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売上から見るInfiniBand市場規模の推移、規格の急速な世代交代もポイント
【InfiniBandの現在】
2019年10月23日 06:00
「InfiniBandの現在」では、規格としての歴史と現状、今後の動向をまとめて紹介している。大半の読者にとっては「InfiniBandって何?」というところだろうが、僚誌クラウドWatchをご覧になっておられる読者の中には「何で今さら」という方も居られるかもしれない。
そう、InfiniBandという規格は、1999年に作業が始まり、2000年に最初の規格策定が行われたという「えらく古い」規格なのである。
「InfiniBandの現在」記事一覧
- 汎用的なInterconnectへ進化しつつあるInfiniBandの成り立ちは?
- ラック間やサーバー間で2.5GT/sの転送速度を実現する「InfiniBand 1.0」
- Intelが開発中止、発熱対処に難、サーバー間接続一本化は実現せず
- 低コスト低レイテンシーでHPC向け分散型構成に活路
- InfiniBandで高性能を実現するMPIの仕様策定と、その実装「MPICH」
- HBAとMPIとの組み合わせで、低レイテンシーを安価に実現する「RDMA」
- RDMAでパケットを高速転送する「SDP」、これをiSCSIで実現する「iSER」
- 売上から見るInfiniBand市場規模の推移、急速な世代交代もポイント
- SDRの2.5GT/secに加え、DDRの5GT/secとQDRの10GT/secを2004年に追加
- 低レイテンシ―かつ高速なMellanox初のDDR対応HCA「InfiniHost III Ex/Lx」
- 「QDR」に初対応のInfiniBand HCA「ConnectX IB」と10GbEカード「ConnectX EN」
- InfiniBand QDR/Ethernet両対応「ConnectX-2」、324ポートスイッチ「MTS3610」
- 14GT/secの「FDR」と25GT/secの「EDR」、64b66bでのエラー増に「FEC」で対応
- InfiniBand FDR対応の「ConnectX-3 VPI」カード、HPC向けが中心
- SANスイッチ向けにInfiniBand市場へ参入したQLogic、撤退の後、2006年にはHCA向けに再参入
- QLogic、市場シェアを拡大も2012年にInfiniBand部門をIntelへ売却
- Intel、QLogicから買収したInfiniBandからOmni-Path Fabricへ
- InfiniBandが主戦場のMellanox、独自の56GbEでイーサーネット関連を拡大するも……
- Mellanox、100Gbpsの「EDR」製品を2014年リリース、2017年は売上の中心に
- 4x構成で200Gbps超の「InfiniBand HDR」、Mellanoxが2018年後半に製品化
- データ量と演算性能増によるメモリ帯域不足解消へ、Gen-Z Consortiumへ参画
- Gen-Zに加え、競合InterconnectのCAPI、CCIX、CXLにも参画するMellanox
- PCIeの処理オーバーヘッドを36分の1に、IBM独自の「CAPI」から「OpenCAPI」へ
- DRAMサポートを追加、メモリI/F統合も考慮した「OpenCAPI 3.1」
- 3種類の接続形態をサポートする「Gen-Z Ver.1.1」
- HDRは好スタート、InfiniBandのこの先は?
InfiniBand市場撤退が相次いだ2000年代、MellanoxとQLogicの2社へ
さて、RDMA関連の寄り道を終えて、InfiniBandの話に戻ろう。InfiniBandはIntelの撤退などで、2003年ごろにいきなり梯子を外されてしまい、Mellanoxをはじめとする小さなベンダーのみが残される、という状況になってしまった。
では実際の当時の状況を確認してみよう。Mellanoxの投資家向け資料から、総売上(Total Revenue)、粗利益(Gloss Profits)、純利益(Net Income)をまとめたのが以下のグラフだ。単位は100万ドルで、厳密に言えば為替レートの変動があるので正確さには欠けるが、ラフに100万ドル≒1億円と見なせば、ほぼ当時のInfiniBandの市場規模が見えてくる。
同社がInfiniBand以外のビジネスを手掛けるのは2010年ごろからで、それまではInfiniBand一本槍だったから、確かに生き残るのは楽ではなかったはずだ。
例を挙げれば、InfiniBand向けのソフトウェアを手掛けていたLane15 Software(ここでスライドを紹介している)は、2003年3月にInfiniSwitchに買収されるが、そのInfiniSwitchも翌2004年ころには消息不明になっている。2003年当時にInfiniSwitchのCEOだったDon Zereski氏は、翌2004年1月にSDI(Silicon Dimensions)という別の会社を立ち上げているので、おそらく2003年中にビジネスそのものを放棄したのではないかと想像される。
そもそも、InfiniBand Trade Associationの会員自体、1999年9月の時点で140社以上とされていたが、今では27社まで減っているあたり、ゆっくりとではあるが、減少の一途を辿っているということなのだろう。
もっとも、会員企業が減少した理由は、InfiniBand製品の取り扱いを止めて脱退したベンダー以外に、それこそLane 15のように買収されたり、InfiniSwitchのように(おそらく)事業を閉鎖したなどのケースも含まれる。そう考えると純粋にInfiniBandのビジネスから撤退したベンダーはそう多くはないのかもしれない。
