地図と位置情報

Google Maps Platform、月200ドルの一律無償利用枠を廃止。3月1日より料金体系が大幅改定

無償枠はSKUごとに設定~従来よりも利用コストが上がる? 下がる?

 地図を使ったウェブサービスやスマートフォンアプリで見る機会の多いGoogle マップ(Google Maps)。サイト訪問者やアプリユーザーはあまり意識しないかもしれないが、実はこれらの地図はGoogleが必ずしも無料で提供しているわけではない。というのも、Google マップを使ったウェブサイトやアプリを提供するには、それらを開発するための地図配信サービス「Google Maps Platform(GMP)」の利用契約を、サービス/アプリの提供事業者がGoogleまたはGoogle Cloud パートナー(代理店)と結ぶ必要があるからだ。

 GMPは地図表示や施設検索、ルート検索などさまざまな地図関連の機能を実現するためのSDK(ソフトウェア開発キット)やAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を集めた機能/サービス群の総称であり、これらのSDKやAPIを使って開発されたサービスでは、サイト訪問者やアプリユーザーからのアクセス数(APIのリクエスト回数)に応じて提供事業者が料金を支払う必要がある(一部で無料の機能もあり)。ただし、現状のところ一定額までは無料で利用可能となっている。

 このGMPの料金体系が2025年3月1日より大幅に改定されることになった。Google Cloud プレミア パートナーの株式会社ゴーガによると、今回の料金改定により、GMPを使用するウェブサイトやアプリの提供事業者がGoogleに支払う料金に変化が生じるとともに、これまで無料で利用できていたのが有料になったり、逆に有料だったのが無料になったりするケースもあり得るという。

 ゴーガは今回の料金改定にあたって、顧客に対して2024年12月よりオンラインのセミナーを数回にわたって開催しており、料金改定の内容と趣旨について説明しているので、今回の記事ではこのセミナーの模様を交えながら料金改定の詳細についてお伝えする。

200ドルの無償利用枠が設けられている現状のGMP

 前述したように、GMPはウェブサイトやAndroid/iOSアプリにおいて地図に関連した機能を提供するための基盤の1つであり、これを使って開発することにより、地理空間情報に関連したさまざまな機能やデータをウェブサイトやアプリに組み込むことができる。主な機能としては、2D/3Dの地図表示やストリートビューの画像を表示するための「マップ(Maps)」、ルート検索や移動時間・距離の計算などを行う「ルート(Routes)」、施設の名称や住所などの検索を行う「プレイス(Places)」、大気質や太陽光など環境に関する情報を検索できる「環境(Environment)」と、大きく分けて4種類あり、それぞれさまざまなAPIやSDKが用意されている。

「Google Maps Platform」で提供される4種類の機能(画像提供:株式会社ゴーガ)

 例えばウェブサイトに動的な地図を表示する機能としては「Maps JavaScript API」、地図の静止画像を表示する機能として「Maps Static API」、ストリートビューを表示する機能として「Street View API」、移動時間と距離を計算する機能としては「Distance Matrix API」、住所を緯度・経度に変換する機能としては「Geocoding API」などが提供されている。これらは機能ごとにSKU(Stock Keeping Unit:最小の管理単位)を付与しており、例えばStreet View APIには動的なストリートビューを実装する「Dynamic Street View」と静的なストリートビューを実装する「Static Street View」という2つのSKUがあり、GMP全体では50を超えるSKUがある。

 各SKUにはそれぞれ1000リクエストあたりの単価が記載されており、リクエスト数が多ければ多いほど支払う料金が高くなる従量制となっている。その単価は機能によって2ドルのものもあれば5ドルや7ドル、14ドルなど幅広く、中には無料で利用できるものもある。ウェブサイトやアプリの提供事業者は、これらのSKUの中から必要なものを選んで組み合わせることでサービスを提供し、使用している各SKUの料金の合計金額を毎月支払う仕組みとなっている。

 そして前述したように、有料のSKUでもリクエストが1回でもあれば料金が発生するというわけではなく、1カ月ごとに無償利用枠が設定されている。これまでは、利用している全てのSKUの合計金額が月に200ドルまでは無料となっていた。

各SKUの料金の一例(画像提供:株式会社ゴーガ)

200ドルの無償利用枠は廃止、SKUごとに無償リクエスト回数が設定

 実は今回の料金改定では、これまで提供されていた各SKUの料金には一切変更がなく、変更されるのは無償利用枠の部分となる。3月1日以降は月200ドルの無償利用枠が廃止となり、SKUごとに無償利用回数が設定されるようになる。その無償利用回数はSKUのカテゴリーによって異なり、「Essentials」カテゴリーに分類されるSKUは月に1万回まで、「Pro」カテゴリーのSKUは月5000回まで、「Enterprise」カテゴリーのSKUは月1000回まで、それぞれ無償となる。

3月1日以降の変更内容(画像提供:株式会社ゴーガ)
各カテゴリーの無償利用回数(画像提供:株式会社ゴーガ)

 例えば静的な地図を表示する「Static Maps」や動的な地図を表示する「Dynamic Maps」「Static Street View」、住所を緯度・経度に変換する「Geocoding」など基本的な機能はEssentialsに分類され、高度な映像表現やルート検索/ルート案内、施設検索、住所正規化などを行うためのSKUはProやEnterpriseに分類される。

