地図と位置情報

位置情報ゲーム“第3の波”がやって来た! 「信長の野望・出陣」も登場、ゲームの地図表現はどこまで進化する? ユーザーコミュニティとの関係は?

(左から)古山隆幸氏(株式会社イトナブ代表取締役)、山崎富美氏、菊地啓介氏(株式会社コーエーテクモゲームス執行役員)、高田徹氏(マップボックス・ジャパンCEO)、古橋大地氏(青山学院大学・教授)

 歴史シミュレーションゲームの定番として人気の「信長の野望」シリーズ。その位置情報ゲーム版として株式会社コーエーテクモゲームスが2023年8月にリリースしたのが「信長の野望・出陣」だ。このゲームの開発プロデュースを務めるコーエーテクモゲームス執行役員の菊地啓介氏(エンタテインメント事業部 midasブランド長 兼 midasブランド1 部長)が、東京都内で開催されたイベント「mapbox/OpenStreetMap 忘年会meetup #14」に登壇した。

 mapbox/OpenStreetMap meetupは、ウェブ地図サービス「Mapbox」とOpenStreetMap(OSM)ユーザーコミュニティとの交流イベントだ。Mapboxの日本法人であるマップボックス・ジャパン合同会社のアンバサダーを務める青山学院大学・教授の古橋大地氏の研究室が、マップボックス・ジャパンおよびNPO法人CrisisMappers Japan(災害ドローン救援隊DRONEBIRD/JapanFlyingLabs)、OSGeo.JP、OpenStreetMap Foundation Japan(OSMFJ)の協力を得て開催している。今回のテーマは「現実とゲームの狭間へ! 位置情報ゲームコミュニティがつくる未来」と題して、位置情報ゲームとコミュニティとの関係についてさまざまな議論が行われた。

 同イベントには、元・株式会社ナイアンティックで2024年4月よりデジタルハリウッド大学大学院の教授に就任する山崎富美氏、「Ingress(イングレス)」や「ポケモン GO」などのイベント開催に関わった株式会社イトナブの代表取締役・古山隆幸氏も参加し、位置情報ゲームとコミュニティに関する話題について語ったので、その模様をレポートする。

地理空間情報を学ぶうえで「位置情報ゲームは教養/リテラシーである」~位置情報ゲームの歴史を振り返る

 冒頭では、主催者である古橋氏があいさつした。古橋研究室では、地理空間情報を学ぶうえで「位置情報ゲームは教養/リテラシーである」と位置付けており、4年生になるまでに2つ以上の位置情報ゲームで一定レベル以上にならないと単位を取得できない(「Ingress」レベル6以上、「ポケモン GO」レベル30以上、「ドラゴンクエストウォーク」パーティ平均レベル40以上、「Pikmin Bloom(ピクミン ブルーム)」レベル50以上、「信長の野望・出陣」レベル30以上など)。さらに、Ingressにおいて獲得した陣地で絵を描くフィールドアートなど、ゲームを楽しむだけでなく自分の想いを表現するためのツールとして授業で活用する取り組みも行っている。

 初めに古橋氏はこれまでの位置情報ゲームの歴史について振り返った。

第1の波:GPS付きケータイが登場、「コロニーな生活」「ケータイ国盗り合戦」リリース

 位置情報ゲームの“第1の波”は2000年前半にGPS付きケータイが登場したころで、株式会社コロプラ(ゲーム開始時は個人による運営)の「コロニーな生活」や、株式会社マピオン(現在は株式会社ONE COMPATH)の「ケータイ国盗り合戦」(現在は株式会社マイネットが提供)などが当時リリースされ、今もなお提供され続けている。

第2の波:スマホの「Ingress」「ポケモン GO」で、位置情報ゲームの概念が変わる

 続いて起きた“第2の波”は、Nianticの「Ingress」や「ポケモン GO」などの登場だ。これらの位置情報ゲームはスマートフォンを前提にしているため表現が豊かになり、ユーザーの人数も大幅に増えことから、古橋氏はこの2つが「位置情報ゲームの概念を変えた」と語る。そして、これらのゲームがヒットしたことにより、その後の「ドラゴンクエストウォーク」「MINECRAFT EARTH(マインクラフト アース)」「JURASSIC WORLD アライブ!」などの登場につながっていった。

第3の波:「信長の野望・出陣」「モンスターハンターNow」「ムーミンムーブ」でどんな変化が?

