テレワーク、空いた時間でなにしてる?

【ロードスター復活計画その9】16万km走り続けたNA8Cロードスターのブレーキをバラしたらサビまくりだった件

10年前のまだ車検を切る前のロードスター。エアコンの効きの悪さなどちょっとした問題はあったが、元気に走れていた

 走行距離16万kmで車検を切ってから10年(記事執筆時点)、自宅の駐車場で眠らせていたマツダ ロードスター(NA8C)を復活させるべく、テレワークで空いた時間を使ってDIYでチャレンジしている。前回までで、エンジンまわりとステアリングまわりのリフレッシュが終わったので、続いてはブレーキまわりのリフレッシュだ。

 NA8Cのブレーキというと、ABSさえ付いていないシンプルなもの。といっても、ブレーキまわりは整備ミスがあれば重大事故にもつながる可能性のある「重要保安部品」だ。プロであれば、認証整備工場、もしくは指定工場以外の整備工場では整備してはいけない部品。自分で自分のクルマを整備するのであれば違法ではないが、それだけリスクのある作業なわけで、こんな記事を書いておいてなんだが、本稿はDIYを勧めるつもりで書いているわけではない。

 20年ほど自動車メディアに携わってきた筆者としては、DIYはできる範囲でやってほしいという想いはある。別に難しいことをやれと言うわけではなくて、洗車ひとつだって、拭き上げのためにボンネットを開ければ、そこでいつもと違う異変に気づくこともあるからだ。

 ただし、それはあくまで自分の技量にあったレベルまでのこと。筆者も自分の手に負えない部分はプロに任せているし、特に本稿で扱っているような重要保安部品に関する整備については、できる人がやることを否定する気はないが、できない人が無理にやることでもないと思っている。自分だけでなく他人の命にもかかわることなので、プロに頼むところはプロに頼んで、無理のない範囲で楽しんでもらいたい。

16万km走り続けたNA8Cのブレーキまわりをオーバーホールしたい

 さて、前置きが長くなってしまったが、ブレーキまわりの作業内容としては、ブレーキキャリパーのオーバーホール、ブレーキホース交換、ブレーキローター交換、マスターシリンダーのオーバーホールになる。

 このうち、リアのブレーキキャリパーは10万kmぐらいのときに、一度固着して新品に交換している。ブレーキマスターシリンダーのオーバーホールも同時期にやっているが、フロントキャリパーは新車から無交換で未オーバーホール、ブレーキホースも新車時から無交換で、特に異常は感じていないが、オイル漏れしてからでは遅いので、この機会に交換するつもりだ。

フロントキャリパーを外したら、いきなりサビまくり!!

 まずはフロントキャリパーを外して行く。が、最初の1本のボルトを外したところから、そうそうにトラブルが発覚した。

 運転席側のフロントキャリパーから作業を開始したのだが、なんと最初に外したボルト(スライドピン)から盛大にサビていたのだ。ここまでガソリンタンクの中もエンジンの中も意外といい状況が続いていたのだが、ブレーキは幸先が悪そうだ。

ブレーキを外すにはまずスライドピンを緩めるのだが、これがなかなか固い
やっと外れたスライドピンを見ると、なんかサビてる。ブレーキまわり最初の1本目からこの状況とは、先が思いやられる

 ブレーキキャリパーには種類がいくつかあるが、ロードスターにも使われているのは、フローティングキャリパーと呼ばれる一般的なものだ(片持ちキャリパーとか片押しキャリパーとも呼ばれる)。2つ以上のピストンがあって、2枚のブレーキパッドを、それぞれのピストンで押すのが対向ピストンキャリパーだが、フローティングキャリパーにはピストンが1つしかない。

 2枚のブレーキパッドでブレーキローターを挟み込むのに、ピストンが1つしかないというのは意外に思われるかもしれないが、構造はこうだ。

 フローティングキャリパーは大きく2つのパーツで構成されていて、車体側のハブに固定されるブラケットと、ピストンが内蔵されるキャリパー本体になる。ブラケットは車体にがっちりと固定されているが、キャリパー本体は、ブラケットと2本のスライドピンで刺さっているだけで、左右に動けるようになっている。

 ブレーキペダルを踏むと、キャリパー本体からピストンがせり出す。ピストンは片側にしか付いていないので、まずはピストン側のブレーキパッドを押し出すが、パッドがブレーキローターに接触すれば、今度はキャリパー本体が反対側に押し戻される(スライドピンで刺さってるだけなので簡単に動く)。キャリパー本体はコの字になっていて、ピストンの反対側にもブレーキパッドが付いているので、キャリパーが押し戻されると、その反対側のブレーキパッドが引っ張られてブレーキローターに接触する形になる。ピストン側のブレーキパッドはピストンが押し、反対側のブレーキパッドはキャリパー本体が押し戻される力で動いてブレーキローターを挟む、というわけ。文字で説明するのはなかなか難しいが理解していただけただろうか。

