関連記事インデックス

いよいよ市場も本格始動か~“電子書籍”で振り返る2012年

 2010年にシャープとソニーが国内電子書籍市場に参入して“電子書籍元年”と話題を呼んだものの、2011年にはいったん落ち着いた感のある電子書籍市場。大きく動いたのは、やはりAmazonの参入だろう。2012年に入って6月にAmazon.co.jpがサイト上で「Kindle」の近日発売を予告し、それを追うように同じ6月、楽天が「kobo」の発売を楽天サイトで予告した。

 製品発売時期では楽天が7月、Amazon.co.jpが11月に国内製品を投入。楽天は2011年に買収したカナダKobo社の既発売モデル、Amazon.co.jpは米国で発表済みのモデルを投入した形だ。いずれも大きな話題となり、それぞれの顧客で電子書籍の購入者層を広げた。

Amazon.com Kidleデバイス事業部バイスプレジデントのデーヴ・リンプ氏
楽天会長兼社長の三木谷浩史氏

良くも悪くも話題になった、普及の立役者「楽天kobo」

 ネット流通最大手として、参入時期が注目されていたAmazon.co.jpと楽天だが、電子書籍リーダー端末の発表と発売は楽天の方が早かった。楽天は「kobo Touch」を7月2日に発表、7月18日に発売した。発売前日には三木谷浩史社長が自ら丸善店頭で来店者にkobo Touchを売り込むという力の入れようだった。楽天は2011年11月にカナダのKobo社買収を発表しており、kobo社を通してワールドワイドのコンテンツホルダーや専用端末の小売業者などとのネットワークも手に入れている。三木谷社長はKoboの発表会で、「日本の優れた文化を海外に広めたい」として、日本のコンテンツ市場を楽天グループの販売網を通じてワールドワイドに展開する手助けがしたいと強調した。

 楽天koboは7000円台という、それまでの電子書籍端末の価格と比較すると大幅に安価な1万円を切る価格付けを行い、発売キャンペーンでの特典やポイントを使ってさらに低価格で購入できるとあって、電子書籍リーダー端末市場の拡大に貢献した。しかし、購入者層が広がり、デジタルガジェットの扱いに慣れていない層も購入したことで、初期設定がわからないというユーザーも多く、初心者に配慮したマニュアルがないと批判もされた。楽天ではこうした批判を受け、11月発表の「kobo glo」「kobo mini」では手順をわかりやすく説明するマニュアルを添付している。

 また、楽天が当初発表していたサービス開始時の日本語書籍点数は3万点だったが、実際のサービス開始時には約2万点だったことや、ジャンルの分類がきちんとなされておらず、楽譜や、後にはWikipediaの著者紹介までが1冊の書籍として公開されたことで、「点数水増し」との批判も受けた。

評判も上々、安定したスタートを切った「Kindle」

 一方、Amazon.co.jpは6月のサイト予告から4カ月あまり経過した10月24日、ようやくKindle端末の日本国内販売を発表した。発表したのは、「Kindle Paperwhite」、それに無料の3G通信回線が入った「Kindle Paperwhite 3G」、7インチのカラー液晶を搭載し、Android OSをベースとしたタブレット端末「Kindle Fire HD」「Kindle Fire」の4モデル。Amazonでは日本国内での販売数などは非公表だが、Amazon.co.jpでの様子やネットでの評判を見る限り、モノクロ電子ペーパー搭載で3G通信が無料利用できる「Kindle Paperwhite 3G」が人気のようで、12月25日現在でも2~3週間待ちとなっている。

 KindleはAmazon.co.jpで購入した場合、購入ユーザーのIDが紐付けられた状態で届くため、3G回線が利用できるKindle Paperwhite 3Gでは設定はほぼ不要で使い始められる。ケーズデンキ、ビックカメラなど店頭販売も行なっているが、端末の使い勝手については、2007年に初代Kindleを米国で発売してから5年も手がけているだけあり、ユーザーからは大きな不満は上がっていないようだ。

 しかし、タイトルは12月10日時点で日本語タイトルが約6万点と、先行するReader Storeやkoboイーブックストアが7万5000点前後、最も扱い点数が多いBookLive!の約10万点であるのに比べると、若干ではあるが数字の上で見劣りする。雑誌などの定期刊行物も含め、今後の充実が期待される。

“電子書籍元年”ブームの立役者、シャープとソニーはアプリで市場拡大を図る

 2010年に電子書籍市場に参入し、“電子書籍元年”とマスコミでも大きく取り上げられブームを作ったのがシャープとソニーだ。シャープは2012年には新端末はリリースしていないが、GALAPAGOSのiOSアプリを8月に提供開始、サービス利用が可能な端末数を大きく拡大した。

 ソニーは今年9月にも電子書籍リーダー端末「Sony Reader」の新製品「PRS-T2」を投入したが、楽天koboやAmazon.co.jpの参入で、2011年発表の3G/Wi-Fi対応端末「PRS-G1」を直販サイトで1万800円に値下げするなど、低価格化する市場への対応を迫られた。Reader Storeは現在までiOSアプリはリリースしていないが、10月にPlayStation Vitaとソニー製品以外のAndroid端末で利用できる電子書籍アプリ「Reader」の提供を開始した。

AppleとGoogleも日本市場に本格参入

 コンシューマーのクラウドサービスで世界的シェアを競うAppleとGoogleもそれぞれ電子書籍サービスを持っており、2012年に日本市場に本格参入した形だ。Appleは10月に「iPad」新モデルと「iPad mini」を発表したが、同時にiOS用電子書籍アプリ「iBooks」の新版を発表。日本語の縦書にも対応した。グローバル市場では電子書籍ですでに一定のシェアを持つAppleだが、日本市場でのビジネスは始まったばかり。しかし、iPhoneとiPadを持ち、iTunesという決済手段に慣れた多数のユーザーを抱えるだけに、今後Appleがどのくらいコンテンツ充実に注力するかにもよるが、大きなシェアを握る可能性がある。

