地図と位置情報
地図・位置情報の活用でニューノーマル社会を作る――Code for Japan代表・関治之氏らが議論
東京都「COVID-19対策サイト」の舞台裏から、Pokémon GOなど「Adventures on Foot with others」の今後まで
2020年12月3日 07:00
オープンな環境で発展する新技術とプライバシー保護の折衝
発展途上国の農業や畜産もDX
[那須氏]本日参加されているパネラーのみなさんは、それぞれ海外でも活躍されていますが、現在、国をまたぐ移動が制約されている中で、もっと大きな挑戦をしなければいけない状況にある日本としては、グローバルに向けてどのようなチャレンジが考えられるでしょうか。
[神武氏]現在は、ほかの国に行きたくても行けない、来てもらいたくても来てもらえないという制約があります。そして日本だけがそういう状況というわけでなく、世界中のみんなが移動できない状況です。全てがニューノーマルになっているので、逆にみんながそろってオンラインで会えるという手軽さがあります。今までは遠くて会えなかった人に話してもらえるようになったし、行かないとなかなか会ってもらえなかった人がオンラインで会いやすくなったのは、逆にチャンスだという気がしています。
また、位置情報という観点で考えると、位置情報と時間情報は国によって変わりません。言語は違うけど、日本の1メートルは中国でも1メートルですから、そういうところも実はチャンスであると思ってます。いくつかの国や地域でわれわれが取り組んでいるアイディアを現場で実践してもらうというのはすでに起きています。
例えば、私はインドやカンボジアにおいて、衛星データを使った農家の与信管理に取り組んでいます。発展途上国の農家の方は何が一番リスクかというと、お金を借りられないことで、なぜかといえば彼らは金融情報を持っていないから、与信情報がない。私たちは、衛星データを使って農地の様子を見ることで、農家が何を作ってどれくらい収穫しているかを調べることができます。スマホを使うことで、その人の生活様式が分かるし、作物の様子を写真で記録することも可能になります。また、「マーケットで売ったときの値段を送ってくれればポイントをあげます」というリワードも付けていて、ポイントが貯まるとお金ではなく農薬や肥料など農業に関わる物やサービスを提供しています。
このようにして情報を集めることで、「この人の年収は100万円だけど、5年に1度、大洪水で不作になることがある」といった情報を金融機関に提供して、それをもとに現地の金融機関や世界銀行と連携して、彼らとともに事業を創り、広げ、維持する取り組みを行っています。
10年位前には現地の農家の方々の多くはスマホを持っていなかったのですが、今はカンボジアの過疎地域の人でもステータスということでスマホを持っていて、ほとんどの端末にGPS受信機能も入っています。コロナ禍が起きる前から、われわれは現地とのつながりをすでに持っているので、コロナ禍においても位置情報などのデータを介したコミュニケーションができるのですが、それによっていろいろなことが起きています。
さらに、近年では農業だけでなく畜産の分野にも広げていこうと取り組んでいます。先週、鹿児島県において、牛にGPSを付けて、どれくらい運動してなにを食べているかを監視するとともに、耕作地に放牧をして位置情報を把握することで、耕作放棄地の有効活用というスマートアグリカルチャーの取り組みを政府と進めています。位置情報というのは本当にいろいろな広がりがあって、ネットワークを介して位置情報データでつながっているからこそ、現地に行かなくてもさまざまなことができるわけです。
そういう意味では、さまざまな事象を分析しやすくなったという面があります。グローバルなチャレンジをする中で、現地に行けないという難しさはあるけど、そうではない部分では良さもあるので、今は「行ける準備をする」というのが大事だと思っていて、オンライン上で世界をぐるぐると回っていますが、新型コロナウイルスが収束し、実際に現地へ行けるようになったら、おそらくコロナ禍の前よりも良いことがたくさん起きるだろうなという期待感はあります。
国際リモート会議の課題は「時差」 英語が苦手な日本人にはちょっと好都合
[関氏]グローバルなチャレンジで言えば、難しいと思うのは時差ですね。ぼくはよくグローバルなオープンソースカンファレンスに行きます。現地に行けば強制的に時差を解消できるので、ディスカッションなどを行いやすいのですが、オンラインでは世界各国の人が集まって議論すると、時差の点で不利な地域が出てくるので、やはり早く行けるようになってほしいなと思います。
