、これで今後は働き方が変わってくると思います。

 あとは、周りを見渡すと、今はみなさんがマスクをしていますよね。ウイズコロナの世界でどのように安全に生活するかという点で、みなさんの高い意識の中でそれを実行していて、これこそニューノーマルだと感じました。

[神武氏]大学という立場から言うと、学生のデジタルリテラシーをきちんと育てていくことが大事だと思います。コロナ禍がチャンスになるのかピンチになるかは行動次第だと思っていて、データ循環型社会に移行するチャンスにもなり得るかなと思っています。

[那須氏]ウェブ会議については、ナイアンティックさんはGoogle時代から海外のスタッフと頻繁にテレカンなどをやっていたと思いますが、そのような人たちから見ても今回は大きく変わったと感じていますか?

[村井氏]本当に変わりましたね。世界の多くの地域で同じ状況が起きたことで、我々は改めて情報共有の仕方を社内で議論しました。今までは会社にいて、起きている時間帯にみんなが顔を見せ合いながら仕事していたのですが、会社に行くことが一切なくなったので、どのように情報共有をするのかを懸命に考えたのです。

 例えば当然、ZoomやSlackを使って情報共有を密に行うのはもちろんですが、フェーストゥフェースで会っていないときに、どのように付加的な情報を共有するかも重要です。そこでナイアンティックでは、みんながコーヒーを飲みながら話すような些細なこともオンラインでデジタル化して共有するようにしました。

 そうした結果、何が起きたかというと、やはり日本側から米国オフィスへの情報共有の仕方についても、もっと丁寧に情報を提供していかないとコミュニケーションがうまくいかないことが分かりました。逆にUSチーム側も、強制的にオンラインでコミュニケーションしなければならなくなった結果、コミュニケーションというのはすごく難しいのだということを改めて理解したようで、国境と時間を超えてコミュニケーションをする場合に「お互いを思いやる」という流れができましたね。お互いの事情を尊重し、お互いの時間を尊重して情報共有し、コミュニケーションする。それが大事です。



自由度と引き換えに教員の負担が増加、ハイブリット授業はベストソリューション

[那須氏]神武先生も学生に対して、今までとは違うスタイルで情報共有を行ったのですか?

[神武氏]私が教えている学生の中に、まだリアルに会ったことがなくて、日本に来たこともないのに、慶應の学生を半年やっている海外からの学生が何人かいます。イタリア在住の学生の場合、日本では朝の9時なのが、あちらでは夜中の1時だったりして、大変な状況でありながらがんばって勉強していて、村井さんが先ほどおっしゃった「相手を思いやる」ことは本当に大事だと思います。

 インターフェースにもよりますが、オンライン会議やオンライン授業には「1対N」よりも「1対1がたくさんある」というイメージがあります。何かを投げかけたときに、ひとりひとりがレスポンスできる仕組みがオンラインの仕組みにはあり、どれくらいの人がどれくらい考えて理解しているかというのが手に取るように分かります。逆に言うと、サボれないということでもあるのですが、このパーソナライズ化はメリットであり、大学のキャンパスは確かに存在したほうがいいとは思うのですが、常にキャンパスにいなくていいとなると、モビリティのダイナミクスが変わるので、もっと日本を飛び出せる素養が身に付く可能性があります。

 今はオンラインで授業を行うのが基本であり、その上でフェーストゥフェースになるという流れなので、そういう意味ではコロナ禍のおかげでサービスとしての自由度は高まっています。一方で、教員の負荷は高まり、大変になっているので、そこをいかにテクノロジーで抑制するかが課題だと思います。学生側からは、オンライン授業に対して不満はそんなに出ていないものの、やはりリアルで対話する必要もあるので、そこはもうハイブリッドにしていくことがベストソリューションかなと思います。



行政のデジタル化に追い風 今、変わるべきとき

[関氏]シビックテックの視点から言うと、「行政のデジタル化」というテーマに、最近これだけ国民の注目が集まったのはすごいことだと思っているし、行政側もかなり本気で変えようとしてきています。「ITによる行政の効率化」というのは20年前に書かれていることとほとんど変わらなくて、20年の間、「はんこを無くそう」とか「ペーパーレスにしよう」とか言い続けて、それでも変わってこなかったという歴史があります。そんな中で今回、強制的に行政職員もリモートワークをすることになり、デジタル庁ができて、「縦割りと横割りを無くす」というかなり強い政策の中で、リーダーシップを発揮し始めているところがかなり大きいと思います。

 例えば、はんこの話題は去年からずっと議論していて、CfJでも台湾のオードリー・タンさんを日本に招いてワークショップを開催し、印章業界も参加して一緒に考える場を作ったことがあります。まだそのときはあまり一般の人には知られなかったのですが、今は国民の中でかなりプライオリティが上がってきたということで、ずっと変えようと思っていた人たちにとっては追い風なのです。逆に言うと、今この状態で変わらなければ、おそらく日本の、特に行政のデジタル化というのはもうできないのではないか、とも言われています。

 シビックテックについても、東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトが注目されて、その必要性が認められ始めています。各自治体も、これまでいろいろやってきた人たちが元気になってきていて、イノベーターに追い風が来ていると感じているので、それをきちんと本当に実装していくことができれば、けっこう日本は変わるのではないかと思っています。

 マイナンバーカードについても普及率が上がらないと言われていましたけど、このところ一気に上がってきていて、つい先日に20%を超えましたし、自治体によっては40%超えるところもあります。2人に1人はマイナンバーカードを持っているというような状態になれば、マイナンバーカードを使ったサービスもどんどん生まれると思いますし、自治体の変化もこれからは面白くなるのではないかと思います。

片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。