テレワーク、空いた時間でなにしてる?
富士山を登る自転車レースが初心者向き? 50歳で初挑戦した「富士ヒル」のまさかの結末【ぼっち・ざ・ろーど!その2】
2025年6月13日 12:00
初心者にも参加しやすいのか? 50歳で初めてのレース参戦
ダイエットのために1人で気ままに自転車趣味を続けてきた筆者が、50歳にして初めてのレース「Mt.富士ヒルクライム」(以下富士ヒル)に挑むことになった。本稿では前編に続いてレース本番の話を中心にお届けしたい。
富士ヒルとは、山梨県にある「富士スバルライン」を自転車で登って五合目を目指すレース。タイム計測区間だけで距離は24km、標高差1255mを登るヒルクライムで、参加者は実に9000人以上という国内最大級のレースだ。ただし、傾斜としては平均で5%とヒルクライムとしては緩やかで、制限時間も長いので、完走率は99%と初心者でも参加しやすいレースとも言われている。
「初心者にも参加しやすい」
筆者もその言葉を信じて参戦を決めた……のだが、練習で初めて走った富士スバルラインは、その標高ゆえ空気が薄くてとんでもなく苦しいものだった。ペース配分もできず、同じく練習で来ている他のサイクリストにバンバン抜かれた。シニアに抜かれ、ミニベロに抜かれ、折りたたみ自転車にも抜かれ……、なぜ山梨まで来て自分の遅さを痛感しなければならないのか。本当にエントリーしたことを後悔させられるものだった。
だが、それでも富士山五合目まで自分の脚で登ったという達成感は格別で、自分なりに頑張ろうという気になれた。加えて、その後の天気に恵まれたことで、本番までに計3回の練習走行ができた。回数を重ねるごとにタイムも短縮できて、最後の練習のタイムは2時間12分。当初目標としていた2時間24分(平均10km/hで走る計算)を大きく超える2時間10分(平均11km/h以上)が密かな目標となった。
レースに向けて軽量化とタイヤの空気をパンパンに
と、ここまでは前回お伝えした。
あとは、レース前に自転車の整備だ。
タイヤは、例年ならあと2カ月ぐらいは使う予定(例年だと年に1回、8月ごろに交換している)なのだが、経験上、そろそろ交換時期(摩耗して)となるとパンクすることが多い。まだ大丈夫そうではあったが、レース本番でパンクは避けたいので、新しいタイヤに交換することに。といってもレース用の軽量タイヤとかではなく、もともとストックしてあったロングライフでパンクしにくい(つまり重い)タイヤ。ただし空気圧だけは規定のほぼ上限まで入れた。これで転がり抵抗を少しでも減らす作戦だ。
あとは洗車をして、チェーンの注油とホイールのグリスアップ、そしてブレーキパッドの残量も確認しておく。
最後に軽量化。ヒルクライムではとにかく軽量化が大事なので、レースに不要なものは外す。ドリンクホルダーは1つにし、リアレーダーや、サドルバッグの類いも外す。レギュレーションでガラス製のミラーは使えないので、バーエンドに付けているミラーも外す。リアライトは公道を走るので残したが、手持ちで一番軽いものに変更した。
それと練習時の課題だった補給食については、グリコの「パワープロダクション エキストラハイポトニックドリンク CCD」を買ってみた。これは水に溶かすタイプで、ドリンクボトルに入れることで、水分補給しながらエネルギーも補給できるというもの。これなら補給食をとるのに手間取ってタイムを無駄にすることはないはずだ。