一方で、オンラインでつながっているからこそ良くなったこともあります。ぼくが経営している企業向けのワークショップを行う会社で、オンラインで付せんを付ける「Mural」というコラボレーションツールを使って、グローバルにビジネスを行っている日本企業の社員が参加してオンラインでワークショップを行ったことがあります。
そうしたら、ただ会議室に集まって議論するよりも、しっかりと設計したワークショップをオンラインで行うほうが、多少英語が苦手な人でも、意見をしっかり言えるようになったということが起きました。日本人は会議で主張するのが苦手ですよね。でも、「このツールはこのように使ったほうが効率が良い」というフォーマットに沿ってワークショップを行ったことで、参加者はディベート力に左右されずに意見が言えるようになりました。そういう意味では、リモート会議になることで、おそらく会議のやり方がみんなうまくなっているのではないかと思います。特に、英語が苦手な日本人にとっては良い話だと思いました。
あと、ぼくが関わっているプロジェクトの中に、テクノロジーとデータの活用を通じて安全な国境往来を目指す「コモンズプロジェクト」というのがあります。スイスのロックフェラー財団が支援している活動で、今は渡航したときに2週間の自主隔離の必要がありますが、それを短くするために、検査で陰性だったという証明書を世界標準化してデジタルパスを発行することで、渡航先に着いてからすぐに活動できるという仕組みの構築を進めていて、テクノロジーで自分が陰性であることをグローバルで証明できるようにするというチャレンジに取り組んでいます。
コロナ対策のためにGoogleとAppleが手を組んだ
[村井氏]ナイアンティックのサービスというのは、すでに150以上の国や地域にグローバルなサービスとしてお届けして、お楽しみいただいています。そのような中で、われわれのチャレンジとしては、国によって今回コロナの状況が全く違った性質を持っているというのが大きなチャレンジだったと感じています。
現在は日本やアメリカ、ヨーロッパなど、感染者数はそれぞれがバラバラなんですね。その中でわれわれのミッションに基づいて、みなさんにサービスを提供するために、どうしたらいいのかを考え続けているのがわれわれのチャレンジです。日本では今、コロナ禍が長引いている中で、やはりみなさん外に行く方が増えてきているし、Go toキャンペーンも行われていて、もちろん感染しないように注意しながらですが、外に行くことがよしとされてきています。一方で、そうではない国もたくさんあります。
ナイアンティックとしては、それぞれの国や地域に合わせたかたちでどのようにサービスレベルを変えて順次展開していくかということを丁寧にやっていくのがわれわれのグローバルにおけるチャレンジです。また、「COCOA」などの例では、自分にとって確かにメリットはあるんだけど、個人情報やプライバシーの観点ではみなさんの中では不安な気持ちがあるので、そこは最大限配慮する必要があります。当然、国や地域によってプライバシーに対する規制は異なるので、それらをきちんと遵守して、皆さんに安心・安全に使っていただけるような新しいサービスを考えていくことは、日本だけでなく世界において重要なことだと感じています。
[那須氏]COCOAはGPSの位置情報は取っていないけど、Bluetoothの電波を相互でやりとりしていて、われわれはこのようなアプリを普通に作ることはできません。バックグラウンドでずっとBluetoothの情報を取得するのは、一般的にはダメなんですね。今回はコロナ対策のためにGoogleとAppleが手を握ったというのがすごいです。逆に、そのプライバシーの問題によって、できることが限定されているという課題もあって、そのような技術がCOCOAのように開放された場合に、もっと新しく生まれてくるものがあると思います。
[関氏]COCOAについては、各国の政府としては悩ましかったかもしれません。プラットフォーマーに政策を握られるかたちになるわけで、その分だけブラックボックスになってしまったし、テックジャイアントによって国の政策がここまで大きく影響されたという意味では、ユースケースとして非常に面白いと思います。
[那須氏]工場や施設内の話であれば、プライベートエリアなので、スタッフに持っていただいて、例えば「機械の操作パネルの前でどれくらい仕事をしていたのか」といったことが定量的に取れます。スマートフォンはセンサーの塊で、そこにはすごい情報が入っているので、われわれとしては、そのあたりがもっとオープンになれば、もう少しいろいろな課題を解決できるのに、と思うことはあります。