俺たちのIoT

第15回

ネコの「出入り口系」「センサー系」など、ペット向けIoTの4分類と代表例

株式会社エクストランの移動式ネットワークカメラ「ilbo」

 IoTによって便利になるのは人間だけではありません。最近では、ペット業界でも徐々にIoTに対応した製品が増えつつあります。今回は、ペット向けIoTでどのような製品があるのか、「見守り系」「給餌系」「出入り口系」「センサー系」に分けていくつか例を見ながら、ペット向けIoTの特徴を考えてみたいと思います。

見守り系

 ペット向けIoTの中で最もメジャーと言えるのが、カメラを使った見守り系です。無線LANなどのネットワーク接続機能を持ったカメラを自宅のネットワークに接続することで、外出先から自宅にいるペットの様子をいつでもチェックすることができます。

 外出先から自宅の様子をチェックできるカメラは、もともと“ネットワークカメラ”という製品ジャンルとして十数年以上前から存在していた製品であり、ペットの見守りカメラも技術的に新しいものではありません。しかし、カメラの画質も低く、インターネットの通信速度も今ほどは高速でなかった十数年前に比べると、最近ではモバイルでも数十Mbps近い高速での通信ができるようになり、外出先から視聴する端末もスマートフォンが普及したことで性能が向上しました。こうした環境が整ったことでネットワークカメラがより本領を発揮できるようになり、ネットワークカメラの魅力が改めて注目されているのでしょう。

 ネットワークカメラは防水対応で屋外でも利用できる本格的なものも含めると多種多様な製品が存在し、一般的なネットワークカメラであればペットの見守りカメラとして利用することが可能です。その中でも株式会社アイ・オー・データ機器の「Qwatch」シリーズは、ペット向け特集ページをいくつも用意するなど、ネットワークカメラがペットに最適であることを強く打ち出しています。

「Qwatch」シリーズのネットワークカメラ「TS-WLCE」のパッケージ。ペット見守り用途を全面的にアピール

 また、「ilbo」は、ネットワークカメラ機能だけでなく、遠隔から室内を移動できる機能を搭載。部屋の中を動き回るペットの場合、固定したカメラではペットが死角に入ってしまって、居場所が分からなくなる可能性もありますが、ilboは自らが移動してペットがどこにいるかを確認することが可能です。

大切なペットを見守る。ネットワークカメラ「Qwatch」。

http://www.iodata.jp/ssp/lancam/qwatch/family_pet.htm

給餌系

 ペットに餌をあげる“給餌”も、IoTを活用した製品が登場しています。「Furbo」「PAWBO+」といった製品は、前述のネットワークカメラ機能に加えて、カメラでペットの様子を見ながらおやつを上げたり、マイクとスピーカーを使ってペットに話しかけられる、複合的なペット向けIoT製品です。

 ペット向け家電製品を手掛けるうちのこエレクトリックの自動給餌器上位モデル「カリカリマシーンSP」もネットワークカメラ機能を備え、タイマーによる決まった時間の給餌だけでなく、ペットの様子を見ながら餌をあげることができます。さらに、ペットヘルスケアサービスの「ハチたま」は、カメラ機能を搭載した自動給餌器「スマートごはんサーバー」に、ペットにとって安全な餌を販売するサービスを組み合わせたサービスを展開しています。

「Furbo」
「PAWBO+」が備える各種機能

 ペットの自動給餌器も、タイマーなどで動作するシンプルなものは以前から存在しましたが、最近ではネットワークカメラなどの機能を取り入れてIoT化することで、ただ機械的に餌をあげるのではなく、ペットの様子を見たり、時にはマイクで話しかけてコミュニケーションをとりながら餌を与えるということが可能になりました。

出入り口系

 給餌だけでなく、ペットの外出を管理できる製品も登場しています。英国の「Superflap」は、ペットのマイクロチップを使って出入りをコントロールするペット用のドア製品を販売。ペットがドアを出入りできる時間をコントロールできるだけでなく、ペットが1日何回出入りしたのかを記録して管理することもできます。

