甲斐祐樹の Work From ____

第3回:埼玉・JR大宮駅から徒歩1分の「7F」

コワーキングスペースからシェアキッチン、ウェブメディアまで幅広い「場所」を提供

 コワーキングスペース「7F(ナナエフ)」は、埼玉県さいたま市のJR大宮駅から徒歩1分の場所にあるコワーキングスペース。WordPressによるサイト制作や企画、テーマやプラグイン開発などを手がける株式会社コミュニティコムが運営している。

「7F」のビル入り口

単なる住所に見えるよう配慮された名称「7F」。いまでは貸会議室・個室シェアオフィスの「6F」も

 7Fの所在地はその名の通り、ビルの7階。これは入居者が住所を記載する際に「コワーキングオフィスであることが一目では分からないように」という配慮から生まれた名称だ。

「7F」はビルの7階にある

 料金は、4カ月以上の利用を条件とした全曜日・全時間帯利用可能な「ALLプランレギュラーコース」が月額9000円(税別)。そのほか、平日以外利用できる月額5300円(税別)の「土・日・祝プラン」や、2時間500円(税込)から利用できる一時利用プランも用意されている。

 パーティションで分けられた集中エリアや、電話が可能なルームなども用意されているが、フロアは基本的にオープンスペースで、個室は用意されていない。第三者に聞かれたくない会議などは、後述する6Fまたは8Fにある会議室を利用することになる。

「7F」の店内(写真提供:7F)
集中スペース(写真提供:7F)
電話やビデオ会議が可能な「電話可能ルーム」
電話可能ルームの中(写真提供:7F)
フリードリンクや電子レンジなどの設備
利用者のコミュニケーション促進を図るホワイトボード
専用ロッカー
外部ディスプレイは自由に利用できる

 当初は7階の「7F」のみだったが、その後、6階の増床により貸し会議室とシェアオフィスから構成される「6F(ロクエフ)」もオープン。さらに8階も増床して、その一部も貸し会議室として提供している。

貸し会議室とシェアオフィスの「6F(ロクエフ)」
会議室の中
3つの会議室はパーティションで広さを変えられる
シェアオフィス

震災をきっかけに「自分が生まれ育った埼玉で貢献できる事業」として立ち上げ

 7Fを運営するコミュニティコム代表取締役の星野邦敏氏が、コワーキングスペースの運営を考えるきっかけとなったのが、2011年に起きた東日本大震災だ。震災後の報道で被災地での復興支援活動を知り、「自分が直接被災したわけではないが、自分の住む地域に対して何か貢献できることはないのか、と考え始めた」(星野氏)。

株式会社コミュニティコム代表取締役の星野邦敏氏

 地元への貢献がコワーキングスペース運営へとつながったのは、その翌年に鹿児島で開催されたIT関連イベントに参加したときのこと。イベント前日に各地域から集まってきた参加者が地元のコワーキングスペースに集まり、非公式な前夜祭的イベントが自然発生的に生まれるのを見て、「こういう人が集まる場を、人口の多い東京からも近い生まれ育った埼玉で作れたら面白いのでは」との考えに至ったという。

 コワーキングスペース事業を始める前に星野氏が行ったのが、日本全国のコワーキングスペースの調査だ。当時流行し始めていたYouTubeでコワーキングスペースを取材する企画を立ち上げ、30カ所近いコワーキングスペースを訪問。現地を訪れて初めて分かる課題や地域ならではの魅力を事前に調べ上げた上で、2012年に7Fをオープンした。

 新型コロナ対策で席数は減らしているものの、7F内のスペースはほぼ満員が続く状態の人気ぶり。自分で事業を営んではいるがオフィスを持つほどではない、という起業家や個人事業主が月額会員の8割を占めており、大宮での創業支援の場として機能している。また、コロナ禍の影響を受け、最近では大手企業のテレワーク場所としての利用も進んでいるという。

利用イメージ(2015年9月撮影)(写真提供:7F)

飲食店事業を始める人を支援、シェアキッチン事業にも参入

 7Fがユニークなのは、コワーキングスペースやシェアオフィスにとどまらない「場所」を提供している点にある。その1つがシェアキッチン事業の「CLOCK KITCHEN(クロックキッチン)」だ。

 第1弾として、7Fから徒歩数分のたばこ屋跡地をリニューアルし、飲食店営業と食料品販売業の許可を得てテイクアウト専門のシェアキッチンを開始。曜日ごと異なる店がサービスを提供しているが、すでに全曜日とも利用が決まっている。

「CLOCK KITCHEN」1号店
日替わりで異なる飲食店が営業する
キッチン内部

 テイクアウト専門店に続き、カフェ&バーとして営業している「シーガル」の日中時間帯を飲食営業店として貸し出す、いわゆる二毛作の店舗として第2弾を実施。こちらも空き曜日がごくわずかという。

2号店は「シーガル」昼間の時間帯に営業
店内の様子

 さらに第3号店として、酒屋の跡地をリニューアルして店内飲食やテイクアウトが可能な店舗を準備中。大宮駅から距離はあるものの、土日は観光客で賑わうという氷川参道そばに立地。こちらは店舗営業に加えて、1日店長といった企画も検討している。

