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【特集】

日本のDSLの4年間を振り返る

 昨年12月、NTTの市内回線を利用したDSLサービスが本格提供されるようになってからわずか半年で、日本のDSL業界は大きく変わろうとしている。東京めたりっく通信の経営危機、ガーネットコネクションズ企画の事業化断念報道と暗いニュースが続いたかと思えば、Yahoo! JAPANの新規参入による価格破壊。その直後には、ソフトバンクグループによる東京めたりっく通信の買収が明らかになるなど、この1カ月間、日本のDSL業界がこれほど目まぐるしく変わった時期はなかった。

 これを期に今回は、INTERNET Watchでとり上げてきた記事をもとに、国内のDSL関連の主な出来事を振り返ってみた。なお、年表に表わした時期についてはあくまでも記事をもとに特定したものである。記事でとり上げた発表内容と実際のサービス開始時期等がずれてしまった場合もあるため、ご了承いただきたい。

●1997年~DSLの検討へNTTが方向転換

5月NTT宮津社長、DSL導入に前向きとの発言
6月郵政省「ネットワークの高度化・多様化に関する懇親会」報告書
9月長野県伊那市で有線放送電話網を利用したDSLのフィールド実験
11月長野県上田市で有線放送電話網を利用したDSLのフィールド実験
12月NTT、DSLのフィールド実験を1998年2月から実施すると発表

NTTアクセス網研究所で開催されたADSL実証実験見学会
 国内のDSL事情について言及した記事を本誌で初めて掲載したのは、1996年8月のことになる。「普通の電話線で6~8Mbpsが可能になるADSL技術をNTTは採用するか」と題したレポートがそれだが、この時点では、日本の市内回線でDSLが提供されるという見込みはほとんどなかった。同記事中では、NTTで唯一ADSLの研究を行なっているというNTT光ネットワークシステム研究所研究部長(当時)の山下一郎氏のコメントとして、「NTTはADSLサービスは行なわず、FTTHを敷設することに全力を注ぐ」という方針が紹介されていた。

 しかし翌年5月に入って、導入時期について発表できる段階ではないとしながらも、評価実験を進めていることを公表。また、NTTの宮津純一郎社長も、実用性があれば導入することに前向きであるとの考えを示すようになり、ADSLサービスは行なわないとしていたそれまでの方針に変化が見られた。実際、DSLの実験が報道関係者などに公開されている。ただしこの時点では、全加入者に対して伝送速度を保証できないことが同社の事業としてはネックとなっていた。

 なお、郵政省の報告書には、DSLについて光ファイバー網が実現するまでの橋渡し的技術としての役割が期待されるとする一方で、DSLによるメタル回線網の展開が光ファイバー網の更改の障害になるのではないかとの指摘も盛り込まれていた。

●1998年~NTTがフィールド実験に動き出す

2月長野市川中島町で有線放送電話網を利用したDSLの公開フィールド実験
10月NTT、ADSLのフィールド実験
郵政省、DSL整備に向け省令改正に乗り出すことを決定
12月NTT、1999年中にADSLの有料試験サービスを実施することを表明

 有線放送電話網を利用したDSLの実験は、前年9月に行なわれた伊那市、同じく11月に開始された上田市に次いで、川中島町で3例目となる。有線放送電話網ということで、NTTの市内電話回線とは事情が異なるが、国内のDSL公衆サービスとしてはNTTよりも早い時期に取り組まれていたことに注目したい。

 実験には、後に東京めたりっく通信を設立するソネットや数理技研が参加しており、これらの企業がいかにDSLの実用化に積極的に取り組んでいたかがうかがえる。なお、伊那市の実験については、ウェブサイト「伊那xDSL利用実験」(http://www.lab.kdd.co.jp/ina/jpn/index.html)でその内容や結果について見ることができる。

 一方NTTは、前年12月の発表を受け、1998年に入って東京、神奈川、千葉、茨城、大阪の一部でADSLのフィールド実験を開始した。IIJ、So-net、東京インターネットなど12のISPと、112モニターが参加する大がかりなものとなった。期間は2月から12月まで。「フィールド実験結果の評価によっては、実験期間終了を待たずに商用化へ踏み切る可能性もありうる」ということだったが、それは実現には至らなかった。

 実験が終了した12月、NTTはその結果を発表するとともに、翌1999年中にも有料の試験サービスを提供することを発表した。この段階でNTTでは、このサービスをDSLとしてでなく、あくまでも500kbpsの回線サービスの一つとして位置づけている点が面白い。なお、このフィールド実験の結果については、現在も「NTT xDSLフィールド実験ホームページ」(http://www.ntt.co.jp/xdsl/)で速度データなどを参照することができる。

●1999年~日本のDSLの牽引役、東京めたりっく通信が登場

7月「東京めたりっく通信」設立
9月長野県川中島町で国内初の商用ADSLインターネット接続サービス開始
10月三井物産など12社、「DSLアクセス基盤協議会」発足
11月「イー・アクセス」設立
12月NTTのADSL回線利用料、月額800円に決定
NTT、ADSLによる定額制アクセスの試験サービス開始
東京めたりっくのADSL回線が開通

