趣味のインターネット地図ウォッチ
「一太郎」とともに巡る「自然災害伝承碑」
そこには何が書かれているのか? 「一太郎Pad」で碑文をOCR処理してみた
2020年3月12日 08:00
1985年に最初のバージョンが発売された株式会社ジャストシステムのワープロソフト「一太郎」。その最新バージョンである「一太郎2020」とともに新たにリリースされたのが、Android/iOSアプリ「一太郎Pad」だ。同アプリは、一太郎2020とシームレスに連携可能なメモアプリで、スマートフォンやタブレットで撮影した画像からテキストデータを生成できる。
画像内のテキストを認識するOCR処理には、Google Cloud Platformの画像解析AIサービス「Google Cloud Vision」を使用しており、紙の文書や資料だけでなく、看板や掲示物などをテキストデータに変換できるほか、筆文字の歌碑などにも対応しているという。ということは、もしかしたら旅先や街歩きで史跡などを巡る際に、碑文などの記録ツールとして使えるのではないか――。
そして碑文と聞いて思い出したのが、国土地理院が2019年3月に制定した地図記号「自然災害伝承碑」。過去に起きた自然災害の規模や被害の情報を伝える石碑やモニュメントだ。先人たちが遺した災害の教訓を現代に伝えることで、災害による被害の軽減に役立てることを狙いとしており、国土地理院のウェブ地図サービス「地理院地図」や2万5千分1地形図に掲載が始まっている。
国土地理院が2020年1月15日に出した報道発表資料によると、地理院地図における自然災害伝承碑の公開数は、45都道府県・139市区町村の計416基に上る。昨年、台風19号による甚大な被害が発生したこともあり、日本各地で過去にどのような災害が起きたのか気になる人もいるだろう。そんなときはぜひ地理院地図の左上メニューを開いて「自然災害伝承碑」を選んで表示させてみてほしい。きっと身近にさまざまな碑が存在することに気付かされるはずだ。
地理院地図に表示された自然災害伝承碑のアイコンをクリックすると、碑の写真とともに、どのような災害が起きたのかの説明も読むことができるが、気になる伝承碑を見つけたら、実際にその場所を訪れてみるのもお勧めだ。地理院地図と実際の風景を見比べて、地形などをチェックしつつ、碑文に書かれた内容を細かく読んでいくと、過去の災害についてさらに深い理解が得られるだろう。
その際に役立ちそうなのが、前述した一太郎Padである。起動したら下部のカメラアイコンをタップし、カメラの起動か、端末内に保存されている画像を使うかを選択すると、自動的に画像内のテキストが認識されて、「メモ」として保存できる。
生成したメモはリスト表示されるので、見たいメモを選ぶと内容が表示される。生成したテキストに加えて、元の画像にも切り替えられるので便利だ。また、Windows用の一太郎2020から「メモ転送」を実行することで、一太郎Padで作ったメモを一太郎2020にWi-Fi経由で転送することもできる。転送したメモは、一太郎2020に搭載されている「Padビューア」を使って管理することが可能で、テキストは一太郎の文書にワンボタンで挿入できる。
実際に「自然災害伝承碑」を巡って試してみた結果は
機能としては以上のようにとてもシンプルで分かりやすいが、果たして、どれくらい使いものになるのだろうか。実際にさまざまな伝承碑を巡って試してみた。
全体的な傾向としては、石碑に大きく書かれた文字は認識率が低いものの、縦書きと横書きも自動的に判別されるし、細かい解説文などのテキスト化にはかなり使えると感じた。
ただし、「大正」が「天正」となっていたり、カタカナが認識できていなかったり(2)と、問題が多いものもあった。特にカタカナについては全く認識できていないようで、戦前の碑に見られるカタカナ混じりの文には使うのが厳しいと思う。
一方で、比較的新しい年代に書かれた現代的な文章(4、5)ならば、かなり精度の高いテキスト変換が可能なので、記念碑の解説文を記録するような使い方ならば現時点の精度でも十分に使える。
文字の大きさがところどころ違っていたり、箇条書きになっていたりする場合(7)は苦手のようだが、これについてはGoogle Cloud Visionの今後の認識率向上に期待したい。一太郎Padのアプリ自体は無料(※)なので、街歩きのお供に、ぜひ一度試してみてはいかがだろうか。
※一太郎2020にデータを転送するには、一太郎2020のユーザー登録とJustアカウントによる認証が必要。認証されていない状態でも一太郎Padは使えるが、OCRによる画像からのテキスト抽出は10回までという制限がある。
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