イベントレポート

CEATEC JAPAN 2018

「ローソンが考える2025年のコンビニとは」、竹増貞信社長が「CEATEC JAPAN 2018」で基調講演

株式会社ローソンの竹増貞信代表取締役社長

 「CEATEC JAPAN 2018」開催初日となる16日午後、株式会社ローソンの竹増貞信代表取締役社長による基調講演が行われた。テーマは「ローソンが考える2025年のコンビニとは」。

 今年のCEATEC JAPANでは、恒例だった主催3団体の会長による基調講演を取りやめ、出展企業のトップが講演する内容としており、初日にはローソンをはじめ、コマツ、ファナック、Preferred Networksの4社が基調講演を行った。ローソンは、展示会場に“近未来のコンビニ”を誕生させるなど注目を集めており、基調講演でも満席の状況となった。

 竹増社長は、「この会場に入るまで、CEATEC JAPANはちょっと遠いところにある展示会だと思っていた。広い会場を下見したが、ここが埋まるほど来ていただけるのかと心配だった。これだけたくさんの人に来ていただき驚いている」と発言し、満席の聴講者に向けた講演をスタートした。

コンビニ第3位=「やりたい放題のポジション」、いろいろなことにチャレンジできる「ゲームチェンジャー」

 最初に竹増社長が掲げたのが、「We Will be the Game Changers」という言葉だった。

 「ローソンがCEATEC JAPANにブースを設けたのは、ゲームチェンジャーになりたいという気持ちがベースにある。そして、今日の講演もそれを意図している。小売業界は、激しい競争環境の中にある。コンビニやスーパー、百貨店、ドラッグストアなど、リアルの小売業だけでも大変な競争環境にあるが、そこにeコマースが加わり、さらにeコマースがフレッシュマーケットにも入ってきている。特に、コンビニエンスストアはあれだけ成長を続けていたが、いよいよ踊り場なのではないか言われ始めている。私は踊り場にあることは否定しない。確かに、成長の踊り場にはある。だが、『良い踊り場』にいる。特にローソンは、いいポジションにいるのではないかと考えている」と、独自の視点でローソンを分析してみせた。

 ここで竹増社長は、ダーウィンの進化論の「最も強いものでも、最も賢いものでもなく、最後まで勝ち残るのは、変化に適応できたものである」という言葉を持ち出し、「ローソンは、コンビニ業界では3位になってしまった。最も強くなく、最も賢くもない。だが、3位というポジションは、実はやりたい放題の位置にある。いろいろなことにチャレンジできるポジションにある。最も強い企業が失敗すると大きな影響がでるが、ローソンが失敗しても『また失敗してしまったか、次は頑張れ』と言ってもらえる。これは、我々に許されている大きなチャンスだと思っている。厳しい荒波の業界のなかにいるからこそ、チャレンジ精神をもって挑んでいくのが、いまのローソンの立ち位置である」とした。

 そして、「いまのローソンは、コンビニであり、同時にeコマースもやっている。これからは、eコマースが成長するのは確かだが、北海道から沖縄まで約1万4000店舗のリアルの店舗で、みなさんのすぐそばで対応できる意味を、もっと高める必要があると考えている。それは社会問題を解決する役割を担うことでもあり、地域のみなさんが待ち望んでいることだと思っている。だが、いまのローソンのままでは、こうした声に応えられない。応えるためには、デジタルと共存したり、ときにはデジタルを味方につけたりしながら、社会課題解決に適した店づくりをしていかなくてはならない」と述べる。

eコマースにはない、リアルの店舗が持つ価値とは?コンビニネイティブの中学生が店を選ぶ理由にも

 竹増社長がここで提示したスライドは、「無口な未来」と「温かい未来」という2つの言葉だ。

 「デジタルが発展し、デジタル機器を使うことで、朝から夜まで一言も発しない便利な未来がやってくる。だが、それでいいのだろうか。私は全く会話をしない一日を生きていく自信はない。私は、迷うことなく、温かいことに触れられる毎日を生きたいと思う。そして、温かい未来の中核にローソンがいたいと感じている。そのためには、デジタルデバイスを活用して、リアルの店舗をしっかりとサポートしていくことが大事になる」とした。

