期待のネット新技術

10GBASE-TはNASとの組み合わせで実力発揮! 今後はNURO 10Gも後押しか?~NETGEARに聞く~

【10GBASE-T、ついに普及?】(番外編1)

 1000BASE-Tの10倍速、という高速な有線LAN規格「10GBASE-T」が、いよいよ身近になりつつある。

 LANカードは既に100ドル以下のモデル2万円台のモデルが登場、ハブについても8ポート8万円の製品が国内で発売済み。10GBASE-T標準搭載のiMac Proも12月に発売されるなど、価格・製品バリエーションの両方で徐々に環境が整ってきた。

 長らく望まれてきた10GBASE-Tの低価格化だが、技術的には1000BASE-Tから変更された点も多く、設定や活用上のノウハウも新たなものが必要になる。そこで、規格の詳細や現状、そしてその活用方法を、大原雄介氏に執筆していただいた。今回は番外編として、ネットギアジャパン合同会社における10GBASE-T対応製品の展開を中心に行ったインタビューをお届けする。また本連載について、今後は毎週火曜日に掲載していく。(編集部)

 この連載、筆者としては、もっとロングテールというか、あまり急に人気を集めたりはしないものの、長く読まれる連載になることを想定していた。だが、意外にも結構なPVを集めており、編集部でも首を捻っているそうである。そういう中で、これまでの連載でも何度か取り上げたネットギアジャパン合同会社から申し出を受けてお邪魔してきた。お相手いただいたのは、VARセールスエンジニアの渡部敏雄氏、マーケティングマネージャーの曽利雅樹氏と前田力氏のお三方である。

「世界中をインターネットに接続することにおいてInnovative Leaderであり続ける」NETGEAR

米NETGEAR CEOのPatrick Lo氏(2014年インタビュー取材時)

 ちょっと復習がてら。NETGEARは1996年、米国で創業された。当初はBay Networkの子会社、というか創業者で現在もCEO兼取締役会議長のPatrick Lo氏が1995年にBay Networkに入社し、Bay NetworkでSOHO向け製品の市場展開を提案。子会社のかたちで、SOHO向け新部門というか新ブランドを立ち上げた。

 Bay Networkが、その後カナダのNortelに買収された関係で、NETGEARもNortelの子会社だった時期もあるが、2002年に完全に独立している(そのNortelも2009年に破綻しているあたり、この業界の栄枯盛衰ぶりは著しいものがあるが、それは本題ではない)。そんなわけで同社は、当初からSOHOあるいはSMB(Small/Medium Business)に特化した製品展開を行っており、現在もこの方針を堅持している。

 ちなみに同社がミッションとして掲げているのは「世界中をインターネットに接続することにおいてイノベーティブリーダーであり続けること」(前田氏)だそうで、そのためにも、最新技術を採用した製品を他社より先に発売するのは、ある意味必然らしい。10GBASE-Tにしても、そうした観点から製品投入を行っているという。

ネットギアジャパン合同会社の前田力氏(マーケティングマネージャー)

10GBASE-T立ち上がりは初代「XS708E」発売の2013年

 NETGEARからすれば、2013年3月に8ポート搭載の10GBASE-Tスイッチ「XS708E」の初代モデルを発表したのが、マーケットそのものが立ち上がったタイミングだという。SMB向けの10GBASE-T専用スイッチとしては、「この製品が世界初だろう」とのことで、「マーケットそのものは既に立ち上がっている。ただし、もう一歩ジャンプするのはこれから」(渡部氏)とみている。

10GBASE-T対応アンマネージプラスの8ポートスイッチ「XS708E」。現在発売されているのは2代目である写真の「XS708E-200AJS」

 10GBASE-Tスイッチの販売については、「NASもほぼ同じ頃に10GBASE-Tの搭載を開始しており、これと組み合わせたかたちが中心でした。仮想化が普及し始めて以降は、10GBASE-Tスイッチのニーズそのものが増えてきました」とのことだ。もっとも、「データセンタークラスになると、(10GBASE-Tのレイテンシーを嫌って)ファイバーで接続されることが多いのですが、逆にSMB向け程度の仮想化であれば、10GBASE-Tで十分ということです」(渡部氏)というのは、第4回でも触れたとおりだ。

