期待のネット新技術
LPWAのハイエンドにあたるM2M向け規格「LTE Cat.1」、最大10MbpsでLTE同様のカバレージとハンドオーバー性能
【IoT時代の無線通信技術「LPWA」とは?】(第4回)
2019年3月26日 06:00
LPWA、あるいはLPWANと呼ばれる規格は、Low Power Wide Area(もしくはLow Power Wide Area Network)の略だ。
この規格、2016年ごろから、まず海外で次第に普及が始まり、2017年あたりから、日本でも取り組むベンダーやメーカーが増えてきた。2018年には一斉に開花……とまでは行かないものの、現実に商用サービスはすでに始まっている状況だ。
「IoT時代の無線通信技術『LPWA』とは?」記事一覧
- 省電力で広範囲であればLPWA、新規格も次々登場、LTEやWi-SUNの一部も?
- 世界各地で広範に利用できるLPWAの老舗「SIGFOX」
- おおむね10kmをカバーする「LoRa」、51カ国で100事業者が提供
- M2M向け規格「LTE Cat.1」、最大10MbpsでLTE同様のカバレージのハイエンドLPWA?
- MCT向け省電力規格「LTE Cat.M1」、国内提供は要免許で携帯電話キャリアが中心に
- 単三2本で約10年稼働の省電力規格、“NB-IoT”こと「LTE Cat.NB1」
- 2Gしか通信インフラのない地域向けのLPWA「EC-GSM-IoT」
- 1km超で通信可能な「Wi-Fi HaLow」こと「IEEE 802.11ah」
- 日本発の規格「Wi-SUN」、スマートメーター向けに展開
- メッシュ対応で最大300kbpsの「Wi-SUN HAN」
- 広範囲カバー時のコストパフォーマンスに優れる「RPMA」
- 通信の冗長性を確保するLPWAらしからぬ通信技術「FlexNet」
- 20万台ものデバイスが対応、3ホップメッシュが可能な「WirelessHART」
- 柔軟さと相互接続性を確保した工場向け通信規格「ISA100.11a」
- バッテリーレスで動作する“超”低消費電力の「EnOcean」
- 周波数利用効率が高く、微弱な信号で通信可能な「Weightless-P」
- 4ホップまでのメッシュをサポート、今後の立ち上げを狙う「ZETA」
- ソニー開発の「ELTRES」、274kmの到達距離、時速40kmでも通信可能
- メッシュ前提の転送方式「CTF」を採用した「UNISONet」
- 最大150kbps、単三で電池寿命20年のIoTアプリ向け「Milli 5」
- 433MHz帯の利用で到達距離と低消費電力を両立した「DASH7」
- IoTはレッドオーシャン? LPWAはコストと期間での評価へ
- UNISONet 7つの特徴、今後と海外への展開は?~ソナスインタビュー前編
- LoRaやNB-IoTでカバーできないニッチメジャーを目指す ~ソナスインタビュー後編
IoTに利用できる5G規格「mMTC」は本命なのか?
今回からは、しばらくLTE絡みの規格を紹介していこう。昨今では5Gの話が盛んで、特に5Gの中でも「mMTC(massive Machine Type Communications)」については、IoTに利用できるという話がしばしば出てくる。
ちなみに「URLLC(Ultra-Reliable and Low Latency Communications)」も、やはりIoTに向いているという話もあるが、こちらはむしろ高信頼性や、超低遅延性を生かした遠隔制御などがメインで、広義にはIoTではあるのだが、ちょっと毛色が異なってくる。
それはさておき、では本命はmMTCか? というと、それも早計だ。何しろまだサービスの概要も決まっていないし、どのタイミングでサービスインするかもはっきりしていない。こうした点がはっきりするまでには、まだしばらく時間を要する。そして幸いなことに、5GではなくLTE(4G)の規格にも、LPWAに分類できるものがいくつかあるのだ。
M2M向けに最初に仕様が固まった「LTE Cat.1」
LTEの各規格の中で、機器間の通信を意味する「M2M(Machine to Machine)」に向け、最初に仕様が固まったのは「LTE Cat.1」である。
2008年、3GPP Release 8において「LTE Use Equipment(UE)」という仕様が定められ、その中でLTE Cat.1~5が制定された(正式名称はLTE UE Category 1~5)。3GPP Release 8では、仕様で言えば「HSPA Evolution」(Download 43.2Mbps/Upload 11.5Mbps)が定義されたのだが、これと併せてLTE向けのCat.1~Cat.5が、以下の表のようなかたちで定義されている。
LTEカテゴリー | バンド幅 | MIMO | 変調方式 | L2バッファ | ダウインロード | アップロード |
Cat.1 | 20MHz | なし | Uplink:QPSK/16QAM Downlink:QPSK/16QAM/64QAM | 150KB | 10Mbps | 5Mbps |
Cat.2 | 2×2 | 700KB | 50Mbps | 25Mbps | ||
Cat.3 | 1400KB | 100Mbps | 50Mbps | |||
Cat.4 | 1900KB | 150Mbps | ||||
Cat.5 | 4×4 | QPSK/16QAM/64QAM | 3500KB | 300Mbps | 75Mbps |
これらは特にM2M向けというわけではなく、通常の端末向けの規格だ。通信キャリアは必ずしもこれら全てをカバーする必要はない。例えばNTTドコモは2010年にLTEサービス(Xi)を開始しているが、これはCat.3相当である。
ただ、表を見ると分かるが、Cat.1~Cat.5は基本的に同じ技術であり、Cat.3やCat.4のサービスを実施しているキャリアであれば、もちろん検証とかの手間は必要ながら、若干の基地局の手直しだけでCat.1の運用が可能になる。
