被害事例に学ぶ、高齢者のためのデジタルリテラシー

それってネット詐欺ですよ!

自営業・中小企業が狙われる「419詐欺」のケーススタディ

 ECサイトを運営している人に、ある日、メールが届きます。知人から紹介され、相談したいというものです。内容はいくつかのパターンに分けられます。

 ある国の高官もしくは親族が、国外に逃げるために秘密資金を海外に送金したいが、直接その国の銀行に送るとばれてしまうので、関係のないあなたの口座を経由させて欲しいというものです。謝礼として、送金する際に、数千万円の謝礼を引いてよいと言います。送金手数料やデポジットの名目で、50万円とか100万円を振り込むように言われるのです。

 似たパターンで、インターネット宝くじに当選したと連絡が来ることもあります。全世界のインターネットユーザーから、抽選で超高額のくじに当選したと連絡が来るでのす。そして、送金手続きのための手数料を要求してきます。

 ほかには、商品を大量発注してくるケースもあります。為替の規制があり前払いは無理なので、後払いにするというものです。発送した送り状を送信すればすぐに入金すると言うのですが、のらりくらりとかわして、商品を受け取って連絡を絶ちます。もしくは大手銀行の小切手を使うパターンもあります。安心して商品を送り、後日、換金しようと思ったら、その小切手が偽造されていたり、盗難にあったもので決済できないという仕組みです。大量発注なのだから、手続きや印紙代と言った当座の資金をまず振り込むように言うパターンもあります。

 けち臭いところで言うと、見本市に出すためなどと言って、高価な家電などのサンプルを要求し、後払いの代金を踏み倒すケースもあります。

 また、これは個人をターゲットにすることもあります。ヤフオク!などの出品ページに、ナイジェリアにいる息子にプレゼントしたいと大金を提示するというものです。当然、商品を送ってもお金が振り込まれることはありません。

 NPO団体や学校を運営している場合は、現地の有力者が死亡し、代理人から遺言により遺産を寄付したいと連絡が来ることもあります。信頼できる日本人から紹介されたといい、まずは手数料や税金を送ってくれ、というパターンです。

 大きい話になると、政府関係者を装い、コンタクトしてきます。入札もしくは随意契約で、大量の製品を発注する話があるというのです。その際の入札や契約に関する費用を前渡しするように求めてきます。

 政権が交代した国の高官から、前政権時代に発注した請求が水増しされていたので返還したいという申し出が来るケースもあります。もしくは詐欺に遭った人に、被害金を回収できたので返還するというケースもあります。どちらも、送金するための手数料を振り込むように言われます。

 もちろん、全てネット詐欺です。ジェトロ(日本貿易振興機構)には、このような詐欺の報告が多数寄せられています。そして、今回紹介した詐欺はまとめて、通称「419詐欺」事件もしくは「ナイジェリア詐欺」と呼ばれます。419の数字は、マネーロンダリングを規制するナイジェリア刑法419条から取られています。

 今回紹介した手口の多くは、手数料の前払いや製品の先送りを要求してくるもので、珍しくもありません。しかし、資金繰りに逼迫した中小企業の経営者だと、判断力が低下しており、引っかかってしまう可能性があるのです。この手の詐欺があることを知っていれば無視できると思いますが、デジタルリテラシーがなければ自分の嗅覚だけが判断材料になります。

 さらに注意したいのが、政府を装って入札や資金返還を持ちかけてくるタイプです。実際に、自国に呼び寄せることもあるのです。ビジネスになるとかお金が手に入ると言うことに目がくらみ、無防備に行ってしまうとトラブルになりかねません。

 入札詐欺では、実際に偽官報を用意したうえ、偽の入札が行われたこともあるそうです。さらに怖いのが、資金返還の際に証言が必要と言われて現地に行くと、身ぐるみ略奪されたり身代金を要求される事例もあるとのこと。あり得ないことに欲を出すと、大きなリスクを背負うことになります。

 怪しい相手に前払いを要求されたら、警戒しましょう。本来は無視すべきですが、大きな取引を持ちかけられて藁にもすがりたいなら、送れと言われている手数料を割り引くので、そちらで処理するように言う手もあります。

 海外と取引をした経験があればあるほど、この手の詐欺に引っかかる可能性も高まります。ネット詐欺の手口を知って、危険には近寄らないようにしましょう。

あなたの両親も“ネット詐欺”の餌食になっているかもしれません――その最新の手口を広く知ってもらうことで高齢者のデジタルリテラシー向上を図り、ネット詐欺被害の撲滅を目指しましょう。この連載では、「DLIS(デジタルリテラシー向上機構)」に寄せられた情報をもとに、ネット詐欺の被害事例を紹介。対処方法なども解説していきます。

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NPO法人DLIS(デジタルリテラシー向上機構)

高齢者のデジタルリテラシー向上を支援するNPO法人です。媒体への寄稿をはじめ高齢者向けの施設や団体への情報提供、講演などを行っています。もし活動に興味を持っていただけたり、協力していただけそうな方は、「dlisjapan@gmail.com」までご連絡いただければ、最新情報をお送りするようにします。