地図と位置情報

地図・位置情報の活用でニューノーマル社会を作る――Code for Japan代表・関治之氏らが議論

東京都「COVID-19対策サイト」の舞台裏から、Pokémon GOなど「Adventures on Foot with others」の今後まで

データ世界と現実世界を融合させた社会へ屋内測位や点群データ、AR、オンラインコーチングなど新技術に注目

2つめのテーマは「新技術の可能性」


屋内測位や点群データ、AR、オンラインコーチングなど新技術の可能性

[那須氏]続いてのテーマは、「新技術の可能性」です。このような危機による世界の変化の中では、大きなイノベーションが起きる可能性も大きいと思います。位置情報技術がさまざまなイノベーションにつながっていく中で、みなさんはどんな技術に注目しているのでしょうか?

[神武氏]例えばスポーツを例に取ると、やはり今までとは違ったスポーツ観戦をしなければならなくなっています。試合数やスタジアムでの観客数を減らしている中で、スタジアムに人を連れてくるのではない新しい観戦のスタイルが今求められてきていて、そのためには、VRのように、その場にいなくてもその場にいるかのような楽しさを感じてもらうことが大事だと思います。

 あとは、プレーヤーと観戦する人、サポートする人たちの壁が下がってきていて、私はラグビーの日本代表のコーチや選手と行動をともにすることがあるのですが、彼らはこういう状況なので、自分のリソースを何かの役に立てたいということで、オンラインコーチングを始めました。私も参加していますが、東京や大阪など、いわゆるトップアスリートが住んでいる街にいる人しか体験できなかったコーチングを、全国どこにいても受けられるようになるというメリットが生まれてきています。

 オンラインコーチングだと教える相手に直接触れることはできませんが、スマホでさまざまなデータや映像を記録することにより、ほとんどの場合、「どうやればうまくなるか」というコーチングは十分に行えます。そうすれば怪我の予防にもつながるし、新しいタレントを発掘することもできます。これまでは人づてで優秀な選手を見つけてきましたが、データを使うことで、無名の人でもすごい選手がいるというのが分かるようになってきました。

 また、新技術という意味では、「どこでも位置を正しく測れる」ということがより求められるようになってきているので、屋外のGPSだけでなく、インドアポジショニング(屋内測位)の精度も良くなれば、もっともっと面白いサービスが生まれるのではないかと思っています。

[那須氏]インドアについては当社も多くの要望をお客様からいただいてます。オフィスの中で密を避けるためにはどうすればいいか、といった課題解決には、屋内測位の精度向上がカギになります。

[関氏]高精細な位置情報というのは、とても重要だと思っています。例えば接触確認アプリ「COCOA」については、現状では細かい距離までは分からない。仕組みとしては、BLEの電波強度を測っているのですが、あれはスマホの機種によっても全然違うし、条件によっても変わってきてしまう。一応、1.5mの距離とされていますけど、実際に1.5mをきちんと測れているわけではありません。そういう意味では、屋内測位の精度向上は重要だと思います。

 例えばiPhone 11シリーズからは、UWB(Ultra Wide Band:超広帯域無線)のセンシングのチップがもう入っていて、アンテナさえ立てれば施設の中でどちらの方向にデバイスが向いているかということまで分かるので、より細かい位置情報というのは、密を避けたり、アラートを発したりするためには必要だと思いました。

 あとは個人的に、点群データにはとても注目していて、Georepublicではあれを使ってインフラの点検に活かす技術を開発しています。橋梁点検などはものすごく人件費がかかるので、そういったところを自動化して損傷を調べるとか、点群データをどう活用していくかは重要だと思います。静岡県や兵庫県は、県を挙げてデータを作っていこうと取り組んでいて、オープンデータとして公開しているので、これをもとにどんどんいろいろな技術開発が出てくるといいなと思います。

[那須氏]人の生活の80%は屋内だと言われています。最近では、ESRIやOGC(Open Geospatial Consortium)が、Appleの屋内マップのフォーマットであるIMDF(Indoor Mapping Data Format)を標準フォーマットとして検討するというニュースが報じられましたが、屋内測位は注目されてはいるものの、まだ汎用的な位置測位技術がないので、Appleのようなプラットフォーマーだけでなく、もしかしたらナイアンティックさんがARなどの新技術で実現してくれるかもしれませんね。

[村井氏]当社が提供しているサービスは現在、全て地図をベースとしたサービスで、やはり地図の進化は重要だと考えています。特に静岡県が出している点群データは、見るだけでも楽しくていろいろな可能性を秘めていると思います。



デジタルと現実の融合には「デバイスの革命」「地図の進化」が必要

[村井氏]少し話は変わりますが、今回のコロナ禍で最も自分が感動したことは、インターネットのすごさですね。みなさん家にいなければならなくなったけど、ここ10年から15年でインターネットという基本が進化しことで、オンラインでコミュニケーションしたり、ものを買うことができたり、食事を届けてもらったりすることができたわけです。では、このあとインターネットを進化させていくにはどうしたらいいかと考えた場合、われわれナイアンティックがすごく注目しているのが、やはり拡張現実(AR)です。現実世界を見るだけでなく、そこにデジタル情報を重ねることによって、インターネットがさらにわれわれの生活や文化すべてを向上させられるような可能性、余白はまだまだあると思います。

 そして、これを実現させるためには、やはりデバイスの革命が必要だと考えています。今までモビリティのあるデバイスといえば、やはり携帯電話になりますが、インターネットを進化させるものとしてナイアンティックが期待するのは新しいデバイスです。それはもしかしたらメガネやイヤホンなどのウェアラブルデバイスかもしれないし、洋服かもしれない。

 さらに、デジタルの世界と現実の世界を融合していくためには、地図が進化していくことも重要です。点群データは1つの事例で、われわれが住むこの世界のほとんどのものは、まだデジタル化されていません。そういったものがデジタル化されて地図として構成されていくことによって、次のインターネットの世界が人間生活に向けてすごく充実したものになっていくと思っています。

 そのような1つのキーテクノロジーをもとにデバイスの性能が向上し、それを表現するための地図が良くなっていく、われわれとしてはそういうところにもっともっと力を入れていきたいと思います。

[関氏]今回のコロナ禍では、インターネットが普及しているときで本当に良かったなと思いますよね。インターネットがない状態で新型コロナが発生していたら、経済は本当にひどいことになっていたと思います。

[那須氏]マルティスープが取り組んでいる位置空間情報というのは、いろいろな新技術につながると考えていて、人の生活や社会の働きを制約するのが時間と空間だとすれば、時間の把握・記録・活用は進んでいますが、空間の把握・記録・活用については、やっとスマホが出て、Google マップもGPSも無料で利用可能で、自分のいる場所がすぐに分かるようになったばかりです。やはりデバイスとかいろいろな環境が整ってきたときにテクノロジーは最大の拡張性を持つと考えていて、コロナ禍が起きたことで、その中からまた新技術が出てくるのではないかと期待しています。

片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。