イベントレポート

CEATEC JAPAN 2018

経営トップ250人だけが聞けた、CEATEC前日の豪華講演内容とは

プレイベント「Global Symposium」レポート

4ヶ国の講演者による、完全招待制の講演会

 盛況のうちに幕を閉じた「CEATEC JAPAN 2018」において、業界関係者の間で大きな注目を集めたのが、開催前日となる10月15日15時から東京・大手町のパレスホテル東京で、プレイベントとして開催された「Global Symposium」であった。

 約250人の経営トップを対象にした完全招待制で開催。インダストリー4.0やSociety 5.0など各国が取り組む施策の現状や課題を共有するとともに、知見やアイデアを持ち寄り、課題解決に向けた議論を行う場とした。また、海外企業の出展増加や海外からの来場者増を狙うCEATEC JAPANにとっても、世界規模で影響力を与える展示会へと進化させるためのきっかけづくりとしても期待される内容になった。このシンポジウムの様子をレボートする。

約250人の経営トップを対象に、完全招待制で開催した「Global Symposium」

 シンポジウムでは、ドイツ産業連盟のデータ・ケンプ会長、米Salesforce.comの共同創業者兼CTOであるパーカー・ハリス氏、仏ダッソー・システムズの共同創業者兼国際渉外特別顧問であるフィリップ・フォレスティエ氏、CEATEC JAPAN実施協議会会長であり、三菱電機取締役会長の柵山正樹氏がそれぞれ講演。さらに、講演者4人が登壇し、グーグルの専務取締役兼CMOである岩村水樹氏をモデレーターにしたパネルディスカッションを行った。これらの講演およびパネルディスカッションは、すべて英語で行われた。

ドイツ産業連盟:データ・ケンプ会長「インダストリー4.0で製造業のデジタルトランスフォーメーションを」

ドイツ産業連盟のデータ・ケンプ会長

 ドイツ産業連盟のデータ・ケンプ会長は、「インダストリー4.0は、ドイツのデジタルトランスフォーメーションの代名詞のようになっており、ドイツと日本は、製造業のデジタルトランスフォーメーションにおいて、リーダー的存在になれるだろう。我々は、テクノロジーを活用したイノベーションを、製造現場で推進していくことができる力がある。だが、現在、ドイツでは、50%未満の企業がインダストリー4.0に関する戦略がないという状況にあり、11%の企業だけが、ビジネスモデルにデジタルを適用しようと考えるに過ぎない」とした。

 また、「デジタルトランスフォーメーションは、4つの異なる“P”が大切である。それは、プロダクト、プロセス、プラットフォーム、パーソンである。これらのすべてのPに取り組んでいる企業はまだ少ない。特に人は大切であり、人自らがデジタルに対応した考え方や行動をとる必要がある」などとした。

仏ダッソー・システムズ: フィリップ・フォレスティエ氏「データの流れに注目しなくては成功はない」

仏ダッソー・システムズ共同創業者兼国際渉外特別顧問のフィリップ・フォレスティエ氏

 仏ダッソー・システムズのフィリップ・フォレスティエ共同創業者兼国際渉外特別顧問は、「21世紀は、あらゆる利用シーンにおいてデジタル化が進んでいる。検証やテスト、シミュレーションなどにもデジタルテクノロジーが活用されている。そして、生産性や競争力を強化するためにデジタルテクノロジーは不可欠となっている。インダストリー4.0は製造業におけるデジタル化を進め、企業そのものをデジタル化している。いまや、エンジニアが作ったプロダクトが成功するわけではなく、コンシューマーの声が反映された製品が成功する。そのためにはデジタル化が不可欠だ」と述べた。

 また、「世界のなかにはサイロが多すぎる。その1つが、大きな企業と小さな企業のサイロ。本来は、一体となって、成功に向けて取り組まなくてはならない。だが、フランスにおいては、中堅、中小企業は十分な力を持っておらず、変革のための支援を政府が支援をする必要がある。また、産業を変革させるためには、さまざまな国と連携することも大切だと考えている。フランス国内では、若い男女がエンジニアになりたいと思っていないことも課題の1つだ。そのための仕掛けをする必要もあるだろう。一方で、物理的資産に注目していた考え方を改め、データの流れに注目しなくては成功はない」などと述べた。