SKUを3つのカテゴリーに分類(画像提供:株式会社ゴーガ)

 これまではSKUごとに利用したリクエスト回数に応じて料金の総額が算出され、その総額から無償枠分となる毎月200ドルが差し引かれた額が請求されていた。このとき200ドルに満たない場合は料金は発生しない。今回の料金改定後は、まずどのカテゴリーのSKUが月に何回リクエストされたかがカウントされ、SKUごとに無償利用回数が差し引かれたものが請求対象回数となり、これに対して利用額が決定される。そして各SKUの利用額を合計したものが請求額の総額となる。

 ゴーガのセミナーでは、改定後の料金シミュレーションが発表された。例えば現状で「Dynamic Maps」を利用する事業者でリクエスト回数が2万8500回の場合、総額は199.50ドルとなり、無償枠の200ドルに収まるので料金は発生しない。ところが変更後は無償リクエスト回数の1万回を差し引いた1万8500回分が請求対象となり、その料金として129.50ドルかかることになる。

 現状よりも料金が減額となるケースもある。例えば「Static Maps」「Dynamic Maps」「Routes:Compute Routes - Advanced」「Geocoding」「Autocomplete without Place Details」の5つのSKUを使用し、Proカテゴリーに属する「Autocomplete without Place Details」のリクエスト回数が5,000回で、それ以外のEssentialsカテゴリーに属する4つのAPIが1万回のリクエスト回数となった場合、現状では総額が275ドルとなり、無償枠の200ドルを差し引いた額の75ドルが課金されるが、変更後は全てのSKUが無償リクエスト回数内に収まるため、料金は無料となる。

 このように、SKUの利用状況とリクエスト回数次第で「料金が増額となる場合」「減額となる場合」「現状とあまり変わらない場合」と、さまざまなケースが考えられる。なお、ゴーガは同社との契約がない顧客に対しても、問い合わせを受ければ試算を行うとのことだ。

従来の料金算出方法(画像提供:株式会社ゴーガ)
改正後の料金算出方法(画像提供:株式会社ゴーガ)

 ゴーガによると、Googleが200ドルの無償枠を廃止してSKUごとに無償リクエスト回数を設定した背景には、「GMPには多くのSKUがあるため、顧客に多種多様なSKUを試してもらいたい」という考えがあるからだという。これまでは「総額が200ドルを超えるかもしれない」という理由で新たなSKUの利用を躊躇していた事業者にとっては、今回の措置によって「新たなSKUを試してみよう」とチャレンジしやすくなる。

 ただし、事業者によっては、従来は無料で利用できていたのが、今回の料金改定により支払いが発生するケースもあるため、どのように対応するかは事業者ごとの判断となる。場合によっては他の地図配信サービスに乗り換える事業者が出てくるかもしれないし、逆に他のサービスからGMPへと乗り換えるケースもあるかもしれない。今回の料金改定により、地図配信サービスの勢力図がどのように変化するかは今後とも注目していきたい。

ボリュームディスカウントの適用条件も変更、新APIへの移行も

 もう1つの料金改定として、ボリュームディスカウントの適用条件の変更が挙げられる。ボリュームディスカウントとは、1つのSKUについて月のリクエスト回数が多ければ多いほど単価が安くなる制度で、リクエスト回数は現状のところTier1~Tier7までの7階層に分かれており、これまではTier1(1~100,000回)とTier2(100,001~500,000回)は自動的に適用されていたが、Tier3~7についてはパートナーからの申請が必要だった。これが3月1日以降はTier6とTier7が廃止されて5階層となり、申請不要で全て自動的に適用されるようになる。Tier6とTier7に相当する10,000,001リクエスト以上に適用される従来の割引は廃止となるが、こちらについては新たに個別の申請にて対応することになる。

ボリュームディスカウントの適用条件が変更(画像提供:株式会社ゴーガ)

 料金体系の変更のほかに、GMPで提供されるAPIの内容にも変化がある。これまで提供されていた、施設検索機能を提供する「Places API」と、複数地点間のルートを計算する「Directions API」、移動時間と距離を計算する「Distance Matrix API」は新規利用が停止され、今後はこれらに代わる新たなAPIとして「New Places API」および「Routes API」の利用が推奨される。

 新APIは従来よりも機能が強化されており、例えばPlaces APIについては、従来は飲食店のカテゴリーは「レストラン」でしか絞り込めなかったのが、「寿司」「タイ料理」などカテゴリーを絞り込んで検索できるようになったり、「EV充電スポット」など新たなカテゴリーが追加されたりと、詳細な検索が可能になった。また、Routes APIについては、従来のAPIはルート検索結果が線で表示されるだけだったのが、線の上に渋滞情報が表示可能になったほか、高速道路の料金が取得できる機能も追加されているという。

 旧APIについては、これまでの機能が使えなくなるわけではなく、今後、Googleが各APIに新機能を追加する場合は新APIにのみ追加されることになる。また、現状で旧APIが廃止されるというアナウンスないが、もし廃止される場合は終了する1年前までにはGoogleから通知が来る予定だという。

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片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。