工事中の第3弾店舗
中はカウンターと飲食スペース
テイクアウト販売用のスペースも
土日は観光客で賑わうう氷川参道そばに立地

 シェアキッチン事業はコワーキングスペース事業の一環ではなく、「空き店舗を何か活用できないかという相談を受けて始めた」とのことだが、飲食業を始める第一歩として、コワーキングスペース同様に創業支援の場として機能していると言えるだろう。

地域活性化のための地域メディア「大宮経済新聞」「浦和経済新聞」も運営

 インターネット上の「場所」としてウェブメディアも運営。地域情報を発信するウェブニュースメディア「大宮経済新聞」を2013年に開設し、さらに同じ埼玉県の「浦和経済新聞」の運営を引き継ぎ、現在は2誌を運営。埼玉県さいたま市周辺地域で活動している人や会社への取材記事を2000以上公開している。

大宮経済新聞

 浦和経済新聞、大宮経済新聞ともに、地域情報を専門的に取り上げる「みんなの経済新聞ネットワーク」加盟社の1つ。みんなの経済新聞ネットワークはASPサービス提供のような形態で、それぞれの地域を異なる企業や団体が運営。渋谷の「シブヤ経済新聞」から始まったネットワークは日本全国だけでなく海外にも広がり、現在は100以上の経済新聞がネットワークに参加している。

 コワーキングスペースやシェアキッチンに比べるとウェブメディア事業は異なる分野に思えるが、星野氏によれば「地域を活性化するという点ではスペース事業と同じ」だという。「大宮と浦和の人口はそれぞれ約60万人ずつくらい。これだけの人がいると何かしら面白いことをやっている人がいて、そういう人たちが手がける事業やイベントを紹介することで人が動き、そして経済が動いて街の活性化につながる」(星野氏)。

「コワーキングスペース協会」を立ち上げて業界の発展も寄与

 こうしたコワーキングスペースを中心とした事業に加えて、コワーキングスペース業界の発展に向けた業界団体として「一般社団法人コワーキングスペース協会」の設立にも寄与。星野氏自らが代表理事を務めて4期目になる。

 星野氏によれば、コワーキングスペースが流行し始めた2015年ごろに、さまざまな省庁がコワーキングスペースについてヒアリングに来る機会が増えたという。こうした国との窓口としての業界団体が必要だと考え、2013年からコワーキングスペース運営者で開催していた「コワーキングスペース運営者勉強会」を発展させるかたちで協会を立ち上げた。

 主な活動はコワーキングスペース運営者勉強会のほか、コワーキングスペース立ち上げ時期の運営支援や運営スタッフの研修、さらには補助金・助成金情報の提供や、契約書雛形の提供、行政提案など。コワーキングスペースに関する問い合わせも多く、最近では本業よりも忙しいほどだという。

コワーキングスペース運営者勉強会の模様(2020年9月撮影)(写真提供:7F)

目標は「埼玉で面白いことをやっている会社」。今後は農地の活用も

 さまざまなかたちで場所の提供に取り組む星野氏が次に考えているのが、遊休耕作地の活用だ。「農地は一度荒れ地になってしまうともう一度耕作できるようにするには大変な時間がかかる。こうした畑や空き家を、再現性のあるかたちで再活用できる事業にも挑戦してみたい」(星野氏)。

 これら事業の中で星野氏が一貫してこだわるのが埼玉という場所。他地域での展開については「(自分が住む埼玉ではない)他の地域で同じことをやっても再現性があるかどうかは分からない。しかしながら自分の地域に合わせたかたちで再現することはできると思う。他の地域で私たちの取り組みに興味がある人がいれば、聞きに来てくれれば可能な範囲で何でも教える」とオープンな姿勢だ。

 「埼玉県は人口が増えているエリアと減っているエリアが混在する珍しい地域。この2つをつなげられたら人口減少のスピードをより緩やかにすることができるのではないかと考えている。コミュニティコムはIT事業は全国で展開しつつ、地域活性化の活動はあくまで埼玉県内の顔の見える範囲で何か面白いことをやっている会社でありたい。」

この連載について

ビジネスパーソンが仕事をする/できる場所が多様化しています。従来からの企業の自社オフィスやシェアオフィス/コワーキングスペースはもとより、コロナ禍で広まった在宅勤務(Work From Home)、ホテルやカラオケボックスのテレワークプラン、さらにはお寺や銭湯まで(!?)。この連載では、そうしたざまざまな「Work From ○○」の事例や、実際にそこで仕事をしている人・企業の取り組みなどを、フリーランスライター・甲斐祐樹がレポートします。

甲斐 祐樹

フリーランスライター。Impress Watch記者時代にネットワーク関連を担当していたこともあり、動画配信サービスやスマートスピーカーなどが興味分野。家電ベンチャー「Shiftall」を退職して現在は人生二度目のフリーランス生活。個人ブログは「カイ士伝」