奥川浩彦の「岐阜の山奥に移住しました」
第13回
プラネックスの2.5Gbpsスイッチングハブ、放熱対策とか大丈夫? 元・中の人が裏技3選を伝授します
2026年8月26日 06:00
前回は移住先の有線LAN環境についてお伝えした。筆者は速さと安定性でデスクトップPC、NAS、レコーダー、TVなどを、できるだけ有線LANで接続したいと思っている。その中でも仕事関連のPCやNASは2.5Gbps化を進めている。連載の第13回となる今回は、Synology NASの2.5Gbps化、2.5Gbpsスイッチングハブの裏技など、移住とは話がズレるが、INTERNET Watch読者の参考になるかもしれない話を30枚ほどの画像を用いてお伝えしよう。
PCとNASは2.5Gbpsの有線LANで接続しています
仕事部屋で稼働しているデスクトップPCは3台。ミニタワーが2台とミニPC(前回のオーディオ用PCと同じものをメモリ容量を増やして追加購入)。いずれも有線LANは2.5Gbpsだ。
使用しているNASは6台。以前は音楽用・写真用・動画用・仕事用などと複数のNASを24時間稼働させていたが、2021年に執筆した電力計測の記事で、NASの消費電力が少なくないこと、さらに夏の朝、前日にNASを止めたら仕事部屋が涼しかったことをきっかけに、4ベイのNASのHDDを8TB×4とし、音楽・写真・動画・ドキュメントを1台に集約。24時間稼働をやめ、常時稼働台数を1台とした。
SynologyのNASが多いのは、筆者が2015年から2018年までSynologyの日本の広報担当をしていたため。それまでアイ・オー・データ機器(現:アイオーデータ)のNASを使用していたので、Synologyの広報担当になった際に「勉強用に1台提供して」と依頼して受け取った機種はDS713+(2013年モデル)、10年以上経過した今も現役で使用している。
連載の第1回で紹介したように、当時、オフィス兼住居に20台ほどのNASの貸出機があった。広報業務用としての役目を終えた旧機種は、台湾に送り返すとコストがかかるので、ある時期からメディア関係者に提供していた。
広報契約終了時に、現役機種は設立したばかりのSynology Japanに返却。筆者の手元に残っているのはDS713+、DS215j(2015年モデル)など旧機種。手元にある最も新しいSynology NASは、数年前にネットオークションで購入したDS218+だ。
唯一のQNAPのNASはグッと新しくTS-253D。リンクアグリゲーション(LAG)に対応した2.5Gbps×2の有線LANポートを搭載しているNASで、筆者がプラネックスコミュニケーションズ(以下、プラネックス)でFX2G-05EM、FX2G-08EM、FX2G-08EM2など、2.5Gbpsネットワーク製品の商品企画を担当していたころに実験・検証用に購入したものだ。
SynologyのNASを2.5Gbps化しました
3台のPCとQNAPのNAS、スイッチングハブは2.5Gbpsだが、残念ながらSynologyのNASは1Gbps。そこでトライしたのが、USB有線LANアダプターによるSynologyのNASの2.5Gbps化だ。おそらくINTERNET Watchの読者の中には試された人がいるだろう。詳細は筆者が経験をもとに提案・監修した、プラネックス公式サイトのコンテンツ「Synology NASをUSB有線LANアダプターで2.5GbE化」を参照していただきたい。
このコンテンツは、Realtek社の当時の最新チップ「RTL8156BG」を搭載した2.5Gbps USB有線LANアダプター「USB-LAN2500R2」(=筆者の自信作だが、すでに販売終了)を発売したときの更新(2023年10月)が最後なので、現時点ではドライバーソフトなどの情報は古いが、有線LANポートが1GbpsのSynology NASの2.5Gbps化に興味のある人は一読いただきたい。複数台のNASで試した経験から言うと、DS218+(2018年モデル)以降の上級機は効果が期待できる。それ以前のモデルや低価格機は2.5Gbpsでつながっても、不安定になったり、速度アップされなかったりする。
