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4ホップまでのメッシュをサポート、今後の立ち上げを狙う「ZETA」

【IoT時代の無線通信技術「LPWA」とは?】(第17回)

 LPWA、あるいはLPWANと呼ばれる規格は、Low Power Wide Area(もしくはLow Power Wide Area Network)の略だ。

 この規格、2016年ごろから、まず海外で次第に普及が始まり、2017年あたりから、日本でも取り組むベンダーやメーカーが増えてきた。2018年には一斉に開花……とまでは行かないものの、現実に商用サービスはすでに始まっている状況だ。

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今後の立ち上げを狙う独自規格のLPWA「ZETA」

 前回までは、既に存在するLPWA規格を中心に紹介してきた。ここからは「これから立ち上げを狙う規格」について見ていきたい。最初に紹介するのは「ZETA」である。実はこのZETAという規格、筆者は昨年の「ET2018(Embedded Technology 2018/IoT Technology 2018)」の展示で存在を初めて知った次第だ。

ET2018におけるZETA Allianceのブース。合計で9社が出展していた

 ZETAは、2013年に英国で創業されたZiFiSenseが開発した独自規格のLPWAである。もっとも、英国の会社ではあるが、創業者は李卓群博士だ。その後、厦門(アモイ)や上海、重慶などに展開しており、最初のマーケットも中国となっている。その意味では、中国系の会社と判断した方が正確なのかもしれない。

 そのZiFiSenseのビジネスは、ZETA対応機器の販売や、ZETAのIP Licenseに加え、さまざまなAIoT向けインフラ、さらに「ZETag」と呼ばれる使い捨て型センサータグなども手掛けている。

 実際、ET2018におけるZiFiSenseの展示物は、ZETA AIoT PlatformとZETagだった。では誰が規格としてのZETAを推進しているのかというと、そのZiFiSenseが立ち上げたZETA Allianceである。ただ、トップページを見ると、組織されている場所は中国と日本とあり、本社所在地であるはずの英国や、さらに言えば欧州の企業は加盟していない。さらに、中国で結成されたのは2019年に入ってからとなっているあたりからも、まさに「これから」というかたちだろう。

4ホップまでのメッシュをサポート、バッテリー寿命は5~10年

 ZETA Allianceについては後半で触れるとして、ZETAの特徴は、まずチャネル幅が0.6~2KHzの「UNB(Ultra Narrow Band)」通信という点だ。これにより混雑するISM Bandであっても利用可能なチャネルを見つけやすくなり、スペクトル資源の利用効率を高められる。そのほかには、以下のような特徴がある。

  • チャネル幅0.6~2KHzのUNB通信
  • 利用周波数帯はISM Band、日本では920MHz帯と429MHz帯が利用可能
  • 変調方式は2-FSK/2-GFSKをサポート
  • 通信速度は利用するチャネル幅に依存し、0.6KHzで100bps程度、2KHzで50kbps程度
  • 双方向通信に対応
スペクトルの比較。ほかのLPWA規格と比べ、チャネルホッピングが容易で、リソースの有効活用がしやすい。以降のスライドの出典は、組み込みシステム技術協会(JASA)の2018年度第3回IoT技術高度化委員会における朱強氏(株式会社テクサー代表取締役社長)の"次世代LPWAN規格ZETAの紹介"(PDF)

 通信トポロジーはリピーターを前提とするメッシュ構造で、基本はアクセスポイントとEnd Nodeが直接通信するスター型のネットワークとなるが、1ホップ(つまりアクセスポイントとEnd Nodeの直結)での到達距離は2~10kmとされる。間にリピーターを挟めば距離を伸長可能で、最大4ホップ(つまり間にリピーターを3台挟む)までがサポートされる。

 このように、リピーター同士でメッシュ接続を構成できる点もZETAの特徴だ。End Nodeに複雑なメッシュトポロジーのハンドリングを行わせる必要がなくなるため、インプリメントが簡単になる。その一方、通信路を冗長化できるメッシュの利点もある。ただ、今のところZETAの規格はオープン化されておらず、無線やプロトコル層の詳細なども明らかにされていない。

