地図と位置情報
近年ダウンロードが増加している無償の「国土数値情報」って何? AIの精度アップに活用できる?
位置情報技術のカンファレンス「MIERUNE MEETUP 2026」より
2026年7月8日 06:55

株式会社MIERUNEが6月4日、位置情報技術をテーマとしたプライベートカンファレンス「MIERUNE MEETUP 2026」を札幌で開催した。その中から、国土交通省の担当者による「国土数値情報のこれまでとこれから」と題した基調講演と、MIERUNEが新たに発表した買い切り型の地図データ「MIERUNE地図タイル」について紹介する。
MIERUNEは地理空間情報に関連したオープンソースソフトウェア(FOSS4G)のコミュニティから生まれた企業で、2016年に札幌市内でスタートし、現在は30人を超える社員が所属している。同社のビジネスは、オープンソースGISソフト「QGIS」などGISを活用したソリューションの提供、QGIS向けクラウドサービス「kumoy」、昔の地図を現代風デザインで再現した「れきちず」などの事業で構成。建設・測量、運輸・交通、情報・通信、農業など幅広い分野の企業や官公庁、研究機関・大学に対して、地図・位置情報関連のシステム開発やコンサルティングを手掛けている。MIERUNE MEETUPは、同社の取り組みや最新の位置情報技術を紹介するイベントとして毎年開催しているものだ。
1974年から整備・無償提供、古いデータにも価値。「道路データ」は30年ぶりに更新
基調講演は国土交通省の諏訪浩一氏(政策統括官付地理空間情報課 課長補佐)が登壇し、「国土数値情報のこれまでとこれから」と題して講演を行った。
国土数値情報とは、国土交通省が国土に関する基礎的な情報を全国統一的なフォーマットで整備し、無償で提供しているGIS(地理情報システム)向けのデータで、1974年から整備が開始された。
データの種別としては、土地利用や行政地域、公共施設、災害リスク、公共交通、水域・地形、都市計画、地価、将来人口推計など多様な分野のデータが約190種類整備されており、「国土数値情報ダウンロードサイト」からダウンロードできる。諏訪氏によると、中には整備・更新が続けられていないデータが存在するものの、古いデータを現在も入手可能としていることにも一定の価値があると考えているという。
国土数値情報は近年、ダウンロード数が伸びており、過去16年間で約5倍に増えて2025年度は270万件となっている。中でも最も多くダウンロードされているのが「行政区域」のデータで、GISユーザーの多くが利用しているという。また、全国の土地利用の状況(田、その他の農用地、森林、荒れ地、建物用地、幹線交通用地、湖沼、河川など)について100mメッシュで区分した「土地利用細分メッシュ」も国土数値情報の代表的なデータの1つとしてダウンロード数が多い。
道路のデータについては、高速自動車国道や一般道路、都道府県道、市町村道など全国の道路中心線の位置(線)と道路分類や幅員区分などの属性を整備したデータを2024年度および2025年度に、およそ30年ぶりに整備し、2026年4月1日に公開。こちらも多くダウンロードされた。このほか、近年は災害・防災データのダウンロード数も大幅に増加している。
シミュレーションモデルの“エッセンス”に。AIの精度アップへの活用も
国土数値情報の活用事例としては、以下のようなものがある。
- 国勢調査や医師・歯科医師・薬剤師の統計データと国土数値情報の医療圏等データを組み合わせて医師の偏在を可視化
- 災害リスクエリアへの人口集中や気候変動の影響について可視化・分析
- 土地利用データや建物データを活用して太陽光発電の評価対象となる場所を評価
- 土地利用細分メッシュデータを活用して森林や河川等の自然関係の面積割合の変化を分析
- 災害対策・支援チームの現状把握ベースマップに活用
- 気象予報サービスや防災サービスで発信する災害リスク情報や避難場所情報に活用
- 不動産検索サイトにて提供されているハザード情報に活用
- 医療機関データや福祉施設データ、南海トラフ地震の被害想定などを組み合わせて医療機関の浸水リスク想定を分析
- バスルートの新旧データを重ね合わせて定期運行路線の減少状況を可視化
- 人口集中地区や地価公示、用途地域などのデータを使って立地評価
国土交通省は、地理空間情報とAIを組み合わせた“ジオAI”によるデータ整備の効率化や可視化・分析の容易化・高度化、政策を検討する上での予測・提案などに活用することを検討している。国土数値情報についても、土地利用データ整備においてAIを活用することで目視判読回数を低減し、コスト削減を図るための手法検討を2024~2025年度に実施している。また、民間企業の中には衛星データを活用したシミュレーションにより災害検知に取り組んでいる企業もあり、そこにも国土数値情報が活用されている。
