期待のネット新技術
通信の冗長性を確保するLPWAらしからぬ通信技術「FlexNet」
【IoT時代の無線通信技術「LPWA」とは?】(第12回)
2019年5月28日 06:00
LPWA、あるいはLPWANと呼ばれる規格は、Low Power Wide Area(もしくはLow Power Wide Area Network)の略だ。
この規格、2016年ごろから、まず海外で次第に普及が始まり、2017年あたりから、日本でも取り組むベンダーやメーカーが増えてきた。2018年には一斉に開花……とまでは行かないものの、現実に商用サービスはすでに始まっている状況だ。
「IoT時代の無線通信技術『LPWA』とは?」記事一覧
- 省電力で広範囲であればLPWA、新規格も次々登場、LTEやWi-SUNの一部も?
- 世界各地で広範に利用できるLPWAの老舗「SIGFOX」
- おおむね10kmをカバーする「LoRa」、51カ国で100事業者が提供
- M2M向け規格「LTE Cat.1」、最大10MbpsでLTE同様のカバレージのハイエンドLPWA?
- MCT向け省電力規格「LTE Cat.M1」、国内提供は要免許で携帯電話キャリアが中心に
- 単三2本で約10年稼働の省電力規格、“NB-IoT”こと「LTE Cat.NB1」
- 2Gしか通信インフラのない地域向けのLPWA「EC-GSM-IoT」
- 1km超で通信可能な「Wi-Fi HaLow」こと「IEEE 802.11ah」
- 日本発の規格「Wi-SUN」、スマートメーター向けに展開
- メッシュ対応で最大300kbpsの「Wi-SUN HAN」
- 広範囲カバー時のコストパフォーマンスに優れる「RPMA」
- 通信の冗長性を確保するLPWAらしからぬ通信技術「FlexNet」
- 20万台ものデバイスが対応、3ホップメッシュが可能な「WirelessHART」
- 柔軟さと相互接続性を確保した工場向け通信規格「ISA100.11a」
- バッテリーレスで動作する“超”低消費電力の「EnOcean」
- 周波数利用効率が高く、微弱な信号で通信可能な「Weightless-P」
- 4ホップまでのメッシュをサポート、今後の立ち上げを狙う「ZETA」
- ソニー開発の「ELTRES」、274kmの到達距離、時速40kmでも通信可能
- メッシュ前提の転送方式「CTF」を採用した「UNISONet」
- 最大150kbps、単三で電池寿命20年のIoTアプリ向け「Milli 5」
- 433MHz帯の利用で到達距離と低消費電力を両立した「DASH7」
- IoTはレッドオーシャン? LPWAはコストと期間での評価へ
- UNISONet 7つの特徴、今後と海外への展開は?~ソナスインタビュー前編
- LoRaやNB-IoTでカバーできないニッチメジャーを目指す ~ソナスインタビュー後編
水道・ガス・電気のスマートメーター向けに開発された「FlexNet」
今週紹介するのは「FlexNet」である。こちらは2016年8月、水技術企業大手の米Xylemに買収され、現在はXylemのブランド名となっているSensusが独自に開発した通信規格である。
水技術企業が買収した、ということからも分かるように、FlexNetは元々、水道・ガス・電気のスマートメーター向けに開発された技術だ。これを応用して、最近はスマートグリッドやスマートシティなどにも利用できるとしている。
そのFlexNetの通信技術の詳細について、Sensusは明らかにしていない。とりあえず同社が公開している資料から構成をまとめると、まず概略としては以下のようなものとなる。
- ネットワークはSmartPoint、Base Station、RNIから構成
- 通信は双方向構成
上記のうち「SmartPoint」は、要するにエンドデバイスであり、スマートメーターそのほかとして提供される。「Base Station」はSmartPointとRNIを繋ぐ、いわばゲートウェイ的な役割を果たすものとして位置付けられる。「RNI(Regional Network Interface)」はバックボーンのインフラであり、要するに今でいうクラウドサービスにあたるものだ。先週紹介した「RPMA」とは異なり、Base StationとSmartPointはPeer-to-Peerで繋がる方式となる。
901~960MHzの周波数帯は国によって異なる割り当て、最大速度は1.2Mbps
通信方式についてもう少し詳細を見てみよう。同社の場合、提供する周波数帯は国によって異なっており、免許が必要なライセンスバンドと、免許不要のアンライセンスバンドの両方をカバーしている。米国の場合、901~960MHzを利用することになっているが、米国でのこの周波数帯は、PCS、アマチュアラジオ、Pager(ポケベル)、携帯電話、SMRなどが入り乱れている。
従って、利用する周波数を地域によって細かく変更しているのだと思われる。ちなみに後述の資料によれば、恐らくは450~470MHz・700MHz・896~901MHz・901Mz~902MHz・928~960MHz・1427~1432MHz・1605~1625MHzが選択可能で、ほかに280MHz帯も利用可能としている。
話を戻すと、901~902MHzは米国でも免許不要で利用可能だが、928~960MHzはライセンスバンドとなり、運用にはFCCの認可が必要だ。同社はこうしたライセンスバンドを使う理由として「ISM Bandを利用すると、ほかの通信に邪魔される恐れがあり、通信の信頼性が落ちるから」としている。