とはいえ念のため前回買ったジェルタイプの補給食「アミノサウルスジェル」は持っていきつつ、使わないでも走り切れそうなら使わないつもりだ。
レース前日、サイクルエキスポも開催
そしていよいよレースのある週末を迎える。
レース本番は日曜だが、エントリーは土曜日に行われるので山梨に向かう。そして、五合目に送る荷物も土曜日に預けておく必要がある。
五合目に送る荷物ってなに? と思われるだろうが、主にレース後に着る防寒着になる。6月とはいえ富士山の五合目は寒いのだ。ヒルクライム中は多少寒かろうが汗がしたたるほどの状況だが、走り終えた五合目は汗冷えしてめちゃくちゃ寒くなる。しかもその後は自走で降りなければならない。下りはほぼ漕がない上にスピードは出るから、汗にぬれたジャージのままだと凍えそうになるし、例えば手が冷えてブレーキが握れなくなれば、他の参加者を巻き込んだ事故にも繋がりかねない。富士ヒルは下りも集団で下るので、1人のブレーキミスが大勢を巻き込む事故にもつながりかねない。
そのため、富士ヒルでは下山時の防寒着が必須になっている。ルールとして決まっているのだ。そこで、着替えるためのアンダーウエアや冬用のジャージ、グローブなどを、前日に預けて五合目まで持っていってもらうというわけ(ちなみに練習の時はリュックに防寒着を入れて自分で持って走っていた)。筆者の場合は、防寒着の他に、水と補給食なども入れておいた。これは結構重要だ。
他にも前日の受付で、ゼッケンや計測器(足首に巻いてタイム計測に使う)、それと参加賞として、抗菌効果のあるピエクレックス素材を使ったハンドタオルと、洗剤いらずで洗濯ができるという「ピエクレックス マグちゃん」も一緒にいただいた。
そして、前日から会場ではサイクルエキスポが開催されていて、ロードバイクの試乗会や、レースで必要な補給食、サプリなどが特別価格で販売されていた。ただ、土曜日はあいにくの雨。天気が良ければ試乗をしてみたかったけど、明日も早いのでざっと見たところでそそくさと会場を後に。前泊するならもうちょっとのんびり楽しめたんだけど。
ただ、土曜日は朝から雨だったものの、途中で雨が弱まると、雲の間から富士山の山頂が顔を出してくれた。そして筆者が帰路に着く頃には、雨も上がり、まるでレース参加を歓迎してくれるかのように富士山が山頂まで見事に姿を現わしてくれた。これは幸先がよさそうだ。
レース当日、朝5時に起きる
そして迎えたレース当日。朝5時前に起きて1人で出発する。娘も応援に来たがっていたが、富士ヒルは応援に行くのも大変で、選手がスタートする前(5時台)には専用のバスに乗って五合目に向かい、全ての選手が走り終える12時過ぎまで下山できない。6時間以上待ち続けるというのは5歳の娘にはちょっとハードルが高すぎる。
途中で何かあっても大丈夫なように余裕を持って出発。特に渋滞もなく7時ごろには駐車場に入れた。駐車場は当然だが参加者だらけ。筆者の出走は8時40分以降で、まだまだ時間はある。
そこから食事を済ませ、トイレも済ませ、自分の自転車でゆっくり会場へ。まだ早すぎるし、どこかでアップがてら遠回りでもしようかと思ったが、会場に向かう道ですでに長い自転車渋滞が発生していたので、そのまま会場に向かった。
会場に着くとそこは自転車乗りだらけ。そこまでの渋滞から人の多さは認識していたが、それでも驚くぐらいの参加者の量だ。これでもすでに3分の2くらいはスタートした後なのだからとんでもない規模と言える。
