地図と位置情報

「JAXA Earth API」で地球観測データを容易に取得可能。QGIS用プラグインもあるので地図上への可視化も簡単にできる

位置情報技術のカンファレンス「MIERUNE MEETUP 2026 in Tokyo」より

宇宙航空研究開発機構(JAXA)地球観測研究センターの河村耕平氏

 オープンソースのGIS(地理情報システム)ソリューションを提供する株式会社MIERUNEは、位置情報技術をテーマとしたプライベートカンファレンス「MIERUNE MEETUP 2026 in Tokyo」を10月23日に都内にて開催した。この中から、宇宙航空研究開発機構(JAXA)による発表と、MIERUNEが10月14日にオープンソースで公開したQGIS用のAIエージェント「Mapsuke」について紹介する。

 MIERUNEはFOSS4G(地理空間情報に関連したオープンソースソフトウェア)のコミュニティから生まれた企業で、オープンソースGISソフト「QGIS」を活用したソリューションやQGIS向けクラウドサービス「Kumoy」などを提供しており、建設や運輸・交通、情報・通信、農業・林業など幅広い企業や官公庁、研究機関・大学の地図・位置情報関連のシステム開発やコンサルティングを手掛けている。MIERUNE MEETUPは同社の取り組みや最新の位置情報技術を紹介するイベントとして、札幌にて毎年開催しているほか、今回、東京で2024年以来2回目の開催となった。

 MIERUNE MEETUPでは通常、MIERUNEに仕事を依頼した企業や公的機関の担当者と、MIERUNE側の担当エンジニアの両者が登壇して事例紹介が行われる。今回も国土交通省やアジア航測株式会社、株式会社ゼンリンによる事例紹介が行われた。そのほかに、JAXAが2022年にプロトタイプを公開した地球観測データ提供サービス「JAXA Earth API」について、JAXA地球観測研究センターの河村耕平氏が解説。あわせて、MIERUNEの古川泰人氏(取締役 エヴァンジェリスト)がQGIS用の「JAXA Earth APIプラグイン」を自発的に開発した経緯について説明した。

「MIERUNE MEETUP 2026 in Tokyo」の会場

JAXAの地球観測データを簡単に利用できる「JAXA Earth API」

 JAXAは現在、9機の地球観測衛星を運用中で、これまで約30年にわたって陸域・海洋・大気に関わる膨大な地球観測データを蓄積してきた。このような地球観測データは、地殻変動の把握や水害時の降水分布・被害状況の監視、気候変動の監視などさまざまな用途に活用されている。しかし、既存のデータ提供サービスから地球観測データを使おうとすると、ファイル形式の多様さや前処理の必要性、大容量ファイルの処理が可能な高性能コンピューターの必要性、衛星運用に依存したデータ管理方法を理解する必要性など、異分野のユーザーにとっては多くの課題がある。そこでJAXAは、APIによるデータアクセスで利用可能な「JAXA Earth API」を提供することで地球観測データを容易に取得できるようにした。

「JAXA Earth API」の概要(画像提供:JAXA)

 JAXA Earth APIは、PythonとJavaScriptのモジュールを公開中だ。緯度・経度・日時などを指定することで、前処理が自動で実行されたあとの地球観測データに簡単にアクセスできる。利用可能な地球観測データとしては、地形や森林分布、植生分布、降水量、地表面温度、海面水温など約100件(期間別統計を含む)のデータセットを用意している。JAXAは同APIによって地球観測データをIT人材に対して開放することにより、開発効率の向上や異分野との連携、AIの活用促進などを目指している。

 既存サービスで公開されているJAXAの地球観測データをCOG(Cloud Optimized GeoTIFF)形式に変換してSTAC(Spatio Temporal Asset Catalogs)形式でカタログ化することで、必要となる緯度・経度・日時の範囲の必要なデータ部分のみをピンポイントに取得できるサービスを、静的なデータ配信のみで実現している。静的なデータ配信のみのためサーバー運用コストが安価で、AIが頻繁にアクセスを繰り返しても処理待ちになることがない。コマンドライン上でのプログラム実行だけでなく、さまざまな環境やツールと組み合わせて実行可能で、アプリケーション開発も行える。ユーザー登録は不要で利用回数制限もなく、商用利用も可能とのことで、現在は毎月数万アクセスを維持しているという。

「JAXA Earth API」で利用可能なデータ(画像提供:JAXA)

 河村氏はJAXA Earth APIの活用例として、縄文時代の海岸線に似た状況を再現できる海面上昇シミュレーターや、エルニーニョ現象の確認処理などを紹介した。同APIの機能を呼び出すMCPやAgent Skillsを構築することで生成AIとの連携も可能となり、例えば「JAXA Earth APIのスキルを利用して、現在のエルニーニョ現象の発生状況を確認して報告書にまとめてください。時系列のグラフと観測結果の画像も示してください」と依頼することで、AIがサンプルコードをもとにプログラム作成やエラー修正などを自動で行って画像を作成し、20ページものレポートをまとめることもできる(2026年9月時点、Claude Opus 5を利用)。

