地図と位置情報
地図・位置情報の活用でニューノーマル社会を作る――Code for Japan代表・関治之氏らが議論
東京都「COVID-19対策サイト」の舞台裏から、Pokémon GOなど「Adventures on Foot with others」の今後まで
2020年12月3日 07:00
「How」の前に「Who」「Why」を考える本当に必要なテクノロジー活用に向けて
リアルワールドゲームでコロナ終息後の経済活動貢献を目指す
[那須氏]ニューノーマルによっていろいろな場で社会課題が発生しています。例えば急激に進む労働人口の減少や高齢化は、われわれが産業の現場に行ってもすごく感じます。本当にそれは深刻で、経済の成長とともに育ってきた世代からサスティナブルな基盤作りを迫られた世代への移行を実現しなければいけない。日本だけでなく、世界の多くの地域ではこの問題に直面していて、これから直面する国もあり、これまでとは違ったものが求められてくると思います。この社会課題へのアクションというテーマでみなさんに話をお聞きしたいと思います。
[村井氏]本日はこれまでコロナ禍で変わっていくものについてみなさんで話をしてきましたが、一方で、コロナ禍が起きても変わらないものがあるということも感じています。この半年間、われわれは在宅勤務でなかなか外に出られなくなったために、ナイアンティックの社員からは、「外に行くことで気分を変えたい」とか、「人とコミュニケーションしたい」という意見がどんどん出てきました。人と会うことによって何かが変わっていくし、ストレスも発散できるということで、これまであまり走ったりしなかった人が、体調に気を付けるために、逆に積極的に身体を動かすようにしているという話もあります。
これは「変わらない」ことの1つではないかと思っていて、社会生活を営む上で、継続的に同じ場所にいるというのは、やはり自分にとってストレスのたまることだと、あらためてみなさん感じたのではないかと思います。オンラインでも人とのコミュニケーションは可能だけど、実際に会うことはやはり必要であり、それはとても重要なことだと思っています。
ナイアンティックは2015年にスタートした会社で、そこからずっとリアルワールドゲームとか位置情報ゲームと言われるものを提供し続けています。世界では何かしら運動不足を起因として亡くなられている方が、喫煙で亡くなられている方と同じくらい存在し、これは大きな社会課題となっています。
われわれは、実際に人が家の外へ出て行くことで運動不足が解消され、それによって多くの方が 健康になったり、幸せになったりと、いろいろと良いことが起きるだろうと思ってこのサービスを提供しています。小さい力ではあるけど、リアルワールドゲームによって何かしら社会課題の解決に貢献できるとうれしいと思って提供していますし、コロナ禍を通じて、やはりみなさんに改めて外に出て行くことの重要性を感じていただき、われわれ自身も改めて再認識したというのは大きなことだと考えています。
また、もう1つの社会課題として、日本では引きこもりの問題がどんどん大きくなっています。昔は10代の若者にフォーカスが当たっていたけど、最近は30代から60代くらいまでの人たちが家の外に出ることができないケースも多くなってきていて、日本の大きな社会課題の1つであると感じています。
そこに対してわれわれが一体何ができるのかといえば、リアルワールドゲームを通じて外に出ていただき、世界の風や太陽の光を感じていただく。そして目の前のことを知り、コミュニケーションするきっかけとなるようなサービス開発に努めていまして、そのようなサービスを通じて、どのような社会課題に貢献できるのかというのを考えながら会社を運営しています。
コロナ禍によって、家にいながらもワクワク・ドキドキ感を提供するようにしたわけですが、われわれのミッションである「Adventures on Foot with others」は絶対に変えないということを、社内でディスカッションして決めました。
コロナはいつか収束するとわれわれは信じています。収束したときにやはり人は外に行きたくなるし、より活動的になる可能性があるので、そのときにわれわれのサービスが、外に出て歩くことを少しでも楽しめるような環境を提供する、その一翼を担えたらとてもうれしいです。われわれのサービスを使うと、みなさん本当に多くの場所を移動していただくことができますし、コロナ禍でダメージを受けている観光業界など、さまざまな人たちが苦しんでいらっしゃると思いますが、そういったところでも経済活動などに何かしら貢献できるのではないかと考えています。
大事なことは本当にテクノロジーを使うべきか考えること