米Salesforce.com:パーカー・ハリス氏「大切なのは、立場が異なる人たちが、いかに協力するかということ」

米Salesforce.com 共同創業者兼CTOのパーカー・ハリス氏

 米Salesforce.comのパーカー・ハリス共同創業者兼CTOは、「Salesforce.comは、19年前に設立したCRMの会社であるが、使った分だけ支払うという新たなビジネスモデル、クラウドを活用するという新たなテクノロジー、1-1-1モデルと呼ぶ新たな社会貢献活動という3つの取り組みを行ってきた。エンタープライズ企業として最も速い成長を遂げている」と前置きし、「いまは、蒸気、電力、コンピューティングに続く、第4次産業革命の時代である。AIやIoTといったテクノロジーが世界を変えていくことになる。例えば、KONIというエレベーターやエスカレーターの会社は、IoTを活用して故障が発生したら、その建物の所有者に故障の連絡が行く前に、すぐに修理者が派遣されるようにしている。米国では、“ウーバー化”という言葉がある。スマホだけで、なんでもできるようになってしまう世界が訪れている。」とした。

 さらに、「第3次産業革命の際には、製品や効率性、標準化が重要視されており、顧客という視点は入っていなかった。だが、第4次産業革命では、顧客が中心になっている。19年前は、データをクラウドに置くことは不安だと言われてきた。新たな技術には不安が伴うものであり、いまはAIに対して同じことが起こっている。AIが誤った使い方をされることに対する不安が大きい。AIの倫理に対する議論が始まっており、AIを正しく使おうという動きがある。大切なのは、立場が異なる人たちが、いかに協力するかということであり、新たなテクノロジーを理解するということである」などと述べた。

CEATEC JAPAN 実施協議会会長:柵山正樹氏「Society 5.0は製造業の強化だけでなく、社会問題の解決手段でもある」

CEATEC JAPAN実施協議会会長の柵山正樹氏

 また、CEATEC JAPAN実施協議会の柵山正樹会長(三菱電機取締役会長)は、「世界規模で、経済のデジタル化が進んでいる。そのなかで、日本では、超高齢化社会が到来し、社会保障費の増加や労働人口の減少、地域経済の縮小などの問題が起きている。これらの解決を目指し、日本政府は、2016年に第5期科学技術基本計画を策定し、そのなかで、デジタルテクノロジーを活用した社会問題の解決、経済発展を目指すことを示している。この新たな社会のあるべき姿がSociety 5.0である。これは、製造業の強化だけにとどまらず、社会問題の解決策の手段として捉えられている点が特徴である。また、経済産業省では、Society 5.0を実現する手段として、コネクテッドインダストリーズを推進しており、5つの重点取り組み分野を示し、官民をあげて具体的なアクションを開始している。データ利活用のあり方、ネットとリアルの双方に精通する人材の育成、新たなサービスや付加価値を生み出すベンチャー企業の育成を進めていく必要がある」とした。

 さらに、「日本政府は、産業界における横断的な課題を解決するための取り組みを開始しており、AIやデータの利活用を促進するために、利用に関する契約ガイドラインを改正したほか、複数事業者間のデータ活用を促進する産業データ利用促進事業を展開している。データサイエンティストやサイバー人材などの人材育成のための育成プログラムや認定制度も開始しているところだ」と語る一方、「CEATEC JAPAN 2018は、Society 5.0による未来社会の具体的な姿を発信する場を目指す。リアルデータを活用し、課題解決につなげる仕組みを見せることができる。あらゆるステークホルダーと問題意識を共有し、業界、業種を超えた『共創』を生み出す、日本発のイノベーションを見せることができる」などと位置付けた。

パネルディスカッション:「繋がる社会、共創する未来」モデレーターはグーグル岩村氏

 続いて行われたパネルディスカッションは、「つながる社会、共創する未来」をテーマに議論が進められた。

デジタル変革をどう捉えているか?
パネルディスカッションの様子。(左から)グーグル専務取締役兼CMOの岩村水樹氏、ドイツ産業連盟のデータ・ケンプ会長、仏ダッソー・システムズ共同創業者兼国際渉外特別顧問のフィリップ・フォレスティエ氏、米Salesforce.com共同創業者兼CTOのパーカー・ハリス氏、CEATEC JAPAN実施協議会会長の柵山正樹氏

 モデレーターを務めたグーグルの岩村専務取締役兼CMOは、「4人の講演を通じて、デジタル変革は避けることができないトレンドであること、デジタル変革によって社会に対して、変革をもたらすことでき、今後の見通しは明るいということ分かった」と前置きし、最初のテーマとして「デジタル変革をどう捉えているか」という点から議論をスタートした。

 ケンプ氏は、「私の立場から将来は明るいものと考えなくてはいけないが、同時に現実的に見る必要もある。ドイツでは、大手企業がデジタル変革を急速に採用しているが、中堅中小企業がプロダクトだけのデジタル化にとどまっているという課題がある。リーダーがデジタル変革に向けた行動を始めなくてはならない」と指摘。

