テレワーク、空いた時間でなにしてる?
51歳が自転車で富士山に登るのは過酷!! なのになぜかまた出たいと思ってしまう富士ヒルの魅力とは?【ぼっち・ざ・ろーど!その12】
第22回 Mt.富士ヒルクライムレポート【後編】
2026年6月19日 12:12
運動が苦手だった筆者が初めて挑んだ自転車レース「Mt.富士ヒルクライム」は、その名のとおり富士山を自転車で登るレースだ。
富士山に登るレースなんてとんでもないレースに思われるかもしれないが、ヒルクライムレースのいいところは、速度が遅いこと。平坦のレースなら速度も高く、ほかの選手との競い合いになるだろうが、ヒルクライムレースは自分との戦い。特に富士ヒルクライムは約9000人という参加者がいて、速い人も初心者もいるから、まわりを見渡せば自分と同じぐらいのペースの人が見つかる。だから気後れする必要はなく、ベテランも初心者も、おのおののペースで頑張れる、それが富士ヒルの人気の理由だろう。
とは言え標高差1200m、距離24kmを走るのだから、だれでも簡単に走りきれるものではない。それなりに準備や練習が必要だ。筆者も全体で見れば遅いほうだが、それでも参戦2回目となる今回は、去年よりタイムアップすべく、何度も富士スバルラインに足を運んで試走を繰り返してきた(詳細は前回の記事参照)。今年の目標は去年の記録を10分短縮する1時間45分切りだ。
前日から準備は始まっている!!
さて、今年の富士ヒル本番は6月7日だが、なにしろ9000人規模の大会なので、受付は前日に行われる。そのため前日の6月6日にスタート地点となる富士北麓公園に向かう。
この日にやることは受付を済ませること。受付では当日身に付けるゼッケンやタイム計測器などを受け取る。去年は初参加で少し戸惑ったが、今年は勝手も分かっているのでサクサク進む。9000人という大規模のイベントだが、全体的にシステマチックにできているし、運営のスタッフも手際がよくて感心する。
ゼッケンはジャージに付けるもの1枚と、ヘルメットに貼るシールタイプが1枚、それと今年は自転車に貼るシールも用意されていた。
どうやら前回自転車の盗難があったようで、今年はヘルメットなどのゼッケンと自転車のゼッケンが同じじゃないと持ち出せないように管理するそうだ。レース中は軽量化のために鍵はもっていかない人がほとんどなので、このサービスは確かにありがたい。しかも富士山が描かれたなかなかかっこいいデザインなので、たぶんレースが終わった後もはがしたくなくなるんじゃないだろうか。
もう2枚あるゼッケンシールは、一緒にもらう「下山バッグ」と書かれた大きめの袋に貼る。そしてこの下山バッグにレース後に必要な荷物を入れて預けておくと、レース当日に五合目までもっていってくれる。
なぜそんなサービスがあるかというと、レース後の下山時には、防寒着を着ることがルールで決められているため。というのも、富士山五合目は結構寒く、汗にぬれた夏用ジャージでの下山は凍えそうになる。集団での下山中に、寒さでブレーキが握れないなんていうことになると、まわりを巻き込んだ事故にもなりかねないので、防寒着は必須なのだ。もちろん当日自分で背負っていくのでもよいが、預けられるなら預けてしまったほうがいいだろう。
下山バッグはナップサックタイプなので、そのまま背負うこともできるが、天候次第では中のものが濡れてしまうこともある。そのため筆者は防水のリュックに荷物を入れてきて、そのリュックごと下山バッグにいれた。レース当日は雨の可能性もあったが、これなら雨に降られても中身は濡れないはずだ。
バッグの中には冬用のジャケットとゆったり目の暖パン。それと上下レインウェア。雨の可能性もあったので、タオル、アンダーウェア、ネックウォーマー、冬用グローブとシューズカバー、小銭。あとは水と補給食などを入れておいた。正直入れすぎかとも思ったが、結論から言うと下山時に雨になったので、ほとんどが役に立った。