フローティングキャリパーの本体。ピストンは1つしかないが、ピストンが手前にせり出してブレーキパッドを押すと、それと同時にキャリパー本体が奥側に押し戻される。キャリパーの手前のツメの部分に反対側のブレーキパッドがあるので、2枚のパッドでブレーキローターを挟むことができる

 ということで、ブレーキを外すには、まずはキャリパー本体とブラケットを繋いでいるスライドピンを抜くのだが、そのスライドピンがサビサビになっていたわけだ。本来はブラケットの穴に刺さったスライドピンは、ゴムブーツなどもあって、グリスが密閉されている状態。なので、サビが出ているのは異常だ。

 そこでブラケットも外してみると、スライドピンの刺さる穴がサビまくりでグズグズになっている。そこで正常な助手席側のブラケットと見比べてみると、穴の入口にあるはずのゴムシールの部分が欠損していた。そのせいでグリスが流れ出てしまったのだろう。ゴムシールだけを交換することはできないので、ブラケットごと交換の必要がある。

スライドピンが刺さるブラケット側の穴もサビがひどい。こんなのは初めて見た
サビを落として、助手席側のブラケットと見比べてみると、入口のシール部分がなくなっているようだ

 さらにピストンのダストブーツにも破れが発生していた。これは比較的よくある破損ではあるのだが、放置すると中のピストンがサビてしまうこともある。

ダストブーツにも破れが。あくまでダストブーツなので、これでいきなりブレーキが利かなくなるようなことはない
ピストンを押し出したところ。ダストブーツは破れていたが、ピストンにサビはなさそうだ

2代目NBロードスターのブレーキを流用?

 ブラケットを新調しようかとも思ったが、フロントキャリパーは16万km無交換。どうせなので、程度のよい中古を探しすことにした。

 というのも、実はNA8Cのブレーキキャリパーは2代目ロードスターであるNBでも同じモノが使われている(一部グレードを除き)ので、そのまま流用することができる。NB後期のキャリパーで探せば、走行距離も年数も比較的(あくまで比較的)少ないものが手に入れられるのだ。

 そこでネットオークションで探したところ、ブレーキキャリパーとしてはツヤがあって、まるで塗装されたかのようにキレイなキャリパーを発見した!

 これは掘り出し物! 極上品を見つけたと喜々として落札したのだが、届いてみたらなんと驚き! 本当に塗装されていた(苦笑)。

ネットオークションでゲットしたNB6Cの後期で使ってたというキャリパー。写真ではツヤもあったってキレイに見えたので、もしかして一度交換されたものなんじゃないかと期待したのだが、現物を見たら塗装されているだけだった

 いやー、赤や金色に塗装している人はしばしば見かけるが、まさかこんな地味な色で塗る人がいるとは。まぁどうせ一度オーバーホールするし、スライドピンやピストンがサビていなければ問題は無い。

塗装されているのは表の見えるところだけ。裏側は汚かった(まぁ年式相応だが)
マスキングもせずざっくりと塗られた様子だ。まぁオーバーホールしちゃうからいいけど
ブーツの破れなどは発生していない。ピストンの内側にサビがあるがここは問題ない
スライドピンにもサビはなし。このまま使えそうだ

ブレーキキャリパーの内部を磨くべし、磨くべし

 ということで、中古で買ったフロントキャリパーのオーバーホールだ。

 ロードスターの場合、フロントキャリパーは極めてシンプルだ。基本的には注射器のようなもので、ピストンの中にシリンダーが入っているだけ。やることと言えば、その隙間にあるオイルシールとダストブーツ、あとはスライドピンのブーツを交換するだけだ。

 ただし、そのためにはまずピストンを抜く必要がある。整備工場の場合はエアツールを使って押し出すのだが、そんなものはないので、電動空気入れを使ってピストンを押し出した。

電動空気入れでエアを入れてピストンを押し出す。汚れてはいるがサビはなさそうだ

 バラバラにしたら、あとはとにかくキレイにする。

 まずはピストンの外側、摺動面を磨く。外側に出ている部分はさびていても問題無いが、摺動面の汚れはキレイにする必要があるし、そこに大きなへこみやキズがあるようならピストンも交換だ。逆に磨くときもていねいに。深いキズが付いては意味が無い。

 今回は中古で買ったキャリパーと、元々のキャリパー、計4つのピストンの中からキレイなモノを選ぶつもりだったが、結論から言えば磨けばどれもキレイなモノだった。見比べればやはり新しく買ったもののほうが若干はキレイなのでそれを使うことにした。

