INTERNET Watch 30周年記念インタビュー
「通信回線の進化は、この先30年も止まらない」~NTT東日本・NTTドコモビジネス
デジタルツインによるライブ中継や「AIが勝手にやってくれる世界」も支えるインフラへ
2026年6月12日 06:00
日本の通信インフラといえば、「フレッツ光」などを提供するNTT東西を抜いて語ることはできない。そして、NTTドコモビジネスの「OCN」は、1996年にサービスを開始した老舗ISPであり、最初のサービス「OCNエコノミー」は、当時としては画期的な料金設定の専用線サービスとして、大きなインパクトをもたらした。
今回は、NTT東日本で通信回線サービスを長年手掛ける山口肇征氏(執行役員 CTO マーケティング統括本部 ビジネス開発本部長 営業戦略推進部長兼務)と、NTTドコモビジネスで「Mr. OCN」の異名も持つ吉田友哉氏(プラットフォームサービス本部 クラウド&ネットワークサービス部開発オペレーション部門 部門長)に、これまでと、この先30年についてお話を伺った(聞き手:本誌編集長 山田貞幸 写真・構成:村上俊一)。
INTERNET Watchは、2026年2月に30周年を迎えた。「今」を追いかけるだけで精一杯となりがちなインターネット業界周辺だが、本企画では主要プレイヤー各社に「これまでの最大の転機」と「今後30年先までの見通しや想像するイメージ、あるいは夢」を伺いながら、読者の皆様とインターネットの未来像を共有することを目指す。
最大の転機は「常時接続サービスの提供」
——よろしくお願いいたします。早速ですが、これまでのインターネット関連の取り組みの中で「最大の転機」と言えるものを挙げるとすると、何になるでしょうか?
山口氏:取材の打診をいただいてから考えていたのですが、1つだけ挙げるとしたら、家庭向けの初の常時接続サービス、「フレッツ・ISDN」の提供ですね。前身となる「IP接続サービス」が1999年にスタートし、「フレッツ・ISDN」が2000年です。
今やインターネットが常時接続ではない状態をイメージする方が難しいでしょうが、常時接続サービス以前には、モデムを使ったダイヤルアップ接続で電話を掛けていましたよね。以前に「フレッツ」周辺の歴史をまとめた講義資料を作ったときに、当時のモデムの「ピ~ヒャラヒャラ」という音(ハンドシェイク音)のデータを保存していました(再生する)。
上の再生ボタンを押すと、特徴的なモデムのハンドシェイク音が再生される。ダイヤルアップ接続では、電話回線を通してユーザー宅のモデムがISPの番号に電話をかけて、つながった後、ハンドシェイクと呼ばれる通信を確立するための手続きをした。その間に発生するのがこの音で、インターネットを利用するには、この音が鳴り終わるまで待つ必要があった
山口氏:その前には、1995年に「テレホーダイ」を開始しています。それまでのダイヤルアップ接続は分単位での接続時間に応じて料金(通話料)がかかりましたが、「テレホーダイ」によって23時~翌8時の間が定額になり、この時間帯だけは常時接続のように使い放題だったため、皆さん、夜ふかししながらインターネットを使っていた時代ですね。
「フレッツ・ISDN」が始まって、24時間常時接続で利用できるようになりました。常時接続なのでそもそも切断することがありませんが、ハンドシェイク音がなくスッとつながることも衝撃的でした。通信速度は64kbpsと、今の感覚で言えば驚くほど低速ですが、ダイヤルアップは56kbpsが最大でしたから速度も向上していて、これによって大きくインターネットの使われ方が変わりましたね。
IP接続サービス サービス開始時の記事:
NTTの定額制「IP接続サービス」、月額料金は8,000円 プロバイダー47社順次対応を開始
フレッツ・ISDN 提供開始(「フレッツ・アイ」として)時と改称時の記事:
NTTの「IP接続サービス」、7月より全国の主な都市へエリア拡大
NTTの定額IP接続が「フレッツ・ISDN」に名称変更
吉田氏:私も、モデムのピ~ヒャラヒャラ音を聞いてきた世代です(笑)。OCNでは「フレッツ・ISDN」よりも早い時期に、専用線による128kbpsの常時接続サービス「OCNエコノミー」を、1996年に開始しており、INTERNET Watchさんと同じく、今年で30周年になります。
ほかにも専用線サービスはありましたが、このサービスは月額3万8000円と、当時のほかのサービスと比べて1桁低い料金設定で、(個人でも出せない金額ではなかったことから)初の個人向け常時接続サービスとも言われます。当初から東京ー大阪間に45Mbpsのバックボーンを持っていて、これが超高速というアピールをしていました。