そんな中でMellanoxでは、じっくりと、ではあるが市場規模を拡大してきていた。実際、HCAに関しては、事実上MellanoxとQLogicの2社のみが提供を行っていた。
スイッチに関しても、例えばこちらのHPC向け構成でL2スイッチを提供していたVoltaire(ちなみに2010年にMellanoxに買収された)など、製造そのものは他ベンダーも手掛けていたが、それもMellanoxまたはQLogicのHCAチップを利用して構築されていたので、やはり事実上は2社に絞られていたことになる。
InfiniBandの市場規模は2008年に1億ドル超、2017年には4億ドルへ
シェアとしてはMellanoxの方が大きかったと記憶しているので、InfiniBand製品市場全体の規模は、おおむね先のグラフの数値を倍にしたよりも若干小さい、といったあたりだったのではないだろうか。
もっとも、2008年の売り上げが1億ドルを超える規模となってはいても、純利益はひとけた小さかった(しかもその後2011年まで右下がりの傾向にある)あたり、儲かるマーケットだったかと言われると、難しいところだ。
ちなみに先のグラフは全社の売り上げを示したものだが、Mellanoxは後追いでイーサーネットにも参入しており、途中からはこれも加味されている。これを分離したのが次のグラフだ。先にも少し触れたが、2010年11月にMellanoxはInfinity Fabric Switchを手掛けるVolataireを総額2億1800万ドルで買収。その結果としてVolataireの売り上げが2012年度の決算にそのまま合算されている。
この2012年頃になると、Mellanoxの売り上げ≒InfiniBandの市場規模、という感じになってきており、2012年は例外としても、2億ドルを超え、3億ドル近い規模の市場になっていたことが読み取れる。
Mellanox自身で言えば、2010年あたりからイーサーネット向け製品が急速に増えており、InfiniBandを上回る成長率を達成。その売り上げは2017年、ついにはInfiniBandを超えており、InfiniBandの市場規模がイーサーネットよりも小さいことを、Mellanox自身が証明してしまった、と言えなくもない。それでも2017年時点で4億ドルだから、けっして小さいマーケットというわけではなかった。
6種類の規格が急速に世代交代
実際にはこれらに加え、x1/x4/x12という、同時に接続できるレーン数のバリエーションがあるが、InfiniBandには以下のように6種類の規格が定義されている。
策定年 | 規格 | データレート |
2000年 | SDR(Single Data Rate) | 2Gbps |
2005年 | DDR(Double Data Rate) | 4Gbps |
2007年 | QDR(Quad Rata Rate) | 8Gbps |
2011年 | FDR(Fourteen Data Rate) | 14Gbps |
2014年 | EDR(Enhanced Data Rate) | 25Gbps |
2017年 | HDR(High Data Rate) | 50Gbps |
このSDRからEDRまでの種類別の売り上げ推移をまとめたものが、次のグラフだ。まず、SDR製品が2000年から立ち上がり、2006年に4850万ドルのピークを迎えるが、2007年あたりからDDR対応製品が投入され、急速にSDRを置き換えている。
実はMellanoxのAnnual Reportそのものが、2006年度に関してはSDRとDDRの売上比率を明らかにしておらず、実際には2006年にも少なからずDDR対応製品が立ち上がっていたと思われる(実際、2006年には既にDDRに対応したInfiniHost IIIシリーズのHCAが販売を開始していた)が、それがグラフに表れるのは、2007年からである。
ちなみに2007~2008年ころには、既存のSDRをDDRへアップグレードした、というニーズも少なからずあったと思われる。実際、この時期に採用した顧客が大幅に増えたという話は聞こえてきておらず、にも関わらずDDR製品は急速に伸びているからだ。
2008年には、その次の規格であるQDR対応製品がリリースされ、2009年には早くもDDRを抜き、驚異的なスピードで普及する。2013年の落ち込みは、そもそも2012年にVolataire買収で急に売り上げが跳ね上がった反動という面もあるが、次のFDRが登場し、これまた急速に乗り換えが行われたことを示していると思われる。
この2013年にはSDRはLegacy扱いされ、DDRと合算した数字が示されている。両方合わせても3000万ドル程度だから、恐らくSDR単体では100万ドルを切っていただろう。もっとも、そのDDRも2014年一杯でLegacy扱いとなり、2015年にはQDRと合算するかたちで示されているあたり、イーサーネットなどと比べて、世代交代が極端に早い印象はある。
そのFDRは2015年まで(多少凸凹はあるにせよ)売り上げを伸ばし、ピークで3億5000万ドル近くを達成したものの、2015年から投入されたEDR製品との世代交代で、急速に売り上げを落としていった。一方で、EDRがこれまた急に売り上げを伸ばしつつあるのが分かる。おそらく直近で言えば、EDRの売り上げは既にピークアウトしており、HDR製品がこれを置き換えるべく急速に伸びている、という構図がなんとなく想像できる。このように非常に早い世代交代は、InfiniBandの市場を考える上でのポイントではある。
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- InfiniBand FDR対応の「ConnectX-3 VPI」カード、HPC向けが中心
- SANスイッチ向けにInfiniBand市場へ参入したQLogic、撤退の後、2006年にはHCA向けに再参入
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