 柵山氏は、「日本では、中小企業の経営者に対して、どんな価値を享受できるかといったものを示さなくてはならない。それが課題になっている」としたほか、フォレスティエ氏は、「デジタル変革にトップダウンは必要だが、その一方でいまの状況にとどまりたいという抵抗勢力があること、中堅中小企業のリーダーは日々のビジネスに追われている現状で、新たなことに挑みにくいという環境にあることも課題である。それを解決するためには、リーダーが数多くの人たちと連携する必要がある」とし、ハリス氏は、「技術の観点からいえば、なぜこのデータを収集しているの分からずに、データを収集している企業が多い。ブロックチェーンをやりたいと多くの人が思っていても、その価値がなにか、なぜ重要なのかを、まず知るべきである。新たなテクノロジーを利用しようとしても、目的がなにであるかをはっきりしなくては失敗する」と指摘した。

IT投資の90%がレガシーシステムのメンテナンスに……
ドイツ産業連盟のデータ・ケンプ会長

 2つめのテーマは、「IT投資」に関してである。ここでは、日本におけるIT投資が20年間増加していないこと、IT投資の90%がレガシーシステムのメンテナンスにかけられていることが示された。

 ケンプ氏は「デジタル変革を行うきっかけは、優秀な若い人材に開発を任せること、外に出して学ばせて、予算を与えることが大切である。失敗してもいい自由度を与える必要がある。社内に新たなものを作れる能力があるのに、古いシステムを使って月次報告を作らせているだけでは意味がない。これは経営陣の責任である」と発言。フォレスティエ氏は、「大手企業はサプライチェーンでつながる必要があるが、そのためには、オープンイノベーションを活用することが前提となる。レガシーシステムではそれが実現できない」などとした。

「BtoBでは、ビッグデータよりも、スマートデータに注目すべき」

 3つめのテーマとしては、「データ」である。

 岩村氏は、いくつかの会社の社外取締役を務めるなかで、データを指して、「これは宝の山であると感じるか」と聞かれることが多いという。それに対して、データは持っているだけでは意味がないと回答しているといった話題から議論が始まった。

ケンプ氏は、「BtoCであれば、重要なデータを集めて分析することができるが、BtoBでは、かなり多くのゴミといえるデータを集めてしまうことも多く、その分、コストもかかってしまう。重要なのは、リアルタイムな情報分析である。その点で、BtoBでは、ビッグデータよりも、スマートデータに注目すべきである」と指摘。ハリス氏は、「コスト削減なのか、品質向上なのか、リレーションシップの強化なのか。なにを解決しようとしているのかが大切である」とし、フォレスティエ氏は、「20年前に最も注目されたポイントは、機械などの資産であった。だが、いまはデータが一番注目されている。だが、データが多すぎて、やりたいことができていない。これをどう管理するのかが大切である」と述べた。

「AIは、さまざまな仕事をなくす一方で、新たな雇用を創出する」
CEATEC JAPAN実施協議会会長の柵山正樹氏

 続いてテーマとなったAIについての話題では、人材育成の観点からそれぞれの見解を述べた。

 ケンプ氏は、「AIは将来において、最も大きな問題になる。中国はAIに対して、大きな投資をしている。それに対抗するために、欧州各国の政府は価値観を共有して、投資をしようとしている。欧米諸国の間で協力体制を敷き、能力を結集させる必要がある。そして、教育は早い段階から進めなくてはならない。若い人たちが、テクノロジーに興味を持ってもらう働き掛けが必要であり、的確なカリキュラムを用意する必要がある」とし、ハリス氏は、「AIは、さまざまな仕事をなくす一方で、新たな雇用を創出するものになる。若い人たちに対しては将来の備えをするために、そして、これから仕事を変えなくてはならない人に対しても再訓練もする必要がある。データサイエンティストを育成するためにも、AIを理解するためにも、新たなテクノロジーに触れるためにも教育は大切になる」と述べた。

 これに対して柵山氏は、「AIを社会に新たなツールとして導入する場合に、社会に対して、犠牲を払う可能性がある。新たなツールが生み出す価値が、導入のコストを上回るものでなくては、画期的なツールでも消え去ってしまう」とし、「三菱電機は、AIは重要な技術であり、より高い価値を実現しなくてはならないと考えている。そこで、AIやITエンジニアだけでなく、アプリケーションエンジニアやツールを使っている人たちに対しても、価値を高めるための教育を行っている。また、ITのエンジニアに現場で働いてもらい、リアルの状況を知ってもらっている。そうした経験が、問題解決のイノベーターを生むことになる」とした。

