地図と位置情報

岡山県警の“新PITシステム”に、京セラ「TORQUE」&カシオ「PRO TREK Smart」導入、緊急時に位置情報など素早く送信

 日本の警察業務も、腕時計型ウェアラブル端末を活用して効率化される時代となった。岡山県警が昨年導入したのは、京セラ製Androidスマートフォン「TORQUE」にカシオ製スマートウォッチ「PRO TREK Smart WSD-F20AB」を組み合わせた“新PITシステム”だ。

「PITシステム」とは?

岡山県警が“新PITシステム”で導入した「PRO TREK Smart WSD-F20AB」。コンシューマー向け製品「PRO TREK Smart WSD-F20」の法人向けモデルとなる。導入台数は1800台

 岡山県警が2009年に導入した「PIT(Police Integrated information Tool)システム」は、携帯電話を使って犯罪情報の検索や捜査情報の共有などを行えるほか、地図上で付近の警察官の位置を確認できるなど、警察業務を効率化するさまざまな機能を搭載したシステムだ。同システムはモバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)が主催するアワード「MCPC award 2010」においてグランプリおよび総務大臣賞を獲得するなど、その先進性が高く評価された。

 このPITシステムが2018年4月、新たにスマートフォンを使った“新PITシステム”としてリニューアルされた。新システムでは、端末が従来型携帯電話からAndroidスマートフォン「TORQUE」(京セラ製)に変更されただけでなく、Wear OS搭載スマートウォッチ「PRO TREK Smart WSD-F20AB」(カシオ製)もあわせて導入された。

警察官のリアルタイム位置情報をスマホ地図上で共有、緊急通報の操作を「PRO TREK Smart」から可能

 新システムでは端末をスマートフォンに変更したことにより、大型液晶で捜査資料を見られるようになったほか、地図表示も格段に見やすくなり、タッチ操作も可能となった。地図上には活動中の警察官が表示され、アイコンの種別で徒歩なのか自動車や自転車に乗っているのかがひと目で確認できる。これらの情報は端末を持つ現場の警察官すべてに共有されるため、現場の警察官はそれらの情報をもとに柔軟に動ける。

 地図データにはゼンリンの住宅地図データを採用し、詳しい住所やビル名、表札名称などを確認できる。このほか、位置情報による勤怠管理や、日報提出などの機能も盛り込まれており、警察官の通常業務の支援機能も充実している。

付近にいる警察官の位置を地図上でリアルタイムに表示

 さらに、PRO TREK Smartを導入したことにより、運転中のときや作業中のときに電話による連絡やメッセージの通知が来ても、スマートウォッチの振動によって確実に気付くことができるようになった。また、スマートウォッチから緊急通報の操作を行うことも可能で、緊急時にすばやく緊急情報を送れるほか、スマートフォンによる動画撮影もスマートウォッチの操作で開始させることができる。

市販の「PRO TREK Smart」とは異なる仕様、データを自動消去する「PITキー」の役割も

 なお、PRO TREK Smartのコンシューマー向け市販製品では、地図データをローカルストレージに保存してオフラインで地図を見られるのが特徴の1つとなっているが、新PITシステムではセキュリティとバッテリー持続時間を考慮して、市販の地図アプリは一切使えないようになっている。位置情報の取得についてもPRO TREK Smartに内蔵されているGPSは使用せず、スマートフォン側の測位機能を使用する。

 また、従来のPITシステムでは、Bluetooth通信が可能な「PITキー」と呼ばれる小型のセキュリティデバイスを各警察官が携帯し、PITキーとPIT端末の通信が一定時間、途切れた場合は、自動的に端末内のデータが消去される仕組みになっていた。今回の新システムでは、このPITキーの役割をPRO TREK Smartが担っており、スマートフォンとスマートウォッチが一定距離以上離れるなどすると、スマートフォン内のデータが消去されるようになっている。

スマートウォッチを閉域ネットワーク上で運用、地図データなどもクラウドではなく警察本部内のサーバーに

 なお、地図データや捜査資料、業務資料などはインターネット上のクラウドではなく、すべて警察本部内に設置されたサーバーに保存されており、閉域のネットワーク上で運用されている。そのため外部からのハッキングには極めて強いシステムになっている。

 カシオ計算機株式会社によると、PRO TREK Smartを警察システムへ導入するにあたっては、さまざまな苦労があったという。担当したのは、業務用のハンディターミナルなどを扱う同社事業戦略本部・システムBU・PA営業戦略部の平田美徳氏だ。

 「クラウドとの連携を前提としたスマートウォッチを、閉域ネットワークの中で使える仕組みを提供するために、余分な機能はできるだけ省きました」と平田氏。警察官は業務時間が長いため、バッテリーの持続時間を長くする必要もあった。ウォッチフェイスを地味なものにしたり、バッテリーが切れかかっていても時計だけは表示し続ける仕組みにしたりと、いろいろと工夫したという。

カシオが「PRO TREK Smart」をビジネス向け展開、スマートウォッチの新たな使い方を提案

 カシオとしては、PRO TREK Smartのようなコンシューマー向け製品を業務用ソリューションに流用するのは初めてとなる。「これまではBtoBの部署とコンシューマー向けの部署では扱う製品が分かれていましたが、PRO TREK Smartについては共通の製品を展開していくかたちになると思います。今後はこのようなスマートデバイスにも力を入れ、使い方がフィットしそうなお客さまに対して営業を展開していきたいと思います。例えば保守メンテナンス業務において、点検項目の確認や装置内の機材からデータを収集する、いわゆるIoTによる点検チェックを行うなど、さまざまな使い方が考えられると思います」と平田氏。

 カシオは1月18日に、PRO TREK Smartの新機種「WSD-F30」を発売する。コンシューマー向けのスマートウォッチも積極的に展開しているが、今後はビジネス向け分野においても、スマートウォッチの新たな使い方を提案していく方針だ。

INTERNET Watchでは、2006年10月スタートの長寿連載「趣味のインターネット地図ウォッチ」に加え、その派生シリーズとなる「地図と位置情報」および「地図とデザイン」という3つの地図専門連載を掲載中。ジオライターの片岡義明氏が、デジタル地図・位置情報関連の最新サービスや製品、測位技術の最新動向や位置情報技術の利活用事例、デジタル地図の図式や表現、グラフィックデザイン/UIデザインなどに関するトピックを逐次お届けしています。

片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。