被害事例に学ぶ、高齢者のためのデジタルリテラシー

うまい話を簡単に信じないで!

「夫の遺産を預けたい」とSNSでメッセージ、日本人女性を装っていたのは……

それこそロマンス詐欺の手口です。2023年は被害総額455億円、平均1000万円超!

日本人女性を装って日本人男性にロマンス詐欺を仕掛けたナイジェリア国籍の男性(61歳)

 今年6月、日本人女性を装って東京都内の男性から630万円あまりをだまし取った人物が逮捕されましたが、なんと容疑者はナイジェリア国籍の61歳の男性でした。ニュースではその人物の映像が公開されましたが、屈強な男です。その男が、海外に住んでいる日本人女性を装い、男性にロマンス詐欺を仕掛けていたのです。

ナイジェリア国籍の屈強そうな男性が、日本人女性を装って日本人男性にロマンス詐欺を仕掛けていました(画像は生成AIで作成したものです)

 この男はロマンス詐欺グループの主犯格とみられており、他のメンバーと共謀してFacebookで女性になりすまし、67歳の日本人男性とつながりました。そして、「夫の遺産である830万ドル(約12億円)を慈善団体に寄付するので、いったんこのお金を預ける」とメッセージを送りました。

 一方、日本人男性はお金を受け取るために、遺産譲渡の手数料として、634万5000円を振り込んでしまったのです。もちろん、譲渡されるわけがありません。このような手口で、このロマンス詐欺グループは20人以上から総額約3億7000万円をだまし取ったそうです。

儲け話を持ち掛け、手数料や投資などの名目でだまし取る手口も

 以前は、SNS型ロマンス詐欺は女性がターゲットで、正面から口説いて、お金をせびる手法が主流でした。しかし、最近は男性もターゲットになることが多く、儲け話を持ち掛けたうえ、手数料や投資などの名目で現金をだまし取る、という手口も増えてきました。今回のケースも遺産の一部をもらえることを期待して、手数料を振り込んだと思われます。

 警察庁が発表した2023年のSNS型投資・ロマンス詐欺の被害状況によると、ロマンス詐欺の認知件数は3846件、被害額は約455.2億円と非常に大きなものになっています。1件あたりの平均被害額は1000万円超で、被害者の年齢は男性が50~60歳代、女性が40~50歳代が多いとのことです。同年の月ごとの被害状況を見ると、年初と比べ、年末にかけて認知件数と被害額が大きくなっています。

ロマンス詐欺被害は拡大傾向にあります(警察庁の「SNS型投資・ロマンス詐欺の被害発生状況等について」より

実際に会ったことがない人からお金に絡む話が出たら警戒を

 不特定多数に向けてメッセージをばらまくフィッシング詐欺などと違い、特定個人を狙い撃ちするロマンス詐欺では、その人を確実に落とすために、詐欺師も手を掛けて取り組んできます。いろいろな口実を用意するほか、信用してもらえそうな写真や資料も送ってきます。例えば、自分はお金を持っているというふりをするために、豪邸やブランド品、高級車などの写真を送ってきます。美男・美女の自撮り写真を送ってくることもあります。中には身分証明書としてパスポートの写真を見せてくるケースもありました。しかし、全て偽物です。ネットで拾ってきたり、合成しています。

 従来はでっち上げるにしても画像くらいしか扱えなかったのですが、現在は生成AIが広まり、動画や音声まで偽造することができます。技術力があれば、リアルタイムの会話の音声まで変えることができます。もし、ビデオ通話機能で美男・美女とリアルタイムに話せても、実際は存在せず、外国人のおじさんが話している可能性もあるのです。SF映画のようですが、すでに広まっている技術です。それで儲かるのであれば、ネット詐欺師はこぞって活用します。

 SNSなどで知り合って仲良くなったとしても、実際に会ったことがない人からお金に関する話をされたら詐欺を疑ってください。直接お金を取ろうとするだけでなく、一緒に投資しようとか、預けてくれたら増やすとか、今回のように大金を渡すのでその手数料といった口実を使ってきます。手口はどんどん巧妙化していくので、兎にも角にも、実際に会ったことがない人からお金が絡んだ話が出たら警戒するようにしてください。ちなみに、リアルで会ったからといって詐欺師ではない、というわけでもありません。うまい話を簡単に信じないように普段から心掛けましょう。

 ロマンス詐欺は資産のあるシニア層が狙われることが多いので、要注意です。そして、SNSで知り合った人との会話に関して不安なことがあったときには家族に相談してください。もしくは、警察相談専用窓口「#9110」などに電話して相談してください。

 一方、両親などシニア層の家族がいる方はぜひ、雑談程度でもいいので、ロマンス詐欺というものがある、という情報を共有しておきましょう。ロマンス詐欺は、その名のとおり、ターゲットにした相手に恋愛感情を持たせたうえで動かそうとします。もしも、あなたの家族がターゲットになっていたら、「不安もあるが自分を好きになってくれた人のために……」と複雑な感情になった結果、家族よりも相手(ネット詐欺師)を信じよう、という選択をしてしまうかもしれません。見知らぬ相手の言葉に従う前に家族と話そう、と考えてもらえるようにしておくことが大切なのです。

あなたの両親も“ネット詐欺”の餌食になっているかもしれません――その最新の手口を広く知ってもらうことで高齢者のデジタルリテラシー向上を図り、ネット詐欺被害の撲滅を目指しましょう。この連載では、「DLIS(デジタルリテラシー向上機構)」に寄せられた情報をもとに、ネット詐欺の被害事例を紹介。対処方法なども解説していきます。

高齢者のデジタルリテラシー向上を支援するNPO法人です。媒体への寄稿をはじめ高齢者向けの施設や団体への情報提供、講演などを行っています。もし活動に興味を持っていただけたり、協力していただけそうな方は、「dlisjapan@gmail.com」までご連絡いただければ、最新情報をお送りするようにします。

※ネット詐欺に関する問い合わせが増えています。万が一ネット詐欺に遭ってしまった場合、まずは以下の記事を参考に対処してください
参考:ネット詐欺の被害に遭ってしまったときにやること、やってはいけないこと