イベントレポート

CEATEC JAPAN 2018

顔認証での“手ぶら決済”など、CEATEC会場で見かけた次世代決済・小売サービス関連展示まとめ

 10月16日~19日に開催された「CEATEC JAPAN 2018」では「IoTタウン」というコーナーが設置され、「超スマート社会の実現(Society 5.0)」と題し、各業界における最新のイノベーションが紹介されていた。この中では「次世代の金融と決済インフラ」「新しい小売の形」といったテーマの展示も多数見受けられ、実際に次世代店舗を設置して来場者に体験してもらうコーナーを設けたローソンや、いま話題のQRコード決済を体験するコーナーを設置したOrigami、そしてMUFGSMBCグループのように新しい金融や社会インフラを構築する試みなどの話題があった。今回はフォローアップとして、CEATEC会場全体で決済や小売に関するトピックについて、既存のレポートで紹介できなかった話題すべてをダイジェスト形式でまとめたい。

「手ぶらで簡単決済」「小売と顧客対応の新しい形」を追求~富士通ブース

富士通の「手ぶらで簡単決済」のデモ

 富士通株式会社は10月初旬に生体認証技術を使った「手ぶらで決済」の仕組みを発表したが、CEATECで実際にデモストレーションが披露されていた。仕組み的には「顔認証」「手のひら静脈認証」の2つの生体認証を組み合わせた2要素認証で、これを決済に応用したものとなる。

 生体認証を決済に応用する仕組みはさまざまな場所で研究が進められているが、最大の問題として「件数が増えるとマッチングに時間がかかる」ということが挙げられる。生体情報が登録されたデータベースとのマッチング処理をローカルのハードウェアで実行すると高速化が可能だが、同時に取り扱えるデータ数に上限がある。クラウドまたは中央サーバー上のデータベースに保持することでローカルのハードウェアを巨大化せずともマッチングが可能だが、問い合わせに時間がかかり、例えば顔認証ゲートのような仕組みに応用すると通過時間がかかるという問題がある。また、膨大な生体情報データベースを構築した場合、単純に顔のマッチングだけでは誤認識が発生する可能性もあり、確実とは言い難い問題もある。

 富士通の「手ぶらで決済」の仕組みでは、手のひらの静脈情報をパスワードとして用い、顔情報をIDのように用いることで一種の2要素認証を実現している。そのメリットは、利用者が手のひら認証のためにウェブカメラの前に立つと、膨大なデータベースの中から似た顔の情報をグループ化してピックアップし、それぞれの顔情報に紐付けられた手のひらの静脈情報とマッチングさせることで本人を特定する。これにより、単純に手のひら静脈認証を行うよりも高速でかつ正確な処理が行えるというメリットがある。最大100万人程度の生体認証データベースを対象に処理が可能とのことで、スーパーマーケットのチェーンや大規模イベント程度の利用人数なら問題なくカバーできる。

 富士通では、将来的にこの仕組みをプラットフォーム化し、決済や認証サービスを行う各社に提供していく計画があるという。例えば、イオンフィナンシャルサービス株式会社との共同事業で、両社は現在、イオン傘下のコンビニエンスストア「ミニストップ」のイオンタワー(幕張)と神保町の2店舗で手のひら静脈決済サービスの実証実験を行っている。現在はまだ関係社員のみが対象とのことだが、遠からずテストを兼ねて提供対象が拡大されることになるだろう。

ウェブカメラと静脈認証デバイスで2要素認証による決済を行う
膨大な顔情報から絞り込みを行い、最終的に手のひら情報でマッチングを行う

 最近、「デジタルトランスフォーメーション」や「キャッシュレス」というキーワードを聞くが、富士通が展示していた「RUTEN(ルテン)」というサービスでは、アパレルやデパート業界における接客と決済体験をデジタルで変える仕組みを提供する。