ただ1点、預ける用のリュックとは別に小さくてもいいので手さげなどを持っていく必要があった。というのも、持ってきたリュックごと預けてしまうと、レース本番で必要なゼッケンや計測機器などを持ち帰るのに入れる袋がなくなってしまう。そういえば去年も同じミスをしたのに今年もやってしまった。来年は忘れないために記事に書いておこう。
サイクルエキスポで翌日用のお買い物
富士ヒル前日の会場では、サイクルエキスポも開催されていて、レース本番で役立つ補給食やグッズなどが特売されていたりする。去年は雨だったのでざっと見るだけで終わったが、今年は天気に恵まれたのでついつい長居してしまった。
去年に続いてスポンサード枠で出させていただいたPIECLEXさんのブースでは、今年も同社の「ピエクレックス」素材を使ったアパレルや、使用後に回収して堆肥化した様子、その堆肥で作った野菜などが展示されていた。また、参加賞のミニタオルと、出走後にもらえた記念フェイスタオルもPIECLEXさんの提供によるもの。使われている素材「ピエクレックス」には抗菌効果もあるので、汗のにおいなども抑えることができるので、トレーニングの後などにも重宝しそうだ。
それとヒルクライム用のタイヤをご協賛いただいたミシュランタイヤさんのブースにも訪問。すると元プロロードレーサーの辻善光さんがいて、いろいろとお話を聞くことができた。
辻さんに普段練習で使うのにオススメのタイヤを聞いたところ、意外にもLithion 4(リチオン4)を激推し。リチオンはミシュランのロードバイク用タイヤの中では低価格なモデル。筆者も以前クリンチャータイヤのころはよく使っていたが、チューブレスモデルがないので最近はノーマークだった。辻さん曰く、リチオン4はワイドリムに最適化されていてすごくいいとのこと。今回POWER TIME TRIAL+TPUチューブにして、なかなかよかったので、練習用はリチオン4+TPUチューブにしてみるのもいいかもしれない。
このほかにもブースはたくさん出ていて、自転車メーカーによる試乗会や、ショップ、メーカーの特売など、見どころは盛りだくさん。筆者も取材そっちのけで楽しんでしまった。それと翌日の富士ヒル本番に備えて、去年も使って調子が良かった補給食「AMINO SAURUS」も当日限定の特価で購入しておいた。
ちなみに、TREKさんのブースでは、エントリーすることでサコッシュ(小さいショルダーバッグ)がもらえた。また、自転車用ケミカルを出しているマックオフさんのブースでも、サンプルとともに紙袋がもらえたので、ゼッケンなどを入れる袋を忘れた人は、先にサイクルエキスポに行って、こういった袋をゲットしておくのがオススメだ。
いよいよ決戦の日!! 今年は第4スタートだが……
そしていよいよ6月7日、富士ヒル本番の日を迎えた。
富士ヒルは参加者が多いので、スタート時間が大きく7つに分けられる。そのうち第1スタートから第3スタートまでは、過去の実績などから実力のある人だけが出走できる枠で、その他の人は第4~第7スタートのいずれかが指定される。
去年の初参加のときは最後の第7スタートだったが、今年は第4スタートとなった。時間としては7時10分~7時40分のスタートとなる。
ただし、自分の指定のスタート時間より前に走ることはできないが、後ろのスタート時間になるのはOKというのがレギュレーション。正直なところ、去年と同じ第7グループにしたいという気持ちもあった。
というのも、去年第7グループで走ったときは、序盤こそ速い人に抜かれたものの、中盤になると速い人はみんな先に行ってしまって、全体的に道も空いてくるし、後ろは気にせず前に集中して走ることができたため。
