俺たちのIoT
第19回
IoT以前からある“見守りIoT”ビジネスの可能性、象印の「iポット」という老舗も
2017年7月4日 06:00
ここ数年で話題のキーワードとなったIoTですが、もともとインターネット対応が進んでいた情報家電の分野はともかく、IoT対応の製品やビジネスはまだまだ始まったばかりというのが現状です。一方、多彩な製品やサービスに加え、ビジネスとしても成長しつつあるのが“見守りIoT”の分野です。
「何ができるか」だけでなく「何のために必要なのか」――目的が明確な“見守りIoT”
見守りIoTの中で最も代表的な例は、この連載の“ペットIoT”の回(第15回『ネコの「出入り口系」「センサー系」など、ペット向けIoTの4分類と代表例』)でも取り上げた「ネットワークカメラ」でしょう。ネットワークカメラという製品ジャンルは20年以上前から存在していましたが、当時は価格帯も数万円以上と高価なものが多く、業務用途で使われるものが主流でした。
最近では無線LANやカメラなどのモジュールも価格が下がり、数千円程度の価格帯からネットワークカメラを入手できるようになりました。プラネックスの「スマカメ」シリーズは数千円程度から購入でき、真っ暗な部屋でも撮影できる暗視機能を搭載したモデルでも1万円程度と、低価格化が進んでいます。
最近のネットワークカメラは、低価格化だけでなく、目的に応じた機能を取り入れて進化を遂げています。ペットIoTのときに紹介した「Furbo」や「PAWBO+」といった製品は、ネットワークカメラに給餌器の要素を取り入れることで、ペットの餌やりと見守りを同時に実現しました。
サンワサプライが発売したネットワークカメラ「アボットライリー」は、本体下部にキャタピラを搭載し、近くにいる人の動きに合わせて自走するというロボットの要素を取り入れました。固定型のカメラに比べてより広い範囲を監視でき、防犯にも役立つことに加えて、コミュニケーションロボットとして楽しむこともできます(2017年6月21日付関連記事『キャタピラーで自走するネットワークカメラ「アボットライリー」、サンワサプライが発売』参照)。
製品のカテゴリーとしては古くから存在するネットワークカメラが、IoTの普及に伴い注目を浴びるようになった理由は、高機能化や価格の低廉化といった要因はもちろんのこと、「何のために必要なのか」という目的が明確化されたことも大きな要因でしょう。
ハードウェアメーカーに勤務する筆者も日々痛感することではありますが、世の中に向けて製品を提供する場合、「何ができる」だけではなく、その製品を手にすることで「どんなメリットがあるのか」ということを知ってもらうことが重要です。ネットワークカメラで言えば「自宅を遠隔から見ることができる」だけではなく「ペットの様子が分かる」「子どもの帰宅を確認できる」といったように、目的が明確化されることは、製品の魅力が認知されるために重要な要素です。
また、高齢化が進み、夫婦も共働きが増えて家を空けることが多くなった昨今では、20年以上前に比べて「自宅を遠隔から監視したい」というネットワークカメラの必要性が増加しているという現状も、こうしたネットワークカメラの普及につながっていると言えるでしょう。
カメラだけじゃない“見守りIoT”~電気ポットや電球、最近ではいびきや咳の音もセンシング
遠隔から見守る、という目的を実現するのはネットワークカメラだけではありません。カメラだけでは把握しきれない家庭内のさまざまなできごとを知るための見守りシステムも、高齢化や共働き家庭の増加に合わせてさまざまな取り組みが登場しています。
象印マホービンが2001年から展開している「みまもりホットライン」は、携帯電話の通信機能を内蔵した電気ポット「iポット(i-POT)」を使うことで安否確認を行なう、見守りIoTとしては老舗的な存在です(「ケータイ Watch」2000年12月19日付関連記事『ポットの使用状況がWebでわかる安否確認サービス』参照)。