まずは会場を見渡して、当日の荷物預かりに向かう。駐車場ではまだ涼しかったので、念のためアームウォーマーやレッグウォーマーなども持って出たのだが、会場に着く頃には気温が上がってきたので、それらを預ける。
そうこうしているウチに、いよいよ筆者が走る第7ウェーブも整列ができる時間になった(富士ヒルは参加者が多いので、ゼッケン番号で全7つのグループに分けられ、それぞれにスタートできる時間が決められている)。だが、右も左もロードバイク乗りだらけで、どこに並べばいいのかよく分からない。しばしうろうろして最後尾らしいところを見つけて列に並んだ(富士ヒルはタイム計測方式なので無理に前に並ぶ必要はない)。しかしそこからがまた長い。しばらく進むと、やっと本当の整列場所にたどり着く。つまり今まで並んでいたのは、整列場所に行くための列だったというわけだ。
よく見ると、周囲には第6ウェーブに参加するはずの人や、第4ウェーブのはずのゼッケンの人もいる。例えば第4ウェーブの人は第4ウェーブ以降であればスタートできるルールなので、おそらくスタート時間の遅い仲間に合わせているようだ。
そこでふと気になっていたことを思い出した。
というのがこのウェーブの分け方だ。第1から第3までは、過去の実績がある速い人しか参加できないが、それ以降は申込時に希望のウェーブを出せるようになっている。筆者はもともと第4ウェーブで希望したのが第7になった。なので、おそらく目標タイムが遅い人が後ろのスタートに回されたのかな、と思っていた。
だが、周りの人の聞こえてくる会話を聞いていると、とても初心者とか初参加というレベルではない雰囲気。あれ? おかしい、と思い始めていた。
そこでさりげなく周囲の人のゼッケンを見る。というのもゼッケンには自己申告した目標タイムが書かれているのだ。字が小さくて老眼にはきついのだが、さりげなく背後に近づいてはタイムをチェックしてみる。するとみんな、1時間30分とか1時間15分とか。あれ? 2時間以上のタイムを書いている人なんていないじゃん(汗)。
やばい、第7ウェーブは遅い人ばっかだと思っていたが違ったようだ。やばい、なんか急に緊張してきた。
ここで、ふと思い出した。そういえばレース前に飲もうと用意していた補給食やサプリがあったんだ。と慌てて飲む。周りの参加者はそんなものは飲んでいない。やっぱりみんな補給食になんか頼らないのか(汗)。
しかし焦る心とは裏腹になかなか列は進まない。そしてそこからさらに待ち、さらにぞろぞろと歩いて移動したところで、急に周りの人達が補給食を飲み始めた。え? あれ? え~! 今なの? オレ急いで飲み過ぎた(汗)。
スタート場所までが遠すぎてよく分からなかったが、どうやらその辺りが次のスタートの組になるらしい。そして遠くで「スタートです」みたいな声が聞こえると、やおらぞろぞろと走り出した。え? スタートなのか? これでスタートなのか? ヤバい、サイコン(サイクルコンピューター)をスタートさせなきゃ!
と慌てて走りだしたところで筆者の少し前に係員が出てきて静止させられる。どうやらそこで前のグループとの境になったらしい。同じ第7ウェーブの中でも、さらにまた小分けにされるらしい。スタッフに先導されるままスタート地点まで移動。つまり、ほぼ最前列でスタートすることになった。撮影的にはちょうどいいが、できれば後方からマイペースで走り始めたかった。
不安しかない!! いよいよ本当のレースが始まる!!
