地図と位置情報
街中の猫を撮影して図鑑化する地図アプリ「ロジねこ」~機械学習で「猫が住みやすい路地」を解析、AIで猫の種類判定も
オープンデータのコンテスト「アーバンデータチャレンジ」で見たジオな作品の数々
2020年4月2日 08:00
オープンデータによる地域課題解決をテーマとしてデータ整備や活用ツールに取り組むプロジェクト「アーバンデータチャレンジ(UDC)2019 with土木学会インフラデータチャレンジ2019」(主催:社会基盤情報流通推進協議会、公益社団法人土木学会、東京大学生産技術研究所、東京大学空間情報科学研究センター)のファイナルステージが3月14日、東京大学駒場第2キャンパスにて行われた。
同プロジェクトは、地方自治体やシビックテックコミュニティなどを中心に公共データを活用したコミュニティ作りを年間にわたって行う取り組みだ。そこから生まれたオープンデータやスマホアプリなどの活用ツールを表彰するコンテストも行われる。今回のファイナルステージでは、各地の拠点によるこれまでの活動の報告に加えて、コンテストの優秀作品も発表された。なお、同イベントは新型コロナウイルス感染症対策のため、基本的にはオンラインでの参加を推奨しつつ、現地会場での衛生管理を強化した上で規模を縮小して開催された。
UDCのコンテストは各地の地域拠点によって創出された作品だけでなく、一般からの応募も受け付けており、地図・位置情報関連の作品も毎年、数多く見られる。今回は、このイベントで発表された15作品の中から、金賞・銀賞・銅賞の各賞につき1作品ずつ注目作品を紹介する。
「路傍の石造物」を3Dモデル化してアーカイブ、博物館によるカプセルトイの製作・販売も想定
- 【金賞】石造物3Dアーカイブ(石造物3Dアーカイブプロジェクト)
身近にある路傍の石造物を、フォトグラメトリ(被写体をさまざまな角度から撮影して、その画像を統合して3DCGを作成する技術)によって3Dモデル化して、オープンデータとして保存するプロジェクト。寺社や路傍に存在する道祖神や庚申塔、道標などの石仏や石造物に、位置情報や地名、願主、主尊などのメタ情報を付与してウィキメディア・コモンズにて公開するとともに、その情報をウェブ地図(地理院タイル)上で公開している。背景地図は、現代地図だけでなく、明治期の地図にも切り替えられる。
ウェブ地図上のアイコンをクリックすると詳細情報がポップアップ表示。さらに3Dモデルをクリックするとウィキメディア・コモンズのサイトが表示され、3Dモデルを回転させながらさまざまな角度をから観察できる。拡大すれば石造物に刻まれた銘文を読むことが可能で、3Dモデルをダウンロードすることも可能だ。
3Dモデルをもとに3Dプリンターで出力することも可能で、手に持って石造物を観察できる。これをグッズ化して地域博物館でカプセルトイとして提供したりすることで、小さい子どもや、ふだん地域史に興味のない方でも手に取るようになり、石造物の調査・保護が進むことが期待される。
石造物3Dアーカイブのプロジェクトは、市民自ら歴史的資源の調査・保護を行うことを目指している。発表者として登壇した國學院大學文学部史学科の篠田浩輔氏は、「これまでも文化財保護法による発掘調査や、文化財指定などにより、歴史的資源は保護されてきましたが、これらは行政中心の取り組みでした。市民自らが地域の歴史を知り、歴史的資源を保護しなければ、このような資源は失われてしまいます。だからこそ、石造物3Dアーカイブでは、身近な石造物から地域の歴史的資源について学んでもらい、市民自ら調査・保護を行えることを目指しています」と語った。
不審者や事件・事故などの治安情報、1000種類以上の「アバター」で地図上に可視化
- 【銀賞】不審者・治安情報サービス「ガッコム安全ナビ」(株式会社ガッコム)
警察や自治体が公開する不審者や事件・事故などの治安情報を一括収集し、地図上に分かりやすく可視化するサービスで、1000種類以上のアバターによってどのような事件が起きたのかを直感的に把握できる。2016年12月にウェブ版、2018年12月にiOS版、2019年10月にAndroid版を提供開始した。