 ローソンは、CEATEC JAPAN 2018での展示において、店舗の入り口を入るとカメラで顔認証をして、どんな顧客が来店したのか、どんな購買履歴があるのかといったことだけでなく、センサーでその日の体調を測定し、嗜好と体調を理解しながら提案が可能になる様子を展示している。また、お勧めの店内自動調理のメニューを提案し、出来立てのサラダも提供するといった様子も見せている。

 「いまは厨房施設を持った店舗は6000店舗だが、これを増やし、出来立ての価値を提供したい。IoTで全ての商品がインターネットにつながったり、デジタルデバイスを使ってレジを通らずに決済ができてしまう環境や、さらには健康相談ができたり、栄養士や医師などを通じて薬の調合までできるようになるといったことができるようにしたい」とする一方、「こうした店舗を実現する上で私が大切にしたいのは、人が集まる場所にしたいということである。いまは、イートインスペースというかたちで実現しているが、そうでなくても、人が集まって、フェーストゥフェースで会話ができ、温かいハートが行き交う場所にすることが、eコマースにはないリアルの店舗が持つ価値になる」と語った。

 竹増社長は、子どもの生活においてコンビニが重要な役割を果たしていることを示す。あるとき、中学生と話をする機会があったという。その中学生は周りの子どもと違って、唯一、一番近所ではないコンビニで買い物をするという。理由を聞くと、いつも行く時間には同じ店員さんがいて気軽に会話をしてくれるのだという。「ほかの店では、いらっしゃいませという声もかけてくれないという。コンビニネイティブといえる中学生でも、人の温かさで自分が行くコンビニを決めている。これは私たちが子どものころに慣れ親しんだ商店街と同じであり、お店の人たちが地域全体の子どもたちを見守っている。それを感じてコンビニを選んでいる子どもたちもいる。ローソンでは『私たちは、“みんなと暮らすマチ”を幸せにします』というスローガンを掲げている。この話を聞いたときに、この言葉が腹に落ちた。それ以来、『私は、コンビニをやっています』と胸を張って言えるようになった」とする。

「学習塾」機能もローソンの店舗で!?未来のコンビニは“2000人”の生活プラットフォーム

 講演では、NHKで放送された番組で、竹増社長が変装して店舗で働くという映像を放映。そこで来店客と店員が親しく会話をして温かいやりとりをしている様子を紹介した。あわせて、「ローソンが目指す姿」と題した資料を示しながら、「ハートフルなコミュニケーションがあるお店」を目指していることを示した。

 竹増社長は「1994年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災のときには地域の人たちに感謝された。熊本や北海道の地震のときも、お店の人たちは死に物狂いになって店舗を開けた。みんなと暮らすマチを幸せにするために店に開けている。お客様も、コンビニエンスストアに対する認識が変わり始めている。1975年に第1号店をオープンしたときには、24時間営業の店ができると治安が悪くなるので隣町で店を開いてほしいとさえ言われた。だが、その後、コピーサービスや電気、ガス料金、電話料金、水道料金の収納代行サービスを開始したり、ローソンチケットの販売、ATM端末の導入、郵便ポスト設置による行政サービスの代行といったように、お客様のニーズに応えることで、町の便利屋さんとしてコンビニは認識されるようになり、いまでは街のインフラを担うようになった。だが、これからますますコンビニの可能性は広がっていくことになる。これまでのように30坪という店舗の大きさは変えずに、中身の商品やサービスを次々と変化させ、リアルに提供する価値を追求していけば、『マチの生活プラットフォーム』を担うことができるようになる」とする。

 竹増社長は、ここで1つの資料を提示した。

 「減少する生活プラットフォーム」と題された資料には、人口規模とサービス立地の可能性を示している。例えば、学習塾は人口5500~7500人の規模があれば、1店舗の事業が成り立つことになるという。銀行は6500~9500人、一般病院では7500~2万7500人、そして喫茶店でも2500~7500人という規模が必要だ。

 これからは人口減少や都市化の促進により、地方都市を中心に街のサイズが小さくなる。裏を返せば、学習塾や病院、銀行といった生活プラットフォームが維持できなくなる可能性があるというわけだ。