そしてそこから数分待って、いよいよ本当のスタート。
スタートしてから実際のタイム計測の場所まではパレードランという位置づけになっている。とはいえ周囲がどれくらいのペースで走るかは未知数だ。やばい、みんな速かったらどうしよう。
ただ実際にスタートしてみたらそれは杞憂に終わった。ペースも筆者でもついて行けるペースだったし、スタートしてすぐに前の集団がいて、軽い渋滞状態になっていたので、計測地点まではのんびりと走ることができた。
スタート地点から1kmほど走って胎内洞窟入口交差点を曲がるといよいよ計測開始地点になる。
何人か、計測開始地点前で止まっている人がいた。走りながらのスマホ撮影は禁止なので、筆者も写真を撮るならここが最後だろうと一時停止して撮影した。
ただ、今思えば、おそらく周りの人がやっていたのは、記念撮影ではなくサイコンのスタートだったのだと思う。筆者は深く考えずにスタート地点でサイコンをスタートさせていた。おかげで後になって自分の実際の計測タイムがどれくらいだったのかが分からなくなるのだが、このときはそんなことにも気づかず、スマホで写真を撮っていた。
さて、いよいよ本番だ。心を決めて走り始める。
これまで3回練習に来て、それはそれはたくさんの人に抜かれた。おかげで抜かれるのは慣れたし、抜かれたからといって焦ることもなくなった。
抜かれるだけなら左端を走っていればいい、あとは勝手に抜いていってくれる。
だが本番は練習の時とは違った。圧倒的に人が多い上に、自分よりも遅い人がいる。
抜かれるのは慣れているが、抜かす方には慣れていない。しかも抜かそうと右に寄ると、さらにその右側から抜かれることもあって、軽く接触するぐらいの距離になることもある。
しかも抜くときは、早く抜ききって左側に戻ろうという気持ちが出てしまって、無駄に体力を使ってしまう。
これでは良くないと思って、まわりにいる同じぐらいのペースの人に付いていくことにした。これでだいぶ気持ち的には楽になった。
ただ、そうした人に付いていくと、なんかいつもより少しだけペースが速くなってしまう。かといって離れるとまた大変なので、なんとか付いていきたい。でもなんかちょっと速い気もする。うーむ、いつもぼっちで走っているとこういうことはないのだが、これが「レースに飲まれる」ということか。
ただ、実はこれが悪くなかった。ペースが上がると、必然的にケイデンス(ペダルの1分間あたりの回転数)が高くなって、そうなると、練習時はできなかったクルクル回すペダリングができるようになってくる。なんか引き足もいい感じで使えて、今までのどの練習より“乗れてる”感じになった。
いつもより呼吸数が上がっている気がするが、とはいえ苦しくはなく、リズムよく走れている。そうこうしているうちに、斜度の緩い区間に入った。
すると今度はさらに脚が回せるようになった。そこでギアを上げると一気に加速ができる。緩やかになったら加速する、というのが富士ヒルのコツだと聞いていたが、周囲はなぜか加速しない。そこでそれまでついて来た人を一気に抜いて加速すると、ぐんぐん何台も抜くことができた。
ふたたび斜度がきつくなると、ギアを軽くして無理をせず周囲の同じぐらいのペースの人に付いていく。その間に抜き返されることもあったが、急坂の区間は休む区間だと言い聞かせ、ペースは落としすぎず、でも頑張らずで坂が緩やかになるのを待つ。
狙ったわけではないが、急な坂道では女性の後ろに付くことが多かった。そういえば以前見たYouTubeで、女性のロードバイク乗りの方が、平坦だと無理でも山なら男性より速く走れる、と言っていたのを思い出した。
そう、自転車においては、平坦では体重の重い人の方がパワーが出せて有利になるが、上り坂では体重の軽い人の方が有利になるのだ。
つまり、急な坂では体重の軽い女性に離されないように食らいついていき、緩やかになったら体重を生かして一気に追い抜く、というのを繰り返すのが、体重の重い筆者の必勝法になるじゃないか!! ということを走りながら発見してしまった。
そして実際にそうした。坂の急な場面ではペースの近い人の後ろにくっついて走り、坂が緩くなったら「オラオラオラオラァ!」とガンガン抜きまくり、また坂がきつくなったら誰かの後ろにコソコソとくっつく。どう見てもかっこよくない作戦ではあるが、これが見事にはまった。
サイコンの表示を見ていると、急な坂でも緩やかな坂でも心拍数が安定してそこそこ高く、パワーも極端な差がなく使えている印象。これはかなり理想的な走り方ができているかもしれない。
ただ、心配なのはスタミナだ。明らかにいつもよりハイペースで走れているが、これで24km走りきれるのかはまったくの未知数だ。
そこでポイントになるのが補給食だ。今回はドリンクでエネルギーも補給できるものを用意してきた。だから水分補給しながらエネルギーも摂取できる。実のところ、ここまでいいペースで走れているのも、このこまめな栄養補給が効いているのかもしれない。
中間の12km地点、あれ? なんだこのペースは!?
