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世界各地で広範に利用できるLPWAの老舗「SIGFOX」

【IoT時代の無線通信技術「LPWA」とは?】(第2回)

 LPWA、あるいはLPWANと呼ばれる規格は、Low Power Wide Area(もしくはLow Power Wide Area Network)の略だ。

 この規格、2016年ごろから、まず海外で次第に普及が始まり、2017年あたりから、日本でも取り組むベンダーやメーカーが増えてきた。2018年には一斉に開花……とまでは行かないものの、現実に商用サービスはすでに始まっている状況だ。

最もメジャーなLPWAの老舗? 「SIGFOX」

 LPWAの老舗(?)と言えば、「SIGFOX」が一番メジャーではないかと思う。SIGFOXの名前そのものが頻繁に出てくるようになったのはここ2年ほどだが、その歴史はもう少し長い。

 SIGFOXは、2009年にフランスで設立された“Cellular Style Network”を提供する企業で、同社が提供するサービスの名称も、そのまま"SIGFOX"となった。さて、このSIGFOXの特徴を、以下に挙げていこう。

1GHz未満の周波数帯であるISM Bandを利用

 SIGFOXが利用するのは1GHz未満のISM Bandだ。このため基地局やクライアントが免許不要で利用できる。変調方式は「SSB-SC(Single Side Band Suppressed Carrier)」+「D-BPSK(Differential Binary Phase-Shift Keying)」であり、インプリメントが容易で、機器の低コスト化も図れる上に、基地局側の感度を高めることで到達距離を増やしやすいメリットがあるという。

 周波数帯域はわずか100Hzであり、200KHzの帯域内に、同時に2000ものチャネルを取れる計算となる。干渉対策として、この豊富なチャネルを変更しながらの繰り返し送信などが備わっている。ちなみに、下り信号についても定義はなされているが、今のところ、これを利用する計画はない。

送信時には、まず5msの間、帯域全体をキャリアセンスし、使われていないチャネルに対して2秒かけて送信を行うかたちだ
下りはデータレートを600bpsと高めていることもあり、キャリアは800Hzと広め。その分送信時間は最大でも350msに抑えられている

通信速度は平均100bpsと超低速

 SIGFOXの通信速度は、10bps~1Kbps/secで、平均100bpsと超低速だ。おまけに、1回の通信で転送できるデータ量は12Bytes(端末識別信号やTimestampなどを除く)。1日に通信できる回数も、最大で140回に限られる。ここからSIGFOXは「UNB(Ultra Narrow Band)」とも称される。

デバイスと基地局間での上り下り通信をサポート

 元々はデバイスから基地局への上り方向のみだったが、SIGFOX自身が後付けしたかたちで、基地局からデバイスへの下り方向の通信もサポートしている。

 日本国内でも、京セラコミュニケーションシステム(KCCS)が、2017年10月からSIGFOXをサポートしている。ちなみに通信方式は、基地局とデバイス間でConnectionを作らないBroadcastingとして行われる。

基地局あたり、都市部で半径1~2km、郊外で5~10kmのカバーレンジ

 基地局のカバーレンジは、都市部では半径1~2km、郊外で5~10kmだ。1つの基地局は1日あたり100万メッセージを受信可能なので、最低でも7000デバイスあまりをカバーできることになる。

 このあたりはデバイスが毎日メッセージをどの程度送るかにも掛かってくる。100万メッセージといっても、1日あたりのデータ量は11.4MBに過ぎず、ヘッダー部分を含めても20MBに及ばない程度だ。このため、基地局には、一般向けWi-Fiアクセスポイントに及ばない程度のスペックしか要求されない。

 ただ、厳密に言えば、Wi-Fiのアクセスポイントとはまた違った、小サイズのパケットを迅速に処理できる特性が必要になる(Wi-Fiのアクセスポイントは、相対的に大きなパケットの処理に特化している)が、だからといって必要なハードウェアが、通常のWi-Fiアクセスポイントより高価になることは、まずあり得ない。バックボーンへのトラフィックも、それこそ格安SIMを使ったデータ回線ですらお釣りがくる。

慶応義塾大学湘南藤澤キャンパス(藤沢市)に基地局を置いた伝搬試験の結果。茅ヶ崎市の海沿いで一部-142dBm未満(受信不可)があったものの、半径10km程度をカバーし、国道246号線沿いでは20km以上離れた秦野市でも通信可能だった

国ごとに1つの事業者がインフラを構築・運用

 SIGFOX自身のポジションはグローバル通信事業者であり、各国ごとに1つの事業者と契約し、その事業者がその国におけるSIGFOXのインフラを構築・運用するかたちだ。

 現在は、60あまりの国でサービスが提供中で、日本ではKCCSが、2016年11月にSIGFOXの日本向け事業者となり、その後も着々とカバー範囲を広げており、2018年12月には人口カバー率90%に達したことを発表している。

