被害事例に学ぶ、高齢者のためのデジタルリテラシー

だまされないように注意!

電話に出ると「ママ、助けて!」と娘の悲鳴、実はAIによるクローン音声で仕掛けられた偽装誘拐だった

AIによるクローン音声を使った偽装誘拐についてCNNが報じました

 今回は、アメリカで報じられた事件を紹介します。ジェニファー・デステファノ氏は、2人の娘を持つ母親です。事件があった日、上の娘のブリアナはスキー場に出かけており、下の娘はダンススタジオにダンスを習いに行っていました。

 デステファノ氏が下の娘を迎えにダンススタジオに着いたとき、電話が鳴りました。発信者は不明でしたが、上の娘の緊急事態かもしれないと思い、電話に出ます。すると、ブリアナが「悪い人たちに捕まったの、助けて!」と泣き叫んでいました。そして、今度は男が電話に出て100万ドルの身代金を要求してきたのです。

 デステファノ氏はパニックになりながらも、スタジオに入り助けを求めました。そして、手分けして911(緊急通報用電話)へ通報したり、ブリアナと連絡を取ろうとしました。なお、911通報を受けたオペレーターはこの誘拐が偽装であることにすぐ気が付いたそうです。

 100万ドルを払うことはできないと伝えると、詐欺師は5万ドルに値引きしました。結局、その4分後、ブリアナと電話がつながり、偽装誘拐であることが判明したのです。

 FBIのスポークスマンによると、米国では偽装誘拐詐欺に遭った家庭は、平均1万1000ドルの被害に遭っているそうです。2022年、なりすまし詐欺全体での被害金額は26億ドルにもなっています。ほとんどの偽装誘拐の電話はメキシコから発信されており、アメリカ南西部のラテン系コミュニティをターゲットにしているそうです。

 なりすまし詐欺は昔からありましたが、従来は人の悲鳴を録音したものを使っていました。しかし、近年では、AIで声を真似るようになり、見破ることが難しくなってきています。

 家族の苦痛に満ちた声を聞かされてしまうと、詐欺であることを疑うことが難しくなります。実際、911に通報した人はデステファノ氏に偽装誘拐だと伝えたのですが、デステファノ氏はブリアナが泣いているんだと聞く耳を持ちませんでした。

 FBIは、今回の偽装誘拐事件もAIによるクローン音声が使われたと見ています。クローン音声を作るには本人の音声データが必要ですが、わずか数秒から1分ほどで十分とされるケースも出ています。こうなると、例えば詐欺師が電話をかけて黙っていれば、「もしもし?」などと言ってくるので、それを録音するだけで済みます。もしくは、SNSで公開している動画から音声を抜き出す手もあります。

日本ではオレオレ詐欺の被害が拡大、AIによるクローン音声が使われる可能性も?

 なりすまし詐欺の被害を回避するために、FBIは家族の合言を作ることを推奨しています。子どもを誘拐したと言って来たら、子どもに合言葉を聞くように言えばよいとのことです。また、SNSに旅行など外出状況を投稿しないよう注意を促しています。

 日本では誘拐と言われても現実味がありませんが、例えば事故を起こした、会社に損害を与えた、PCを壊した、といった理由で、とりあえず100万円貸してくれ、といったオレオレ詐欺にAIでクローンした音声が使われる可能性はあります。

 オレオレ詐欺は今でも日本で猛威を振るっており、2022年の認知件数は全国で9724件(前年から19.8%増)、被害額は205.1億円(前年から27.6%増)となっています。

 今回は米国で起こった事件で、クローン音声を使った詐欺が日本で広まるにはしばらくかかるかもしれません。しかし、SNSで長時間の動画や音声を公開していればクローン音声の素材にできますし、今後注意する必要があります。FBIで挙げられた対策はもちろん、今のうちに家族で話し合い、事例を共有したり、対策を立てておきましょう。

あなたの両親も“ネット詐欺”の餌食になっているかもしれません――その最新の手口を広く知ってもらうことで高齢者のデジタルリテラシー向上を図り、ネット詐欺被害の撲滅を目指しましょう。この連載では、「DLIS(デジタルリテラシー向上機構)」に寄せられた情報をもとに、ネット詐欺の被害事例を紹介。対処方法なども解説していきます。

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