そして気がつけば半分の12km地点。ここでふとサイコンを見ると、経過時間が1時間5分の表示。ん? おかしい。
先にも書いたとおり、富士ヒルは、スタート地点とレースの計測開始地点が異なる。なので本来サイコンは計測開始地点からスタートすべきなのだが、筆者はスタート地点から開始してしまっていた。それで、おそらくスタート地点から計測開始地点まで、5分~10分ぐらいはかかっているはず。ということはつまり1時間かからずに半分走れたっていうこと?
いやいや、いくらなんでもそんなわけはないだろうと改めてサイコンを見ると、アベレージ速度が11.8km/hとなっている。今までの練習では、サイコンのアベレージ速度は10.2km/hとかで、ここが10km/hを超えている状態をキープするのが目標だった。それが今日は11.8km/hだと!? 普段より全然速い、速すぎる。
サイコンが壊れたんじゃないかと本気で思った。だがもしこれが本当なら、ここ(アベレージ速度)が12km/hになったら2時間切れるっていうことだ。まだゴール前のフラット区間もあるし、これはもしかしてもしかするかも!? がぜんやる気が出てきた。
ただ、残り10kmぐらいの地点で、急におなかが空いてきた。ドリンクで栄養補給はしてきたつもりだが、今日はいつもよりペースが速くて消費も激しいのかも。
背中のポケットには、うまく飲めず時間ロスになるのがイヤでここまで使ってこなかったジェルタイプの補給食「アミノサウルスジェル」がある。どうしよう。また飲むのに失敗して時間ロスするのもイヤだけど、このまま飲まなくてもただの重りになるだけ。ならば飲もうとベタベタになるのを覚悟でグローブで絞り出した。
するとなぜかびっくりするぐらい元気が出た。それまで以上にペダルがクルクル回せている気がする。そんなにすぐに効果が出るとは思えないので、ちょうど坂が緩やかになったとか、そういうことなんだろうとは思うが、でもあきらかにガス欠症状ななくなって、力が出せるようになった。スゴいな補給食。コレは行ける!! これなら2時間切れるかも!!
しかしこのハイペースはやっぱり未経験の領域、残り7.5kmほどのところで、今度は右足太ももの後ろ側、ハムストリングスの部分に痛みが出始めた。
やばい、今は調子良く走れているけど、あと7.5kmも持つのだろうか? 少し走り方を変えたりして、別の筋肉を使うよう意識してみるが、やっぱり違和感はある。まだ走れるけど、どこまで持つのか想像が付かない。
「ここまで来てリタイヤはイヤだし、ペースを少し緩めようか」。
そんな消極的なプランを考えていたとき、まさにそのとき、上のほうから「ドンドンドンドン」という音が聞こえてきた。
「おぉ? これは? これはウワサに聞く太鼓の応援か!」
実は富士ヒルの名物で、四合目手前にある大沢駐車場で太鼓の応援があるのだ。その音がまさにこのタイミングで届いてきた。
事前にその情報は知っていたので、練習の際にも「ここで太鼓の応援があるのかー」と、大沢駐車場の横を走りながら思っていたが、その音が1km近く手前のこの場所まで届いてきた。これがウワサに聞くあの太鼓の音か。今さらながら本当に富士ヒルを走っているんだという実感がわいてきた。
実は練習の時、応援されるのがイヤだった。降りてくる人がすれ違いざまに声をかけてくれるのだが、辛い辛いと思いながら走っているところに「頑張れ」と言われると、「言われんでも頑張ってるがな」、とちょっとイヤな気持ちになってしまった。誤解の無いように言っておくが、決して応援してくれている人を悪く言うつもりなのではなくて、これは筆者の人間性の問題だ。
だけどこの太鼓の音は響いた。不思議と素直にがんばろうという気にさせられた。そこからはさらに一枚ギアが上がった気がした。最終の第7ウェーブということもあって、この頃には、速い人はすでに先にいってしまって、自分が抜くだけになっていた。だから誰に付いていくわけでもなく、とにかくリズムを崩さないようにペダルを漕いだ。