 小売といえば、以前までは「お客が来るのを待って商品を売る」というスタイルが当たり前として受け入れられてきたが、最近ではオンライン/オフライン問わずに顧客との接点を持ち、リアル店舗をあくまで接点の1つと捉え、最上の体験を提供する方法を模索する動きが盛んになってきている。RUTENはアプリを通じて顧客との接点をさまざまな方向から支援するサービスで、オンラインでの検索のほか、リアル店舗では気に入った商品のQRコードを読むことで商品情報を入手したり、必要に応じて購入やレンタルが行える。決済もアプリ内で完結するため、会計のためにレジに並ぶ必要もない。また、アパレル業界ではスター的存在でもある店員にフォーカスを当て、顧客が店員にオンラインチャットを通じて相談を行ったり、あるいは店員側がプロモーションするためのサービスも提供する。

富士通が三越伊勢丹との協業で進めている「RUTEN」という接客サービス
「RUTEN」アプリ。店舗で対象商品のQRコードを読むと商品情報の参照や登録が行える
必要であればアプリ上での決済やレンタル処理が行える。いちいちレジに行く必要はない
現在は未対応だが、対象となる商品を受け取るにはどのフロアに行けばいいのかといった案内サービスも検討されているという
店員との対話が可能なチャットサービス用のインターフェースも「RUTEN」アプリには用意される
商品購入やレンタルの相談のほか、店員側のプロモーションにも活用できる

2020年東京五輪での活躍も期待されるNECの顔認証ゲート

 顔認証ソリューションでは以前より定評のある日本電気株式外は(NEC)だが、SMBCグループのブースでの「NCore」の技術展示のほか、同社自身のブースでもいくつか関連展示を行っている。その1つが「顔認証を活用した決済サービス」のコーナーで、これは以前にも「リテールテック」や「NRF Retail's Big Show」などの展示会でも紹介されていたものだ。事前に登録した顔情報を使って決済を行うのだが、今回のデモストレーションでは、左の端末が顔情報登録用、右の端末が実際の決済用と、来場者が誰でも試せるようになっていた点が特徴だ。ただ残念なのは、すでに発表から1年以上が経過しており関係各所から問い合わせ等はあるものの、現時点でまだ実際に導入例のようなアップデートはないという。

NECが展示している顔認証決済サービス

 一方で決済の話題を離れ、純粋に「顔認証ゲート」という仕組みへの応用例を見れば、2020年東京五輪への採用が決まっており、今後、実証実験が行われることになる。同社の標準的なシステムでは4000人程度のイベント会場での利用を想定しているとのことだが、これを認証用のバックエンドのサーバーと接続することで10倍以上の規模まで認証対象を増やすことができる。ただし、東京五輪では先方組織のレギュレーションで仕様が細かく指定されており、関係者だけで少なくとも数十万人規模の利用者をサポートし、認証ゲートにおける(認証までの)“時間稼ぎ”に必要な“レーンの長さ”に制限があるなど、実現にはまだいろいろ課題があるという。東京五輪開催まであと1年半少々となったが、実際の導入に向けた最新版はまた場所を改めて公開されることになるだろう。

東京五輪での採用が決まっている顔認証ゲート。デザインは開発途上版だという
こちらは実際に利用されている現行の顔認証ゲート

KDDIと日立製作所の「手のひら決済」が新しいポイント

 KDDI株式会社のブースでは「5Gで変わるくらし」と題したテーマ展示の中で「手のひら決済」のデモを披露している。特徴としては、富士通のケース同様に、顔認証と手のひら認証の2要素を組み合わせた点だ。比較的スピーディーに将来的に最大数百万件以上のデータベースとのマッチングが可能で、大規模な決済ソリューションへの応用が可能だとしている。また、生体認証そのものはタブレット内蔵のインカメラを用いるため、他のソリューションにあるような3Dカメラや静脈センサーなど、専用のセンサーを必要とせず、設置・運用コストが低いというメリットもある。これは、手のひら認証に使うのが静脈ではなく掌紋という手の模様を使うことによる。