OCNエコノミーが、OCNとしては初のサービスで、この後、ダイヤルアップ接続やフレッツに対応したサービスも提供していくようになります。
初期のOCNエコノミーの月額3万8000に対して、1999年の「IP接続サービス」は月額8000円、「フレッツ・ISDN」は月額4500円。このほかにINSネット(回線)とISPの月額料金も必要だったが、「フレッツ・ISDN」では総額おおむね1万円以内となった
OCNエコノミー サービス開始時の記事と、OCN 20周年の記事:
OCNサービス、12月25日からいよいよ始動 WWWでサービス開始地域などの情報を提供
「OCN」が20周年、128kbpsの常時接続を当時破格の月額3万8000円で提供開始、バックボーンは60Mbps
「フレッツ 光25G」、そして50Gbpsへのチャレンジ
——続いての質問に移ります。直近の、1~3年先ぐらいに予定されている、新サービスなどについてお聞かせください。
山口氏:10Gbpsの「フレッツ 光クロス」は、契約件数100万が視野に入ってきています。こちらも、より多くのお客様にご利用いただけるよう継続していきますが、新たに2026年3月31日より、上下最大25Gbpsの「フレッツ 光25G」の提供を、一部エリアで開始しています。この「フレッツ 光25G」の発表時には、(プレスリリースで)次世代規格である50Gbpsのサービス化に向けチャレンジしていきますという宣言もさせてもらいました。
これは、けっこうチャレンジングな取り組みになると思っています。通信技術は常に進化させ続けていかなければならないと、社内でもあらためて話し合うことが増えています。2020年に「フレッツ 光クロス」の提供を開始したときには、「10Gbpsは一般家庭に必要ないのでは」といった声も少なくありませんでしたが、あれから6年が経ち、通信トラフィックは着実に増大して、10Gbps回線のニーズは着実に増えています。
市場もまた、10Gbpsを前提とした競争にシフトしつつあると感じています。その今、われわれ自身がさらなる進化を追及できるのではないかと見つめ直し、このタイミングでの25Gbpsの提供となりました。
「フレッツ 光25G」のプレスリリースの「提供の背景と目的」の最後に、「また、FTTH市場をさらにけん引するため、より快適な通信環境をめざし、国内最高速となる通信速度最大概ね50Gbpsサービスの提供の検討も進めてまいります」との記述がある。
「フレッツ 光25G」について、本誌連載「清水理史のイニシャルB」で取材した記事:
「フレッツ 光25G」を実現する仕組みは? 今後のエリア展開は? NTT東日本に聞いて分かった新サービスの正体
トラフィック増大に備えた業界横断の取り組みも
吉田氏:AIの活用が進めば通信量も増えてくるし、ユーザーが直接操作する以外に、自律的に動作するAIエージェントによる通信も増えると予想され、トラフィックの流れも複雑化すると予想されます。これに関しては、「NaaS」(Network as a Service)と呼ばれる、ネットワークの利用を動的に制御し、必要なときに必要なリソースが使えるようなサービスが、2030年頃には普及拡大しているはずです。データセンターにあるGPUの利用を含めて、複雑なトラフィックをどのようにしていくかは、これからの課題になっていくでしょう。
AI以外にも、デジタルツインのようなデータ通信量が多い新しいサービスも登場していて、今後普及するでしょうね。
トラフィックの話でいうと、「インターネットトラヒック流通効率化検討協議会」(CONECT:COuncil for Network Efficiency by Cross-layer Technical members。読みは「コネクト」)という協議会が2020年から活動しており、私が主査を担当しています。
総務省と、NTT東西やNTTドコモビジネスなど通信事業者のほか、AkamaiのようなCDN事業者、LINEヤフー、Netflixなどサービス事業者までが参加した団体は世界的にもユニークで、日本にしか存在しておらず、海外からも注目されています。
CONECTが立ち上がったのは偶然にもコロナ禍直前でしたが、コロナ禍に入ってステイホームになったことで平日日中のトラフィックが急増し、その対策を話し合ったりしました。それ以外でも、大きなスポーツイベントや音楽のライブ配信があるときなどにはトラフィックが逼迫する可能性が高まるため、半年ぐらい前から意見交換して調整し、皆さんが問題なく楽しめるようにしているのです。そういう観点からも、現在で十分ということはなく、さらに高速で安定した通信回線へと進化していくことが必要だと言えます。
ライブ配信をデジタルツインで楽しむ時代が来る!?