End Nodeとリピーターの間は、当然Star型になる。リピーターとEnd Nodeを離し過ぎれば通信が途絶するおそれがある点は、仕方がないところか

 さらに、以下のような特徴も挙げられている。

  • 通信プロトコルは「ZETA-P」「ZETA-S」「ZETA-Lite」の3種類
  • 詳細は不明だが、ネットワーク認証およびデータの暗号化の機能を持つ
  • バッテリー寿命は5~10年で、通信速度にも依存する

 通信プロトコルのZETA-Pは、主にローカルのセンサーネットワーク向けで、通信量が少ない場合に利用され、低遅延が特徴だ。ZETA-Sは、主に通信量が多い都市部などのネットワーク用途向けで、通信間隔を調整し、通信の衝突頻度を減らすことができる。ZETA-LiteはSmart Lighting専用で、リピーターまでのダウンリンクの遅延を最小化できるほか、1方向の通信が可能で、ヘテロジニアスのネットワーク構築や、リピーターのパトロールといった特徴を持つ。ただ、各々のプロトコルの詳細は不明となっている。

ZETA施設に設置したビル内のスマートメーターなどやドア開閉を集中管理する売り切り型ビジネスを展開

 ZETAを利用するには、基地局(Access Point)とEnd Nodeが最低限必要だ。さらに加えてリピーターも追加できるが、これらはいずれもZiFiSenseから提供されている。

屋外設置が前提となるZiFiSenseの基地局
「Mote」と呼ばれるリピーター。電池給電なので、外部電源なしで利用できるのがポイント。ただ電池残量減を知らせる方法はあるのだろうか?
End Node向けモジュール
ET2018におけるTOPPANブースの展示。ZiFiSenseのものとはモジュール形状が異なる

 End Node向けの通信モジュールは凸版印刷株式会社からも提供予定となっており、2019年4月17日から実際に量産が開始されたという。

 ということで、再びZETA Allianceの話に戻る。イギリスと中国に拠点を置く会社にも関わらず、なぜかZETA Allianceの形成は日本が最初だ。このあたりの経緯は、ZETA Allianceにある"ごあいさつ"のウェブページに、ZETA Alliance代表理事の朱強氏の言葉で説明があるが、少し不思議なものだ。

 さて、2018年7月に形成されたZETA Allianceの活動については、6月15日には第4回の「ZETA Alliance DAY」が開催されるといったように、比較的活発に行われているようだ。中国でも第1回のAlliance DAYが4月21日に開催されている。その意味では、冒頭に書いた通り「これから」の規格と考えていいだろう。

 現状のZETA Allianceの動き方を見ていると、「SigFox」あるいは「LoRa」とは異なり、大規模なサービスプロバイダーが面展開でZETAのカバーエリアを提供、ここに契約するかたちでデバイスを繋げるというサブスクリプション型ではなく、LPWAを利用したいと思う事業者が、自らアクセスポイントとEndNode、必要ならリピーターを設置して使うという、言わば売り切り型でビジネスを展開することを想定しているようだ。

 もっとも、面展開がない、というわけではなく、特に都市部の社会インフラ向けにある程度のカバー面積を確保したサービスを展開するのは可能だ。実際、上海のスマートシティ向けとして、China Towerに基地局を置き、ここからリピーターを広く展開することで、ある程度の面積のカバレッジを提供する、といったことも行われている。

 ただ、どちらかと言えば、「FlexNet」「WirelessHART」「ISA100.11a」のように、例えばマンションの屋上などの拠点へアクセスポイントを設置し、そこから各階にリピーターを複数置いて、マンション内のスマートメーター、煙や火災の感知器、さまざまな流量計といったものの管理、あるいはドアや扉の開閉検知や管理などを、一括して行うような使い方を狙っているのが実情だろう。

 実際、ZiFiSenseのケーススタディには、マリオットホテルや、上海のSOHO天山広場、办公楼租赁(JLL Baoland Plaza)といったビルにZETAを利用して集中管理を行ったとの例が記載されている。まずは、こうした用途を狙うというのが、ZETAのシナリオなのかもしれない。

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大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/