コストは1日数回の通信であれば年額500円未満

 コストについては、もともとSIGFOXが立ち上がった当時の説明では、通信頻度にもよるが、1デバイスあたり月額1ドル、年額で言えば12ドルで固定との話だった。

 実際の金額は、国ごとの事業者によって異なるが、例えばKCCSが以前総務省に出した案では、1日に2回程度の通信で、かつ契約デバイス数が多ければ年額100円程度。デバイス数が多く、かつ通信頻度も高ければ月100円前後といったイメージだったようだ。

10~15分に1回の通信頻度では、おそらく年額で1000円を超える程度と想像される。これも、契約回線数が100万を超えるような大口だと、話は変わってくるのかもしれない

 KCCSや各国のSIGFOX事業者が、顧客と直接契約する例がないわけではない[*1]ものの、一般には直接顧客と契約するのではなく、間にはさんだパートナー企業が顧客と契約するかたちが多い。

[*1]……SwitchScienceのSigfox Shield for Arduino(UnaShield)の購入ページによれば、個人でも購入は可能で、その場合1年間は無料で利用できるが、2年目以降はKCCSとの契約が必要で、およそ年額1000円の通信料が必要とされる。これが年額使用料の上限に近いと思われる

 この価格表は、あくまでパートナー企業に卸す際の金額で、パートナー企業はこれに手数料を上乗せして顧客に請求するかたちとなるわけだ。とはいえ、100円が1000円になるというほど跳ね上がることも考えにくく、それこそ1日数回の通信であれば、年額500円未満でサービスを利用できる可能性が高いと思われる。

 このあたり、その国の事業者によって状況は異なるだろうが、SIGFOXの基本的なコンセプトが「安い」ことにあるので、大きく外れるケースはないと想定される。

開発が容易

 開発が容易であることも大きな点だ。例えばSIGFOXの開発キットの1つであるUnaBizの開発した「UnaShieldは、国内でもKCCSが代理店となって取り扱いをしているが、これをArduinoに搭載して使う際のSketchのサンプルによれば、例えば12Bytesの文字列をデバイスから送信するのは以下のコードだけで済む。

transceiver.sendString("123456789abc");  //  Send text message.

delay(10000);                            //  Wait 10 seconds.

 もちろん、こんな文言を送っても実際には意味がないが、もう少し意味があるところでは、例えばカウンタ値とセンサーデータ(温度・電圧)を送る場合は以下の程度なので、やはり非常にシンプルだ。

  Message msg(transceiver);          //  Will contain the structured sensor data.

  msg.addField("ctr", counter);      //  4 bytes for the counter.

  msg.addField("tmp", temperature);  //  4 bytes for the temperature.

  msg.addField("vlt", voltage);      //  4 bytes for the voltage.

                                     //  Total 12 bytes out of 12 bytes used.

  if (msg.send()) {                  //  Send the message.

    successCount++;                  //  If successful, count the message sent successfully.

  }

  delay(10000);                      //  Wait 10 seconds.

 一方、このメッセージを受け取る側だが、Node.jsで記述された「decodeMessage」という関数を使えば、以下のように受け取れることができる。これだけでなく、REST APIやCallback(DeviceがMessageを送るごとに1回ずつCallbackが呼び出される)を使うという、ごく一般的なインターフェースを用いても可能だし、Web APIもどんどん拡充されているため、取り扱いは容易だ。

カウンタ値が9、温度が36、電圧が12.7と示される。送信日付もtimestampで、デバイス名の「g88pi」も分かる。出典はunabiz-arduinoのサンプル画像(github)

現時点でSIGFOXの難点はデバイスそのもの

 SIGFOXは独自規格であるが、現時点でSIGFOXの難点は、デバイスそのものだろう。既にTI、Silicon Labs、Microchip、村田製作所、SMK(旧昭和無線工業)、韓国WISOLなどから、SIGFOX準拠のRFチップやRFモジュールが多数提供されていて、これを利用したデバイスは多数存在する。しかし、デバイスは全体的にやや高めで、これと比べて通信料は安すぎるという話もあるほどだ。

 例えば、先に出てきたUnaShieldは、WISOLの「WSSFM10R」というモジュールを搭載しているのだが、AVNET APAC調べの価格は、1個あたり2.55ドル(4万5000個発注時)~2.91ドル(最小発注単位の900個発注時)で、ほぼ3ドルを切る程度だ。

 このUnaShieldに、コントローラーやセンサーなどを組み合わせると10ドルを切るかどうかといった価格になる。もう少し安くなれば、という声はよく耳にするが、2013~2014年頃はまだRFチップやモジュールの選択肢も少なく、価格もまだ高かった。

 今後、順調にパートナー企業が増えていき、コントローラーなどを込みにしたシステムの価格が5ドルを切るあたりまで下がれば、さらに普及が加速するとも推測される。

 さらに言えば、全部込みで1ドルを切るほどまで下がれば、使い終わったら捨ててしまうようなシステムでも手軽に採用できる、という話も聞いたことがある。だが、この実現までには少し遠そうだ。

 まとめると、SIGFOXは、何しろほかのLPWA規格よりかなり前からサービスインしており、それもあって多くのパートナー企業を集めている。日本だけでなく世界各地で広範に利用できるLPWA規格の最右翼というポジションといっていいだろう。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/