DS218+本体の1Gbps LANポートの場合と、2.5Gbps USB有線LANアダプターで2.5Gbps化した場合の速度を計測してみた。結果はReadが倍以上、Writeが1.5倍となった。実用的にも動画ファイルの転送が速くなり、体感できる速さだ。
LAGも活用しています
もう1つNASの高速化の手法を紹介しよう。NASの上級機はLANポートが2つあり、LAGで2本のLANを束ね、LAGに対応したスイッチングハブにつなぐことで、冗長性と速度の向上ができる……と10年前の筆者は思っていた。
一般的にLAGにはダイナミックとスタティックがあり、それらに対応したハブに接続する。SynologyとQNAPのNASはそれらに加え、負荷分散という設定がある。負荷分散では、LAGに対応していないハブに接続することができる。
1台の2.5Gbps対応PCを2.5Gbpsのスイッチングハブに接続し、負荷分散で1Gbps×2本のLANでNASに接続した場合、PC~NAS間の速度は2Gbpsに……残念ながらならない。NASの1本の1Gbps LANの速度を超えることはできない。ただし、2台のPCから負荷分散で接続したNASにアクセスすると、転送速度の合計は2Gbpsとなる。
試してみよう。2台のPCで同時にNASから動画ファイルのダウンロードを実施。Synology NASのリソースモニタでネットワークの転送速度を確認してみた。NAS側から見てアップロードは253MB/s(=2.024Gbps)と、ほぼ理論値どおりとなった。
ひとり暮らしの筆者は、複数台のPCで同時にファイル転送をすることはなく宝の持ち腐れだが、会社なら複数人でNASに保存したファイルを操作するときに、速度低下を抑えることができる。高価なLAG対応のスイッチングハブがなくても負荷分散を利用すれば高速化が可能だ。
プラネックスの2.5Gbpsスイッチングハブについて、放熱などの裏技を紹介します
筆者は2006年に起業、20年が経った。主な仕事はクライアント企業の製品広報で、IT系の著名企業ではマイクロンテクノロジー、Synologyなどを担当。SSD発売前のCrucial(マイクロンテクノロジーのブランド名)は有名ではなかったし、2014年にはSynologyの社名も知らなかった。
プラネックスは最初は広報のみ担当。その後、「社員になってマーケなども手伝って欲しい」となり、社員として企画した2.5Gbpsスイッチングハブ「FX2G-05EM」を発売。2.5Gbpsのスイッチングハブで初めて1万円を切ったため、爆発的に売れた。INTERNET Watch読者にも購入した人がいるだろう。
発表直後のSNSには肯定するコメントと同じくらい辛辣なコメントが投稿された。
筆者はプラネックスのネットワークカメラ製品に対するコメントは認識していたが、スイッチングハブは個人向けの製品がなかったこともありコメントを目にすることがなく、ネガティブなイメージはなかった。過去製品の不具合は知らなかったし、FX2G-05EMは超優秀なエンジニアと一緒に製品化を進めたので、品質に自信があり、辛辣なコメントも気にはならなかった。
良い製品を多くの人に使ってもらえば、ブランドイメージは向上する。想定どおり、購入した人のレビューは好評だった。
その後、8ポートのFX2G-08EM、新チップで低消費電力化を実現したFX2G-08EM2を発売。いずれも高く評価され、2024年春に発売したFX2G-08EM2は価格.comでプロダクトアワーの金賞を獲得した。
裏技① FX2G-08EM2のチップの発熱を分散
現行モデルのFX2G-08EM2は筆者の超自信作で、ギガビット時代のスイッチングハブのように、発熱など気にすることなく普通に使って何も問題がない製品となっている。それでもプチ裏技を紹介しよう。FX2G-08EM2は、Media Access ControllerチップにRealtek社のRTL8373、PHYチップに同じくRTL8224を採用している。それぞれのチップがLANポートの1番~4番、5番~8番と接続されている。
