地図と位置情報
GPSの“19.6年問題”、4月7日に「週数ロールオーバー」が発生、古いGPS機器では不具合の可能性も
2019年3月14日 06:00
GPS衛星が発している電波には時刻情報が含まれており、GPS受信機は受け取った時刻情報をもとに時刻の表示や測位を行う仕組みになっている。来る4月7日、この時刻情報がリセットされることをご存じだろうか?
じつはこうした現象が発生するのは、GPSの運用開始後、2度目となる。前回の1999年8月のときには、カーナビなどでトラブルが発生したという。今や位置情報を把握するための重要な社会インフラとなったGPSは、ほとんどのスマートフォンでも標準的に利用されているわけだが、果たして今回、混乱は起きないのだろうか?
19.6年ごとに週番号が「1023」から「0」にリセット
GPSが発する時刻情報は、GPSの運用が開始された1980年1月6日を起点に、これを週番号の0と定めた上で、翌週は1、その次の週は2……100週後は100というようにカウントしている。ただし、週番号は10ビットしかないため、1023が上限となっており、1024週目は週番号が再び0に戻ってしまう。
週数がリセットされるこの現象は“ロールオーバー”と呼ばれており、1024週(約19.6年)の周期で行われる。前回のロールオーバーは1999年8月22日に発生し、この日のGPSの電波に含まれる週番号が0に戻ったため、GPS機器には1980年1月6日として認識されてしまった。このときは測量機器や車載カーナビで時刻が正常に表示されなかったり、測位が行えなくなったりと、さまざまなトラブルが発生した。
そして、この次にロールオーバーが起こる日時とされているのが、日本時間の4月7日8時59分42秒(協定世界時の4月6日23時59分42秒)である[*1]。米国政府GPS公式サイト「GPS.gov」のトップページでは、この日に向けたカウントダウン表示が掲載されている。
[*1]……切りのいい「0時00分00秒」でないのは、“うるう秒”による協定世界時とのズレが蓄積しているためだ。詳しくは、「みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)」公式サイトで掲載している「衛星測位入門」の2月25日付記事を参照してほしい。
発売から19.6年以上の製品では、“内部ロールオーバー”が起こるものも
1999年8月22日以降は、GPS電波で放送される週番号をそのまま取得しただけでは正しい現在時刻に変換できない――というこの問題を解決するため、例えば、GNSSチップ/モジュールや船舶用GPS機器を提供している古野電気株式会社(フルノ)では、受け取った週番号をあらかじめどの期間の時刻に変換するのかを設定。それをもとに、週番号を受信した日時に応じて1024単位の数字を加算することにより、正しい時刻に変換できるようにしている。
なお、フルノの製品の場合は、「受け取った週番号をどの期間の時刻に変換するのか」という設定が製品の発売時期によって異なる。これは、製品が発売された時期から1024週(約19.6年)の間に問題なく使えるようにするための措置だ。このため、GPS週番号のロールオーバーのタイミングである2019年4月7日をまたいでも、その製品が前回のロールオーバーである1999年8月22日以降に発売されたものであれば問題なく使用することが可能となっている。
ただし、製品発売時期から約19.6年が経過した場合は、GPS週番号のロールオーバーのタイミングとは関係なく、正しい時刻表示ができなくなる恐れがある。製品ごとに異なるこのタイミングのことを、フルノは“内部ロールオーバー”と呼んでおり、同社は製品ごとの内部ロールオーバー発生日時を文書にて公開している。
スマートフォンのGPSへの影響は?
フルノのほかにも、測量機器などを扱っているいくつかの企業はロールオーバーへの対策について発表しているが、カーナビなどの民生品については、この問題について報じている企業は少ない。
なお、大手GPS機器メーカーのGarminはこの問題について、「現段階では、製品への影響は認められていませんが、今後のチェックにより問題が発見された場合は迅速に対応する予定です」と発表している。
また、携帯電話キャリア各社にも問い合わせてみたところ、株式会社NTTドコモ、KDDI株式会社、ソフトバンク株式会社の3社からは、いずれも販売済みのスマートフォンやGPSケータイなどには影響がないという回答を得た。
前回のロールオーバーで混乱が起きた教訓を踏まえて不具合が起きないように対策している機器が多いが、それでも古いカーナビやGPS受信機などでは、この日以降に不具合が起きる可能性がある。そのような機器を使っている人は注意が必要だ。
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