被害事例に学ぶ、高齢者のためのデジタルリテラシー

高齢者のネット詐欺被害を撲滅しよう!

誰にも相談できずネット詐欺の蟻地獄にはまった男性

あなたの両親も“ネット詐欺”の餌食になっているかもしれません――その最新の手口を広く知ってもらうことで高齢者のデジタルリテラシー向上を図り、ネット詐欺被害の撲滅を目指しましょう。この連載では、「DLIS(デジタルリテラシー向上機構)」に寄せられた情報をもとに、ネット詐欺の被害事例を紹介。対処方法なども解説していきます。

 高齢者をターゲットにしたネット詐欺の被害はどんどん広がっている。今回は、その典型例とそこから派生して大きな被害を出した事例について紹介しよう。

 ある男性に、ネット視聴料の未払いの催促メールが届く。文面のパターンは枚挙にいとまがない。100万円だが電話をくれれば10分の1にするとか、まずは2万円振り込めばOKとか、適当なことを書いている。その上で、ターゲットを焦らせるために、何カ月も放置したあなたが悪いとか、訴訟するといった脅し文句も並んでいる。第三者の仲介人を装い、助けてあげると言ってくるパターンもあるのだ。そして、どのパターンもいきなり振込先の口座番号は書いていない。まずは、電話させるようになっている。今どきは、090から始まる携帯電話は使わず、きちんと03から始まる電話番号を用意している。ご丁寧に、営業時間まで書いて信頼を得ようとしているのだ。

 この手のメールに慣れている人は、完全に無視してごみ箱行きだろう。迷惑メール除去機能を使っていれば、そもそも目にしないかもしれない。しかし、この手のメールを初めて見た人はどう感じるか想像できるだろうか。

最近の詐欺メールの文面はよく練られている(画面はダミー)

 最近、PCやスマートフォンを使うようになった高齢者が、有料サイトを見たからお金を払えと言われたら、肝が冷えることだろう。本当に、全く心当たりがなくても不安になるのに、もし何らかの怪しいサイトを開いたことがあるなら恐怖に襲われることだろう。ここで、高齢者の方が怖がっているのは、お金を取られることではない。家族や知人に、そのサイトを見ていたと知られることが怖いのだ。

 お金が全く無かったり、知られてもどうでもいいと思っている人は、本気で取り合わず、取り立てに来たら対応すればいいと反応しないだろう。その場合、詐欺の被害は発生せず、ここで終了する。しかし、社会的地位や家庭があったり、ある程度のお金を持っていたりすると、脅し文句がリアリティを帯びてくるのだ。

 弁護士をかたって携帯電話会社から依頼されて身辺調査をしているとか、今なら10万円で済むが今日を逃せば口座を停止するとか、裁判すると言われると、何とかしなければと思ってしまう。しかも、もともとが怪しいサイトを見たと言われているので、誰にも相談できない。そして、電話番号のリンクをクリックして、電話を掛けてしまうのだ。

 もちろん、この時点で犯人はユーザーの電場番号しか得られていない。しかし、名乗らせて名前をゲットし、どうとでも取れる話である程度個人情報をゲットし、お金を振り込むように誘導していく。たとえ、5万円、10万円だとしても、振り込んだら終わりだ。本当に払えなくなるまで、あの手この手で脅して振り込み続けさせるのだ。一度だましてしまえば、もうそこからの心理的ハードルはとても低い。犯人は、被害者のためにアドバイスをしているというような立場から、とことん絞り尽くすのだ。

 そして、だましやすく金があると判断されたら、次の詐欺にステージを上げてくる。コンビニなどから1回で振り込める金額や1日で振り込める上限金額が決められていることがあるからだ。それに、真っ青な顔をした高齢者が何度も端末を操作していれば、周りの人が声かけする可能性も高くなる。

 そこで、どこかで待ち合わせて、現金を直接受け取るという方法がとられることもある。ダイレクトに現金が得られるというメリットはあるが、犯人は顔を見られるし、警察に待ち伏せされる可能性もある。そこで犯人が考えたのが、ネットバンクのパスワードを聞き出す方法だ。ネットバンクのパスワードがあれば、銀行口座の残高すべてを一発で振り込むことができる。そのため、ネットバンクによっては、パスワード生成機を利用し、ワンタイムパスワードを使うようになっている。パスワードを教えても次の瞬間には使えないので、セキュリティが高まるというわけだ。しかし、それでも犯人はめげない。その場合は、そのパスワード生成機を送らせるのだ。

ネットバンクの暗号キー生成器を郵送させるという事件も起きた(写真はイメージ)

 実際に今年2月、未払い詐欺で134万円を詐取した犯人が、さらにパスワード生成機を送付させたのだ。そして、犯人はネットバンクの口座から3770万円を別口座に移した。そうなれば犯人はもう逃げてしまうので、連絡はなくなる。そこでやっと被害者の男性は警察に届け出たのだ。

 今回は男性を例に出したが、誰にも知られたくないという反応は女性の方が強い。犯人には何にもばれていないのに、秘密を握られた!と絶望にくれてしまうのだ。こんな犯罪は撲滅しなければならない。

 対応策は、まずはこの手の詐欺に反応しないこと。これは、日頃から情報を伝えて、デジタルリテラシーを向上させることが重要。自分の親たちにアドバイスすると、自分は詐欺には遭わないとか、そんなウェブサイトは見るわけないだろうと、迷惑がったり怒ったりするかもしれない。しかし、そんな人ほど被害に遭う可能性が高くなる。根気よく繰り返し、伝えていくのが近道。ネット詐欺のニュースが流れたら、注意喚起するのも効果的だ。

 そして、何かあれば相談することを周知しておきたい。いつでも自分に相談してくれ、と伝えるのと同時に、消費者庁の「消費者ホットライン」や、「国民生活センター」など、いくつか相談できるところがある。我々、DLISも協力してくれる人を探しており、相談を受け付けられるように体制を準備しているところだ。高齢者のデジタルリテラシーを向上できれば、詐欺被害を抑えることができる。今後も、本連載で高齢者詐欺に関する情報と対策を紹介していく予定だ。

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DLIS(デジタルリテラシー向上機構)

高齢者のデジタルリテラシー向上を支援する団体で、現在、NPO法人の申請中です。今後は、媒体への寄稿をはじめ高齢者向けの施設や団体への情報提供、講演などを行う予定となっています。もし活動に興味を持っていただけたり、協力していただけそうな方は、「dlisjapan@gmail.com」までご連絡いただければ、最新情報をお送りするようにします。