そして奥庭駐車場前。ここがフラット区間になる前の最後の急坂だ。だからここでは頑張らない。息を整え、脚を休めてこの後のフラット区間に温存する。
その先のカーブを曲がったらいよいよ最後のフラット区間。ここでどれだけ踏めるかで2時間切れるかが変わってくるハズ。正確なタイムは分からないが、ここを走りきればあとはゴール前の坂だけだ。
坂が緩くなると同時に、勢いに任せて加速するが、サイコンを見ると心拍が一気に上がってしまった。これだと後が続かないと、速度が乗ったところで、それ以上加速はやめてその速度をキープしつつ深く呼吸をして心拍を整える。不思議とここへ来て冷静にいろいろと考えられている。
そして最後、ゴール前の500mの急坂。
たった500m、コース上にはもっと勾配のきつい坂もある。だけどいつもこの最後の坂が本当に苦しくて、一番きつい。練習で来ていたときいつもそう感じていたし、本番でもそれは同じ。でもそれももうコレで最後。この坂を登り切ったら富士ヒルは終わってしまうのか、そんな思いが頭をよぎる。
時間としてはそれほど長い時間ではないはずだが、やけにゆっくりと時間が流れている気がした。コース脇で大きな声で応援してくれている選手がいる。自分も走りきってヘトヘトだろうにスゴいな、などと関心する。アナウンサーの声が聞こえる。「ゴールは目の前だ」と張り上げている声が聞こえる。そう目の前、目の前なんだけど遠い。あと何回ペダルを回せばたどり着くんだ? なりふり構わず漕いで漕いで漕いで漕いで、そしてゴール。
ついにゴール! まさかの2時間切りか?
正直なところ、ゴールがどこだったのかよく分からなかった。いや、ここだろうというところはあったのだが、周りの人が走り続けるので本当にそれがゴールラインなのか確信が持てず、ゴール後もしばらく走り続けた。そして周りの人がチームメイトに迎えられているのを見て、ようやく止まっていいんだ、という気持ちになった。
ぼっちな筆者には迎えてくれるチームメイトはいない(友人は速い人クラスの第3ウェーブなのでとっくに下山している)ので、すぐに家族にゴールした旨を伝えた。サイコンの時計を見ると2時間4分。たぶん計測地点まで4分はかかっているだろうから、これは2時間切れたかもしれない。泣きそうになった。泣かなかったけど。
こうして筆者の富士ヒル初参戦は終わった。
下山後、正式な結果を確認するとなんと1時間55分29秒!! 練習時のベストを一気に17分も更新できた。友人にも、初出場で2時間切りはスゴいよと言ってもらえた。これは来年はブロンズ(1時間30分切り)を目指すか! いや、やっぱりまずは1時間45分ぐらいにしておこう。
最初はちょっとイヤイヤなところもあった富士ヒルだったが、今ではもう来年も走りたくて仕方がなくなっている。
こんな機会を与えてくれたピエクレックスの皆さまにも感謝。運営の皆さま、太鼓で応援してくれた皆さま、ほかの参加者の皆さまに感謝。今まで漠然と距離だけ走って満足していたけど、目標を持って頑張ることがこんなに楽しいとは。またロードバイクの楽しさを1つ知りました。
そして一緒に走ってくれたオルベアの愛車がますます好きになった。ディスクブレーキなのにクイックリリースとか、時代の狭間に取り残されたようなバイクだし、ヒルクライム向きでもないバイクだけど、本当にいいバイクだと思う。レースが終えたら次のバイクに、と考えていたけど、もうちょっと悩むことにしよう。
テレワークで余裕ができた時間を有効活用するため、または、変化がなくなりがちなテレワークの日々に新たな風を入れるため、INTERNET Watch編集部員やライター陣がやっていることをリレー形式で紹介していく「テレワーク、空いた時間でなにしてる?」。バックナンバーもぜひお楽しみください。