ゲームでWi-Fi 6!

第7回

「Wi-Fiは電子レンジで速度が落ちる」を実験したら本当だった!

「途切れない通信」のために5GHz帯を使おう

Wi-Fiはゲームに不向きってホント?

 「ゲームにWi-Fiを使うのはNG」という声はゲーマーの中で根強い。筆者も接続環境に問題がないなら有線接続を使うが、Wi-Fi環境でプレイしたからと言って、必ずしも問題が発生するわけではない。それにスマートフォンのように、インターネット接続の方法がWi-Fiしかない機器でゲームを遊ぶことも多い。

 だからこそWi-Fi 6には価値があるのだが、それはどの程度のものなのだろうか。多くのゲーマーが気になっているであろう、電子レンジ動作時のWi-Fi通信や、ほかの端末での動画再生時における同時通信など、問題の起こりそうな環境をあえて作り、2つのテストを実施してみた。

Wi-Fiは電子レンジを使うと切れる?

 昔からよく言われるのが、電波を発する電子レンジなどの機器が干渉して、Wi-Fiが切れたり不安定になったりする問題。電子レンジで使われているのが、Wi-Fiと同じ2.4GHz帯であるため、電子レンジの動作中はWi-Fiの電波へ影響を与えてしまう。

 ただ、Wi-Fiの電波は、規格によっては2.4GHz帯以外に5GHz帯も使える。特にWi-Fi 5では2.4GHz帯はサポートされず、5GHz帯のみ使用できることから、Wi-Fiの5GHz化(2.4GHzからの脱却)が急速に進んだ印象がある。

 5GHz帯は電子レンジが使う2.4GHz帯とは異なり、電子レンジの影響を受けにくいと言われる。2.4GHz帯はBluetoothなどでも使われ、相互に影響を受けやすい状況だが、使用機器が少ない5GHz帯はこうした面でも有利だ。ただ、2.4GHz帯と比べて電波が曲がりにくく障害物の影響を受けやすいのが弱点で、電波が遠くに届きにくい。

Wi-FiルーターとPCの間に電子レンジを挟む位置で、筆者宅のレンジ台にテスト環境を急造

 では、本当に電子レンジを使うとWi-Fiの電波が切れるのか、5GHz帯への影響はないのかを実際に調べてみよう。

 テスト環境は、電子レンジの真上にASUS製Wi-Fi 6対応ルーター「RT-AX86U」を、下にPCを設置し、Wi-FiルーターとPCの間に電子レンジがある状態とする。筆者宅の電子レンジは、世の中にWi-Fiがほぼ存在しない1998年製で、Wi-Fi機器への影響を考慮した設計などされているはずがなく、今回のテストには最適だ。

 電子レンジ下のPCで2.4GHz帯と5GHz帯で接続を切り替えながら、Wi-Fiルーターに1000BASE-Tの有線LANで接続した別PCとの間の通信速度をiperf3で測定した。

 なお、5GHz帯の接続周波数幅は、160MHz幅の2402Mbpsだと電子レンジの影響による速度低下が分かりにくくなるため、80MHzに設定して最大1201Mbpsとしている。

 5GHz帯では電子レンジの使用の有無による速度の違いがほとんど見られないのに対し、2.4GHz帯では電子レンジ使用時に速度が半減している。また、テスト中の細かいデータを見ると、速度のブレが非常に大きく、通信が完全に途切れてしまうこともあった。

 5GHz帯に比べて2.4GHz帯は最大速度がかなり遅いので、速度の絶対値を比較すべきではなく、電子レンジを使っているかどうかが結果に影響を与えているかどうかを見るべきだが、2.4GHz帯が影響を受けているのに対し、5GHz帯では影響が全くないことが分かる。

電子レンジ未使用電子レンジ使用
2.4GHz帯下り160.286.3
上り134.253.8
5GHz帯下り868.0869.2
上り737.3727.8

※単位はMbps。iPerf3はパラメーター「-i1 -t10 -P10」で10回実施し、平均値を掲載

 Wi-Fiが、ほかの機器から発せられる電波の影響を受けて不安定になるのは、主に2.4GHz帯が使われていた過去のこと。今は主流となった5GHz帯を使えば何ら問題ない、ということが分かっていただけるだろう。

 ウェブブラウジング程度なら少々速度が落ちたり不安定だったりしても気にならないが、ゲームを遊ぶなら5GHz帯を使うのがいい。

 もし、自分でも同様のテストをやってみたいという方がいらっしゃる場合、電子レンジには大量の水を陶器の器を入れた状態で、短時間だけ動かすこと。電子レンジの中に何も入れずに動かしたり、金属製の器に入れたり、中の水が沸騰してもなお加熱し続けたりすると、故障や発火、突沸によるやけどの原因になる。くれぐれもご注意いただきたい。