 これに対して、コンビニは2000人を商圏にして1店舗の事業が成り立つ可能性があるという。

 「かつては『開いてます、あなたにローソン』というテレビCMで示されるように、店が開いていることに価値があった。だが、これからは、ローソンに生活プラットフォームを乗せることで、マチの機能を維持できるようになる。そこにローソンの価値が生まれる。10月15日から金融サービスの『ローソン銀行』を開始した。CEATEC JAPAN 2018の展示ブースでは、遠隔医療を受けられるようにした。さらに、これからは学習塾の機能を取り込んでいけるかもしれない。2000人の1店舗を開けられるローソンというビジネスモデルは、さまざまな生活プラットフォームを支えていける可能性がある」とした。

 現在、日本が抱える社会課題として、人口減少による「人手不足」、日本の女性は米国の働く割合を超えていることに示される女性の社会進出をはじめとする「ライフスタイル変化への対応」、地方を中心にして生産年齢人口が大きく減少したり、核家族化が進展する「超高齢化社会」の到来などがある。

 「ローソンが高齢者の暮らしをサポートし、ローソンの店舗が地域のコミュニティの役割を果たし、地域を見守り、ハートフルなコミュニケーションを実現し、その中心人物がローソンのオーナーであるというかたちにしていきたい。これがローソンの責務である。それを実現するために、デジタルのサービスを店舗に、積極的に加えていくことになる」とする。

 一方でローソンでは、これまでにもオペレーションの自動化やデジタル化に取り組んできた経緯があり、現在も自動釣り銭機能を持った新POSレジへの入れ替えや、時間がかかり非効率的な発注業務におけるAIを活用したセミオートシステムなどを図っているところだ。

 「だが、分かりやすいところばかりに投資を進めてきた経緯がある。例えば、品出し、自動調理、清掃は簡単にできそうだが、自動化やデジタル化はやっていなかった。床の清掃、トイレの清掃のスタイルは昭和の時代から変わっていない。トイレも汚れるのは分かっているが、なぜ掃除を前提にしたトイレしかないのか。掃除しなくていいトイレはないのだろうか。品出しや掃除など、みんなができる仕事にも焦点を当てて、デジタルで代替しないと人手不足が解消できず、温かいハートフルな店舗を維持できなくなっている。こうした課題に対して、デジタルを巻き付けて、ハートを前面に出した、マチの生活プラットォームの役割を担う店舗へとゲームチェンジしたい」とした。

「私たちと一緒に、温かい未来を開くゲームチェンジャーになってほしい」

 最後に竹増社長は、聴講者に呼び掛けるかたちで次のように語る。

 「マチの生活プラットォームの役割を実現するのは、1社では不可能だと考えている。ローソンは、みなさんが挑戦したいと思うことに対して店舗や仕組みを提供できる。ローソンは、ナチュラルローソンや成城石井、ローチケ、HMV、ユナイテッドシネマといった多様なブランドを持っている。こうしたブランドも活用できる。ローソン全店では挑戦するのには規模が大きすぎるという場合には、地域の10店舗だけ、あるいはナチュラルローソンの150店舗だけでやるという選択肢も提供できる。ローソンの店舗を、使い放題に使って欲しい。みなさんが考える、相応しい店舗数を、デジタル化の実験に使ってもらうことができる」とした。

 そして、「ただし、ローソンのデジタル化への取り組みの根っこにあるのは、お客様やマチ、そして働く人が心身ともに健康であること、地球へのやさしさがあること、ヒューマンファーストであるということ。これに賛同していだたければ、ローソンが持つ店舗、仕組み、センター、ロジスティックをいかようにも使ってもらっていい。そういう思いで今日は講演をしている」と発言。「ローソンには、挑戦する社風がある。この意識は業界でもトップである。挑戦するために多くの方々と手を組みたい」とした。

 また、2017年に開設したオープン・ノベーションセンターについても紹介。「店舗で実験をする前に協議をしたいという企業の方々には、ここに来てほしい。名前の通りオープンなので、どんな企業の方に来てもらってもいい。オープン・ノベーションセンターに入って、使ってもらい、触ってもらい、うちがやればこうなるということも提案してほしい」と語った。

 そして、冒頭に掲げた「be the Game Changers」の言葉に続けて、「together with us」を付け加えたスライドを表示し、「温かい未来に生きていきたいと考えている人や、温かい店を残すためにデジタルでぐるぐる巻きにしたいという考えに賛同してくれる人たちには、ぜひ、私たちと一緒になって、ゲームチェンジャーになってほしい。これはもう一度繰り返していいたい。私たちと一緒に、温かい未来を開くゲームチェンジャーになってほしい」と、力強い言葉で基調講演を締めくくった。

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