ゲームでWi-Fi 6!
第1回
なぜWi-Fi 6は「すごい」のか? ゲーム視点で考える
PS5やスマホなど
2021年3月19日 10:00
最新規格であるWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)。一般向けに対応機器が登場し始めた2019年にはまだ選択肢も少なかったが、2020年には新型コロナウイルス対応でテレワーク需要が急増したこともあり、一気に普及が進んだ印象だ。
そして2021年現在は、安価なWi-Fi 6対応製品も数多くラインナップされ、導入しやすい環境が整ってきた。中でもスマートフォンでの対応が広がり、最新ゲーム機であるプレイステーション 5(PS5)でも採用されたことで、ゲームファンからのWi-Fi 6への注目度も高くなっている。
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PS5は有線LANも使えるのでこだわらなくてもいいのだが、Wi-Fi 6は従来のWi-Fi規格と比べてゲームに強くなった、ということはお伝えしておきたい。
もちろん、Wi-Fi接続しか選択肢がないスマートフォンなどでは、その恩恵を余すことなく受けられる。Wi-Fi 6がどのように進化したのか。本連載では、その仕組みや利点について、ゲーマー視点から解説していこう。
「Wi-Fi 6のいいところ」をゲーム視点で考える
Wi-Fi 6は、それ以前の規格であるWi-Fi 5(IEEE 802.11ac)と比べ、以下の点で進化している。
1. 通信速度が約1.4倍、遠い場所での速度落ちも改善
まず挙げられるのが通信速度の向上だ。5GHz帯で80MHz幅、2×2 MIMOと言う条件での接続時に、最大通信速度がWi-Fi 5では866Mbpsとなる。これがWi-Fi 6では1201Mbpsとなるので、単純計算でも、およそ1.4倍の速度向上が見込める。
Wi-Fiの通信は、条件が良くても実際には最大速度の6~7割程度。つまり、Wi-Fi 6でも1201Mbpsの7割として実測では1000Mbpsを下回ってしまう。ただ、それでも有線LANの1000BASE-T(1000Mbps)に近いスピードを出せるようになった。
また、最新のWi-Fi 6対応ルーターでは、搭載チップやアンテナ性能も古いルーターと比べてかなり改善されている。このため、遠い場所でルーターにつないだときに、つながりやすかったり速度が遅くなりにくいところもメリットとなる。
2. 遅延の改善にも「効く」、新搭載のOFDMA
Wi-Fi 6で新搭載された技術「OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)」は、通信に用いる周波数帯を細かく分け、必要に応じて複数のWi-Fi子機に割り当てるというものだ。
Wi-Fi 5で使われている「OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)」は、特定のWi-Fi子機に対して、特定の周波数を一定時間割り当てるというものだった。この場合、わずかな通信でも一定の周波数帯を占有してしまう。
そもそもWi-Fiでは、限られた周波数帯を分け合って通信する仕組みなので、複数のWi-Fi子機が通信する状況では、1台ごとの通信効率が落ちる。OFDMによって周波数帯を無駄に占有する時間が発生してしまうと、周波数帯が空くまで待たされる通信も発生し、混雑に拍車が掛かってしまう。
そこでOFDMAでは、周波数帯をさらに細かく区切ることで、Wi-Fi子機ごとに通信帯域を割り当てられるようになった。これにより周波数帯の無駄な占有が減り、データを効率的に運べることで、全体の通信速度が向上。バンドの空きを待つ状況も減り、通信の遅延時間の短縮にも繋がる。
このように、通信速度と遅延の双方に効くことは、ゲームにおいては大きな福音と言える。
3. 複数台での遅延も改善、上り対応に強化されたMU-MIMO
Wi-Fi 6では、「MU-MIMO(Multi User Multiple Input Multiple Output)」がさらに強化されている。
MU-MIMOはWi-Fi 5から新たに実装された機能で、複数のWi-Fi子機に対して同時にデータを送信できる機能だ。ちなみに、それ以前のWi-Fiでは、複数のWi-Fi子機と同時にはデータをやり取りできず、1台ずつ切り替えながら順番に通信していた。
