期待のネット新技術
日本発の規格「Wi-SUN」、「IEEE 802.15.4g」としてスマートメーター向けに展開
【IoT時代の無線通信技術「LPWA」とは?】(第9回)
2019年5月7日 06:00
LPWA、あるいはLPWANと呼ばれる規格は、Low Power Wide Area(もしくはLow Power Wide Area Network)の略だ。
この規格、2016年ごろから、まず海外で次第に普及が始まり、2017年あたりから、日本でも取り組むベンダーやメーカーが増えてきた。2018年には一斉に開花……とまでは行かないものの、現実に商用サービスはすでに始まっている状況だ。
「IoT時代の無線通信技術『LPWA』とは?」記事一覧
- 省電力で広範囲であればLPWA、新規格も次々登場、LTEやWi-SUNの一部も?
- 世界各地で広範に利用できるLPWAの老舗「SIGFOX」
- おおむね10kmをカバーする「LoRa」、51カ国で100事業者が提供
- M2M向け規格「LTE Cat.1」、最大10MbpsでLTE同様のカバレージのハイエンドLPWA?
- MCT向け省電力規格「LTE Cat.M1」、国内提供は要免許で携帯電話キャリアが中心に
- 単三2本で約10年稼働の省電力規格、“NB-IoT”こと「LTE Cat.NB1」
- 2Gしか通信インフラのない地域向けのLPWA「EC-GSM-IoT」
- 1km超で通信可能な「Wi-Fi HaLow」こと「IEEE 802.11ah」
- 日本発の規格「Wi-SUN」、スマートメーター向けに展開
- メッシュ対応で最大300kbpsの「Wi-SUN HAN」
- 広範囲カバー時のコストパフォーマンスに優れる「RPMA」
- 通信の冗長性を確保するLPWAらしからぬ通信技術「FlexNet」
- 20万台ものデバイスが対応、3ホップメッシュが可能な「WirelessHART」
- 柔軟さと相互接続性を確保した工場向け通信規格「ISA100.11a」
- バッテリーレスで動作する“超”低消費電力の「EnOcean」
- 周波数利用効率が高く、微弱な信号で通信可能な「Weightless-P」
- 4ホップまでのメッシュをサポート、今後の立ち上げを狙う「ZETA」
- ソニー開発の「ELTRES」、274kmの到達距離、時速40kmでも通信可能
- メッシュ前提の転送方式「CTF」を採用した「UNISONet」
- 最大150kbps、単三で電池寿命20年のIoTアプリ向け「Milli 5」
- 433MHz帯の利用で到達距離と低消費電力を両立した「DASH7」
- IoTはレッドオーシャン? LPWAはコストと期間での評価へ
- UNISONet 7つの特徴、今後と海外への展開は?~ソナスインタビュー前編
- LoRaやNB-IoTでカバーできないニッチメジャーを目指す ~ソナスインタビュー後編
Low Rate WPAN「IEEE 802.15.4」に属するLPWA規格「Wi-SUN」
免許不要なアンライセンスバンドのLPWA規格第2弾として、今回は「Wi-SUN」を紹介したい。Wi-SUNは、日本発の規格でありながら国際標準規格「IEEE 802.15.4g」として展開されている。同様に日本発の規格はいくつかあるが、そのほとんどが独自規格のままなので、ちょっと珍しいパターンである。
IEEE 802.15.4g、という名前から推察できるように、この規格はIEEE 802.15.4の派生形とでもいうべきものである。元々「IEEE 802.15」は、無線を利用した近距離通信規格(WPAN:Wireless Personal Area Network)のためのもので、以下が既に仕様策定が完了しているものとなるが、このほかにも、進行中の物が多数ある。
- IEEE 802.15.1 : WPAN/Bluetooth
- IEEE 802.15.2 : Wi-Fiとの互換性を保つ仕様
- IEEE 802.15.3 : High Rate WPAN
- IEEE 802.15.4 : Low Rate WPAN
- IEEE 802.15.5 : Mesh Network
- IEEE 802.15.6 : Body Area Network
- IEEE 802.15.7 : Visible Light Communication
- IEEE 802.15.8: Peer Aware Communications
Wi-SUNは、上記のうちLow Rate WPANに属する規格となるが、実はこのIEEE 802.15.4をブレイクダウンすれば、標準化が完了した規格だけでも、IEEE 802.15.4a/4b/4c/4d/4e/4f/4g/4j/4k/4m/4p/4r/4s/4t/4vがある。さらに、標準化作業中のものがIEEE 802.15.4md/4w/4x/4y/4xとなっている。
スマートメーター向けの無線技術としてNICTが開発
これを全て細かく説明していると、Wi-SUNの話にたどり着かないので今回は割愛するとして、IEEE 802.15.4gについて解説していこう。これを開発したのはNICT(情報通信研究機構)である。
元々NICTは建物内の電気・ガス・水道用メーターの自動検針や状況監視、動作制御といった、いわゆるスマートメーターの利用のための無線技術を開発しており、これをベースに「Wi-SUN(Wireless-Smart Utility Network)」というプロトコルを策定した。
ただしNICTは、Wi-SUNを独自の規格として策定するのではなく、IEEEによって標準化された規格にしたいという意向を持っており、このWi-SUNもこれに則ったかたちだ。このあたりの経緯は、「スマートグリッドを実現する802.15.4g(SUN)の標準化動向を聞く!」として、スマートグリッドフォーラムに全5回の連載として掲載されているので、興味ある方はご覧いただきたい。