変調方式などは公式には公開されていないが、開発元のSensusが、「IEEE P802.15」のTG4g(IEEE 802.15.4gはこちらを参照)に対して2009年に出したProposalが公開されている。この中に参考資料としてFlexNetの概要が載っており、先の周波数帯もここから引用している。以下のような特徴も記されており、現状のFlexNetも、おそらくこれに準じるものと思われる。
- チャネル幅:6.25/12.5/25/50/100/200/300/400KHz
- 変調方式:2-FSK/GFSKの他、オプションでModified FSKをサポート
- FEC:オプションながらビダビ変調(1/2ないし3/4)
- エラー訂正:CRC32
- データレート:100bps~200kbps
- 送信出力:5mW~最大5W(実際の出力は監督省庁の許可値に依存)
データレートに関しては、2012年6月に、IPv6に加えて1.2Mbpsのデータレートを次世代FlexNetでサポートするとリリースされており、現状では1.2Mbpsまで引き上げることが可能だとみられる。
半径10km程度をカバー、通信の暗号化に加えてデータの重複も防ぐ仕組みで冗長性も確保
ちなみに、ネットワークカバレッジについて半径10km程度という記述もあるが、実際には送信出力次第で変化するし、低めの周波数であれば到達距離は当然伸びる。そんなわけで、実際のカバレッジがどの程度は状況次第となる。
面白いのは、Sensusではこのカバレッジについて、冗長性を確保するため、個々のSmartPointが複数のBase Stationのカバレッジ範囲に入る(要するにBase Station同士のカバレッジが重複する)ことを推奨していることだ。
すると当然、RNIにはSmartPointからのメッセージが複数届くことになる。Base Stationではここに「TOI(Time of Intercept)」を付加してRNIに送るかたちになる。RNIは、同一のメッセージを受け取った場合、そのTOIを比較して一番古いものを保存する、というかたちでデータの重複を防ぐ仕組みとなっている。
ちなみに、SmartPointとBase Station間、Base StationとRNI間の通信は、当然暗号化(AES-256)がなされており、認証のメカニズムも用意されている。
このSecure Messagingには、「確実な伝達保障」も含まれており、Base StationはSmartPointからのデータを一旦ローカルに保存してからRNIに送るのだが、ここでRNIから「確実に格納した」という通知を受けて初めて、保存したデータを破棄する仕組みになっている。LPWAらしからぬ、高い確実性を担保する仕組みが含まれているわけだ。
米国でスマートメーター向けに広範に採用、国内ではポケベル用の280MHz帯で実証実験、割り当てに今後の課題
さてそのFlexNet、まず米国のスマートメーター向けに広範に採用され、次いで英国でも広く利用されることになった。これを受けて、そのほかの国でもビジネスを広範に進める動きを見せており、これは日本でも同じだ。
2015年にはミライト・テクノロジーと共同で280MHz帯を利用した通信実験を行っており、2016年にはSensusの日本法人であるセンサスジャパンがSebsysの「iPERL」というスマート水道メーターがAISTの型式認定を取得したと発表。さらに2017年2月には、KDDIおよびミライト・テクノロジーズと共同で山間部の遠隔水道検針のトライアルを実施、2017年10月には、NTT西日本と共同で、神戸市でのスマートメーターのフィールドトライアルを行っている。
このNTT西日本とのフィールドトライアルでは、実証エリア図が示されているので分かりやすいが、最寄のBase Stationまでの距離はおよそ7km。長田区の端から東灘区のBase Stationまでが15kmといったところで、ほぼ常識的な範囲である。
神戸市は東西に35Km、南北に30Kmほどの範囲になるので、全体をカバーしようとすると、おそらくあと5~6カ所のBase Stationが必要だと思われるが、逆に言えば神戸市ほどの面積であれば、10カ所未満のBase Stationでほぼ市内全域をカバーできることになる。
ちなみに、面積は小さいが、長野県大町市におけるフィールドトライアルの例では、冬場の積雪の環境でも、ほぼ問題なく通信できたとしている(ちなみに大町市では、LPWAを利用したトライアルも行なわれている)。
このように、日本でも水面下でいろいろな動きがあるFlexNetだが、実証実験で用いられている280MHz帯(正確には279.95~287.95MHz)は、もともとポケベル用に確保されていた帯域だ。ただ、現実問題として、国内最後の事業者である東京テレメッセージは、2019年9月末でのサービス終了を発表済みである。同社は現在、この周波数帯を利用したデジタル同報通信のサービスを行っている。
総務省ではこの280MHz帯の見直しについて、2014年に提案を募集しており、その結果も発表されているが、決定打と見做されるものはなかったようだ。
最新の周波数割り当て計画表でも、280MHz帯は引き続きポケベル(割り当て表の表現では「電気通信業務用」であり、「電気通信業務用での使用は、無線呼出用とする。」と記されている)に割り当てられたままだ。日本での普及には、まずこれを何とかするか、もしくは別の周波数帯の利用を考える必要がありそうだ。
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