地図と位置情報

Amazon、Meta、Microsoft、TomTomらが保有するデータを統合して地図データを整備――「Overture Maps」とは何か?

「トムトムテクノロジーブリーフィング2023」で説明

「トムトムテクノロジーブリーフィング2023」イベント会場

 オランダのTomTom(トムトム)が5月23日、顧客やパートナー企業、報道関係者などを対象としたセミナーイベント「トムトムテクノロジーブリーフィング2023」を都内で開催した。同社はグローバル向けに地図や位置情報データなどを提供する企業で、カーナビゲーションシステムの地図データなども提供している。

 TomTomは2022年11月、新たな地図プラットフォーム「TomTom Maps Platform」を2023年第2四半期に提供開始すると発表。続いて2022年12月には、Linux Foundationが設立を発表した団体「Overture Maps Foundation」に参加することを発表している。

 Overture Maps Foundationは、OpenStreetMap(OSM)などのオープンな地理空間情報データをベースに信頼性の高い地図データを開発することを目的としており、Amazon Web Services(AWS)、Meta、Microsoft、Esriなどが参加している。今回のイベントでは、TomTomが提供するビジネスの最新情報の1つとしてOverture関連の取り組みについても説明があった。

Overture Maps Foundation

複数の企業によるコラボレーションで地図を整備

 イベントの最初に登壇したのは、TomTomのCRO(チーフ・レベニュー・オフィサー)のマイク・スクーフス氏。スクーフス氏は、TomTomが22カ国でオフィスを構えるグローバルな地図会社であり、自動車メーカーや政府、テクノロジー関連企業、物流業など幅広い企業にビジネスを展開していることを紹介。地図制作では30年以上にわたる専門知識を持ち、7000万キロメートル以上に及ぶ道路データや5億以上の地点データ、位置情報データやナビゲーションサービスなどを提供している。

TomTomのCRO(チーフ・レベニュー・オフィサー)、マイク・スクーフス氏

 TomTomはOverture Maps Foundationへの参加により、これをベースとした新しい自社の地図プラットフォームを提供する予定で、今後はパートナーシップとコラボレーションによる地図制作を行う方針だという。

 「各企業が持つ独自データだけで地図を整備しようとすると、これからの時代は取り残されてしまいます。今後は複数の企業によるコラボレーションが必要となります」とスクーフス氏は語った。ただし、コラボレーションによって各社の地図が画一化されてしまうわけではなく、TomTomはその上に個々のサービスやAPI、ルーティング、トラフィックなどのサービスを追加することで独自性を追求する。「リッチなデータとベースマップ、そしてサービスを組み合わせることでわれわれは差別化を図っていきたい」(スクーフス氏)。

 一方、自動車関連のビジネスについては、EV化や自動化が進展するのにつれて高度なナビゲーションのニーズが高まっており、TomTomは昨年末に新しいナビゲーションSDKも発表した。さらに、EV用のルート案内や携帯電話と組み合わせたデジタルコックピットを提供しており、これを採用することで自動車会社はサブスクなど新しいビジネスモデルを実現できる。また、今後はAIによる会話型ナビゲーションも進化することが予想される。

 最近は自動車業界向けだけでなく一般消費者向けのユースケースも拡大しており、エンドユーザーにサービスを提供するとともにフィードバックも得ることでインサイトとして活用している。

IT大手各社が保有するデータを統合

 続いて登壇したのは、TomTomのバイスプレジデントでエンタープライズ製品戦略担当のラマチャンドラ・カラガ氏。カラガ氏は、地図データはよりグローバルかつリッチに、そして迅速に更新されることをユーザーは望んでおり、地図制作の技術もAIや機械学習、クラウドコンピューティングなどにより格段に進化しつつあると語った。

TomTomのバイスプレジデント/エンタープライズ製品戦略担当、ラマチャンドラ・カラガ氏

 また、スマートフォンやコネクテッドカーによって膨大なデータが集積されており、データの消費者は同時にデータのプロデューサーでもある時代となった。TomTomも大手テックカンパニーや自動車メーカーと協業して車載カメラやセンサーからさまざまなオブジェクトや道路標識などのデータを得ており、多様なデータを活用して価値を構築していきたいと語った。

 Overture Maps Foundationが開発中の新しい地図プラットフォームについては、OSMなどのオープンデータをベースに、TomTomが保有する国境・県境・市町村界データ、Metaが保有するPOIデータやMicrosoftが保有するフットプリント(建物の形)データ、そしてTomTomとAmazonが保有する道路形状データを統合することで、地図データの迅速な更新を実現する。

各社が保有するデータを統合して地図を整備

 そしてTomTom独自の新しい地図プラットフォームは、Overture Maps Foundationが整備する地図の上に、独自のPOIや住所、速度規制情報、車線情報などを追加し、その上にサードパーティー製のデータレイヤーや取引先企業のプライベートなデータレイヤーが載るかたちとなる。

