被害事例に学ぶ、高齢者のためのデジタルリテラシー

被害者のつもりが加害者に!?

10万円を借りようと残高ゼロのキャッシュカードを業者に送ったら口座が悪用されて罰金刑になった

 ある日、Aさんはお金に困っていたので、ネット上で見た業者に連絡しました。すぐに10万円貸せるというので連絡したところ、本人確認と資金のやり取りを兼ねて、残高ゼロでもいいので銀行のキャッシュカードを送るように言われました。また、「融資や返金をやり取りする手数料を節約するなら暗証番号も必要」と言われたのですが、もとより1円も入っていませんし、自分は通帳で下ろしたり、ネットバンクで送金できます。10万円も借りたいため教えてしまいました。

 しかし、10万円は実際には振り込まれませんでした。キャッシュカードを取られたことには腹が立ったものの、怪しいところに連絡した自分も悪いと諦めました。もちろん、この口座にお金は入れないようにしました。

ネットで融資を受けるために通帳は手元に置き、キャッシュカードを郵送しました

 しばらくして、銀行から手紙が届きました。振り込め詐欺にAさんの口座が利用されたため、凍結されたというのです。とはいえ、この時点で1円も被害は受けていないので、特に深刻には受け取りませんでした。

 後日、警察から出頭命令が来ました。Aさんは被害者として何か補償を受けられるのかとほいほい出かけていったのですが、警察からAさんは被害者ではなく加害者だと言われました。

 確かに、銀行口座を犯罪者にお金をもらって売るのは犯罪です。しかし、Aさんは売ったつもりでもなく、1円ももらっていません。それでも法律違反になるのでしょうか。

 実はすでに2014年に起こった似た事例では、1審と東京高等裁判所では犯罪収益移転防止法の28条2項に違反していると認められています。キャッシュカードを渡すことで、融資を受けようとしたのだから、有償性が認められるというのです。最終的にAさんは20万円の罰金を支払うことになりました。

被害者のつもりが加害者として罰せられてしまいました

 罰金刑とは言え、前科が付いてしまったのです。もちろん、この口座は凍結されて使えません。それどころか、警察に目を付けられてしまうと、普段利用している他の口座も凍結されたり、今後口座を作れない可能性もあります。

 ネット詐欺に遭ったAさんが、1円も融資を受けられないまま、前科持ちになり、罰金を支払い、その後の生活にも支障を来すことになりました。ひどい話です。しかし、これは知識不足から起きた悲劇とも言えます。

 キャッシュカードや通帳が犯罪者に渡ると、資金の移動に利用されます。そのため、犯罪収益移転防止法でその流れを止めようとしているのです。ちなみに、口座を作って渡してくれればお金を渡す、というような闇バイトをした場合は、詐欺罪にあたる恐れがあります。この場合は、罰金ではなく10年以下の懲役というさらに重い罰が科せられる可能性があります。

 銀行口座を作る際には銀行側も口座の譲渡は犯罪だという告知を行っています。知らなかったでは済まされないので、覚えておきましょう。

銀行も啓発に努めています。画面はみずほ銀行より

 もし、騙されて通帳やキャッシュカードを他人に渡してしまったなら、すぐに弁護士もしくは警察に連絡しましょう。対処が早ければ、悪用される前に手を打てるかもしれません。自分から連絡したからと言って、お咎めなしとはいかないかもしれませんが、不起訴になる可能性は十分にあります。くれぐれも放置しないで、すぐに対処、が基本です。

あなたの両親も“ネット詐欺”の餌食になっているかもしれません――その最新の手口を広く知ってもらうことで高齢者のデジタルリテラシー向上を図り、ネット詐欺被害の撲滅を目指しましょう。この連載では、「DLIS(デジタルリテラシー向上機構)」に寄せられた情報をもとに、ネット詐欺の被害事例を紹介。対処方法なども解説していきます。

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