iNTERNET magazine Reboot

Pickup from「iNTERNET magazine Reboot」その12

なぜ日本からグーグルが生まれなかったのか?

――ウェブ創世記を知る人々と振り返る[拡大版]

ネット企業はメディアを目指した

ウェブが検索エンジンで便利になってくると、ビジネスが本格的に入ってくる。当時ネット企業がメディアになろうとしていた。

坂本:メディア志向はいまだにあると思います。

遠山:でも、グーグルは当時から「絶対にメディアになろうとしていない人達」って見えていた。徹頭徹尾、サービスであろうとしているという強い印象が残っている。ポータルサイトは、どこもかしこもメディアになろうという傾向にひっぱられているなか、グーグルは検索窓が1個しかないトップページを延々と続けていた。

クロサカ:あれはかっこよかった。そしてしつこいですが、gooも(少なくともヤフーと比べて)そういう格好良さがあった。機能美というか、「より使える道具」という感じがしました。

髙田:そしてそのころ米ヤフーは揺れていた。2001年にワーナー・ブラザーズ出身のテリー・セメルがトップについて、映画会社みたいなプレゼンをしていた。

クロサカ:インターネットとメディアは、それだけでは結びつきが弱い。商売になりそうで、ビミョーにならないんです。2000年には、AOLがタイム・ワーナーを買収して、その時はスゴイ時代が来たと思った。でも、結果的にそれは間違いで、AOLとタイム・ワーナーも離れてしまった。メディアになるというのは、広告ビジネスで稼ぐ、というか広告代理店に稼いでもらうということであって、そこが煮え切らないまま、メディアビジネスに夢を見てしまった。

坂本:インターネット技術を活用する点においてメディア化しようというところが強すぎたのかもしれません。私などもメディア化に大変興味をもっていたので、映像配信のデモを各地でしており、ゆがめてしまった気がしています。当時、インターネットの様々な機能のうち、人が集まるとか、多くの人が見えるとかに特化しすぎた点はあったでしょう。

髙田:今はデータ・イズ・キングって言われているじゃないですか。でも、その考え方とメディア企業って、実は相性が悪いのかもしれない。メディア企業を志した途端に、自分のところに貯まるデータにこそ価値があるんだという考え方から遠ざかってしまう。そんな気がします。

坂本:メディアではないと言われているグーグルが、世界有数のメディアになりつつあるYouTubeを持っているのはおもしろいですね。

遠山:YouTubeの広告収入がこれだけ伸びるんだから、すごい。グーグルに買収された直後が、膨大なトラフィックをさばくための投資が必要なのに収益がなくて金食い虫と言われていた。実は、妻がグーグルでエンジニアをやっているのですが、当時はYouTubeのマネタイズをどう実現できるかはやはりかなり大きな話題になっていたようです。

髙田:そうそう。あの買収は、いったいいつになったら元が取れるんだって言われていた。

遠山:それが今では、グーグルの広告収入の大きな割合が、YouTubeの広告収入ですもんね。

クロサカ:グーグルとフェイスブックを合わせると、ネット広告の8割を占める寡占状態です。この数字を見ると、グーグルは結果的にメディアになってしまったとも言える。目指してなったのとは違うという気がしていて、さっきのインクトミを買ってきたというのがひとつヒントになる。グーグルはエンジニアリングリソースをものすごくしっかり持ってオペレーションしてきている。ただ、基本的にはM&Aによって成長してきた会社で、いわば投資銀行のようもある。いま主要なサービスで残っているものの多くは、買収したものがベースになっています。

髙田:グーグルの広告も、もとのアイデアはオーバーチュアで、これは買収こそしていませんが、ヤフーとの訴訟を経てライセンスを受けた。その後はダブルクリックを買収して、アドネットワークとしての強化を図った。