8つのLANポートのうち1番~4番に2本のLANケーブルを接続してiPerf3などでデータ転送の負荷を加えると、片側のチップが発熱する。5番~8番に接続するともう1つのチップが発熱する。1番~4番に1本、5番~8番に1本のLANケーブルを接続して負荷を加えると、発熱は2つのチップに分散され、2つのチップの発熱の総和は変わらないが、それぞれのチップの温度は下がり、ピーク温度を下げることができる。
PC~NAS間、あるいはPC~ルーター間のデータ転送が多い人はPCを1番~4番のLANポート、NASとルーターを5番~8番のLANポートに接続しておけば2つのチップに発熱を分散できる。
そんなことをしなくても問題はないが、読者の中には「ギガビットのスイッチングハブ、いつ買ったっけ? 10年以上前??」という人がいるだろう。10年間、24時間連続稼働させることを考慮すると、ピーク温度を下げておけば製品寿命が数年延びるかもしれない……と思っている。
裏技② FX2G-05EMとFX2G-08EMの放熱対策
旧製品のFX2G-05EMとFX2G-08EMはそれなりに発熱する。2020年ごろは2.5Gbps、10Gbpsのスイッチングハブは発熱が問題視され、SNSにはトラブルの報告が散見された。そこでFX2G-05EMとFX2G-08EMは、チップ直下の基板の下面に放熱用シリコンパッドを貼り、筐体の下面からも放熱する両面放熱方式を採用した。稼働中、FX2G-05EM・FX2G-08EMは筐体の上面より下面の方が熱くなるのは、この放熱方式によるものだ。
余談だが、社外の人でFX2G-05EMの下面が熱くなるのを最初に体験したのは、当時のINTERNET Watchの編集長。家が近いので、雪が降った日「家までクルマで送るから遊びに来ない?」と声がけし、発売5カ月くらい前に筆者宅でテスト中の実機を見て(触って)もらった。
下面のシリコンパッドを外し、ヒートシンクだけの片面放熱にすると、チップの温度は16.7℃も高くなるので両面放熱方式の効果は大きい。
発熱対策はされているが、ギガビットのスイッチングハブと比べれば熱い。2021年発売のため、まだまだ現役で使用している人がいると思うので、ユーザーができる熱対策を伝授しよう。簡単で効果が高いのは、スイッチングハブのゴム足を外してアルミ板の上に置く方法。温度の高い筐体の下面からアルミ板に熱が伝わり、実験ではチップの温度が7.3℃下がった。
この方法以外の縦置き、ヒートシンク、USB扇風機など、さまざまな熱対策はプラネックス公式サイトの各コンテンツを参照していただきたい。
筆者宅で現在実施しているアルミ板より安くできる熱対策は、百均で売っている金属製のブックエンドと磁石で縦置きする方法。110円×2=220円なのでコスパはかなり良い。スイッチングハブは左右の側面にスリットがあるので、浮かせて縦置きすると熱が逃げやすくなる。
前述のとおり10年、24時間連続稼働を前提とすれば、熱対策を行うことで数年長く使えるかもしれない。
筆者の手元に、FX2G-05EMで使用した放熱用シリコンパッドより熱伝導率の高いシリコンパッドがある。「熱伝導率の高いものを使えば、チップの温度はもっと下げられる?」という実験で使ったものだ。熱伝導率がより高い5種類のシリコンパッドを付け替え、自宅で何日もiPerf3で負荷をかけ、温度ロガーで計測した結果は……微妙に効果はあるが、実用的には誤差の範囲だった。ちなみに筆者の記事でときどき出てくる4ch温度ロガーは、スイッチングハブの上面、ヒートシンク、チップ、下面の温度を同時に計測するため購入したもの。少々お高い計測器だったが、当時も今も役に立っている。
