被害事例に学ぶ、高齢者のためのデジタルリテラシー

仕返しすると大変なことに

「ネット詐欺師に復讐したい」という相談が多すぎるので弁護士に聞いてみた

 筆者の所属するNPO法人DLIS(デジタルリテラシー向上機構)にはネット詐欺などの被害に関する相談が日々寄せられます。被害を受けてしまった方からは「復讐したい」と言われることが多々ありますが、我々としては警察に任せるようにアドバイスをしています。それでも「自分はどうなってもいいから一矢報いたい」と食い下がる方もいます。

 そこで、今回はネット詐欺の被害に遭った場合、復讐するのは法律的にどうなのかを弁護士法人大地総合法律事務所代表の佐久間大地弁護士に伺ってみました。

弁護士法人大地総合法律事務所代表の佐久間大地弁護士

復讐のために犯罪者の個人情報を晒すとどうなる?

 例えば、SNSなどで親密になった外国人から金銭をだまし取られてしまう「国際ロマンス詐欺」ですが、この手口の被害者の中には、メッセージをやり取りする中で送られてくる犯人の身分証明書や個人情報をTwitterやブログなどで拡散し、犯罪者だと知らしめたいという方がいました。お金がかかってでも相手に被害を与えてやりたいと言うのです。

 結婚をだしにして、10年も20年も貯金した全てのお金をむしり取られ、仕舞いには借金まで作らされる被害に遭ったそうですが、相手が犯罪者でもネットに晒すのは法律的にどうなのでしょうか?

 「民法では『自力救済の禁止』というのですが、司法に頼らないで、実力行使をもって自己の権力を実現することはできません。」(佐久間氏)

 ネットに相手の個人情報を晒すのは、名誉毀損や肖像権侵害を理由に損害賠償請求される可能性があります。なんと、犯人側が訴えてきたら負ける可能性があるというのです。文言が脅迫的であれば、刑事事件になる可能性もあるそうです。

 そして、最悪なのがこちら側だけ悪者になってしまうかもしれないことです。SNSに個人情報を晒したという明確な証拠があるので、被害届を受理されてしまうかもしれません。その際、相手は犯罪者でネット詐欺師だと反論しても、第三者に証明できるかどうかは証拠次第になります。

 人の名誉を毀損した場合は、その事実の有無にかかわらず罰せられます。民事はもちろん、刑事罰にもなるのです。そんなことは承知の上、相手の身元が割れればそれでいい、という方もいます。しかし、相手が犯罪者でネット詐欺師であったとしても、警察はその情報を教えることはありません。

迂闊に動いてしまうと自分だけが捕まってしまう可能性もあります

 国際ロマンス詐欺のやり取りの内容を被害者から提供してもらい、DLISで分析をしましたが、相手から提示された個人情報は全て偽造されたものでした。犯罪者はパスポートの画像を送ってくることもあります。見た目はとても良くできていますが、ネットから拾ってきた画像をレタッチしているだけです。そのため、そこに写っている人物は犯人とは関係ない人である可能性が高いです。その人をネットに晒して犯罪者呼ばわりしたら、こちらが犯罪行為となってしまいます。

 我々の相談者の中で実際に復讐した人はいないので、数年前のイギリスの事例を質問してみました。このケースでは、フリマサイトでゲーム機を購入してお金を支払ったのにもかかわらず商品が送られてきませんでした。詐欺の被害に遭った24歳の男性は、犯人の電話番号宛に、シェイクスピア37作品のテキストを約3万通のメッセージで送り続けました。犯人は怒って電話してきましたが、被害者は「演劇を楽しんでいるか?」と尋ねたそうです。

 一読者としては痛快な事例ですが、これも実際に行ってしまうと問題があるそうです。

 「相手がその電話を使って業務を行っている場合は業務妨害になります。そのほかも、迷惑電話ということでストーカー規制法の対象になる可能性もあります。」(佐久間氏)

だまされた人からさらに搾取する怪しい「復讐代行屋」の存在

 相談者の中には、自分で復讐することが現実的ではないと分かっても「復讐代行屋」に依頼すると言い出す方や復讐代行屋に依頼することについて相談される方もいました。

 なんでも、SNSでコンタクトしてきてお金を取り返したうえで相手に社会的制裁を加えてくれるものがあるというのです。しかし、その着手金として20万円ほどかかると言われました。これも、典型的なネット詐欺です。

 国際ロマンス詐欺の被害に遭い、SNSで怒ったり悲しんだりしている人を探し出して「復讐代行をするよ」と持ち掛けてくる手口です。ネット詐欺の被害者はネット詐欺に引っ掛かりやすいということが分かっているので、詐欺師のいいカモなのです。もちろん、お金を払っても何もせず、適当なタイミングで追加料金を請求してきます。

 漫画のような話ですが、もし本当に復讐を代行した場合も問題です。返金請求事件として債権回収のために債務者と交渉したりできるのは弁護士や司法書士だけです。資格を持っていない人が行えば、非弁行為となり、法律違反です。また、暴力や殺人などに及んだ場合、依頼者は教唆犯となり、実行犯と同じ法定刑によって処罰されます。

 被害者はどうしようもないのでしょうか? ネットに相手を晒す行為ですが、公共性や公益性があり、真実である場合には違法性阻却事由に該当して名誉毀損が成立しないことがあるそうです。

 しかし、これは例えば政治家の犯罪を暴いたりするケースで、個人のネット詐欺被害には適用されないでしょう。しかし、多数の被害者がいる場合、全員で対応すれば可能性が出てくるかもしれないとのことです。とは言え、万一、違法性阻却事由に該当したとしても、こちらが罪に問われないというスタートラインに立つだけで、犯人に復讐するというのはまた別の話です。

 結論としては、やはり自分で復讐してはいけないようです。憎しみだけで動いて、自分が犯罪者になってしまっては、傷口を広げてしまいます。

 「基本的には、被害に遭ったら自分で対処しようとするのではなく、法テラスや弁護士、司法書士など、詐欺を専門とするところに自分の要望を伝えることが大事です。お金を返してもらいたいのか、刑事事件として逮捕してもらいたいのか、その業者に今後詐欺をさせないようにしたいのか、などの要望を伝えれば、相応の窓口を紹介してもらえます。」(佐久間氏)

 DLISとしては、このような被害者を少しでも減らすべく、ネット詐欺に関する啓蒙を続けていきます。皆さんも、ぜひ情報の拡散に協力してください。

詐欺被害に遭ったら弁護士や司法書士、お金に余裕がない場合は法テラスに相談しましょう

あなたの両親も“ネット詐欺”の餌食になっているかもしれません――その最新の手口を広く知ってもらうことで高齢者のデジタルリテラシー向上を図り、ネット詐欺被害の撲滅を目指しましょう。この連載では、「DLIS(デジタルリテラシー向上機構)」に寄せられた情報をもとに、ネット詐欺の被害事例を紹介。対処方法なども解説していきます。

「被害事例に学ぶ、高齢者のためのデジタルリテラシー」の注目記事

高齢者のデジタルリテラシー向上を支援するNPO法人です。媒体への寄稿をはじめ高齢者向けの施設や団体への情報提供、講演などを行っています。もし活動に興味を持っていただけたり、協力していただけそうな方は、「dlisjapan@gmail.com」までご連絡いただければ、最新情報をお送りするようにします。

※ネット詐欺に関する問い合わせが増えています。万が一ネット詐欺に遭ってしまった場合、まずは以下の記事を参考に対処してください
参考:ネット詐欺の被害に遭ってしまったときにやること、やってはいけないこと