ところが第4スタートのような先のグループで走れば、レース終盤までずっと抜かれることを意識しながら走らなければならない。富士ヒルは参加者が多く、横に2台、3台が並ぶのも普通。そういった混雑した状況で、前を抜かしつつ、後ろからも抜かれるのは、レース慣れしていない筆者には結構怖いのだ。
そんなことをレースベテランの友人に相談したのだが、友人は早い時間に走ったほうがいいと言う。というのも、速い人が後から来るということは、その後ろについて走れば、風よけになって少しずつタイムを短縮することができる。特にゴール前のフラット区間は速度が上がるので、そこで前に引っ張ってくれる人がいるかいないかの差は大きいと言う。
これまで何度も練習で試走してきたが、目標の1時間45分まではまだまだ。パワーとしても、練習のときの10%以上アップしないと目標が達成できない計算だ。いきなりそんなにパワーアップできるはずもなく、だとすれば速い集団に棚ぼたで乗っかっていくのはマスト。レース2回目の筆者にできるかは不明だがやるしかないだろう。
そんなわけで第4スタートで出走すべく準備を進めたのだが、朝のトイレ渋滞とか、会場入りの渋滞でどんどん遅くなって、会場に着いたのが7時45分。1つ後の第5スタートになるかと思ったら、第5スタートの集合も終わっていて、結局第6グループでの出走になってしまった。
これは筆者の勘違いで、スタートエリア招集時間までに会場入りすべきなのかと思っていたら、それとは別に集合時間というのがあった。要は筆者が思っていたより30分ぐらい前には会場入りしなければいけなかったようだ。ただ、それでも後ろには1500人ぐらいはいるはずなので、まだまだ速い人はたくさんいるはずだ。
目標タイム 1時間45分切りのための作戦
もうひとつ準備として、目標となるタイム表をハンドルに貼り付けてきた。これはなすぴーさんという方が作られているタイム配分表を使って出したもので、目標の1時間45分を走るために、一合目や二合目をどのタイムで通過すれば良いかを表したもの。途中の勾配の変化や、標高の変化(空気の薄さ)によるパワーダウンも考慮したタイムが出るというスグレモノなのだ。これを見ることで、今目標タイムに届くペースで走れているのか、遅れているのかを判断できる。
そしていよいよスタート。目標の1時間45分を出すには、練習のときより10分以上短縮しなければならない。そのためにはできるだけ速い人の後ろについていって、少しでも空力的な恩恵を受ける必要があるが、それだけではダメで、パワーも今まで以上に出さなきゃならない。
理論上、1時間45分で走るために必要なパワーは体重の2.5倍、つまり体重75kgの筆者の場合、平均で187.5W以上のパワーで漕ぎ続ける必要がある。標高が上がれば空気が薄くパワーダウンするので、序盤は210W以上を目標にした。そんなハイパワーで後半まで持つのかは分からないが、序盤に楽をしても後半に余裕ができるとも思えないので、無理でも序盤は頑張るしかない。
去年初めて参加したときは、まわりが速い人だらけに見えたが、今年は少し違う。確かに速い人には抜かれるが、ちょうど抜かれる人数と抜く人数が同じぐらいのイメージ。そしてまわりにも同じぐらいのペースの人がそこそこいる。
なのでパワーメーターを見つつ、ペースが同じぐらいの人を見つけては後ろについて走るようにする。同じペースの人とずっと一緒に走れれば、空力的にも有利になるし、抜いたり抜かれたりするときにもペースを乱しにくくなる。
ただ、この人のペースに合わせよう、と思っても、気がつけばその人がペースダウンしていることもあって、なかなか思うようには走れない。それも当然で、筆者と同じぐらいのペースということは、スキルも同じ程度ということ。ベテランの友人に引っ張ってもらったときとは違って、ペースが安定しないのも当然だろう。
なので、パワーメーターを頼りに自分でペースを作りながら、乗っかれそうな人がいたら乗っかるような走り方を続けた。
レース序盤でトラブル発生!!