[神武氏]私が在籍している慶應SDMでは、物事をシステムとして捉えて解決していくことを教育・研究しているのですが、大事なことはやはり、Howの前にWho、Whyを考えることだと思っていて、位置情報などのテクノロジーを持っていると、先にそれをどう使うかと考えてしまいがちですが、やはり誰が何に困っているかというのをきちんと考えることが必要です。誰のためにどうして行動したいのか?ということです。場合によってはテクノロジーを使わない方法のほうが、その解決になることもあるので、そこをしっかり考える力を付けることが大事だと思います。
今は本当にいろいろな産業がコロナ禍の打撃を受けているわけですが、全世界が1年後とか2年後にどうなっているのか分からないということでもあって、ある意味、ニューゲームが始まっているということでもあります。そういう意味では、過去とのつながりがないところで新しいチャレンジをするきっかけにもなると思っていて、新しい産業を興すということではいろいろな可能性があると思います。
例えばマスクについても、今、薬局へ行くとマスクコーナーが充実していますが、1年前に今ほど大々的なマスクコーナーなんてありませんでした。そういう意味では、これからいろいろなことが起こってくるわけですから、1年後とか2年後のハッピーな未来を考えたときに、そこに行くために今、何を解決することが大事かを考えると、本当にいろんなチャレンジができると思います。
そこに人やモノがある限り、位置情報や空間情報は必ず付随してきますので、それはこれから日本を超えても使える強い武器になると思うので、今はピンチが多いですが、チャンスになりうる可能性は大いにあると思います。
下から上へ、何か「やりたい」と思った人が活躍できる場を作っていく
[関氏]労働力不足や事業承継の課題などは、コロナ禍が起きる前からあった問題で、それがコロナになって一気に加速している部分があると考えています。それは東日本大震災のときも感じたことですね。やはり、緊急事態が起きたときは弱いところに一気に負荷がかかりますので。
ただし、日本は「現場力」がすごく強いから、それでなんとかしてきた歴史があるので、だからこそ今まではなかなか変えることができませんでした。それは民間企業だけでなく、自治体の現場も同じです。今回のようにみんなの意識がそろったのは、変われるチャンスだと思っています。
もう1つ希望を持っているのは、今、シビックテックの世界で高校生、大学生、中学生も含めて若者がすごく入ってきています。彼らは「何かやりたい」ということで参加してきて、オンラインでつながっていろいろなプロジェクトが起こっています。実際、新型コロナ関連のサイトでも、多くの中高生や大学生が活躍していて、今まではそんなことはできなかった。そんなふうに、「やりたい」と思った人たちをすくいあげる、活躍できる場をどんどん作っていくことが大事だと思います。
台湾のデジタル担当大臣であるオードリー・タンさんが有名になっていますけど、タンさん自身も天才ですごい人である一方で、忘れてはいけないのが、それを引き上げた人がいるということです。彼をデジタル担当大臣に指名した人がいるから、今あれだけ力を発揮できている。そういう意味では、出る杭をあまり叩かずに、今やれる人にどんどん責任を渡していくことが大事だと思っています。
先日、CfJサミットで慶應義塾大学の宮田裕章先生に講演していただいたときに、「これまでの政府は最大多数の最大幸福を目指すものだったのが、デジタルをうまく活用することで個別化された幸福が考えられるようになった」というようなことをおっしゃっていました。
要は、パーソナライズして人々に応じたインクルーシブ(包括的)なサービスを提供できるということで、そのためにはデータでつながる、きちんとセンサーを張り巡らさないといけなくて、そこにはもちろん位置情報も関わってくるし、それ以外のいろんな技術が関わってきます。「何のために使うかを考えることが大事」と神武先生がおっしゃいましたけど、「みんなの幸福のために技術を使うんだ」ということを、しっかり道筋を付けていけるようなプレーヤーがどんどん増えて欲しいなと感じています。
本当に物理的に学校へ行けなかった人たちが逆にみんなと変わらない水準の授業を受けられるようになっているので、インクルーシブネス(受容性)はかなり上がっていると思います。ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包括・包含)がシビックテックのキーワードですけど、そのためにデジタルを使うということですね。
あとは、下から上へ、という方向性が重要です。国が上から決めて自治体が運用してみんながサービスを受けるのではなくて、やはり技術を持っている人や、何かができる人がきちんと「こういうサービスや制度があったほうがいい」と主張していくことが大事です。行政や政策に対していろいろな意見を言って、下から上や横同士の連携など、縦横無尽なプロジェクトが走って行くといいのではないかと思います。
