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「首里城」3Dモデルで復元、朝日新聞社の空撮写真をもとに「フォトグラメトリ」手法で
2020年2月20日 08:00
2019年10月に火災で主要な建物が焼失した首里城。一刻も早い再建が待たれる中、これまで撮影された写真などをもとに3Dモデルで復元しようという動きが出てきている。過去に首里城を訪れた多くの人から幅広く写真を募集する「みんなの首里城デジタル復元プロジェクト」などが知られているが、これとは別に、朝日新聞社が保有する最新の空撮写真から3Dモデルを復元するプロジェクトがスタートした。古生物学者の芝原暁彦博士が立ち上げたベンチャーである地球科学可視化技術研究所株式会社(地球技研)が進めているプロジェクトで、今回、同プロジェクトで復元された3Dモデルのプロトタイプを公開するイベントが、東京・赤坂の地図バー「M」にて開催された。
古生物の立体モデルを作成する技術を、建築物に応用
この3Dモデルは、朝日新聞社が2019年6月に有人ヘリコプターを使って空撮したもので、約200枚の空撮写真が提供された。地球技研の所長を務める芝原氏は、フォトグラメトリという手法を使って処理し、3Dモデルのプロトタイプを作成した。
フォトグラメトリとは、被写体をオーバーラップさせながらさまざまな角度から撮影し、それぞれの写真の差異を解析・統合することで立体モデルを作成する手法のこと。芝原氏は、以前からこの技術を使って古生物の立体モデルを作成する取り組みを続けており、今回はその技術を建築物に応用したかたちとなる。
通常、フォトグラメトリを行うための素材となる写真は、天候状態や撮影時間などのさまざまな点においてシビアな条件が要求されるが、今回使用した写真は3Dモデルの作成を目的としたものではなかったため、提供された写真の中から適したものを50点ほど選んで使用した。なお、作成した今回の3Dモデルは空撮写真のみから作成されたもので、レーザー点群データや測量による地形データなどのほかのデータは一切使われていない。
「朝日新聞が保有するフォトアーカイブスは、プロのカメラマンによって撮影されたため高品質で、許可が必要なものはきちんと許可を取った上で撮影しているという点で価値が高いものです。今回は、そのアーカイブスに首里城の写真が大量に保管されていることを知り、これを使えば首里城の映像を復元できるのではないかと思ってご提案したところ、この共同プロジェクトを実現できました。」(芝原氏)
作成した3Dモデルは陰影のシミュレーションが可能で、おおまかな日時や季節を指定すれば、首里城がどのように見えるかをシミュレーションすることができる。また、赤青メガネを使って立体視できる「アナグリフ画像」を作成することも可能だ。さらに、VRヘッドセットは不要で、複数人が同時に立体視できる「ホログラフィックディスプレイ」に映し出すこともできる。
3Dにとどまらず、4Dの「首里城バーチャルツアー構想」も
今後は国土地理院の地形データなどを組み合わせたり、写真だけでは欠けている部分のデータをAIで補ったりすることで完成度を高めていく方針。また、株式会社ニシムラ精密地形模型の代表取締役であり、地球技研の副所長も務める大道寺覚氏の手によって立体地形模型も作成される予定だ。首里城を中心に琉球の歴史や地形、文化などを3D画像を操作しながら体感できるVR装置の構築も目指しているという。
朝日新聞社は今回提供した首里城の最新の写真のほかにも、1992年に完成した復元後の首里城の写真にとどまらず、戦前の首里城や、1989年から1992年にかけての復元途中の写真も数多く保有している。芝原氏は今後、そのような素材を使用して、時系列で首里城の移り変わりが分かる4D(4次元)コンテンツを作成する「首里城バーチャルツアー構想」も目指している。
フォトグラメトリでは複数の写真を使って立体モデルを作成するが、将来的にはディープラーニングを使った技術で、1枚の写真だけを使って立体モデルを作れる可能性もあるとのこと。この技術を使うことにより、歴史的写真の3D化を行える。
「残念ながら首里城は燃え落ちてしまいましたが、このように事故や災害、戦争などの不条理なことで大事なものがなくなってしまって、それが元に戻せないという悲しいことはけっこうあります。最新のテクノロジーを使えば、それを(3D映像というかたちで)元に戻すことができる世の中になったということを、今回、示すことができたのではないかと思います。」(芝原氏)
また、芝原氏はフォトグラメトリの手法を使って、全国の歴史的建造物の3Dモデルを作成することも検討しており、今後の展開が期待される。
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