Cat.1はコスト高とインフラ未整備で、当初は国際的にも普及せず
こうした点を踏まえ、このCat.1をM2Mの通信に使おうという動きは、3GPP Release 8が固まる頃から話題になっていた。この当時、M2Mの問題点はコストの高さで、通信費もさることながら、モデム代が馬鹿にならないということもあり、例えば国内では2007年頃に、PHSを使ってM2M向けの回線を提供しようといった動きが盛んだった。Cat.1では、こうした用途を次第に代替していくことを狙っていたようだ。
ただ、残念ながら市場はそういう方向へは動かなかった。まず、通信キャリアの側から言えば、Cat.3ベースのLTEから、3GPP Release 19で定義されたより高速なCat.6、さらにLTE Advancedという具合に、より速度を上げる方向で設備の更新が行われていった。Cat.1に関しては完全に後回しというか、視野に入っておらず、やればできるが、あえて今やる必要はない、という状況が続いた。
端末の側で言えば、最新のLTEに対応した高速なモデムへのニーズが大きく、安価なCat.1対応モデムへのニーズは、これに比べて少なかった。そうなると価格が下がる道理はないわけで、価格が下がらないからマーケットも広がらない、という悪循環に陥っていたわけだ。
さらに、これは日本だけの事情ではなく、海外でも同様だった。加えて言えば、LTEの普及状況も、国ごとにかなりバラつきが大きかった。例えば2016年頃になると、日本などでは90%以上のカバー率でLTEが普及していた一方で、ヨーロッパでは50%前後にとどまるといった状況だった。
こうなると、そもそもCat.1を利用するためのインフラがまだ準備されていないことになる。それもあってか、「EC-GSM-IoT(Extended Coverage-GSM-IoT)」という2Gの技術をベースにしたLPWAが爆誕してしまうわけだが、これはまた別の機会に紹介したい。
不発のCat.0、広帯域とハンドオーバー性能からCat.1に再び脚光
さて、そんなわけでM2M向けの通信方式として決定的なものがない、という状況下で、機器メーカーは「より安価にモデムを作れる通信方式」の標準化を3GPPに働きかけることになる。紆余曲折を経て、最終的には「3GPP Release 12」において、「Cat.0(LTE UE Category 0)」として2015年に標準化が行われることになった。ではこのCat.0が使われたかというと、結局これを採用するキャリアは皆無だった。このあたりはCat.M1のところでまた説明をしたいが、要するにCat.0は事実上死んだ規格になってしまったわけだ。
面白いのは、その2015年に再びCat.1がよみがえりはじめたことだ。2015年といえば、既にSIGFOXはサービスを開始しており、またLoRa Allianceも結成された時期で、「とりあえずM2Mで繋ぐ」という手段に関しては、携帯電話以外のソリューションが登場し始めた時期である。
ただ、SIGFOXにしてもLoRaにしても、消費電力との兼ね合いではあるにせよ、非常に帯域を絞った規格であり、ある程度の帯域が必要という用途には向かない。さらに、徒歩や自転車といった程度の移動速度であればハンドオーバーを含む通信が可能だが、それ以上の速度になると対応が難しくなる。この点はCat.0の反省から生まれたCat.M1でも同じで、結果として「より広い帯域とハンドオーバー性能を提供できる、M2M向けの通信規格」のニーズが洗い出されることになり、ここに、Cat.1が最適という話になったわけだ。
通信速度そのものは最大でも10Mbps程度で、実効で言えば数Mbps程度でしかないが、それでもSIGFOXやLoRaWANなどに比べてはるかに広帯域だし、移動時の対応についてもLTEと同じハンドオーバー技術が利用できるため、新幹線は厳しいとしても、自動車や普通電車程度であれば十分利用できる。
こうした動向を踏まえて、まず、2015年にフランスのSequans Communicationsが「Calliope」チップセットをリリースし、翌2016年3月にはNTTドコモとの相互運用試験を完了している。
2015年にはオランダgemaltoのCat.1向けモジュール「ESL31」も発表されており、こちらも2016年7月にNTTドコモとの相互運用試験を完了している。このあたりから次第に製品が増え始め、2016年11月にはu-bloxの「LARA-R3121」が出荷されている。2016年1月にSONYが買収したイスラエルのAltair Semiconductorも、2016年11月にNTTドコモと組んでデモを行っている。
ここで取り上げたリリースが、NTTドコモと絡んだものばかりなのはたまたまで、国内ではKDDIやソフトバンクなども相互運用試験を行っている。また、海外の携帯電話キャリアも同様に相互運用試験を実施しており、2017年あたりから急に現実的なソリューションとして使えるようになった。
現状で言えば、NTTドコモであれば18製品の相互接続試験が完了しており、KDDIなら8製品、一方、ソフトバンクも同じく8製品)というように、Cat.1対応製品の選択の幅がずいぶん広がった。
モジュールだけでなくサービスの側も同様で、例えば東京ガスとソフトバンクの実証実験のように、ビジネスとして成立するかの検証も2016年頃から積極的に行われており、これを経て主要なキャリアはCat.1のサービスを提供開始している。
では、そのCat.1がLPWAか? と言われると、その条件の1つである“Low Power”に関しては、おそらく上限ギリギリではあるだろう。LTE Cat.1については、ほぼLTE網と同程度のカバレージと同程度のハンドオーバー性能を持ち、最大10Mbpsのダウンロードと5Mbpsのアップロードが可能な、いわばLPWAのハイエンドにあたる規格としていいかと思う。
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