計測開始地点から10分ほど、序盤は特に密集していて、横に3台、4台並ぶような状況が続いている。筆者も抜きつつ、抜かれつつで、右にも左にも神経をとがらせながら、接触しないように、でもペースを落とさないように走っていた。
すると前方に序盤なのにすでにヘロヘロで走っている感じの人がいた。そしてその人を追い抜くまさにそのタイミングで、なんとその人がこちらにパタンと倒れてきた。
タイミングとしてはちょうど真横に並んだところだったので、向こうの肩がこちらの腕にドカンと倒れてくるような形に。一瞬のことだったので状況はよく分からなかったが、たぶんハンドルも接触したのだろう、筆者のバーエンドキャップが飛んでいった。
筆者もたまらず足をついて停車する。幸い速度が遅かったので転倒は免れたし、後続車もうまくかわしてくれて惨事にはならずに済んだ。体に痛みもないし、ロードバイクもバーエンドキャップが飛んだ以外は問題はなさそうだ。
こんなところで躓いている余裕はない。早く戦線復帰しなければと走り出そうとしたところ、目の前に飛んで行ったバーエンドキャップが落ちているのが見えた。時間を無駄にしたくないから拾わずに行っちゃおうかとも思ったが、もしもこれを誰かが踏んでパンクでもしたら申し訳ないと思って、すぐに拾ってバーエンドにねじ込んだ。短い間にいろいろなことを考えたが、おそらくこの間は数秒のことだと思う。走り出すと背後から「ごめんなさい」という声が聞こえたが、申し訳ない、返事をしている余裕もなく先を急いだ。
これで最後まで持つのか? 心拍数が高すぎる件
そして一合目下駐車場まできた。富士ヒルはここまでが比較的タイトな坂が続くので、ここまでは無理をしないというのが鉄則(坂が緩やかになるこの後に体力をとっておくため)。ただ、無理をしちゃダメだけど、遅すぎてもダメなので、何度走ってもここのペースの作り方が分からない。
看板の横でサイクルコンピューター(サイコン)の経過時間をチェック。いつもよりはハイペースで走ってきたつもりだが、目標のタイム表と比べると20秒ぐらい遅れている。これでもまだ足りないのか。ならばさらにペースを上げなければとさらにペダルに力を入れた。
いつもよりもパワーを上げて走り続けているので右太ももに違和感があるが、走っているうちに取れるだろうとそのペースをキープした。
そして一合目、通過タイムを見ると、目標タイムより25秒ほど前倒しできた。とは言えかなりペースを上げたつもりだったので、これだけがんばっても25秒だけか、とも思った。
原稿を書きながら振り返ると、一合目下駐車場から一合目までのわずか2.2kmで45秒も短縮しているので、かなりのペースアップになっていたわけだが、走っている最中は頭に酸素がいかないせいか、そういう冷静な判断ができなくなる。
そしてさっきから心拍はずっと170bpmに張り付いている。いつもであれば高くても165bpm程度なので、序盤から170bpmは高すぎる。
人間の最大心拍数というのは、年齢を重ねるごとに低くなるのが一般的で、よく使われる最大心拍数の推定式は、220ー年齢。つまり51歳の筆者は169が最大心拍数ということ。ただし個人差もあって、筆者の場合だと180を超すぐらいまでは上がる。ただ、それでも170bpmは高すぎる。
専門的な用語でいうと、最大心拍数の90%より上はゾーン5(ゾーン1からゾーン5までの5段階でもっとも高いゾーン)と呼ばれて、普通は数分間しか続けられないという限界状態。そんな状態で走り続けて最後まで続くのか? できるだけ呼吸を深くして、心拍を下げるように努めた。
半分まで到達、濃い霧のなか響く「落車」の声
計測開始地点から約9km、二合目まできた。通過地点でのタイムを見ると、目標タイムの15秒程度の前倒し。序盤でできるだけ稼ごうとかなりペースを上げてきて、イメージとしては1分ぐらい前倒しできているんじゃないかと思っていただけに、わずか15秒という結果に心が焦る。