この熱伝導のシリコンパッドはAmazonなどで入手できる。他社製の2.5Gbps、10Gbpsのスイッチングハブで熱問題に困っている人は、自己責任で放熱用シリコンパッドをチップの下に貼り、筐体下面から放熱、さらにアルミ板に乗せれば、劇的に改善されるかもしれない。
裏技③ ネットワークが不安定になるEEEを無効にする
FX2G-05EM、FX2G-08EM、FX2G-08EM2に共通して不具合が報告されたのは、接続されたデバイスの「省電力型イーサネット(EEE)」がオンになっているとネットワークが不安定になる事象。
2014年のINTERNET Watchの記事を見ると、新製品の特徴にIEEE 802.3az(Energy Efficient Ethernet:EEE)機能を挙げている。IEEEで規格が制定され、Realtekなどのチップメーカーが機能を搭載、各社が当時は新機能として謳ったと思われる。ただしこのEEEによる節電効果は、年間で数十円と極めて少ない。
この不具合はプラネックスだから、Realtekだから、というものではなく、残念ながら筆者も詳細までは説明できないが、IEEE 802.3az(EEE)という規格の設計そのものと、それに対する各メーカーのチップ実装・互換性の甘さに問題があり、メーカーを問わず有線LANでよく話を聞く不具合となっている。現行の各社のスイッチングハブを確認してみると、安いギガビットのスイッチングハブはEEE非対応。10Gbpsのスイッチングハブなど高級な製品が対応している傾向がある。
想像すると、ユーザーのこれまで使用していたギガビットのスイッチングハブはEEEに非対応で問題は出なかった。買い替えた2.5Gbps、10GbpsのスイッチングハブはデフォルトでEEEに対応。もともとPCのNICの設定でEEEが有効になっていると、スイッチングハブを買い替えたら突然ネットワークが不安定になった、ということだろう。
FX2G-05EM、FX2G-08EM、FX2G-08EM2には設定機能はないので、PC側のデバイスマネージャーで「省電力型イーサネット(EEE)」を[無効]にすると安定するはずだ。
デバイスマネージャーでNICやUSB有線LANアダプターの設定を開くとメッチャ項目が多く、理解するのは難しい。当時のプラネックスは、Realtekが新しいドライバーを公開すると、前述の超優秀なエンジニアは設定・パラメータ値を1つ1つ変更して検証をしていた。「すごい、これは世に出したい」。その結果をまとめたExcelシートと筆者が作成した掲載イメージをライターさんに依頼して作成したのが「2.5GbEネットワークアダプターのプロパティの詳細設定を解説」というコンテンツ。かなり深い内容となっている。ただし、筆者が退職してから更新されていないと思うので、追加された機能の解説はないかもしれない。
先日、INTERNET Watchの連載『清水理史の「イニシャルB」』に中華スイッチングハブの記事が掲載された。筆者は10Gbpsはまだ先と考えているが、ときどきAliExpressでネットワーク機器を物色している。
例えば2.5Gbps×16ポートのスイッチングハブ。2万円を切ってきたので、もう一息と思っている。チップトレンドでは1チップで2.5Gbps×8ポートをカバーするMaxlinear社のMxL86282C。Realtekのライバルとして、近いうちに搭載した製品が出てきて欲しいと思っている。
プラネックスを退職して2年以上経過した。少し前、プラネックスが10Gbpsのスイッチングハブを発表した際のSNSのコメントは、FX2G-05EMを発表したときのような辛辣なコメントは見られない。筆者の狙いどおり「良い製品を多くの人に使ってもらう」ことで、スイッチングハブにおけるプラネックスのブランドイメージは向上した。残念なのは営業リソースが弱く、実店舗でプラネックス製品を見ることはほぼない。FX2G-08EM2などの購入を検討している人はネット通販を利用していただきたい。
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