ドアの開閉でトイレの空き状況を把握する“トイレIoT”に近い発想ですが、毎日の生活で電気ポットを使うことが当たり前になっている高齢者にとって、ポットが1日中使われない日は「何か問題が起きている」と把握することができます。最近ではネスレ日本が、自社のコーヒーマシンにスマートフォンと連動できるBluetoothを搭載し、遠隔で珈琲を飲んだことが分かる機能を取り入れました。
「生活の中で使うことが見守りにつながる」という点では飲み物以上に頻度が高いのが電球です。「つながるライト」や「Miima」は、専用のライトを取り付けて点灯回数や点灯時間を計測することで見守りを実現しました。日常生活の中で明かりをつけずに生活することはまれでしょうから、ライトが一切つかない日が数日続くということは何か異変が起きている、という判断をすることができます。
生活の中における「音」に着目したのが富士通です。生活の中で発生する音の中からいびきや咳などの音で健康状態を把握するシステムを実現しました。
また、ユカイ工学は自社のコミュニケーションロボット「BOCCO」を活用した見守り用の「部屋センサ」を発売。部屋センサは温度・湿度・照度を取得できるため、子どもが熱中症になっていないか、生活の中で照明を使っているかを把握することができます(2017年6月20日付関連記事『ユカイ工学、部屋の温度・湿度・照度がわかる「部屋センサ」発売、見守りロボット「BOCCO」と連動』参照)。
ニフティも同様に気温や湿度、照度を計測できる「おへやプラスPRO」を開発しました(2016年4月21日付関連記事『ニフティ、高齢者宅の異変を察知するためのIoTサービス、プロ版を投入』参照)。
自宅にカメラが付いていると生活を覗かれているようでいい気がしない、という人も多いでしょう。また、カメラは設置したエリアしか撮影できないため、その他のエリアで何か問題が起きたときに関知することができません。その点、「生活の中で取るはずのアクション」をトリガーとする見守りIoTは、生活を覗き見ることなく遠隔から見守ることができるという点がメリットと言えるでしょう。
街中の自動販売機が子どもを見守る!? 年々高まる社会的ニーズに“見守りIoT”成長の可能性
見守りの対象は室内だけにとどまりません。高齢者や子どもの外出時を見守るための仕組みもさまざまな取り組みがなされています。
「いまイルモ Kids」は、ドコモが開発したBLEベースのプラットフォーム「Linking」に対応したアプリです。Linking対応デバイスとスマートフォンを子どもに持たせることで、子どもの外出や帰宅を確認することができます。
アサヒ飲料は、自動販売機に無線LANおよびビーコン信号を発する機器を搭載。ビーコン端末を持った子どもや高齢者の所在地を把握できるだけでなく、観光客に対して地域の情報を提供するといった活用も考えられています。こうしたビーコン機器はどこに設置するのかが非常に重要ですが、街の至る所に存在する自動販売機とビーコンは非常に相性のいい組み合わせと言えるでしょう。
エリア型の見守りIoTは、東京都渋谷区と東京電力も共同で実証実験を実施。見守りの仕組みは「otta」のビーコンを、設置場所はキリン清涼飲料の自動販売機を利用するという形式です。この自動販売機と見守りIoTという組み合わせは1つのビジネスモデルとして今後も増えていくことでしょう。
特定の人物の居場所を把握するという点ではGPSや携帯電話の回線を利用する方法もありますが、どちらもバッテリー消費が大きいため、長時間持ち歩くには適しません。その点、ビーコン型はバッテリーの消費が少ないため、こまめに充電する必要もなく携帯性に優れている点が大きなメリットです。
モノがインターネットやほかのモノとつながっていくIoTは特定の製品にとどまるものではなく、身の回りのあらゆるものに通じる概念ですが、これまでの連載で述べてきた通り、バッテリーや通信、コストなどの問題もあり、すべてがすぐにIoT化していくわけではありません。
しかし、共働き家庭や高齢化はすでに社会現象と言えるほど大きな課題であり、それに伴い“見守り”の必要性は年々高まっています。この連載で以前に取り上げたペットIoTも、大きな意味では見守りIoTの一部と言えるでしょう。今後もまだまだ見守りの分野は成長を遂げると言えそうです。