 こうして盛り上がった位置情報ゲームだったが、その後、多くの位置情報ゲームの開発プラットフォームとして利用されていた「Google Maps Platformゲームサービス」が2022年に終了してしまう。この影響により位置情報ゲームの地図APIとして何を利用するかが模索され、その結果が2023年の位置情報ゲームの動きに現れたと古橋氏はみている。

 2023年になって登場した位置情報ゲームは「信長の野望・出陣」のほか、「モンスターハンターNow」「ムーミンムーブ」の正式版などで、このうち「信長の野望・出陣」と「ムーミンムーブ」がMapbox、「モンスターハンターNow」がNianticの「Lightship」を採用している。

 また、かつてGoogle Maps Platformゲームサービスを利用していた「ドラゴンクエストウォーク」や「JURASSIC WORLD アライブ!」はMapboxに移行したということで、位置情報ゲーム用の地図APIの選択肢が変わりつつあるのが現在の状況であると古橋氏は語った。

2023年にリリースされた位置情報ゲーム

「信長の野望」シリーズの位置情報ゲームは、7~8年前から検討されていた

 続いてコーエーテクモゲームスの菊地氏が登壇し、「信長の野望・出陣」の概要について説明した。「信長の野望・出陣」は街を歩くことで自分の領地を獲得していくゲームで、実際の住所の丁目ごとに区切られたエリアを、登用(ガチャ)などで獲得した手持ちの武将を使って、戦うことで領地を広げていくルールになっている。離れた拠点に部隊を送ることで未踏破の領地を獲得することも可能で、獲得した領地は内政の機能で発展させることで金銭収入の増加や部隊の強化などを図れる。このほか、歩いた歩数によって東海道五十三次を進む要素や、百名城を訪れてコレクションすることでご当地の武将を獲得できる要素もある。

「信長の野望・出陣」 ©コーエーテクモゲームス All rights reserved.

 また、「大関ケ原祭り」「信玄公祭り」「お城EXPO」など各地で開催される歴史関連のイベントと連携し、ご当地に行って課題をクリアすると特典が貰えるなど、イベントとゲームの双方で盛り上げる仕掛けも用意されている。

 「信長の野望シリーズはゲームの舞台は日本だし、お城や武将なども実際に存在したものなので、位置情報ゲームと親和性があります。『このお城に旅行に行ってみたい』とか『大河ドラマの舞台に行ってみたい』と思って各地を訪れる人がこのゲームと組み合わせて遊ぶことで、さらに楽しめます。コンセプトとしては『日常を豊かにするゲームにしたい』と考えています。」(菊地氏)

 菊地氏によると、コーエーテクモゲームスでは7~8年前から信長の野望シリーズとGPSを使ったゲームとの親和性に着目し、企画を検討していたという。しかし、「Ingress」「ポケモン GO」「ドラゴンクエストウォーク」など、これまでリリースされた位置情報ゲームを見ると、成功はけっして簡単なことではないと考え、なかなかプロジェクト化には至らなかった。そんな中、菊地氏がアプリ部門を担当するのにあたって、改めて会社を挙げて位置情報ゲームに取り組むことになり、3~4年前から本格的に開発をスタートさせた。

 開発プラットフォームの選定については、いろいろな地図会社の話を聞いて検討した。その中でMapboxを選んだ決め手は、カスタマイズの柔軟性が高いことだった。同ゲームではMapboxの基盤を採用しながらも、ゲームのキーとなる街区のデータや、百名城の位置や名称など、情報のソースがそれぞれ異なるため、それらを組み合わせて柔軟にカスタマイズしやすい開発環境であることが大きかったという。

「信長の野望・出陣」について語る菊地氏(右)

位置情報ゲームは、コミュニティの力によって「普通のゲームでは起きないことが起きる」

 菊地氏の発表に引き続き、山崎氏と古山氏による、「Ingress」や「ポケモン GO」などの位置情報ゲームを軸にしたコミュニティに関する発表も行われた。「Ingress」を提供するNianticは「Exploration(身の周りの世界を探索)」「Exercise(歩こう!)」「Social(現実世界で人と触れ合う)」を3つの柱として位置情報ゲームの運営に取り組んでおり、「Ingress」の「Anomaly」や「ポケモン GO」の「Pokémon GO Fest」など各地でイベントを開催している。

