ニュース
人間よりもアバターの表情が、コミュニケーションする相手に「リスキーな選択」を促すことが明らかに〜NICTが発表
アバターコミュニケーションが人間の行動に及ぼす影響を実験
2025年4月30日 06:00
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は4月23日、アバターを介したコミュニケーションがヒトの意思決定に与える影響についての実験を行い、オンライン会議のような場面で、アバター(CGのキャラクター)が相手である方が、実際の人間(実写)が相手の場合よりもリスクを取った選択をしやすいことが明らかになったと発表した。アバターを用いたコミュニケーションが人の意思決定にどのような影響をおよぼすのかを理解する上で、重要な知見であるとしている。
近年、オンライン会議やバーチャル店舗での買い物などの仮想空間においてアバターを介したコミュニケーションの機会が増えているが、これによる人間の意思決定に対する影響に関する研究は、始まって日が浅い。また、コミュニケーション相手がアバターで表示された場合の会議での意見を述べやすさや買い物での購入意欲の変化など、アバターの顔や表情が人間の行動にどのように変化をもたらすかかについては、これまで十分に検討されていなかったという。
実験では、参加者に「リスク判断に関する課題」を行ってもらった。参加者は、各試行において「確実」(確実に少額が得られる。例えば、試行のたびに80円もらえる)とリスク選択である「不確実」(確率によってもらえる金額が変わる。例えば33%の確率で300円がもらえると提示されるなど)の2つの選択肢から選ぶ。
課題中、同性の「観察者」が参加者の行動を画面越しで観察する。まず課題前に、参加者と観察者とが対面でコミュニケーションを取ったのち、参加者が課題に取り組むあいだ、観察者の顔は試行ごとにランダムで、実際の人間とアバターのどちらかに切り替わる。もし、参加者が不確実な選択をした際、観察者は成功時に「賞賛の表情」、失敗時に「軽蔑の表情」をする。各試行を繰り返すあいだ、観察者が実際の人間かアバターかによってリスクを取るか取らないかの行動、fMRIで参加者の脳の活動を測定した。
アバターは表情が好意的に受け取られやすく、リスク選択を後押し
実験の結果、アバターが表示された場合の方が、実際の人間の顔の場合よりも、参加者のリスク選択が増加することが明らかになった。特に、「不確実」な選択肢が「確実」に比べて少しだけ有利な場合(上図の期待値の差が40または60の場合)に、顕著に見られた。
これは、例えば、失敗したかどうかが表情からは分からない曖昧な表情を観察者がしたとき、実際の人間の表情に比べて、アバターの表情の方が参加者に好意的に受け取られやすいこと、つまり参加者が試行に失敗しても次の試行でリスクを取ることをためらわないことを示唆するしている。
また、fMRIの結果から、「曖昧であること」(今回でいう表情の曖昧さ)に対する評価について、恐怖や不安などの情動処理や顔の表情理解などを司る役割をもつ脳の扁桃体に依存することも分かった。
今後は、異性のアバターや年齢差、個人の性格特性との関係、さらにはリスク選択以外の意思決定課題における影響についても、調査を進めていくほか、教育や対人支援などの現場でアバターを活用して意思決定を支援する方法や、アバターを利用する際の留意点について、さらに検討を深めていく予定とした。
なお、今回の研究成果は2025年4月23日に、生物分野の重要研究を掲載する米国の科学誌「PLOS Biology」に掲載された。