柳谷智宣の「働き方改革に効く!デジタル士魂商才」

第6回

いつでもどこからでも全データにアクセスし、無駄な手間と時間を削減せよ!

ビジネスITフル武装<クラウドストレージ編>

 ビジネスで使うさまざまなデータはどこに保存しているだろうか。利用しているPCにのみ保存しているなら、他の場所では作業できなくなるし、他の人とのデータ共有が面倒になる。同じネットワーク内であれば、共有フォルダーという手もあるが、外出先からは利用するのが難しい。そこで活躍してくれるのが“クラウドストレージ”だ。データがクラウドにあるので、いつでもどこからでもアクセスできる。今回は、定番のクラウドストレージツール3つを紹介しよう。

ビジネスではITを活用しないと生き残れません。とはいえ、世の中にはデジタル製品もITサービスも溢れかえり、百花繚乱です。コストだけを見ると銭失いになりかねませんし、何も考えずに選ぶと予算オーバーになることも。そこで、本連載『柳谷智宣の「働き方改革に効く!デジタル士魂商才」』では、副業で個人事業主となろうかと考えている人から、10人くらいまでの小規模企業を経営している人向けに、ビジネスのためのITという切り口で製品やサービスを取り上げようと思います。

筆者も、国内外に展開する飲食企業を含め複数の会社を経営しているので、デジタルリテラシーの低い社員や予算がないといったよくある悩みを抱えています。そんな現場のリアルから、業務効率改善や働き方改革に効く情報を紹介します。

データ管理が格段に楽になる“クラウドストレージ”

 働き方改革が進んでいることもあり、今や社員全員が同じオフィスに座って仕事をしているという方が珍しくなってきた。モバイルPCを持って外出している人も、工場でタブレットを使っている人も、自宅やコワーキングスペースで仕事をしている人もいる。

 そんな中、それぞれが使うデータをローカルのみに保存・管理していると、いろいろな弊害が発生する。PCを忘れてきたからファイルを取りに帰社しなければいけないとか、複数のスタッフで利用しているファイルのバージョンがまちまちですれ違いが発生するとか、データを共有するのにいちいち社内レギュレーションに対応した何らかのサービスを使わなければならない――など、非効率極まりない。PCが故障したり、盗まれたりしてデータを全部失ってしまうといったことだって考えられる。

 昔は、自社サーバーを構築している企業が多かった。ネットワークを経由して特定のフォルダーを共有することができるからだ。しかし、導入コストがとても高い上に、何年か経つとシステムが陳腐化して時代が求めるスペックを満たさなくなる。とはいえ、ほいほい買い替えるわけにはいかないので、使いづらい状態で社員に負担がかかっているケースもある。

今やオフィスに戻らないとビジネスで使っているデータにアクセスできないのは時代遅れ

 そんな課題を解決してくれるのが、企業向けのクラウドストレージサービスだ。オンラインでいつでもどこからでもアクセスして、自分のデータにアクセスできるのだ。共有フォルダーと同じことが自社サーバーを用意することなく実現でき、ランニングコストも安価なのがウリ。サーバーは常に最新の状態になっており、通常はシステムがアップデートしても追加料金を取られることはなく、月額料金だけで使い続けられる。ファイルの共有も簡単で、ダウンロード用URLを送信するだけ。多くのサービスは、WindowsやMacだけでなく、iOSやAndroidなどマルチデバイスに対応している。バックアップ機能としての役割もあり、万一、社内で事故がありPCが失われても、データはクラウドにあるので被害を抑えられるのだ。

 また、企業が契約したクラウドストレージなので、社員が退社した場合もそのアカウントを引き継ぐのも削除するのも自由自在。データの漏えい防止にもつながる。これが“シャドーIT”で個人向けクラウドストレージを使っていると、データをそのまま持ち出されてしまうリスクが発生してしまう。

 企業向けのクラウドサービスを選ぶなら、容量と料金以外にも重要なポイントがある。アクセス権限の管理機能やセキュリティ、外部サービスとの連携などだ。さらには、ビジネスの情報を保存するのだから、企業として信頼できるかどうかも重要だろう。そのため、やはりグローバルで展開し、信頼性の高い大企業のサービスがお勧めだ。

今回紹介するサービスは「Dropbox Business」「Box」「OneDrive for Business」の3つ

個人向けのイメージだが、企業導入も急速に進んでいる「Dropbox Business」

 Dropboxは、2008年に正式サービスをスタートしたクラウドストレージサービスで、2011年から日本語に正式対応している。全世界180カ国以上で5億人のユーザーを持ち、国内でも1100万人が利用している人気サービスの1つだ。2018年3月にはNASDAQに上場を果たした。創業当初からAmazonのAWSを利用していたが、現在は自社のデータセンターを利用している。

Dropboxが運営する「Dropbox Business」

 企業向けの「Dropbox Business」は、「Standard」「Advanced」「Enterprise」の3プランが用意されている。指定したフォルダーを自動的にクラウドと同期するので、ユーザーはクラウドストレージにアップロードすることを意識せずに利用できるのが特徴。同期スピードも速く、WindowsやMac、Linux、Android、iOSに対応している。

 古くからあるサービスなので、多数のアプリやウェブサービスが連携機能を備えているのも特徴。ファイルの保存場所を一元化することで、データを散在させずに済む。ファイルの世代バックアップを残す機能があるので、万一フォルダーから削除してしまったり、異なる内容で上書きしてしまっても、復活させることができる。これは、PCのローカルでファイルを管理していると得られない大きなメリットとなる。