諏訪氏は「国土数値情報がシミュレーションモデルの主役になることはあまりないですが、何らかのシミュレーションを行う際に国土数値情報を“エッセンス”として加えていただくと、より精度が上がる事例は多くありますし、オープンに公開されているものからクローズドで行われているものまで、国土数値情報がAIの精度を上げるために活用されるケースは今後増えていくと思います。今後もAI活用の広がりを踏まえて、国土や地域に関する多様な主体によるコミュニケーションを下支えするデータとしてしっかり整備・更新を進めていきたいと思います」と語った。
「国土数値情報ダウンロードサイト」使いやすく改良
諏訪氏に続いて、MIERUNEのプリンシパルエンジニアリングマネージャーを務める西尾悟氏が登壇し、国土数値情報に関するMIERUNEの取り組みを紹介した。
西尾氏は、近年、防災意識の高まりや技術の進歩などによりGISが普及している中、地理空間情報の活用を下支えしているのが国土交通省などの行政機関が整備する公共データであり、ジオAIの取り組みが進められる中、メタデータの統一化や良好な検索性、プレビュー環境や外部連携の機能を備えた、人間やAIが使いやすい公共データ基盤の整備が重要になると語った。
一方、これまでの「国土数値情報ダウンロードサイト」は使いやすさに課題があり、これに対してMIERUNEは2025年度に同サイトのモダン化および機能改善に関わる調査業務に取り組んだという。その結果、「目的のデータまで何度も画面遷移する必要があり動線が長い」「条件検索や絞り込みが弱く検索性に難がある」「地図上で中身を事前確認して判断しづらい」「UIが古い」「改修コストが大きく容易に改善できない」といった課題があることが分かった。MIERUNEは国土数値情報を利用するユーザーにアンケートを行い、「どのような検索機能があれば使いやすくなるか」「どのような情報を事前に閲覧できると使いやすくなるか」といった質問を行って利用実態と課題を収集した。また、国内外の地理空間データのダウンロードサイトの事例も調査した。
その上で、2025年度は、モダン化された国土数値情報ダウンロードサイトについて、まずシステム構成図や機能一覧を作成して全体像を可視化し、それを土台にウェブサイトのスリム化・改善検討を進め、ウェブサイトの画面イメージを作成した。2026年度はこれらの成果を踏まえ、より安定的・持続的なデータ提供基盤を目指してガバメントクラウドへの移行とデータ変換パイプラインの構築に取り組んでいる。西尾氏は最後に、「公共データ基盤としての国土数値情報を、より使われ続けるかたちに作り直していきたいと思います」と締めくくった。
セルフホストを想定した買い切りの地図タイル、MIERUNEが提供開始
閉会あいさつに登壇したMIERUNE取締役の森亮氏は、「われわれのチームはけっして停滞することなく変化に応じてさらに進化していくカルチャーを持っており、これはずっと変わらないと思いますので、皆様と一緒に進化していきたいと思います」と述べた上で、“one more thing”として新しい地図データ製品「MIERUNE地図タイル」の提供開始を発表した。
MIERUNE地図タイルはクラウドでの提供ではなく、セルフホストを前提とした日本仕様の地図タイルで、企業や官公庁の閉域網でも利用できる。データ内容は月次で更新される。地図タイルのデザインはカートグラファーでもある森氏が自らスタイルを描き下ろし、アイコンは江戸時代の歴史地図を現代風デザインで提供する「れきちず」を手掛けたMIERUNE所属デザイナーの加藤創氏が担当した。
デザインは「Streets」「Gray」「Dark」の3パターンを用意しており、MIERUNEのウェブサイトで閲覧可能だ。ベクトル形式での提供となり、3D表示にも切り替えられる。価格は全球版の買い切りの場合は60万円で、データ更新が年額30万円。日本版の買い切りが30万円、データ更新は年額20万円(全て税別)。なお、顧客からの要望によりラスター形式での提供にも、追加料金は発生するが対応可能となっている。
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INTERNET Watchでは、2006年10月スタートの長寿連載「趣味のインターネット地図ウォッチ」に加え、その派生シリーズとなる「地図と位置情報」および「地図とデザイン」という3つの地図専門連載を掲載中。ジオライターの片岡義明氏が、デジタル地図・位置情報関連の最新サービスや製品、測位技術の最新動向や位置情報技術の利活用事例、デジタル地図の図式や表現、グラフィックデザイン/UIデザインなどに関するトピックを逐次お届けしています。