 一方、Nianticの主催ではなくユーザーが独自に開催するイベントも多く、例えば「Ingress」ではいろいろな街で名所をスタンプラリーのように回りながら散策する「Mission Day」や、初心者の人をベテランプレーヤーが助ける「First Saturday」などがユーザーによって独自に開催されている。また、「Ingress」においてユーザーが集まって寄付や献血、防犯活動などを行うイベントや、「ポケモン GO」のユーザーが集まって海岸の清掃を行うイベントなども開催されている。

 「位置情報ゲームは実際に人が動くので、普通のパソコンの中だけのゲームでは起きないことが起き、それを通じていろいろな活動が始まります。ゲームから始まっていろいろなところへ広がるのが位置情報ゲームならではのコミュニティの力だと思います。」(山崎氏)

 イトナブの古山氏は、宮城県石巻市をはじめ全国の地方都市において若者にプログラミング教育の機会を提供しており、ハッカソンの開催などを通じてプログラミングのコミュニティを広げているほか、位置情報ゲームのイベント開催も行っている。

 「当社はコミュニティをベースに展開しています。プログラミングというのはどこで学んでも内容は同じですが、出会いがあれば学びは深まるので、だからこそ刺激的な出会いを提供し、そこで学びと表現が循環する“循環型のIT教育”を展開しています。自治体の予算でプログラミング教育が始まったとしても、支援が終わったあとも学べる“部活動”のようなかたちで展開しており、これまで2500人以上の若者を育ててきました。」(古山氏)

 「Ingressのコミュニティの面白さは刺激的」と語る古山氏は、Ingressで毎月のHack数が最も高い社員にボーナスを出す「Ingressボーナス」というユニークな制度をイトナブに採り入れており、2014年5月にはIngressの公式イベント「Ingress meetup in Ishinomaki」の開催にも関わった。古山氏によると、当時は震災後ということで、Ingressを運営するNiantic Labs(現Niantic)が位置情報ゲームを使った地域振興や震災復興に貢献できないかと考え、石巻でイベントを開催することにしたという。このときのイベントにはNianticのCEOを務めるジョン・ハンケ氏も訪れた。

 イトナブはその後、2015年2月には石巻にてFirst Saturdayを開催し、このときは世界中で開催されたFirst Saturdayの中で石巻のイベントがトップスコアを記録した。さらに同年6月にはMission Dayも開催し、このような数々のIngress関連のイベントが、その後の「ポケモン GO」関連のイベントにつながっていった。

2014年に開催された「Ingress meetup in Ishinomaki」

位置情報ゲームの持つ集客力で「ユーザーをいかに動かすか」だけでなく「いかに動かさないか」との配慮も

 実は「Ingress」の石巻でのイベント開催にあたり、東日本大震災によって失われた場所が「記憶のポータル」として数多く登録されたこともあり、石巻にはポータルの数が多い。そのため、「Ingress」のポータルを引き継いだ「ポケモン GO」のポケストップも多く、人気のポケモンであるラプラスが出現しやすくなるイベントが東北地方で開催された。その効果により、イベント時には約10万人のユーザーが訪れ、20億円の経済効果が生まれたという。

 「石巻の人口は13万人しかいないので駅周辺はいつも人が少ないのですが、これだけの人が訪れたのにはびっくりしました。中には24時間ずっとラプラス狩りをする人もいて、イベントを運営している当社にもクレームが来たので、イトナブではマナーを啓発する『ZENDAMA』ステッカーを急きょ作って配布しました。位置情報ゲームというのは人が動いて、新たな人や地域と出会えるのがとても良いと思いますし、私どももコミュニティを大切にしながらいろいろな地域で活動していきたいと思います。」(古山氏)

「ポケモン GO」のイベントでは多くのユーザーが訪れた

 山崎氏は、このような位置情報ゲームが持つ大きな集客効果について、「ユーザーをいかに動かすか」ということだけでなく、周囲に迷惑がかからないように「いかに動かさないか」という配慮も重要であると指摘。その例としてNianticでは「ポケモン GO」のイベントをチケット制にしたことや、幕張メッセで開催した「ニコニコ超会議」で特別なモンスターを大量発生させるときは事前告知はせず、東京から多くの人が訪れるのが難しい時間帯に限定したことなどを挙げた。