NICTはこれと並行して、Wi-SUNを普及させるWi-SUN Allianceを立ち上げており、メンバーは原稿執筆時点でPromoterが9団体、Contributor Memberが77団体、Observerが8団体、Adapterが98団体という、結構な規模になっている。最終的にこのWi-SUNは、2012年5月に標準化を完了しており、その後は普及に向けた努力が行われている、という段階だ。
そのWi-SUNであるが、基本はIEEE 802.15.4、つまりZigbeeなどとも同じ方式である。ただし、以下のようにいくつかの拡張がなされている。
- 1GHz未満のISM Bandも利用。具体的には1GHz未満と2.4GHz帯の両方をサポートし、後は国別に利用する周波数帯を切り替える。全世界対応は2.4GHz帯のみ
- 変調方式はIEEE 802.15.4の「OQPSK(Offset QPSK)」に加え、FSK/OFDMの3種類をサポートし、割り当て周波数帯に応じて細かいパラメーターを決めるかたち。国内では3種類とも利用可能だが、主にFSKが主流
- PHYのフレーム構造を変更
- 異なるPHY間の共存、あるいは干渉防止のため「CSM(Common Signaling Module)」を用いた「MPM(Multi-Physical Layer Management)」機構を搭載
ちなみに、最後に出てきたMPMとは、CSMを利用して定期的に「EB(Enhanced Beacon)」を発信する仕組みである。このEBを発信するのは、「Coordinator」(IEEE 802.15.4で規定されたネットワークを構成する親機。Wi-Fiで言えばアクセスポイントに相当)だが、各々のCoordinatorは、自分とは異なるEBを受信することで、自らのネットワークの領域に自分以外のCoordinatorが存在することを認識できる。このため、タイミングをずらすなどの方法によって干渉を防ぐ、という仕組みだ。
ここまでは主にPHY層の話なのだが、MAC層にも若干の変更が加わった。この変更はIEEE 802.15.4eとして規定されている。これもあってWi-SUNはIEEE 802.15.4g/4eなどと表記される場合もある。このMAC層の変更は、Wi-SUN関連で言えば省電力向けの拡張に相当するものだ。
Superframeを拡張したLE Superframeは、同期用のビーコン信号を休止することで省電力化を図る。ただし「BI(Beacon Interval)」を利用したTDMA制御はそのまま残す。また、送信可能な期間である「Active Period」を超えての送信も可能にする。ただし、これは受信側がそれを希望する場合のみ受信可能だ。
CSLは、省電力通信のために追加されたプロトコルだ。受信側が定期的に短時間の受信待機を行う一方で、送信側はData Frame送信の前に、Wakeup Frameを連続送信して、受信側に送信データがあることを通知し、それからData Frameを送信するという仕組みである。これにより、送信までのレイテンシーを、以下のRITよりも短縮できる一方、Wakeup Frameを連続送信するので、多少余分な消費電力を必要とする。
一方のRITも同様に追加されたプロトコルだが、受信側からDataReq Frameを定期的に送信、その後に受信待機を行うという、受信側がイニシアチブを握る方式である。送信側にデータがある場合は、このDataReq Frameを受信したら直ちにデータを送信し、さもなくば何もしないというかたちで、CSLよりも消費電力を下げやすい一方、Latencyはやや増える傾向にある。
到達距離は最大500m、50Kbps~200Kbpsの転送速度、単三電池2本で10年稼働
さて、このWi-SUNのターゲットは、先にも書いたようにスマートメーターなどだ。このため、転送速度は50Kbps~200Kbps程度(利用する周波数帯や変調方式による)ながら、到達距離は最大500m程度(これも利用する周波数帯による)で、消費電力は単三電池2本で10年程度の電池寿命が実現できることが目標とされた。
到達距離の500mはかなり難しい気もするが、実際にNICTによる実証実験では、1ホップあたり500mの距離の通信に成功しているという。
ちなみに、Wi-SUNそのものは、主にPHY層とMAC層のプロトコルで、その上位に関しては基本的に特にベースとなるものは定められていない。ただ、国内ではこのWi-SUNの上に「ECHONET Lite」というスマートホーム向けのプロトコルが載ることが想定されている。
ただ、ECHONET Lite以外は載らないという意味ではなく、Wi-SUNを利用する最初のアプリケーションはECHONET Liteを載せている、という意味である。こちらは既に国内のスマートメーターに広く採用されており、その意味ではこれまで説明してきたどのLPWA方式よりも広く国内で使われている、という言い方もできる。
ちなみに、あまり知られていない話だが、スマートメーターの情報は、自分の契約している回線に限り、Wi-SUN経由で取得できる。基本的に国内の電力会社は、全てBルートサービス(電力メーター情報発信サービス)を提供している。このため、例えば東京電力などの電力会社に申し込めば、自分の家のスマートメーターにアクセスするためのIDとパスワードが無料で入手できるのだ。
あとは、このIDとパスワードを使ってスマートメーターにアクセスすれば、電力の使用状況などがリアルタイム(といっても30分間隔だが)で取得できるというものだ。ただその場合にはWi-SUNでのアクセスが必要になる。
IIJではこれに向けて「SA-M0」というアダプターを発売しているが、残念ながら法人向けサービスである。個人向けでは、NextDriveのCUBEというゲートウェイが個人で購入できる。
腕に自信のある人は、ロームのWi-SUNモジュールを入手して、自分でプログラムを書いてもいいだろう。モジュール及び評価用ボード向けのサンプルプログラムなどは、ロームから提供されている。
少しスマートメーター関連で寄り道してしまったが、次回はこのWi-SUNの発展形の話をしたい。
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