 GoogleはiPad miniの発表より1カ月ほど先行して、9月に自社のAndroid OS搭載タブレット端末「Nexus 7」を日本市場に投入。同時にGoogle Playに書籍ストアを設け、日本でもGoogle Playによる電子書籍販売をスタートした。Nexus 7はTegra 3クアッドコアCPUと1280×800表示のIPS液晶、16GBメモリを搭載して1万9800円という値ごろ感から、発売当初は店頭分は完売、ネット販売でも入荷まで数週間待ちとなるなど人気を集めた。また、11月には10型タブレット「Nexus 10」を3万6800円で発売したが、日本では値ごろ感やサイズから、Nexus 7に人気が集中しているようだ。

 なお、図書館プロジェクトで、著作権者の承諾を得ずに書籍をスキャンしたことから世界で多くの訴訟を抱えることになったGoogleは、10月に米国出版社協会(AAP)と提携図書館の蔵書をスキャンして検索可能とする「Google Library Project」をめぐる訴訟で和解。しかし、この和解についてAuthors Guildは「Googleは依然として、許諾を得ずにスキャンした数百万の書籍から利益を得ており、我々の集団訴訟は継続される」とするコメントを発表するなど、一連の訴訟問題はまだ決着を見ていない。出版社が(著作者から委任を受けて)出版に関わる著作隣接権を握る米国と違い、日本では作者が著作隣接権も含めて著作権を保持しているため、Googleが一部の著作権者に根強く残る不信感を払拭できるかが、今後Googleの電子書籍ビジネスに影響してくる可能性もある。

品ぞろえでリードするトッパングループ「BookLive!」が専用リーダー端末発売

 株式会社BookLive自体は、2011年1月に設立された新しい会社だが、凸版印刷株式会社から2005年に分社化して設立された国内最大級の電子書籍取次会社ビットウェイを親会社に持つ、トッパングループの企業だ。印刷会社としてほとんどの出版社との長い取引関係で培った信頼関係をもとに、12月6日現在で約11万冊というコンテンツ数は、同時期の比較ではKindleの約6万点、楽天のkoboイーブックストアの約7万5000点というネット流通大手も引き離している。対応プラットフォームもWindows OS、iOS、Android OS、Windows Phoneと最も幅広い。

 そのBookLiveが12月に専用のリーダー端末を発売。書籍に親しみ、パソコンやタブレットなどの情報機器にはあまり馴染んでいない中高年をメインターゲットとしていることから、「メニュー」など日本語の印字された機能ボタンを備える。また、WiMAX通信機能を内蔵し、通信費無料。初期設定不要ですぐ使い始められるのも特徴だ。BookLiveでは自社の専用リーダー端末は初めての試みとなるが、ターゲット層から三省堂書店店頭などでの展開を行なっており、これまでネットユーザーを中心に展開してきた電子書籍市場に、新たな顧客層を呼び込めるかが注目される。

iOS、Android OSアプリへの対応が進む~ライトユーザーの主戦場はスマホ、タブレットへ

 主要な電子書籍リーダー端末およびタブレットのベンダーを中心に2012年を振り返ったが、5インチクラスのディスプレイを採用したスマートフォンの増加やタブレット端末の普及により、専用リーダー端末からスマートフォン、タブレットが電子書籍を利用するライトユーザーにとってメイン環境になるとみられている。

 電子ペーパーは自発光する液晶に比べ目の疲れが少なく、低消費電力で電池の持ちが良いなど優れた点も持つ一方で、モノクロ表示であること、画面書き換えの遅さ、残像が残るため一定ページごとに白黒反転による画面のリフレッシュが必要なことなど技術的なネックも多い。ソニーなどは当初から多読家がターゲットと明言しているが、スマートフォンやタブレットの普及により、電子書籍や自炊派など専用リーダー端末はよりヘビーユーザー向けに進化していくものと考えられる。

 電子書籍は、紙の書籍よりも低価格で販売されることが多くなっているが、紙の書籍は家族で1人購入すれば家族全員が読め、購入後の譲渡や古本屋への売却も可能で「所有」であるのに比べ、電子書籍はリーダーアプリなどと合わせて提供され、DRMがかかり譲渡もできないなど、利用者からすると「使用権」を買うという感覚に近い。

 最近では栗本薫の小説「グイン・サーガ」シリーズやマンガ「こちら葛飾区亀有公園前派出所」など100冊を超えるシリーズの一括販売も行われており、こうしたシリーズの一括購入は万単位の出費となる。まずコンテンツがなければ購入できないため当然ながら品ぞろえが第一ではあるが、何万円ものシリーズをセット買いするかの判断には、サービスの継続性や使い勝手が決め手となってくる。

 10月にはNTTぷららも電子書籍市場への参入を発表。ドコモ、au、ソフトバンクなど携帯通信事業者はフィーチャーフォンの時代から電子書籍販売を手がけているが、今後はプロバイダーやヤフーをはじめとした大手ポータルサイトなど、多数の課金会員を抱えるサービスプロバイダーおよびコンテンツプロバイダーは、自社でシステム開発するかどうかは別として、ほぼもれなく電子書籍販売を手がけてくると考えられる。

 プレーヤーが増えることで、現在は1ユーザーアカウントへの紐付けが当たり前だが、たとえば2人で読むためのサービスが提供されるなど、さまざまな用途に応じたサービス、使い勝手の向上登場に期待したい。

編集部