 シリンダー側もキレイにする。こちらも内側はキレイで、オイルシールより外側にサビが発生していたのでそのサビを落とし、シリンダー内の汚れもキレイにした。

こちらはもともと付いていたキャリパーのピストン。こちらでも十分再利用できそう
もともと付いていたキャリパーのシリンダー側。オイルシールの外側にサビがあるが、これも問題になるほどではない
磨いたピストン。サビで虫食いのようになっていれば再利用できないが、これだけキレイであればまったく問題なし
キャリパーのシリンダー側もキレイにした。こちらもキズもなくキレイなものだ。写真はすでにオイルシールが交換済み

キャリパーを純正っぽくキレイに塗りたいならチタンカラーがオススメ

 ここまでできればブレーキの機能的には大丈夫。だが、この中古のキャリパーの塗装が雑で見た目が悪いので、せっかくなので塗装し直すことにした。

 そのためにはまず古い塗装やサビを落としまくる。電動ドリルに付けられる真鍮ブラシなども駆使して、とにかく磨きまくった。実際のところどうせ塗っちゃうしほどほどでいいのだが、金属が磨かれてキレイになっていくのが気持ちよくて、ついついピカピカにしてしまった。

電動ドリルに真鍮ブラシを付けて磨きまくったブレーキキャリパー。ここまでキレイにしなくてもいいのだが、こういうところでいくらでも時間を掛けられるのがDIYのいいところだ

 そして塗装。

 ブレーキは高温になるので、塗装には耐熱塗料を使いたい。ただ、耐熱塗料は種類が多くない。ブレーキキャリパー塗装用として赤や金色が見つかるが、筆者はあまり派手なのは好きではなく、できれば一見塗ったと分からないような純正然とした色にしたい。

 いろいろと探してみたところ、ソフト99の耐熱ペイントにチタンカラーというのを見つけた。チタンは焼けて色が変わるので、チタンカラーというのがどういう色なのか不安ではあったのだが、結論から言えば、焼ける前のチタンの色だった。

 これが個人的にはかなり良かった。金色と銀色の間のような色で、それでいてツヤもなく、とても自然。もはや新品時のキャリパーの色は覚えていないが、こんな感じじゃなかったっけ? と思えるような色だ。キャリパー塗装はしたいけど派手なのはイヤという人にはかなりオススメだ。

 ただし耐熱塗料は少しクセがあって、塗ったままだと完全には硬化しない。一度高温にする必要があるのだ。すぐに山道にでも走りに行けるのならいいが、今回はそうではないので、ガスバーナーやヒートガンで熱して、手で触ってペタペタしないぐらいまで焼き付けた。あるいはオーブンレンジなどを使って焼いてもいいかもしれない。

チタンカラーで塗装。派手なのが嫌いな筆者にとってはとても良い色だと思う
右手にガスバーナー、左手にヒートガンを持って耐熱塗料を乾燥させる

交換する部品はたった5つ、だが侮れない

 あとはオーバーホールキットに付属のグリスを塗りつつ、新しいシール類を入れて元に戻していく。今回はミヤコ製のオーバーホールキットを使っている。

フロントキャリパーのオーバーホールキット。オイルシールとダストブーツ、2つのスライドピンのブーツとブリーダープラグのキャップ、あとは専用のグリスだ。

 ただし、工数は少ないもののこれが結構大変だ。特にダストブーツは、ピストンとシリンダーの間に挟まる形なので、ちゃんとはまっていないとブーツの破れなどにつながってしまう。ブレーキキャリパーのオーバーホールは、実のところ作業としてはそれほど重くはないのだが、こういったコツのような部分がやっかいなのだ。

一番やっかいなのがダストブーツ。一端をシリンダーの内側の溝に、もう一方の隅をピストンの溝に引っかける必要があるので、コツがいる
ダストブーツ装着、よれなどが無いか確認
ブラケットには2つのスライドピンのブーツを装着
特にこの上側のブーツは抜くのも入れるのも大変

 冒頭でDIYについて少し語ったが、結局のところ例えばトルクレンチなど、使える道具はちゃんと使いつつ、細心の注意を払って作業することは絶対として、その上で失敗している前提で最終チェックをくり返し行うしかないだろう。ブーツの入り方なども細かくチェックして、まず問題なくできていると思うが、最終的には組み付けた状態でチェックが必要だ。

フロントキャリパーのオーバーホールが完成。だがブレーキホースなども交換するので装着はまだ

 ということで長くなったので今回はここまで。次回はリアキャリパーをオーバーホールしたい。これも結構大変なのだ。

テレワークで余裕ができた時間を有効活用するため、または、変化がなくなりがちなテレワークの日々に新たな風を入れるため、INTERNET Watch編集部員やライター陣がやっていることをリレー形式で紹介していく「テレワーク、空いた時間でなにしてる?」。バックナンバーもぜひお楽しみください。