グラフや表で統計情報も公開しており、どの時間帯が危ないかを調べられるほか、服装や容姿、時間帯など豊富な条件を指定できる強力な検索機能も搭載している。エリアについても学区や距離を指定することで自分の生活圏の情報だけを絞り込むことが可能。プッシュ通知で新着情報をキャッチできる。利用者の投稿機能も搭載しており、新たな治安情報をユーザー同士で共有できる。また、英語に対応しており、訪日外国人も利用可能だ。
現在は47都道府県において「不審者」「声かけ」「ひったくり」「子ども被害」「落書き」「動物」など31種類の事件に対応しており、掲載事件数は40万に上る。今後はサービスの認知度向上を目指すとともに、自治体が保有する治安情報のオープンデータ化促進、PTAや自治会などとの連携やゲーミング要素の追加によるユーザー投稿の促進などに取り組んでいく方針だ。
株式会社ガッコムの代表取締役を務める山田洋志氏は、「警察や自治体も治安情報を発表していますが、フォーマットも場所もバラバラで、引っ越しをすると見つける先を変えなければなりません。また、発表内容も分かりにくく、情報に不要なものも含まれています。このような課題を解決するために作ったのが安全ナビです。安全ナビを通じて、地域の目で子どもを見守る社会を作っていけたらと思っています」と語った。
街中の猫を撮影して図鑑化する地図アプリ「ロジねこ」~機械学習で「猫が住みやすい路地」を解析、AIで猫の種類判定も
- 【銅賞】ロジねこ(ROJINECO PROJECT)
街中にいる猫を撮影して“ねこずかん”を作成できるウェブアプリ。機械学習により猫の住みやすい場所を解析するとともに、AIで日本猫の種類を判定することもできる。見つけた猫はTwitterに投稿することも可能だ。
同アプリでは、猫が住みやすい場所を、「道路が狭くて車が通れない、人が少ない昔ながらの街並み」であると考えて、国土数値情報をもとに幅員が3m未満の道路を抽出した“路地裏度”と、国土交通省土地総合情報システム(不動産取引価格情報取得API)とRESAS API(人口構成)を使って、平均築年数や人口増減を基準に算出した“ノスタルジー度”によって機械学習で判定する。なお、判定した結果が正しいかどうかを検証するため、実際に街に出て猫を探すフィールドワークも行った。
また、日本猫の種類については、ディープラーニングにより、「白猫」「クロネコ」「サビ猫」「トラ猫」「ブチ猫」の6種類で判定する。さらに、猫は神社や寺、公園などによくいるので、神社と寺の情報15万件と、公園情報1万5000件を地図上に掲載している。なお、背景地図にはインクリメントP株式会社が提供する「MapFan API」の「RPG風」デザインを採用しており、親しみやすい地図画面となっている。
同アプリは、飼い主のいない猫のためにエサ場やトイレを設置し、食べ残しや糞尿を片付けたり、里親を募集したり、不妊去勢手術を行ったりすることで、猫と人とが共生できる環境を整える「地域猫活動」の認知度の向上を目指して作成した。
発表者の青島英和氏によると、「まずは、地域猫活動に興味を持ってもらって、実態把握の手段として活用していくことを目指しています。アプリに投稿された写真や猫の種類、位置情報などは、オープンデータとして、地域猫活動のために公開します」と語った。
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INTERNET Watchでは、2006年10月スタートの長寿連載「趣味のインターネット地図ウォッチ」に加え、その派生シリーズとなる「地図と位置情報」および「地図とデザイン」という3つの地図専門連載を掲載中。ジオライターの片岡義明氏が、デジタル地図・位置情報関連の最新サービスや製品、測位技術の最新動向や位置情報技術の利活用事例、デジタル地図の図式や表現、グラフィックデザイン/UIデザインなどに関するトピックを逐次お届けしています。