Wi-Fi 6のMU-MIMOは、Wi-Fi 5の最大4台から最大8台へ同時に通信できる台数が増え、多くのWi-Fi子機が同時に通信している際の通信効率が向上している。
さらに上り方向の通信にも対応した。 Wi-Fi 5のMU-MIMOは親機から子機への送信(子機から見ればダウンロード)のみに対応していたが、Wi-Fi 6では子機から親機への送信(アップロード)での同時通信も可能となった。オンラインゲームでは、上り下りの通信が常に発生するので、複数のWi-Fi子機が同時に通信した際の遅延を減らす効果が期待できる。
4. スマホや子機のバッテリー消費を(ちょっと)改善するTWT
Wi-Fi機器には、通信をしていない時間、いわゆる待機時間がある。待機中のWi-Fi機器は、無駄に電力を消費しないためにスリープ状態に入るが、親機からのビーコンに呼応してスリープを解除する仕組みとなっている。つまり、ビーコンに合わせて全てのWi-Fi機器が一斉に目覚める仕掛けだ。
とはいえ、これはWi-Fi 5までで、Wi-Fi 6で導入された「TWT(Target Wake Time)」では、Wi-Fi子機ごとに目覚めるタイミングを設定できるようになり、スリープ時間をより長く取れるようになった。これによって不要なスリープからの復帰を減らし、電力消費を削減できるわけだ。
ゲーム機の全体の消費電力から考えれば、Wi-Fiのそれはわずかなので、それほど恩恵が大きいものではない。ただ、バッテリーで駆動しているスマートフォンでゲームを楽しんでいるなら、ある程度の削減効果は期待できるし、Wi-Fi 6に対応するバッテリー駆動のゲーム機が今後発売されれば、その恩恵に浴することもあり得るだろう。
また、IoT機器など家庭内のWi-Fi機器は増え続けている。それら全てがTWTによる消費電力の削減を受ければ、トータルでは結構な量にもなり得る。ちりも積もれば山となる、というわけだ。
Wi-Fi 6ルーターにWi-Fi 6非対応の機器を使うと?
ここまで紹介してきたWi-Fi 6の新機能は、Wi-Fi 6対応の親機と子機がセットになって初めて有効になるものだ。つまり、新たにWi-Fi 6対応ルーターを導入するタイミングは、Wi-Fi 6対応の子機が手に入ってから、というのが基本となる。
ちなみに、親機と子機のどちらかがWi-Fi 6に非対応だった場合でも、全く通信ができなくなるわけではなく、Wi-Fi 5など以前の規格で通信できる。
では、Wi-Fi 6対応の親機を導入し、Wi-Fi 6非対応の子機を接続した場合に、どんなメリットがあるだろうか?
Wi-Fi 6対応のルーターは登場から間がないので比較的新しい製品が多く、搭載チップも最新のものが採用されていることがほとんどだ。これによる処理能力の高さや、消費電力の小ささというメリットがある。
アンテナ設計なども改良され、電波が遠くまで届くようになっていることも多い。こういったメリットは、Wi-Fiのバージョンに関わらず享受できる。
Wi-Fiの進化はバージョンだけではなく、機器の側にもあるわけだ。例えば、消費電力は製品の仕様を見ればすぐに分かるので、製品選びの際にチェックしてみるといいだろう。
ゲーム機ではPS5が対応済みスマホは一昨年のiPhone 11から対応
家庭用ゲーム機としては初めて、Wi-Fi 6に対応したPS5。Wi-Fi 6ルーターと実際に接続して確認してみると、リンク速度は1201Mbpsとなった。
一方、Wi-Fi 6対応PCのリンク速度は2401.9Mbpsだった。これは、PS5は80MHz幅、PCは160MHz幅という、機器が使用する周波数幅の違いによるものだ。こうした周波数の幅はWi-Fi機器によって異なり、PCであれば必ずしも高速というわけでもない。
Wi-Fi 6への対応は、ノートPCでは標準的になりつつあるし、スマートフォンではiPhone 12/11や、比較的高性能なAndroid端末など、急速に広がっている。
スマートフォンでタイミングがシビアなオンラインゲームをプレーしている人なら、Wi-Fi 6による通信の改善の恩恵を受けやすい。機種変更の際には、Wi-Fi 6に対応しているかどうかチェックしておくといいだろう。
(制作協力:ASUS JAPAN株式会社)