被害事例に学ぶ、高齢者のためのデジタルリテラシー

騙されないように注意!

旅行用にバッグを購入…のはずがショッピング詐欺を仕掛けられて10万円オーバーの金銭被害

 筆者の所属するNPO法人DLIS(デジタルリテラシー向上機構)にはネット詐欺などの被害に関する相談が日々寄せられます。今回、ショッピング詐欺に関する報告がありましたのでご紹介します。

 被害者のAさんは、旅行用のショルダーバッグを2万円で購入しました。旅行に行く日までに余裕を持って購入したのですが、商品が届かず出発準備に間に合わないので、メールで販売元に問い合わせたそうです。

 すると、「在庫がないので、PayPayで返金する」とLINE IDを伝えてきました。仕方がないので返金してもらおうとLINEで連絡を入れると、今度はPayPayのアカウントを登録するように指示されました。AさんはPayPayを利用していなかったのですがアカウントを登録。その後、返金するにはさらに銀行口座を登録をして認証するように言われました。

 手続きが完了したことを伝えると、返金手続きについて解説するということでLINE通話がかかってきました。相手は片言の日本語を話す外国人だったそうです。

 URLが送られてきたので開いたところ、電子マネーの「ビットキャッシュ」に10万円を支払う画面が開きました。「これは支払いの画面ではないのか」と聞いたところ、「大丈夫です、これで認証されます」と言うので、指示に従うと支払い完了の画面が現れました。

PayPayの送金用URLで操作するように指示されます

 支払ったことになっていることを伝えると、「何か間違えたボタンを押したのではないですか? もう1回返金のURLを送るから再度同じように操作してください」と言われ、新たに10万円の送金URLが送られてきました。

 ここで何かおかしいと感じ、銀行口座のお金を別の自分の口座に移して、残高を空にしようと考えました。しかし、相手は「今、他の口座にお金を移そうとしていますね、それをすると返金できませんよ」と言ってきました。

 LINE通話を始めた段階で相手の言われるがままに操作を行っていたため、Aさんはスマートフォンの画面を相手に共有していたことに気付きます。

 Aさんは「これ詐欺ですよね? 押したらさらに10万円が取られますよね?」と伝えたところ、相手の態度が豹変し、「返金すると言ってるのに指示通りやらないし、口座に残高あるのにないとか言うし、そっちが詐欺だろうが!」と逆切れしてきました。

 ネット詐欺に遭ったことを理解したAさんは、「今回の12万は勉強代だと思って諦めますが……」と言うと、相手は「あなた今、諦めると言いましたね。警察に言って被害届とか出しても無駄ですよ。こっちは全部録音してますから!」と、警察に言わないように釘を刺そうとしてきます。そして、「お前の方こそ口座に金あるのにないとか嘘ついて天罰下るぞ!」と捨て台詞を吐き、電話を切られたそうです。

 結果的に、バッグの2万円とPayPayで送金した10万円で合計12万円の金銭被害に遭いました。全額を犯人から取り返すことはほぼ不可能です。この手のネット詐欺は多く、弁護士に相談すれば、一部返金されることはありますが、10万円程度では依頼費用で赤字になってしまうので、泣き寝入りになる可能性が高いでしょう。

 Aさんから提供されたショッピングやLINEの履歴を元に分析してみましたが、最初に怪しむべきはショッピングの際の支払い方法でした。振込先が個人名義の銀行口座だったのです。安いから、レアだからと言って、怪しいショッピングサイトから購入するのはリスキーです。特に、クレジットカード払いでなく、個人名義への銀行振り込みの場合は、ネット詐欺の可能性が高いので要注意です。

支払先は個人名義の銀行口座でした(画像はイメージとして筆者が作成)

 AさんはPayPayでの送金に誘導されたましたが、相手は日本語のアプリ画面を使ったマニュアルまで用意していました。本人確認や銀行口座との連携操作を優しく説明し、その場でお金を取ろうと本気になっているのです。PayPayではウェブページ「送る・受け取る機能やATMでのチャージを利用した詐欺について」にて注意を促していますが、PayPayを使ったことがないのであれば、知る由もありません。

 10万円の支払い画面が出たときには、怪しいと思うべきですが、電話でつながってしまっているので、急かされれば焦ってしまうかもしれません。

 この手の詐欺は事例を知っていれば避けられます。しかし、知らないと自分からネット詐欺師に連絡してしまい、さらなる詐欺に遭ってしまう可能性が出てきます。ネットショッピングをする際は大手ショッピングサイトで購入することや、振込先が個人名義の銀行口座の場合は注意すること、見知らぬ人とPayPayの残高のやり取りをしない、といった基本の自衛策を忘れないようにしましょう。

あなたの両親も“ネット詐欺”の餌食になっているかもしれません――その最新の手口を広く知ってもらうことで高齢者のデジタルリテラシー向上を図り、ネット詐欺被害の撲滅を目指しましょう。この連載では、「DLIS(デジタルリテラシー向上機構)」に寄せられた情報をもとに、ネット詐欺の被害事例を紹介。対処方法なども解説していきます。

「被害事例に学ぶ、高齢者のためのデジタルリテラシー」の注目記事

高齢者のデジタルリテラシー向上を支援するNPO法人です。媒体への寄稿をはじめ高齢者向けの施設や団体への情報提供、講演などを行っています。もし活動に興味を持っていただけたり、協力していただけそうな方は、「dlisjapan@gmail.com」までご連絡いただければ、最新情報をお送りするようにします。

※ネット詐欺に関する問い合わせが増えています。万が一ネット詐欺に遭ってしまった場合、まずは以下の記事を参考に対処してください
参考:ネット詐欺の被害に遭ってしまったときにやること、やってはいけないこと