 今回の展示では、マッチング処理そのものはタブレット上で行うのだが、認証に必要な鍵情報は都度生成される。公開鍵暗号(PKI)方式で重要となる秘密鍵を保存したデバイスを持ち歩いたり、サーバー側に保管する必要がなく、管理上の負担が軽くて安全性が高いという特徴も備えている。顔認証と手のひら認証の組み合わせにより、膨大な登録データであってもマッチング処理が非常に高速になっていると、株式会社日立製作所では説明する。この独自の生体認証補正技術と公開鍵暗号を組み合わせた認証方式を、同社では「PBI(Public Biometrics Infrastracture)」と呼んでおり、今後、「手ぶらで決済」をより身近なものにするためにプロモーションしていくという。

KDDIと日立製作所の2社による「手のひら決済」のデモ展示
顔情報でマッチングさせつつ、掌紋情報で認証を行う
KDDIと日立製作所の技術を組み合わせたサービスの概念図。現在はKDDIのデータセンターを経由しており、日立製作所との協業で用途を模索していくという
「PBI(Public Biometrics Infrastracture)」の概念図。認証リクエストが行われるたびに掌紋情報を基に秘密鍵を生成し、都度照合を行っている

オンラインとオフラインをつなぐ凸版印刷のQRコードサービス

 テレビ番組だったり、あるいは雑誌や街頭の広告など、気になった商品が目について、その場でモバイル端末やPCを持ち出して検索した経験は、誰しもが少なからずあるだろう。あるいは、気になっていたものの、あとになって面倒でそのまま放置してしまったという経験もあるかもしれない。凸版印刷株式会社の「ExOrder」は商品検索用のQRコードを用意し、アプリを用いて実際に商品情報にアクセスし、そのまま購入へと結び付けるマーケティング支援のサービスだ。仕組み自体もシンプルで、誘導用のQRコードを商品に貼付するだけだ。用途としては、街頭広告や商品カタログに仕込むかたちで利用者に提供したり、あるいはリアル店舗で商品そのものにQRコードを貼り付け、あとでオンライン注文するような使い方も可能になる。

凸版印刷の「ExOrder」サービスの概要
商品ごとにQRコードを貼付して、オンライン経由でのアクセスを可能にする

2025年に向けたコンビニRFIDタグの最新研究成果を報告するNEDO

 ローソンのウォークスルー型決済店舗でも導入されていたRFIDタグの仕組みだが、これは経済産業省の下で進められている「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」計画の取り組みの一環で進められている。コンビニ大手5社をはじめ、複数のベンダーや関係機関がこのコンビニRFIDタグの実証実験には参加しており、その成果の一部が、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のブースで紹介されていた。実際にNEDOでの展示を担当していたのは大日本印刷株式会社(DNP)で、コンビニを含むサプライチェーン全体にRFIDを行き渡らせ、効率的に管理できる仕組みを提供するのが同社の狙いだ。

 基本的な進展状況はローソンのそれと同じで、どのようにタグを貼れば読み取り精度が上がるのかの研究が進められていた。説明によれば、現状でタグ1枚あたり7円程度のコストが見えている状態とのことで、100~200円台の商品への利用はまだまだ厳しそうだが、中程度の単価の商品であれば十分利用できる水準に近付きつつある。一方でタグをどのように、流通のどの段階で貼付するかが課題の1つだ。だが解決策はいくつか見えており、例えばペットボトル飲料などは中身を詰めるボトリング作業の段階でキャンペーンタグなどと同様に貼付してしまう方法が可能だと説明している。このほか、RFIDの性質を利用した技術展示も行われており、レジで商品を一度に読み込むスキャナーを用意したり、商品棚の電子ラベルの情報が商品の状態によって変化するなど、さまざまな仕組みが考案されていた。

NEDOブースには、RFIDを使った買い物体験を紹介するコーナーが設けられていた
スキャナーで買い物かご内の複数の商品のRFIDタグを同時に読み取る仕組み
並べた商品に応じた広告が表示される電子ラベル。例えば賞味期限の近い商品が混ざっているとセール情報に切り替わったりする

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