この時点ですでにかなりきつくなっていた。いつものように一人で走っていたなら気持ちが折れていたかもしれないが、レース本番ではまわりにも参加者が大勢いる。辛いのは自分だけじゃないと思えるから、なんとか気持ちが保てている。ただ、余裕はまったくない。なんとかペースを落とさないようにするので精一杯だ。
12km、半分まできた。たしか時計は55分ぐらいだったと思う。体感的にはあきらかにいつもより速く登れている。ただし、疲労もあきらかにいつもよりすごい。
ここで補給食のジェルを飲もうと思うが、切り口がなかなか切れない。歯を使ったりしてようやく切れたものの、今度は斜めに切れてしまって中身が出てこない。仕方がないので今度は反対側から切ってやっと開封できた。と思うと目の前に三合目の看板。慌てて時計を見ると目標タイムより5秒程の先行、ほぼオンタイムになってしまった。
それは体感でも分かっていて、序盤と比べるとパワーがキープできなくなってきた。ここまで、今までにないぐらいのパワーで漕ぎ続けたせいで、かなり疲労がたまっているし、足の痛みもずっと取れない。
それに加えてこれぐらいの標高から、空気の薄さによる明かなパワーダウンが始まる。疲労に加えて空気の薄さで、一気に体が重くなる。パワーメーターを見ると150W程度しか出ていない。このままではまずいと漕ぎ方を変えたりダンシング(立ち漕ぎ)で足を休めたりといろいろ試すが、頭がよく回らない。
しかも霧もかなり濃くなってきて、そのせいか集団の密度も高くなってきた。あまりサイコンばかり見ていると接触しそうなので、サイコンはあまり見ずに、まわりのペースの合う人について走ることに専念した。
そんなタイミングで、後方から「右から抜くよぉ!!」という大きい声が聞こえてきた。ペースは結構速そう、シルバー(1時間15分切り)狙いの集団だろうか。
密集してかなり狭い状況であったが、筆者もバイクを左に寄せると、その右を結構な速度差で抜いていく。1人、2人、3人……、ずいぶん大勢のトレインだなと思った直後、後方でカシャカシャーンと乾いた音。音からして7~8m後方だろうか。複数台が絡んだ音に聞こえた。直後に「落車ー!!」と叫ぶ声。
ただこちらも振り返っていられるほど余裕はない。大きなケガがなければいいなと願いつつ、ペダルを漕ぎ進めた。
大沢駐車場から響く太鼓の応援
残り10km、いつもなら「あとヤビツ1個分」とか思うところだが、この日は「もう終わりにしてくれ」と思った。いつもなら、途中で漕ぎ方を変えることで、使う筋肉を代えて足を休ませるようなことをするのだが、どの漕ぎ方をしてもどの筋肉も疲れていて、パワーメーターの数字が伸びない。
これは1時間45分はダメかも、という思いがよぎる。だがそんなとき、太鼓の音がかすかに聞こえ始めた。
太鼓の音というのは、富士ヒル名物の応援で、四合目手前にある大沢駐車場で、太鼓を使った応援があるのだ。そしてその音が結構手前まで聞こえてくる。
去年は太鼓の音でさらにペースが上げられた。だが今年はほんとうにカツカツで、ペースが上がらない。でも気持ちだけは前向きになれた。
パワーが出ないのは仕方がない、だったらパワーを140Wに落としてもいいから、速度が上げられる勾配の緩い区間だけは200Wを出して、タイムを短縮することだけに専念しよう。そう思って顔を上げた。坂のきついところでは前の人に遅れないように付いていって、坂が緩くなるところでは間髪入れずに加速して一気に追い抜く。そして坂がきつくなったらまた足を休める。というのを繰り返す。
