被害事例に学ぶ、高齢者のためのデジタルリテラシー
相手は宇宙飛行士!?
巧妙化するロマンス詐欺と、被害回復に付け込まれる二次被害に注意
2026年6月19日 06:00
ロマンス詐欺の被害が、再び拡大しています。一時期はテレビ番組で頻繁に取り上げられましたが、最近は報道で見かける機会も減りました。しかし、手口はさらに巧妙になり、被害額はむしろ過去最悪に近い水準まで膨らんでいます。
警察庁のまとめによると、2025年のSNS型ロマンス詐欺の認知件数は5645件で、前年から1821件増えました。被害額も546.4億円に達し、前年比145.5億円の増加です。さらに2026年は3月末の時点で認知件数が1308件、被害額は135.9億円となっており、被害が落ち着く気配はありません。
「宇宙にいるので会えない」詐欺師に都合のいい宇宙飛行士という肩書
最近の被害事例を見ると、ロマンス詐欺の入り口は1つではありません。有名人や宇宙飛行士といった特殊な肩書で興味を引くケースもあれば、何年もかけて恋愛感情や同情を育て、少額から金銭を求めるケースもあります。共通しているのは、SNSやメッセージアプリだけで親密な関係を作り、実際には会えない相手にお金を払わせる点です。
特に最近は、「有名人だから忙しくて会えない」「特殊な仕事をしているので自由に動けない」といった設定が、送金を求める口実と組み合わされています。恋愛感情を利用するだけでなく、荷物の受け取りや治療費、税金、通関手数料、緊急の救助費用など、名目を変えながら被害を広げているのです。
例えば、神奈川県警が2026年6月に発表した事例では、相模原市の50代の女性が計約1億700万円をだまし取られました。女性は2024年9月、海外の著名ピアニストをかたる人物からSNSにダイレクトメッセージを受け取り、やり取りを始めます。「一緒に暮らしたい」と恋愛感情を抱かせ、「日本で活動するため荷物を預かってほしい」と求めて、配送料や税金の名目で約8000万円を振り込ませました。
さらに海外の銀行職員をかたる別の人物が現れ、「口座がマネーロンダリングに使われていないと証明する必要がある」として約2700万円を追加で支払わせました。女性は資産を使い果たし、借金まで重ねた末に親族へ相談して発覚したのです。
ロマンス詐欺は、関係性構築のために長期間にわたりコミュニケーションを続けます。神奈川県に住む自営業の30代男性の事例では、2022年7月にSNSで5歳ほど年下の女性と知り合い、一度も対面しないまま約3年10カ月やり取りを続けたのです。そして、信頼を得たころに「母親のがん治療費が足りない」と頼まれます。男性は数万円ずつ複数回振り込み、総額は約20万円。2026年5月に「返してほしい」と伝えた途端、連絡が取れなくなりました。
最近になって目立ち始めたのが、宇宙飛行士を名乗る、いわゆる「宇宙飛行士詐欺」です。
山形県警が2026年5月に発表した事例では、高畠町に住む60代の男性が計約2830万円をだまし取られました。男性は2025年7月、SNSで米国の女性宇宙飛行士「モーガン」を名乗る相手と知り合います。日常会話を重ねるうちに好意を抱くようになり、「退職して一緒に暮らすので、表彰状や記念品の荷物の受取人になってほしい」と頼まれて了承します。その後、運送業者をかたる人物から運送料を求められ、さらに荷物の通関手数料やセキュリティ費用の名目で繰り返し送金や郵送をさせられました。親族に詐欺を疑われ、空港に荷物がないと分かって被害に気付きました。
札幌市でも同じような被害が起きています。札幌・手稲警察署が2025年9月に発表した事例では、手稲区に住む80代の女性が計100万円をだまし取られましています。女性は2025年7月中旬、SNSで宇宙飛行士を名乗る男と知り合い、「いま宇宙船で攻撃を受けていて酸素が足りない」と訴えられます。非常におかしな話ですが、報道によれば、この女性は一人暮らしで相談相手もいなかったらしく、この話を信じ込んでしまい、酸素を購入するための電子マネーをで複数回にわたって購入し、送金してしまいました。1カ月半ほどして不安に思い家族に相談したことで、事件が発覚したのです。、