山口氏:デジタルツインといえば、大阪・関西万博のNTTパビリオンでは、離れた場所のPerfumeのライブパフォーマンスをデジタルツインで楽しめるという、IOWNの技術を使った展示を行いました。
この展示で使われたデジタルツインの技術を簡単に説明すると、実際のパフォーマンスを「LiDAR」という装置でスキャンして3D点群データに変換し、IOWNの高速回線(IOWN APN)を通じてデータを別の場所に伝送して再生することで、別の場所に三次元映像としてパフォーマンスを再現します。
このパフォーマンスでは、3D点群データや音声データ、その他もろもろを含めたデータは25Gbpsの帯域を使用しました。将来においては、デジタルツインによる3D配信が当たり前になっていく可能性を感じますし、その時代においては、アクセス回線も25Gbpsや50Gbpsといった帯域を扱えるものが標準になっているのではないでしょうか。
——デジタルツインは現在だと、災害の被害予測にも使われますね。実際の地形をデジタル空間に再現して、災害が発生したときに、どのような被害が出るかシミュレーションするような。
将来的には、家族や友人、会社の上司などのデジタルツインに対して、コミュニケーションの練習ができるようなサービスが生まれる可能性もあるでしょうか。ちょっと考えただけでもクリアすべき倫理的な問題が多数ありそうですが。人と人との関係を近づける技術としての新しい活躍を期待したいなと思います。
山口氏:どういうデータが反映されれば、その人の内面のデジタルツインだと言えるのか、という点も難しい問題になるでしょうが、技術面では不可能ではないでしょうね。
大阪・関西万博NTTパビリオンの展示と、使われた技術
PerfumeをIOWNで”再現”、大阪・関西万博のNTTパビリオン(ケータイWatch)
Perfumeのライブパフォーマンスをスキャン! NTTが動きのある3D空間の高速高精細な伝送・再現技術
AIのためのセキュリティが新たな課題になっていく
——さらにもう少し先の、5~10年後に予想される環境変化と、それへの対応についてお聞かせください。
吉田氏:さっきの質問でだいぶ先回りしてしまいましたが(笑)、5年後ぐらいの新たな課題として、AIのセキュリティが出てくると思います。企業に限らず、家庭においても。
AIエージェント、あるいは「フィジカルAI」と呼ぶべきかもしれませんが、自律的に判断して行動するAI機能が、スマートフォンやPCに限らずあらゆる機器に実装され、それぞれ勝手に仕事をしたり、家事をしたりするようになると思います。そうなったら、それらを攻撃から守る必要も生じます。
機器自体にセキュリティ機能を実装できるほどの処理能力がない場合は、ネットワーク上で制御しなければならない。法人向けではそのような「EDR」と呼ばれるセキュリティ検知機能が搭載された製品もすでに使われていますが、家庭向けのEDRも一般的になるかもしれません。ユーザーの指示によるだけでなく、AIがそれぞれ勝手に通信するようになる中で、どのようにして安全な通信環境を確保するのか、難しくなっていくと思います。
30年後、通信環境は今以上に「空気のような存在」へ
——30年後の2056年頃に、インターネットあるいは世界はどのように変わり、そのときにユーザーとどのような関係を築いていたいと考えられますか?
山口氏:インターネット・通信環境は、すでに当たり前のインフラになっていると思っていますが、未来ではさらに空気のような、当たり前の存在になっていると思います。その上で、AIが自律的にいろいろやってる、といった光景がイメージできます。
仮想世界であるインターネットと、物理世界がどんどん近づいていくのではないでしょうか。NTTグループでは農業やドローンなど、さまざまな新規事業で、技術によって生産性や安全性を向上させることに取り組んでいますが、農作業のかなりの部分をロボットが担うことなどは現実的になっています。
そうした中で、通信会社は「当たり前」を支え続ける役割になるわけですが、通信速度だけでなく、ゆらぎ(遅延)のなさも空気のような通信環境になるためには重要ですね。ゆらぎがないことを前提にできれば、アプリケーションの開発もずっとやりやすくなっていきます。
吉田氏:インターネットのコアの構造自体は、そんなに大きくは変わらないのではと思っています。30年以上の間、中心で使われているプロトコルは「TCP/IP」で変わっていませんが、実は途中で、いろいろなプロトコルの改良案が提案されてきました。それでも、結局のところ、根幹が大きく変更されることはありませんでした。主に変わったのはセキュリティ面ですかね。
インターネットがAIと融合していくと、将来は自律的につながって動く神経みたいに、人の脳に限りなく近い存在になっていくのでは、と漠然とイメージしています。その上でトラフィックはどんどん増えていく。仮想空間と現実の超融合のような、ロボットと人間が同じように存在している未来で、セキュリティを保った上で、皆が安心して生活できるようにする通信空間を作るのが使命だと考えています。
——ありがとうございました。