 料金(税別)は、Standardがユーザーあたり月額1250円(年間払いの場合)で、最低3ユーザーから。容量は1ユーザーあたり3TBで、120日間のファイル復元機能を利用できる。暗号化機能は256ビットのAES暗号化とSSL/TLS暗号化を採用し、通信途中で盗聴される心配はない。Advanced以上のプランでは必要に応じて容量を追加できるので、気兼ねなくファイルを保存できる。さらに、シングルサインオンやドメイン認証、高度な管理機能を利用できる。個人向けのDropboxから移行することも可能だ。

 導入実績としては、中小企業から、電通やメルカリ、明治大学、Spotifyといった大企業まで、多彩な企業に採用されている。

豊富な機能を備えており、中小企業なら「Standard」プランでも十分活用できる

Fortune 500の企業のうち69%が導入する定番クラウド「Box」

 「Box」は、2005年に創業した老舗のクラウドストレージサービス。現在は、グローバルで7万5000社以上、4100万ユーザーが利用している。BOXは最初から企業向けとして開発されており、セキュリティもばっちり。堅牢な暗号化機能はもちろん、データセンターを置いている国を選ぶこともできる。これは、政府によりデータにアクセされるような法律的なリスクのある国を避けたり、逆に自国から個人情報を外に出してはいけないという法律に合わせたりするため。日本の企業はもちろん日本のサーバーを利用することが多い。

Box,Incが運営する「Box」

 プランは4種類あるが、国内企業であれば、基本は販売パートナーに相談して導入することになるだろう。公式サイトから米国のサービスに申し込んで利用することもできるが、国内のパートナーと契約する方が場合によっては安くなることもある。

 一番人気の「Business」プラン以上はストレージ容量が無制限。2段階認証やシングルサインオン、高度な暗号化機能にも対応している。「Business Plus」プランでは、社外のメンバーとファイルを共有できるようになっている。公式サイトで案内されている料金(税別)はユーザーあたり、Businessが月額1800円、Business Plusが月額3000円。

 個人向けサービスも提供しているDropboxやOneDriveと異なり、フォルダーの自動同期を使わない機能も多いのが大きな特徴。「Box Sync」機能で、フォルダー同期することもできるのだが、基本はクラウド上のデータに直接アクセスして利用するスタイルなのだ。

 例えば、1000アカウントでBoxを利用している企業で、100GBのファイルを保存したら、それだけで企業全体で100TBものHDD/SSD容量を消費してしまう。これが、1万アカウントで1TBになると想像を絶することになる。一定以上の規模で運用するなら、ビジネスのデータはすべてクラウドで管理した方が効率的なのだ。ローカルにファイルがないので、データの漏えいリスクが抑えられるし、各ユーザーが別の作業をしてしまいデータに齟齬が起きることもない。

 Boxのもうひとつのウリが共有ファイルに細かいアクセス権限を付けられること。ユーザーによってプレビューのみでダウンロードを禁止したり、アップロードしかできなかったり、編集をできるようにしたりと、柔軟な設定が可能なのだ。この設定を利用し、社外メンバーとセキュアに情報を共有することができる。

共有する相手により、キメ細かいアクセス権限が設定できる

Office 365 Businessに付いてくるので導入しやすい「OneDrive for Business」

 Windowsの標準クラウドサービスである「OneDrive」にも企業向けプランが用意されている。「OneDrive for Business」には、容量1TBの「プラン1」と容量無制限の「プラン2」がある。料金(税別)はユーザーあたり、プラン1が年額6480円、プラン2が年額1万3080円と安い。

Microsoftが運営する「OneDrive for Business」

 しかし、多くのユーザーは、「Office 365 Business」もしくは「Office 365 Business Premium」を利用することが多いのではないだろうか。こちらは月額1080円(または年額1万800円)もしくは月額1630円(または年額1万6320円)となる。この場合は、容量1TBのOneDriveに加え、WordやExcel、PowerPointといったOfficeを利用できるのがウリ。仕事でOfficeを用意している企業であれば、追加コストなしに利用できるのがありがたい。ちなみに、1ライセンスでユーザーは5台までのPCやスマホ、タブレットにOneDriveアプリをインストールして利用できる。

 OneDrive for Businessはソフトをインストールすることで、OneDriveフォルダーをクラウドで同期できる。個人用のOneDriveと別アカウントで併用することも可能だ。

 Microsoftらしく、セキュリティは万全。SLAで稼働率99.9%を保証しており、2段階認証やファイルの復元などもサポート。ファイルのバージョン履歴や操作履歴を管理できるので、誤操作時の復旧やトラブル時の原因究明に役立つ。

 ファイルを共有する際は、4段階の設定が可能。誰でもアクセスできる「すべてのユーザー」に加えて、社内のみ、既存アクセス権のあるユーザー、特定のユーザーを指定できる。万一、共有URLが漏えいしても、アクセス権のあるユーザーでないとアクセスできないので安心だ。

 導入事例としては、エア・カナダやPolycomなどがMicrosoftのサイトで紹介されている。

ファイルを共有する相手の設定が4種類から選べる

 以上が、企業向けクラウドストレージサービスの紹介となる。どの企業も超大手でしばらくはサービス中断の恐れがなく、安心して利用できるサービスといえる。セキュリティももちろん盤石で、ファイルのダウンロード/アップロード速度も快適。コストはユーザーあたり2000円前後と横並びだ。

 クラウドサービスを導入する際は、ファイルを同期するかクラウドで使うか、Officeを使っているか、ビジネスで利用している他のサービスと対応しているサービスはどれか――などをチェックし、最適なソリューションを導入して欲しい。

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柳谷 智宣

IT・ビジネス関連のライター。キャリアは20年目で、デジタルガジェットからウェブサービス、コンシューマー製品からエンタープライズ製品まで幅広く手掛けている。国内4店舗・海外1店舗に展開する飲食業やウイスキー販売会社も経営しており、デジタル好きと経営者の両方の目線で製品やサービスを紹介するのが得意。