「Superflap」のウェブサイト

センサー系

 前述の通り、ネットワークカメラや自動給餌といったジャンルの製品は以前から存在しており、IoTの要素を取り入れることで新たな魅力を持つようになりました。一方、最近ではセンサーなどを利用して、よりペットとのコミュニケーションを図るための新たなIoT機器も登場しています。

 Anicallの「しらせるアム」は、加速度センサーや温度センサーで取得したデータを、独自の分析に基づいて動物の感情を判断するセンサーです。Anicallではさらに、同じ製品を装着したペットがすれ違うことでペットの居場所を把握する「つながるコル」という製品も開発しています。これは、前回取り上げた忘れ物防止IoTアクセサリーのペット版、とも言えるでしょう。同様の製品として、猫の首輪に取り付けて居場所を確認する「ねこもに」という製品も発売されています。

猫に装着する「ねこもに」発信機
「ねこもに」アプリの表示例

 また、現在開発中の製品ではありますが、「INUPATHY」は犬の体に取り付けて心拍を測定し、心拍の状況から犬の感情や健康状態を管理できるIoT製品です。心拍などのヘルスケア製品はリストバンド型のものを中心に人間用のものが増えていますが、このようにペットの世界でも少しずつ健康を管理するためのセンサーデバイスが登場し始めています。

IoTでペットと人間が対等に!?

 ペット向け製品の中でもIoTの波が少しずつ押し寄せていますが、ここで紹介したペット向けIoTも今まで紹介してきたIoTと同様の特徴があります。それは「人の代わりに何かをしてくれる」ことです。

 餌をやったり、ペットのためにドアを開けるという作業は、人間がそばにいれば簡単なことですが、ペットのそばには常に人がいるとは限りません。会社や学校へ行ったり、買い物で出かけたり、時には長期旅行に出かけて家を留守にする、ということもあるでしょう。

 繰り返しながら、ネットワークカメラや自動給餌器という製品自体は以前から存在しました。しかし、これまでの自動給餌器は指定した時間だったり、ボタンを押すといった操作で餌を与えることができましたが、これではペットが本当に餌をほしがっているのかどうかは分かりません。ネットワークカメラと自動給餌を組み合わせることで、「ペットの様子を見た上で餌をあげる」ことが可能になるだけでなく、離れた場所からでもペットの様子を確認できるようになることで、ペットとのコミュニケーションをより密にすることができます。

 また、これらの製品でできることは、人間にはできてもペットにはできないというところも重要です。よほど訓練されたペットでない限り、自分で決まった時間に決まった分量だけ餌を食べることはほぼ不可能です。ドアの出入り自体はペット用のドアであれば簡単なことですが、誰でも入れるようなドアでは他の動物が入ってくる危険性もありますし、知らない間にペットがいなくなってしまう、という不安もあります。

 一方で「人間にはできない」ことを実現しようと挑戦しているのが、センサー系を活用したIoT機器です。ペットは人間と言語でやりとりすることはできませんが、ペットの動きや鳴き声、身体データを分析することで、動物が今何を考えているのかを知ることができます。

 みずほ情報総研によれば、2014年のデータにおける犬・猫のペット数は約2000万頭と、15歳未満の子どもの数である1600万人を遙かに超える数となり、ペットを家族同然にかわいがっている家庭も増えています。とはいえ、ペットは人間と全く同じことができるわけではありません。IoTの「代わりに何かをしてくれる」というメリットは、ペットにとっては「できないことを代わりにしてくれる」ことでもあり、ペットが人間と一緒に生活していく中で、IoTは人間とペットがより対等な関係になるために求められている技術、と言えるでしょう。

みずほ情報総研2016年2月10日付コラム「IoTによるペットとの生活の変革」

https://www.mizuho-ir.co.jp/publication/column/2016/iot0210.html

甲斐 祐樹

Impress Watch記者からフリーランスを経て現在はハードウェアスタートアップの株式会社Cerevoに勤務。広報・マーケティングを担当する傍ら、フリーランスライターとしても活動中。個人ブログは「カイ士伝」