[那須氏]われわれも現場でソリューションを導入する際に、「どうしたらうまくいくか」ということをお客様からよく聞かれるのですが、すごく熱い気持ちで、それを信じて、「やるぞ」という人がいるとうまくいくことが多いです。特にインドアロケーション(屋内測位)などは新しい技術なので、熱い気持ちを持って、一緒にサクセスストーリーを作っていかないといけない。そういう意味では、デジタルのテクノロジーによってお金やスキル、学歴などさまざまなハードルが低くなっている今、「熱い思い」を持つ人が増えることが重要だと思います。やはり、「チャレンジしよう」という気持ちを持つ人がニューノーマルの中でも決め手になるのかな、とみなさんの話を聞いて感じました。
「正しく未来を期待する」ための位置情報・空間情報
[那須氏]それでは最後に、みなさんに一言ずつ締めの言葉をお願いしたいと思います。
[神武氏]コロナ禍の中でいかに未来を見据えるのかが大事で、未来で約束できていることは何なのか、約束できていないことは何なのか、そのあたりをきちんと整理して現状を把握すると、実はいろいろな可能性が見えてくると思います。「正しく怖がる」という言葉がありますが、「正しく未来を期待する」というのも大事だと思っていて、そのときに位置情報や空間情報は武器になると思います。
本日の村井さんと関さん、那須さんのお話を聞いて、私もがんばりたいと思いましたので、未来を作っていくというのがこの議論をきかっけに1つのモチベーションになるといいなと思いますし、この4人や参加者の皆さんとで何かできるといいなと思いました。
[関氏]位置情報というのは、リアルな世界に介入できるという点がすごく面白いと思っていて、「Software is eating the world」という言葉がありますが、まさにリアルな世界をソフトウェアが「食べていく」上での、1つのツールですよね。位置情報によって解決できることはすごく多いし、だからこそCfJのような行政とか地方自治体とのお付き合いも増えたわけです。結局はリアルな現場に行っていろいろな人の話を聞き、課題を解決する、その積み重ねしかありません。本日、このディスカッションを聞いているみなさんと一緒にできることがあれば、ぜひお声がけいただければと思います。
[村井氏]今日はコロナをきっかけにいろいろな話をしました。まだまだコロナ禍は続いていて、さまざまなところに深刻な影響を与えていますが、われわれはこれが必ず終わる時期が来ると考えていて、人は再び移動し始めますし、国境を越えていろいろな人たちがコミュニケーションを始めるようになるので、そういうタイミングにおいて、われわれが改めてどのように貢献できるかについて、今日はいろいろと考えることができたのがうれしかったです。
コロナ禍は世界のほとんど全ての人が同時に体験しました。おそらくこういう体験ってこれまでなかったのではないかと考えていて、このようなことがあったことで、国境を越えてみんなとコミュニケーションできるし、お互いが優しくなって、お互いが気遣うこともできるようになると思うので、本当にとても苦しい状況ではあるのですが、これをどう次に活かしていくかを考えることが大事だと思います。われわれとしては位置情報を活用して、地図をもっとよりよくすることで、今回の経験を次につなげていけるようになればいいと感じています。
[那須氏]位置空間情報はインフラになると考えていて、いずれは、わざわざ位置情報と言わない時代になるのではないかと思います。水道のように当たり前のように位置情報が使われるようになれば、さまざまな課題が解決すると思いますし、そこを目指してマルティスープは取り組んでいきたいと思います。
コロナ禍はやはり受け入れなければならないし、楽なほうに戻りたいと言っても、戻せるものではないので、マルティスープとしてもこれからがんばっていきたいと思います。視聴者のみなさま、そして本日ご登壇いただいたみなさまも含めて、熱い思いを持つ人を増やせるように取り組んでいきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。
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INTERNET Watchでは、2006年10月スタートの長寿連載「趣味のインターネット地図ウォッチ」に加え、その派生シリーズとなる「地図と位置情報」および「地図とデザイン」という3つの地図専門連載を掲載中。ジオライターの片岡義明氏が、デジタル地図・位置情報関連の最新サービスや製品、測位技術の最新動向や位置情報技術の利活用事例、デジタル地図の図式や表現、グラフィックデザイン/UIデザインなどに関するトピックを逐次お届けしています。