徐々に太鼓の音が近づいてきた。風景があまり変わらない富士スバルラインだが、大沢駐車場近くになるとちょっと雰囲気が変わってくる。徐々に空が開けていって、大沢近くになるとまわりの木がなくなって一気に開けるのだ。だが、それと同時に風を感じた。向かい風だ。
ここは風が強くなるので注意と言われている場所。これまで練習で走っているときはさほど気にならなかったが、この日は明確に体感できるだけの向かい風だった。
すると、ちょうど筆者の前に体格のいい男性が走っていたので、その背後に入って風よけにさせてもらった。ペースとしてはもう少し上げたい気もしたが、この先ほぼ180度のカーブがあるから、その先では追い風になるはず。ならばここは足を休めるつもりで体格のいいお兄さんの背後にぴったりとつかせてもらった。そしてぐるっとカーブを曲がって追い風になったところで加速する。
カーブを曲がれば大沢駐車場だ。今年も太鼓で応援をしてくれている。去年はここで手を振り返したが、今年はそんな余裕はまるでない。
ここでサイコンの時計を見ると、なんと秒の表示が見えなくなっていた。時計の表示は「00:00」のように4桁で出るのだが、最初は「分:秒」の表示だったのが、1時間を過ぎると「時:分」の表示に変わってしまうようだ。これまで秒単位で時計を意識することがなかったので、全く気がつかなかった。そしておそらく時計を見たタイミングも悪かったのだろう、正確には1分と数十秒の遅れだったものが、表示上「2分遅れ!?」となってしまった。
あとでGPSデータを見ると、1分少々の遅れだったようだが、ここではそんなことは分からず、かなり心が折れた。あー、やっぱりタイム表なんて貼ってくるんじゃなかった。2分遅れていると思ったら、もう全然いける気がしない。自分の体感的にも、明らかにパワーダウンしていて、気持ち的にはここから盛り返すのは無理な気がしてきた。
ただ、ここで練習のときの友人のことを思い出した(詳しくは前回の記事参照)。彼はちょいちょい都合のいい部分だけを拾いつつ、前向きな言葉をかけてくれた。たぶんスポーツで世界で活躍するような人(彼はある競技で世界一になった経験があるアスリート)は、そうやって自分のことも奮い立たせているのだろう。
だから自分も考え方を切り替えた。タイム表は気にしない、ただ、最後のフラット区間、あそこだけはかなりスピードが載せられる。急な坂で10km/hが11km/hになるよりも、フラットな区間で30kmが33km/hになるほうがタイムは縮められる。だから今はこれ以上遅れを増やさないことに専念して、フラット区間で余力を全部出し切ろう。
そう考えると少し気持ちが前向きになれた。大沢からフラット区間まではたった4kmだ。
目標達成までの最後のチャンス、ゴール前のフラット区間
フラット区間の前の最後の坂、奥庭駐車場。ここを過ぎたところでどれだけペースが上げられるかが最後のチャンスだ。スピードが上がるこの区間では、できれば速い人の後ろについて走りたい。ちょうど良いタイミングできてくれるとよいのだが。
もうすぐフラット区間、というところで3台のトレインに追い抜かれた。だけどまだ坂の途中で加速ができない。仕方がないから一人で行こう、と加速したところで、もう1台後ろから抜いてきた。振り向けば後続はいない、そこで間髪入れず背後につく。大学生ぐらいだろうか、かなり速い。筆者にとってはあきらかにオーバーペースだったが、これに乗れなきゃチャンスはないと思って、必死でもがく。ただし力量の差は明白で、フラット区間の3分の2ぐらいまで行ったところで徐々に引き離される。だけど後は自分を出し切るだけだ。サイコンを見ると心拍数が184bpmまで上がっている。できるだけ大きく息をして、そのまま走り続ける。
そしてゴール前の最後の坂、およそ500m。ここを登り切ればゴールだ。ここでサイコンの時計を見ると01:43の文字。あと2分、いや何秒かが分からないからあと1分何十秒なのか?