「国の垣根を越えて、共に創る『共創』が重要に」

 次のテーマは、「コラボレーション」である。ここでは、各国が第4次産業革命におけるさまざまな施策を打ち出すなかで、その実現には、コラボレーションが必要であることが参加者から示され、岩村氏が、「いま、この会場で起きていることこそがコラボレーションである」と前置きし、「デジタル変革のドライバーになるのがコラボレーションである。個人、企業、国といった規模を問わずにコラボレーションすることが大切である」とした。

 最後のテーマは、「リーダーに対するアドバイス」となった。

 フォレスティエ氏は、「デジタル変革が、多くの人たちに有効であることを示さなくてはならない」とし、ケンプ氏は、「デジタル変革のリーダーになってほしい。研究開発チームに自由度を与えて、新たなイノベーションを生める環境を作ってほしい」と要望した。ハリス氏は、「説得力のある戦略を考え、同時に大きなビジョンを持ってほしい。若い人たちには独立性を持たせ、失敗をさせて、成功体験もさせることが大切である」と語った。

 締めくくりとして、経済産業省の関芳弘副大臣が登壇。「国の垣根を越えて、共に創る『共創』が重要になっている。CEATEC JAPAN 2018のブレイベントであるGlobal Symposiumに、ドイツ、フランス、米国の各産業界の代表ともいえる方々に参加してもらい、第4次産業革命がもたらす価値や課題について共有できたことは、国の垣根を越えた共創を促進する上で有意義であった。日本政府では、政策や各国政府との議論に生かしたい」とした。

経済産業省による「Connected Industriesカンファレンス」も開催

経済産業省の世耕弘成大臣

 また、第2部として、経済産業省が主催する「Connected Industriesカンファレンス」が開催。

 セッションとしては「ものづくり分野における協調領域の拡大」「AIベンチャーと大手・中堅企業による共創」と題したものがそれぞれ行われ、製造業分野において、異なるデータの共通利用に関する取り組みが紹介されたほか、ベンチャー企業と大手企業との連携による協業成果などが紹介された。

 冒頭には、経済産業省の世耕弘成大臣が登壇。「日本政府は、2017年3月に、安倍首相がドイツのハノーバーでConnected Industriesのコンセプトを発信、2017年10月には、私が日本でConnected Industries Tokyo Initiativeを発表した。産業界の代表者や有識者と徹底した議論を重ね、2018年6月にはアクションプランをまとめ、いまは、その具体的なアクションが次々と開始されているところである。このカンフレァンスでは、これまでのConnected Industriesの進捗を共有するとともに、見えてきた課題について議論が行われ、さらに取り組みが加速することを期待している」と述べた。

 また、「Connected Industriesにおける日本の勝ち筋は、モノづくりなどの現場に蓄積されている膨大なリアルデータを活用することである。そのために、日本政府は、『自動走行・モビリティサービス』『ものづくり・ロボティクス』『バイオ・素材』『プラント・インフラ保安』『スマートライフ』の5つの重点分野を定め、取り組みを加速している。法律、税、予算などのあらゆる政策リソースを投入し、革新的な取り組みに挑戦する企業を後押ししている」とアピール。

 具体例として、「2018年6月に施行した生産性向上特別措置法では、データ連携、共有する事業者を認定して、減税や予算支援、国が保有するデータを提供。ここでは20以上のデータ共有プロジェクトを開始した。不正競争防止法も改正し、データの不正取得に関する差し止め制度を開始し、安全、安心なデータ流通を図っている。事業者間のデータ利用やAI開発に関する権利、責任関係を明確にするために、AI、データに関する契約ガイドラインも策定している。さらに、優れた技術を持ったAIベンチャーが、大量にデータを保有する大手企業と共同でシステム開発する20以上のプロジェクトをスタートしている。さらに、2018年6月には、J-Startupのスキームを立ち上げ、200社の優秀なベンチャー企業に政府が支援するといったことも開始した」と紹介。

 続けて現状の認識として「日本でも世界に負けない取り組みが出ている。これまで国内の競争に明け暮れて、グローバル市場を見据えた連携が十分でなかった日本の産業界において、協調領域の拡大を進めていくという考えが広がっている」とし、「製造データのプラットフォーム間連携や、1年前にはなかったデータ共有プロジェクトが数多くスタートしている。これらを世界に誇れる事例として紹介していきたい。産業界のみなさんには、Connected Industriesのコンセプトを理解するだけでなく、新たな連携を通じて、リアルタイムデータから付加価値が高い製品やサービスを売り出すための具体的なプロジェクトを推進し、これを大きく育ててほしい。これまでの常識にとらわれないアクション、プロジェクトが生まれることを期待している。経済産業省はやるべきことを全力で実行していく」と語った。

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