OvertureのマップにTomTom独自のデータを追加

 Overture Maps Foundationによる地図整備の過程では、TomTomの地図制作のノウハウも活用して品質管理も行う。機械学習により品質チェックのシステムは継続して改善され、ソースに問題がある場合はフィードバックして次の品質チェックで再び改善が図られる。一貫性がなく正確さに欠けるデータの場合はブロックして、問題ないかどうかを確認することで地図の品質を担保していく。

地図データ整備の流れ

 品質チェックについては、「住所が正しいか」「位置情報は正確か」「誤差はどれくらいか」「ナビゲーションにおいて誤った誘導をしないかどうか」といった要素についても確認する。

オープンデータの活用により新規分野への投資が可能に

 今回はイベント開催に先立ってスフークス氏とカラガ氏から単独でコメントも得たので、その内容も紹介したい。まずはOverture Maps Foundationを設立した理由について。

 スクーフス氏は、「『よりリッチで、よりフレッシュで精度の高いマップを提供する』というTomTomのビジョンを叶えるために、1社単独による地図整備では難しいと判断しました。OSMなどのオープンデータを利用することで、ADASや自動運転、HDマップ、トラフィック情報など、新たな分野への投資にフォーカスすることが可能となります」と回答した。

 また、OSMのコミュニティに対してどのように貢献するか、という質問に対して、カラガ氏は「すでに2年以上前からOSMコミュニティとは積極的に連携してきました。Overture Maps Foundationで整備したデータについては、それをオープンにしていくことで、コントリビューションとしてフィードバックしていきたい。コミュニティのほうでは受け取ったデータを活用し、どのように地図データの整備に役立てるかはコミュニティが決めることになるでしょう。TomTomには30年間の地図制作の経験が蓄積されており、OSMのクオリティ向上や品質評価の面で寄与できます」と語った。

 Overture Maps Foundationは4月2日、初のオープンな地図データセットのアルファ版「Overture 2023-04-02-alpha」を公開した。このリリースでは、ボストンやシカゴ、サンタクララなど米国の主要都市3万4000平方マイルについて、600万を超える建物の高さデータが含まれている。データは、OSMに加えて米国地質調査所(USGS)の3D標高データやMicrosoftのフットプリントデータなどを組み合わせている。

 カラガ氏によると、Overture Maps Foundationの地図は6月に次のリリースを予定しているという。また、TomTomの新しい地図プラットフォームは8月に米国、英国、オランダで公開が予定されており、それ以外は2023年末となる予定。さらに、2024年にはより改善されたものが公開される予定だ。

従来のTomTomの地図(上)と、新しい地図(下)の比較
従来のTomTomの地図(左)と、新しい地図(右)の比較

引き続きロケーションサービスのイノベーションに注力

 今回のイベントでは、日本でのパートナー企業として、自動運転技術を開発する株式会社ティアフォーと、ITS関連技術を扱う住友電気工業株式会社による発表も行われた。TomTomは、ティアフォーには自動運転の基盤地図となるHDマップ、住友電工にはプローブデータを提供している。住友電工は、TomTomのプローブデータを活用して信号機の点灯時間を調整することで渋滞の緩和を図る研究を発表した。

株式会社ティアフォーとの協業
住友電気工業株式会社による実証実験。流入路によって渋滞の状況が異なる交差点においてプローブ情報をもとに信号時間を調整したところ、渋滞を緩和することに成功した

 また、展示エリアでは株式会社レスキューナウが提供する「レスキューWeb MAP」において、TomTomが提供するリアルタイム渋滞情報が採用されていることを紹介していた。

レスキューWeb MAP

 日本においては上記のように自動車関連でのビジネス関連が目立つTomTom。今回のイベントでは新たな地図プラットフォームだけでなく、車載用デジタルコックピットやナビゲーションサービスについてもアピールしていた。

 スクーフス氏はこの点について、「よりリッチで強固なデータ活用、そして使いやすいサービスの組み合わせは、われわれがこれから差別化していくために投資しようと考えている分野で、それによってさらなる地図やサービスの品質向上を図り、ユーザーエクスペリエンスを高めたものを顧客に提供していきたい」と語った。

 TomTomの日本営業責任者である田中秀明氏は閉会のあいさつとして、「TomTomは引き続きロケーションサービスのイノベーションに取り組んでいきます。新しい地図プラットフォームは、TomTomだけでなくパートナーと手を組んで提供していきたい。日本のお客様に対しても新しい地図や車載商品を提供したいと思いますので、よろしくお願いします」と語った。

TomTomの日本営業責任者、田中秀明氏

 オープンデータを活用し、地図プラットフォームの刷新を図ろうとしているTomTomが今後、どのような新しいサービスを日本で展開するのか期待したい。

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INTERNET Watchでは、2006年10月スタートの長寿連載「趣味のインターネット地図ウォッチ」に加え、その派生シリーズとなる「地図と位置情報」および「地図とデザイン」という3つの地図専門連載を掲載中。ジオライターの片岡義明氏が、デジタル地図・位置情報関連の最新サービスや製品、測位技術の最新動向や位置情報技術の利活用事例、デジタル地図の図式や表現、グラフィックデザイン/UIデザインなどに関するトピックを逐次お届けしています。

片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。