去年、このゴール前の激坂を走っているときは、周囲の応援の声がすごく耳に入ってきた。時間がゆっくり流れて、走馬灯のようにいろいろなことが頭に思い浮かんだ。
だが今年は同じ坂がまるで違った。とにかく体が重い。まるで悪夢の中で逃げたいのに体が思うように動かないときのように、目の前にゴールが見えているのになかなか近づいてこない。時計を見ると01:44の表示、おそらくゴールまで250m以上、正直なところ、ここで間に合わないことは実感した。これまで何度も走ってきたから分かる。筆者にはこの250mを1分では走り切れない……。そして時計が01:45に。
ダメだった。手計測だから多少の誤差はあるかもしれないが、あと数秒で届くような距離じゃない。もう絶対間に合わない、もうがんばるのをやめようか、そんな気持ちが心をよぎる。だけど同時に、タイムなんていいからあと数十秒しか走れない富士ヒルを楽しもう! と心を切り替えてペダルに力を込める。そしてゴール。
長かった、本当に最後の坂が長かった。そして出し切った。心臓が口から出てきそうだ。去年は周囲の様子を見ている余裕があったが、今年はその余裕もない。よろよろとコースわきに自転車を寄せるとそこからしばらく動くことができなかった。
そして家族に「目標までたぶん数十秒届かなかった」とLINEした。
くやしくて仕方が無い。とそのときは思った。
だけど下山用の荷物の受け取りで、自分の足がもう限界なことに気がついた。荷物を取るために少しかがもうと思っても足が痛すぎて曲げられない。走っている最中は気がつかなかったが、身体のあちこちが痛い。そして思い返せば、今日の走りで手を抜いたところはなかったなと思えた。
出せるものは出し切れた。平均パワーは183Wと過去最高だ。途中に接触トラブルもあったが、あのタイムロスもせいぜい10秒ぐらいで、あれがなかったとしてもたぶんタイムは届かなかった。逆に大沢駐車場前でタイミングよく風よけできたし、フラット区間でもタイミングよく速い人が来てくれて、いい部分も多かった。だからこれが今の実力だ。逆に言えば1時間45分にもうすぐ手が届くところまで成長できた結果でもある。そしてなにより、今年も富士ヒルを楽しめた。そう思えた。
約9000人の参加者のなかで奇跡の出会い
そして五合目ではやたらと良い出会いもあった。ゴールして荷物受け取りまで歩いているとき、「同じ自転車ですね」と声をかけられた。疲れ切って下ばかり見ていたので、「え?」と驚いて顔を上げると、横に同じ車種、同じカラーの人がいた。結構古い自転車だし、マイナーな車種。それがこの富士ヒルの9000台の中で偶然出会えるとは、驚きだ。
また、記念の写真撮影で並んでいるところで、前の人としばしお話をさせてもらったのだが、実はその方、国土交通省の自転車関連のお偉い方だった。しかも富士ヒル初参戦でブロンズとかスゴ過ぎる。
さらに下山のときには、偶然前に何か変なヘルメットを被っている人がいると思って近づいたらコスプレ(というかかぶりもの?)をした方だった。「前見えるんですか?」と聞くと、本人曰く「全然よく見えますよ。しかも風がこないから快適」だと言っていた。なんとこの方、このカッコで走ってブロンズのタイムを出したそうだ。レース中も何度も「前見えてますか?」と聞かれたというが、それはそうだろう。下山のときもスタッフに(安全のため)確認されていた。
ほかにも練習しているときにもいろいろな人に会った。4時間かけて登った人、シングルギアの自転車でしかもサンダルで練習に来ていたつわもの(その方もブロンズぐらいのタイムで走るそうだ)など、みんなそれぞれのペース、それぞれの楽しみ方で富士ヒルを満喫していた。
下山後、正式な結果をもらう。去年は画像データだけだったが、今年はプリントでもらうことができた。タイムは1時間45分17秒、あと17秒届かなかった。だけどこれが今の実力だし、出し切れた結果だと思うと、妙に誇らしい。
順位としては、年代別(50~54歳)の中でも真ん中より後ろ。半分以上の人が筆者より速いわけだが、それでもこのタイムを恥ずかしいとは思わないから不思議だ。
そしてまた来年もぜひ参加したい。来年の目標は懲りずに10分短縮の1時間35分。無理かもしれないけど、また1年間、楽しみながら頑張っていきたい。
テレワークで余裕ができた時間を有効活用するため、または、変化がなくなりがちなテレワークの日々に新たな風を入れるため、INTERNET Watch編集部員やライター陣がやっていることをリレー形式で紹介していく「テレワーク、空いた時間でなにしてる?」。バックナンバーもぜひお楽しみください。





















