ADSL回線が開通した東京めたりっく通信の新宿ショールーム
 前年末にNTTのフィールド実験が終了した後、1999年に入ってしばらくは大きな動きは見られなかったが、ADSLモデム規格の日本向け付属勧告である「Annex C」が策定。6月に開かれた「N+I」の展示会場でも同仕様準拠の国内向けADSLモデムが多数見受けられ、ADSLサービスを実現する環境が着々と整いつつあることが感じられるようになった時期だった。

 そんな中、7月に東京めたりっく通信が登場。個人が導入できる高速常時接続と言えば、ごく一部のエリアのCATVインターネット、もしくは月額3万円以上もする128kbpsのOCNエコノミーぐらいしかなかった時代に、月額5,000円程度で1Mbps程度のサービスを提供するということで大きなインパクトと期待を与えた。

 同社では11月にもサービスを開始するとしていたが、NTTとの“闘い”で難航。開通に漕ぎ着けたのは、12月にNTT東西によるADSL試験サービスを開始されてからになってしまった。しかも年の瀬も押し迫った12月24日のことであり、大分県のコアラにADSL国内第1号のユーザーを奪われる結果となった。

 ほかにこの時期、NTT-MEOCNもADSL常時接続サービスに参入することを発表している。参考までにこの頃の月額料金は、ADSLとISPを合わせて7,000円前後が相場だった。

●2000年~ADSL回線ホールセール事業者の参入で市場が拡大

3月「大阪めたりっく通信」設立
「アッカ・ネットワークス」設立
4月イー・アクセス、ADSL試験サービスを開始
5月ソフトバンクネットワークス、DSLの新会社「エックステージ」設立
6月イー・アクセス、@niftyやBIGLOBEなどISP5社との共同試験サービス発表
「名古屋めたりっく通信」設立
三井物産など14社、「ガーネットコネクションズ企画」設立
10月公取委、DSL事業者参入妨害の疑いでNTT東日本を調査
11月大阪めたりっく、サービス開始
12月名古屋めたりっく、サービス開始
@niftyBIGLOBE、ADSLサービス本格提供へ
公取委、NTT東日本を独禁法違反で警告、NTT西日本も調査へ
NTT東西、「フレッツ・ADSL」提供開始

 2000年に入り、サービスの普及にもっとも大きく貢献したのは、ADSL回線のホールセール(卸売り)事業者ではないだろうか。前年11月に設立されたイー・アクセスや、2000年3月に設立されたアッカ・ネットワークスがこれにあたる。

 ホールセール事業者の登場により、@niftyやBIGLOBEといった既存のメジャーISPが、ADSLによる常時アクセスをユーザーに提供できるようになったのは大きい。東京めたりっく通信などのADSL専門プロバイダーだけが提供していたときは、どちらかと言えば特殊なイメージが強かったADSLサービスだが、既存のISPでも利用できるようになったことで、普及に貢献することが予想された。

 しかし、その一方で、工事までに期間がかかるなどの問題が深刻化。DSL事業者の参入を妨害しているのではないかとの疑いで公正取引委員会がNTT東日本に調査に入るなどのトラブルも発生している。2000年12月に総務省がまとめたデータによると、ADSLの加入者は9,723件に止まっていた。

●2001年~フレッツのひとり勝ちにYahoo!が終止符?

1月ガーネット、最大6MbpsのADSL実験サービスを開始
アッカ、ADSL商用サービス開始
2月総務省、ADSLモデムの小売りを解禁
東西NTT、ADSLモデムの売り切り制を導入へ
イー・アクセス、ADSL回線を1.5Mbpsに高速化
日本テレコム、2月よりADSLサービス「J-DSL」を本格提供開始
3月東京めたりっく、DSL回線の卸売り事業展開へ
総務省、「DSL相互接続試験実施連絡会」発足
5月東京めたりっくの経営危機が明るみに
6月韓国の通信最大手「韓国通信」、9月より日本でのDSL事業参入を表明
Yahoo! JAPANがADSLサービスに参入
東京めたりっく、ソフトバンクグループ傘下へ
ガーネット、事業化を断念して会社を解散

Yahoo! BBの料金を説明するソフトバンクの孫正義社長
 NTT東西は2000年末、ADSL接続サービスをそれまでの試験サービスから本サービスへ移行するとともに、自から「フレッツ・ADSL」を提供した。ライバルとなる先行DSL事業者にも大きな影響を与えた。

 まずは、通信速度の高速化だ。フレッツの下り最大1.5Mbpsが発表されたのを受け、他のDSL事業者は軒並みこのスペックに追随したが、さらに東京めたりっく通信大阪めたりっく通信では最大3Mbpsの新メニュー発表。シェアを急伸するフレッツとの差別化を打ち出そうとしている。

 とはいえ、こういったスペック面での差別化も、今のところ、それほど有効なわけではないようだ。実際、最大6MbpsのADSL実験サービスを実施して注目を浴びたガーネットコネクションズ企画が事業化を断念したことが、競争が激化している国内のDSL市場の厳しさを物語っている。総務省のまとめによると、5月末時点のADSL加入者17万8,737件のうち、半数以上にあたる9万5,758件がフレッツの契約者となっている。

 Yahoo! JAPANのADSL事業参入により、このようなフレッツの一人勝ち状態は終わるかもしれない。しかし、他の事業者にとっては、より厳しい状況になるはずだ。9月には韓国通信が日本に進出するという。2001年、日本のDSLには、これまでの4年間とは比べものにはならないほど大きな変化に見舞われそうだ

(2001/7/2)

[Reported by nagasawa@impress.co.jp]


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