iNTERNET magazine Reboot

Pickup from「iNTERNET magazine Reboot」その12

なぜ日本からグーグルが生まれなかったのか?

――ウェブ創世記を知る人々と振り返る[拡大版]

メディアの文化と通信事業の矜持

ポータルをメディア化しようとしていた米ヤフー、ブラウザー(Netscape)をメディア化しようとしていたAOL、それらの広告的なアプローチに共通した困難さがあるという。

クロサカ:(ヤフーが)最後、ベライゾンに買収されたときも、ポータルとしての価値はゼロで、アドネットワークとして買われた。残念だけど、メディアビジネスってそれ単体ではあまり儲からない。そこへ行くと、グーグルはメディアやアプリケーションといったサービスでは稼がないけど、広告代理店という強大な収益機構を持っている。メディアと取次が一体になっているのは、ある意味で究極のマッチポンプですね。

坂本:gooの中の人にも、gooが広告代理店になりうると考えた人はいると思う。ただ、そのときに、自己規制してしまったんだと思う。僕たちがWWW.NTT.JPを立ち上げたときにしても、NTTでコンテンツなんて作ったり、流したりしていいのかって言われた。だから、NTTとしては電通になりたかったかと言われると、別に電通は目指していない。自分たちの得意なところ、あるいは既存のビジネスに更に付加価値をつけて頑張りたいと考えていたと思う。

髙田:広告というのはシーズとニーズのマッチングをしてメッセージを伝えるということです。それをしようとしたとき、売りたい方と買いたい側の両方を知っていればより良いマッチングができる。情報を集めて検索するという検索エンジンの仕組みを持っていれば、それがまさに効率よく的確にできる。でも、電話屋にとってそれはやっぱり禁じ手なんです。通信内容に係わるところで何かをしてやろうということには、ある種の禁じ手感があって踏み出せないんじゃないかな。

坂本:それはすごく思いますね。NTTの事業部に入社すると、最初の研修で通信の秘密について学びます。つまり、最初の給料をもらうまえに法律を勉強する。電話の仕組みといった技術的な話、番号計画のような運用に係わることと同じように、通信の秘密が憲法で決められているとあらためて学ぶのです。

坂本:僕は研究所に異動するまでの5年間、現場で電話工事をしていたんですが、工事をしているとどうしてもそこで、人の通信に触れてしまう機会があるんですよ。そうするといろんなことが聞こえてしまうので、それは絶対秘密にしなければならないという自覚が大きい。

高橋:研究所で育った人間は、直接そういう教育を受けていない。でも、インフラを提供するために公共性なのか公平性なのか、何かの矜持というものがある。逆にそういうのがないとインフラが成立しない。

坂本:事業を考える時に、同時にリスクも考えるじゃないですか。僕は昔、別のことで当時の郵政省に怒られて、謝りに行ったことがあるんです。94年頃、京都でITU関連の会議が開催されるとき、そのウェブページを作ってくれないかとITUからファックスで依頼が来たんです。それで、どうすべきか郵政省に連絡したら「なに勝手に国際機関と連絡しているんだ」って怒られてしまいました。

高橋:ひどい話だね(笑)。

坂本:そう。今なら「怒られたなう」とかツイートしている(笑)。でも、NTTの郵政省担当窓口が「怒っているから、まず謝りましょう」っていうものだから、謝った。その時の上司は、ITUに英文で「やっぱり作れません」という謝罪の手紙を書いてくれた。それから何年も経たないうちにNTTホームページ(WWW.NTT.JP)のことを通信白書で紹介してもいいかと郵政省から問い合わせが来たときは、心のなかで「やった!」と思いました。