エルニーニョ現象の確認(画像提供:JAXA)

「JAXA Earth API」のリリースから2週間後に、QGISプラグインが登場

 このJAXA Earth APIで利用できるデータをQGISから検索・閲覧できるプラグインが「JAXA Earth APIプラグイン」だ。このプラグインは、JAXA Earth APIが公開されてからわずか2週間後に、MIERUNEが公開したもの。JAXAが開発を依頼したわけではなく、MIERUNEがオープンイノベーションの取り組みとして自発的に行ったものであり、これまで2万回以上もダウンロードされているという。

 河村氏はJAXA Earth APIのリリース当時、反響をSNSで調べていたところ、MIERUNEがプラグインを公開したというプレスリリースを発見。「なるほどQGISプラグインにすればいいのか」と、JAXA独自では全く想定できなかった応用方法に衝撃を受けたという。河村氏は「(このプラグインは)APIとしてデータ提供することで異分野にバリューチェーンがつながっていくということを実践してくれたベストプラクティスだと思います」と語る。

 河村氏は、MIERUNEが先日リリースしたQGIS用のAIエージェント「Mapsuke」を使って富士山の地形データの表示を自然言語で指示し、そのうえで「JAXA Earth APIの地表面温度を重ねて表示してください」と指示したところ、自動的にJAXA Earth APIのデータを探して表示する処理が行われたという。河村氏はこの結果に対して、Python APIモジュールのインストールなどの事前準備なしで、素のAIでここまで実行できたことが衝撃だったとして、今後も“素のAI”がJAXA Earth APIを自動的に見つけてデータを使ってくれるようになるためにはどうしたらいいかを検討していくと語った。

 これに対してMIERUNEの古川氏は、プラグインの公開当時を振り返り、以下のように語った。

 「JAXA Earth APIが公開されて『これは良い』『すばらしい』と思ったので、これをどうすれば皆さんが簡単に使えるだろうかと社内で話し合ったところ、オープンソースということもあり、QGISを使ってGUIで衛星データを可視化できるプラグインを作れば、マウス操作だけで宇宙のデータがすぐ取れると思いました。『どうすれば良いデータを使えるようにできるか』と話し合えるスタッフがそろっていて、開発に積極的なカルチャーを持っていることは当社の資産だと思います。AIの時代はきちんとしたデータを使わないときちんとした結果が出ないので、当社は『良いデータを世界に還元しよう!』ということを常々考えています。」

「JAXA Earth APIプラグイン」の紹介記事(QGIS LAB)
「Mapsuke」で富士山周辺の地形データと地表面温度を重ねて表示(画像提供:JAXA)
株式会社MIERUNEの古川泰人氏(取締役 エヴァンジェリスト)

QGIS用のAIエージェント「Mapsuke」のデモを実施

 MIERUNE MEETUP 2026 in Tokyoのテクニカルセッションでは、MIERUNEのCTOを務める井口奏大氏が登壇し、MIERUNEの技術領域やAIとの向き合い方について解説するとともに、リリースしたばかりの「Mapsuke」のデモも行った。Mapsukeは、QGISを自然言語によるチャットで操作可能にするためのプラグインであり、QGIS公式プラグインリポジトリから無料でインストール可能。CodexまたはClaude CodeをQGISに接続して利用できる。

 QGISに追加したプラグインのプロセシングツールはそのままAIエージェントの道具になり、複数のプラグインを呼び出す処理も1つの指示で進められる。また、組み立てた処理を再利用可能なツールとして保存することも可能だ。今回のデモでは、「千葉県のバスデータを可視化して」と指示することで自動的にGTFSデータを取得し、地図上に路線を可視化するプロセスが紹介された。井口氏はMapsukeの活用法として、座標のない図面に地理情報を付与する「ジオリファレンス」や、GISデータの分析レポートの作成などを挙げたうえで、QGISを起点としたAI活用を参加者に呼び掛けた。MIERUNEが運営するQGISの総合情報メディア「QGIS LAB」では、Mapsukeを使ってAIエージェントを操作する方法を学べる研修なども行う予定としている。

株式会社MIERUNE CTOの井口奏大氏
「Mapsuke」を使って千葉県のバスデータを可視化

“地図好き”なら読んでおきたい、片岡義明氏の地図・位置情報界隈オススメ記事

INTERNET Watchでは、2006年10月スタートの長寿連載「趣味のインターネット地図ウォッチ」に加え、その派生シリーズとなる「地図と位置情報」および「地図とデザイン」という3つの地図専門連載を掲載中。ジオライターの片岡義明氏が、デジタル地図・位置情報関連の最新サービスや製品、測位技術の最新動向や位置情報技術の利活用事例、デジタル地図の図式や表現、グラフィックデザイン/UIデザインなどに関するトピックを逐次お届けしています。

片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。著書・共著書に「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」、「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」などがある。2026年4月24日に最新刊「位置情報がつくる未来ビジネス」発売。