宇宙飛行士という設定には、詐欺師に都合のよい言い訳が多数あります。「宇宙にいるので会えない」と、会えない理由やビデオ通話に応じない理由を自然に作れます。さらに、最近の宇宙関連のニュースが多いので、説得力を増すネタに使えます。2026年4月には約54年ぶりに宇宙船が有人で月を周回し、5月には米国防総省がUFOに関する情報を公開しました。詐欺師は、こういう話題を見逃さずに利用してきます。
口実も巧妙です。「NASAから退職金1億円が入る」や「税金対策のため夫婦になってほしい」と結婚や大金をちらつかせて信頼させ、「1億円を送るのに送料が150万円かかる」と負担を求めるのです。大金を受け取るための手数料という名目は、投資詐欺でも荷物の受取詐欺でも使われる常とう手段です。さらに、「地球に戻るためのロケット費用が必要」「酸素が足りない」「すぐ送金を」と切迫した状況を演出し、冷静に考える余裕を奪います。
SNSで親しくなった相手から、会えない理由を並べられたうえで金銭や手数料を求められたら、それだけで詐欺を疑いましょう。特に電子マネーや暗号資産での送金を指定された場合は、躊躇なく連絡を中止する必要があります。
JAXA(宇宙航空研究開発機構)も繰り返し、「SNS等でのJAXA宇宙飛行士『なりすましアカウント』にご注意ください」という注意喚起を行っています。SNSで宇宙飛行士をかたる詐欺が多発している、ということを知っておくだけで気が付くことができるようになります。ぜひ、ご両親など家族との雑談の中でもいいので、この話題を共有してください。それだけで、被害を回避できる可能性が高まります。
「被害を取り戻せる」と付け込まれて二次被害も
加えて、ロマンス詐欺で注意したいのが、被害のあとに起きる「二次被害」です。恋愛がらみの被害は恥ずかしさから誰にも打ち明けられず、自分だけでだし取られたお金を取り戻そうとする人がいます。私たちNPO法人DLIS(デジタルリテラシー向上機構)にもそのような相談が多く寄せられます。
そこにつけ込むのが、被害回復をうたう業者です。第二東京弁護士会は2026年2月、国際ロマンス詐欺などの被害回復を依頼した人から、「着手金があまりに高額だった」「弁護士とは話せず事務職員が対応するだけで進展がない」といった相談が多数寄せられていると注意を呼び掛けました。
例えば、弁護士が1人しかいないのに24時間365日対応と表示する、回収が難しい類型なのに別の詐欺で高額回収した事例を国際ロマンス詐欺で回収したかのように見せる、「国際ロマンス詐欺に特化した弁護士」と過度に強調する、弁護士に一度も会えず事務職員だけが対応する、といったケースは、ロマンス詐欺の被害者をターゲットとした弁護士による二次被害の可能性も疑われるとしています。そもそも本物の弁護士がいない、というケースも考えられます。
暗号資産で支払った場合の回収は難しく、銀行振込でも可能性は低いのです。被害回復業者を名乗るサイトのなかには、警察統計とかけ離れた誇張した数字を載せるものもあり、情報源としては慎重に見極める必要があります。
ロマンス詐欺の被害に遭ったことに気付いたら、警察の相談窓口(#9110)や消費生活センターに相談してください。家族や信頼できる人に打ち明けることも、冷静な判断を取り戻す助けになります。恥ずかしさから相談をためらうほど、被害は大きくなってしまうので、一人で抱え込まないようにしなければなりません。こうした点についても、ぜひ、家族との雑談などの中で共有しておき、いざというときに相談できるような関係を作っておくことが重要です。
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