 一方、菊地氏も「信長の野望・出陣」の開発にあたって、日本百名城の迷惑にならないように配慮したことについて語った。

 「『信長の野望・出陣』には日本百名城のうち99城が登録されているのですが、位置情報ゲームで人が集まりすぎてトラブルが起こる可能性や安全性を考えて、何人かで手分けして事前にそれぞれの城の管理者に連絡を取りました。私どもはこれまでずっと歴史のゲームを作ってきて、お城に対しては建物以上の思いを抱いており、『一緒にやっていきたい』という思いがあったので、そういう面では気を遣いましたね。一方で、逆に地方のイベントを盛り上げたいという思いもあって、いろいろな自治体や企業と協力してウォークラリー的なゲーム内イベントを開催しています。最近ではJR東海とコラボレーションして、対象駅にチェックインするとゲーム内アイテムをもらえるというイベントを開催しました。」(菊地氏)

 ちなみに「信長の野望・出陣」において1カ所に集中して最も多くの人が集まったコラボレーションイベントは、2023年12月に横浜で開催された歴史イベント「お城EXPO」だったという。菊地氏によると、単純に地域とコラボレーションしたイベントをゲーム内で開催してもあまり多くの人は集まらないので、その地域で開催する必然性を考えて、タイミングが合致して初めて成功すると考えている。

位置情報ゲームの地図表現が豊かになってきた――「信長の野望・出陣」における立体感・空気感

 古橋氏は、「ポケモン GO」の地図画面で天気に合わせて地図上に風が吹く表現があったり、「信長の野望・出陣」や「モンスターハンターNow」において雲の影がゆっくり動く描写が入っていたりと、近年の位置情報ゲームの地図表現が豊かになってきていることについても話題提起した。生活感があまり感じられなかった初期の位置情報ゲームと比較して、最近は地図表現に立体感が増し、モンスターや人物の息遣いなどの表現力が増していると語る古橋氏に対して、菊地氏は以下のように語った。

 「地図表現については、もともと当社は家庭用ゲーム機でグラフィックのシステムを作ってきたので、空気感の出し方やリアルに見せるための手段はいろいろと追求していたのですが、スマートフォンの位置情報ゲームで実際の地図とリンクさせてパターン化する場合、ある程度、何を採用して何を捨てるかを選ばないと快適には動きません。その中でポイントを押さえて立体感や空気感を出す手段として、地図上で鳥が飛び立つ表現などを盛り込みました。また、『信長の野望・出陣』がほかの位置情報ゲームと違うのは、フィールド上にモンスターではなく人間が出てくる点で、人との会話が表示されるなどいろいろな工夫をしました。」(菊地氏)

 古橋氏はこれについて、「タイトルが“出陣”なのでバトルも大事だけど、自分の領内を歩いて農民や商人とコミュニケーションを取るのも重要で、架空のキャラクターなのに出会うとうれしくなるという、そのバランスがすごく良いなと思いました」と感想を述べた。

 一方、山崎氏は、位置情報ゲームにおける表現の魅力について、「ゲームが現実に寄っていく」ことと、「現実がゲームに寄っていく」ことの両方が可能であることを指摘した。

 例えば「ポケモン GO」において、夕日と海がきれいなスポットでゲーム画面も夕日になったり、ハロウィンの時期に色使いがハロウィン仕様になったりと、ゲーム側が現実で起きていることに近付いてくることもあれば、シンガポールのリゾートで行われたイベントにおいてビーチにラプラスのバルーンを浮かべたり、椰子の木のそばにナッシーの看板を立てたりと、逆に現実側がゲームに寄っていくこともある。「どこまでがゲームでどこまでが現実なのか、というのをミックスできるのが位置情報ゲームの面白いところです」と山崎氏は語った。

夕日のスポットでゲーム画面にも夕日が描かれる

 一方、古山氏は地方在住という観点で、人の少ない地方ならではの位置情報ゲームの課題についても指摘した。

 「2019年9月から『ドラゴンクエストウォーク』をプレーし始めたのですが、最初のころはモンスターを一緒に倒してくれる人が石巻にはいないので苦労しました。夜になるといつも同じ人が来て、それ以外の人が現れないという状況が続きました。だから地方については、どのエリアで人が多く遊んでいるかが分かるように、広い範囲でヒートマップのような表現で示してくれるといいなと思いました。」(古山氏)