YouTubeを見ている横でゲームをダウンロード

 さて、同時通信に強いとされるWi-Fi 6だが、家族が隣でYouTubeを見ているときに、通信が遅くなったりしないだろうか。もう1つのテストでは、PCでYouTubeを見ながら、同じWi-FiルーターにつないだPS5で大容量のゲームをダウンロードし、Wi-Fi 6とWi-Fi 5の環境で要した時間を調べてみた。

 YouTubeなどのストリーミングビデオは、通信量自体は極端に多くないものの、一定の通信を続けるため、Wi-Fiの電波を使う頻度は多い。ゲームをダウンロードするPS5とは、限られた電波の奪い合うかたちとなる。

 使用する機器は同じく「RT-AX86U」と、筆者宅NURO光用Wi-Fi 5対応ホームゲートウェイ「HG8045Q」。いずれも5GHz帯でPCとPS5を接続した状態で、YouTubeのライブ動画(平均で約2MB/s)を再生しつつ、PS5で約8.5GBの「オートチェス」をダウンロードしてみた。

YouTube再生ありYouTube再生なし
RT-AX86U(Wi-Fi 6)3分51秒3分57秒
HG8045Q(Wi-Fi 5)5分46秒5分17秒

※各3回実施し、平均値を掲載

 いきなり言い訳をするが、このテストではインターネット回線やPS5のサーバー側の混雑による影響も受けるため、一定した速度が出るとは限らないのが難点だ。ただ、PS5にはウェブブラウザーが搭載されておらず、PS5独自の速度測定以外にスピードテストができない以上、比較的大きめのファイルをダウンロードするテストが、まだマシだろうと判断した。

 結果的に、Wi-Fi 6ではYouTubeを再生しながらの方がわずかに速いというデータが出てしまったが、ダウンロード速度にほぼ影響を与えないことは確認できただろう。

 Wi-Fi 5に関しては、YouTubeを再生中の方が若干遅いという結果だが、これも大きな差とは言えない。ただ、Wi-Fi 6の方がWi-Fi 5より同時使用の影響は小さい可能性がある、とは言えそうだ。「HG8045Q」は2015年頃から提供されているので、Wi-Fi規格に加え、製品の古さの影響もあるかもしれない。

 同時に、PS5におけるWi-Fi 6とWi-Fi 5の速度差がはっきりと出ていることも分かる。インターネット回線が十分に高速なら(筆者宅のPCで上記のテストと合わせてスピードテストを実施すると約900Mbps)、Wi-Fi 6にすることで速度が向上するのは間違いない。

Wi-Fiでゲームを遊ぶなら、Wi-Fi 6の5GHz帯を使おう

 PCやゲーム機、スマートフォン、さらには家電などのIoT機器と、Wi-Fiを使用するデバイスはどんどん増えている。Wi-Fiが同時に使われる分、ゲーム機で常に安定した通信をするのも難しくなっていく。

 Wi-Fi 6は単なる速度向上だけでなく、同時に使用する端末がある状態でも安定した通信を提供してくれるので、通信の遅延を気にするゲーマーには大いに意味がある。

 さらに、今回検証に用いた「RT-AX86U ZAKU II EDITION」をはじめとするASUS製のゲーミングWi-Fiルーターであれば、スマートフォンの通信を優先できる「モバイルゲームモード」や、特定のゲームや、特定の端末を指定して通信を優先できる「Adaptive QoS」などの機能も備えていて、ゲーマーにもよりメリットがある。

Wi-Fi 6対応のスマートフォンでゲームを遊ぶなら、迷わずWi-Fi 6の5GHz帯を使うようにしたい(写真のスマートフォンは「ROG Phone 3」)

 「Wi-Fiを使用中に電子レンジを使うと不安定になる」というのも、もはや過去の話。5GHz帯を使い、十分に電波が届く範囲にいるなら、電子レンジなど気にすることなく安定した通信が可能だ。

 ASUS製Wi-Fiルーターのほとんどはアンテナが外付けなので、電波が回り込みにくく直進性が高い5GHz帯を使う場合に、電波の向きを好きな方向に調整しやすい。

 有線接続に勝るとまでは言わないが、実使用上で気になることはほとんどないレベルに達している。LANケーブルを引き回すより、無線接続の利便性が勝るのであれば、ぜひ試してみていただきたい。

(制作協力:ASUS JAPAN株式会社)

石田 賀津男

ゲームなどのエンターテイメントと、PC・ネットワークなどのIT系の両方にまたがる分野を得意とするフリージャーナリスト。元GAME Watch記者で、2012年に独立。2016年より男児の育児にも奮闘中。個人ウェブサイト「ougi.net(https://ougi.net/)」