ネットギアジャパン合同会社の渡部敏雄氏(VARセールスエンジニア)

10GBASE-Tの高速性をNASとの組み合わせで体感

 NASとの組み合わせについては「例えば、10GBASE-Tに対応したNASを10GBASE-Tスイッチにつなぎ、その下に複数台の1000BASE-Tクライアントがある環境で、スイッチを1000BASE-Tのものに入れ替えると、割と大きな影響がありまして、結構もたつきます。弊社の製品で言えば、中位クラスのNASの場合には、ネットワークの方がボトルネックになります」と語ってくれた。

 最初期の10GBASE-T搭載NASである「RN716X」の場合、「SATA HDDを6基載せてRAID 5構成にすると、スループットが600MB/sec程度出るので、1000BASE-Tでファイル転送などを行うと、インターフェースの帯域をフルに使い切ってしまいます。もちろんファイルアクセスがランダムなのか、シーケンシャルなのかといった書き込み方にもよる部分はありますが、HDDが4基構成となるその下のモデルであっても、1000BASE-Tだと帯域が不足します」(渡部氏)とのことだ。10Gbpsを使い切れるかどうかはともかく、10GBASE-Tのメリットが一番感じやすい部分だとする。

日本独自のNURO 10G、回線の高速化で10GBASE-T拡充?

 この一方で、世界的に見ても特殊な日本のインターネット接続回線の話題についても語ってくれた。「英国でNETGEAR全社のSEミーティングがあった際にインターネット接続回線の話題になって、『日本はもう10Gbpsやってるよ』と話したら『何に使ってるんだ?』と皆に言われたんです(笑)。ただ、これは日本で1Gbpsが普及し始めた時にも言われたんですよ。『1Gbpsで何やってんだ』と」(渡部氏)。

 曽利氏は以前、本社から来日した人物がプレス向けにQoSのデモをしようとしたときの逸話を語ってくれた。「日本のインターネット接続回線は1Gbpsの帯域があるため、いろいろ構成を作っても、QoSの有無で差が出ずに諦めてました。終いには『(アクセス回線を)10Mbpsに絞るか』と言い始めたので、『リアルな構成じゃないからやめてくれ』と(笑)」。

 このような日本独自の市場には、現在ではさらに高速な下り10Gbpsの「NUROアクセス NEXT 10G」もある。これを念頭にしたアクセス回線向けには、10GBASE-Tのニーズはないのだろうか。「実はNUROさんの10Gサービスに使われているのは弊社の8ポートスイッチ(XS708E-100AJS)でして、“メディアコンバータ”と呼ばれています」(曽利氏)。

法人向け接続サービス「NURO Biz」の「NUROアクセス NEXT 10G」では、10GBASE-T×8と10GBASE-SR×1を備えた「XS708E-100AJS」がメディアコンバータとして提供される
ネットギアジャパン合同会社の曽利雅樹氏(マーケティングマネージャー)

 しかし、今でこそ日本だけと言える10Gbpsのアクセス回線だが、もう少し将来を見ると必ずしもそうとは言い切れないと同社は見ている。

 「今、NETGEARでは10GBASE-Tに注力していますが、この先クラウドがさらに普及して、データがどんどんクラウドというかインターネット上に移行していくと、当然アクセス回線を高速にしないといけない。10Gbpsでつながれば、その速度のまま、例えば社内ネットワークにまでつながるわけです。そこで(高速な)スイッチが必要になる。こうした考え方の下で、どんどん製品を投入しているわけです」(渡部氏)。つまり同社は現在のニーズではなく、今後のニーズを見据えて、10GBASE-T製品の拡充を図っているというわけだ。10GBASE-T関連製品は「全世界でよく売れていて、Amazon.co.jpでも数多く販売されています」(曽利氏)とのことだ。

 今回は番外編として、10GBASE-T対応製品の展開を中心にネットギアジャパンにお話を伺った。次回更新分では、10GBASE-T移行におけるケーブルの問題やマルチギガ(NBASE-T)の位置付けについて、引き続きネットギアジャパンにお話を伺う。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/