 このようなプレーヤー同士の連携機能について菊地氏は、「『信長の野望・出陣』のお客様のアンケート結果を見ると、人と競ったり、協力したりする要素がもう少し欲しいという声が上位に来るので、ご意見を聞きながら改良していこうと思います。また、ゲームの中のコミュニティだけでなく、ご当地イベントなどリアルイベントのコミュニティも含めて伸ばしていけたらと思っています」と語った。

 さらに菊地氏は今後の抱負として、「位置情報ゲームを始めてまだ4カ月目くらいですが、実際に運営を始めてからいろいろな会社や自治体の方々から声を掛けていただき、新たな組み合わせで新しいエンタメのかたちを生み出せそうな手応えを感じていますので、失敗することもありますけど、いろいろと新しいことに挑戦して、位置情報ゲーム業界全体が盛り上がればいいなと思っています」と語った。

 これに応えるように、古山氏は菊地氏に対して「東北ではまだ(『信長の野望・出陣』の)イベントを開催したことはないですかね? では、まずは宮城から!」と呼び掛けると、菊地氏は笑顔で「そうですね」と肯いた。

 多くのユーザーが集まる独自イベントやリアルイベントのコラボレーション、コミュニティ機能の充実、新たな地図表現などによって着々と進化を続ける位置情報ゲームの“第3の波”が今後、どのように進化していくのか注目される。

「信長の野望・出陣」でも採用、地図プラットフォーム「Mapbox」とは何か? 何ができるのか?

 イベントの後半では、マップボックス・ジャパンの金原寛直氏によるMapboxのサービス紹介も行われた。Mapboxは地図サービスのプラットフォームとして、地図データやデザインツール、開発機能などをAPIとSDKで提供している。スマートフォン用アプリやウェブサービスのほか、物流システムや自動車メーカーのカーナビなどさまざまな分野で利用されている。

 金原氏はMapboxの最新情報として、2023年12月5日にリリースした新しい3D機能「Mapbox Standard」を紹介。同機能は日照による影の動きを表現する「ライティング機能」や、ランドマークとなる建物の3D表示や照明の変化を地図上に反映させる「3Dランドマーク機能」を利用可能。デザインツール「Mapbox Studio」を使ったスタイルの変更も可能とのこと。

「Mapbox Standard」のライティング機能

 このほか、今後は川や湖においてリアルに波打つ描写が導入される予定のほか、ジオフェンス(仮想的な境界)を定義する機能「Mapbox Geofence」のパブリックベータを2024年6月末ごろまでにSDKとして提供開始する予定だ。一般的なジオフェンスのサービスはサーバーサイドで出入りの判定が行われるが、Mapboxはクライアントサイドで行われるため反応時間が短いのが特徴だという。

 また、金原氏は、Mapboxがゲーム開発に貢献できることとして、高いデザイン性能により世界観を忠実に再現できること、時間や天候の反映や3D機能により没入感を実現できること、ローコードの開発環境や生成済のゲーム用POI(地点)データを用意していることなどを挙げた。

 POIについては、「Mapbox Playable Locations」というデータを提供しており、これを利用することで安全で常識的な場所にアイテムやチェックポイント、回復スポットなどをランダムに生成・配置することができる。これらのPOIは地図のベースデータが更新されるタイミングで、リアルに即したかたちで更新され、開発者やゲームユーザーからもフィードバックを得ながら修正対応も行っている。

 金原氏は、「『信長の野望・出陣』で遊んでみて思うのは、地図には新しい場所へと人を行動させる力があるということです」と語り、小売業などのB2Cアプリにおいてもゲーミフィケーションの要素を採り入れてることで、人を店舗に誘導したり、顧客の行動履歴を把握してより良い体験の提供に活かしたり、クーポンや決済画面を最適なタイミングで表示させたりすることが可能となり、売上向上につながる可能性があると語った。

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INTERNET Watchでは、2006年10月スタートの長寿連載「趣味のインターネット地図ウォッチ」に加え、その派生シリーズとなる「地図と位置情報」および「地図とデザイン」という3つの地図専門連載を掲載中。ジオライターの片岡義明氏が、デジタル地図・位置情報関連の最新サービスや製品、測位技術の最新動向や位置情報技術の利活用事例、デジタル地図の図式や表現、グラフィックデザイン/UIデザインなどに関するトピックを逐次お届けしています。

片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。