期待のネット新技術
メッシュ対応で最大300kbpsの「Wi-SUN HAN」
【IoT時代の無線通信技術「LPWA」とは?】(第10回)
2019年5月14日 06:00
LPWA、あるいはLPWANと呼ばれる規格は、Low Power Wide Area(もしくはLow Power Wide Area Network)の略だ。
この規格、2016年ごろから、まず海外で次第に普及が始まり、2017年あたりから、日本でも取り組むベンダーやメーカーが増えてきた。2018年には一斉に開花……とまでは行かないものの、現実に商用サービスはすでに始まっている状況だ。
「IoT時代の無線通信技術『LPWA』とは?」記事一覧
- 省電力で広範囲であればLPWA、新規格も次々登場、LTEやWi-SUNの一部も?
- 世界各地で広範に利用できるLPWAの老舗「SIGFOX」
- おおむね10kmをカバーする「LoRa」、51カ国で100事業者が提供
- M2M向け規格「LTE Cat.1」、最大10MbpsでLTE同様のカバレージのハイエンドLPWA?
- MCT向け省電力規格「LTE Cat.M1」、国内提供は要免許で携帯電話キャリアが中心に
- 単三2本で約10年稼働の省電力規格、“NB-IoT”こと「LTE Cat.NB1」
- 2Gしか通信インフラのない地域向けのLPWA「EC-GSM-IoT」
- 1km超で通信可能な「Wi-Fi HaLow」こと「IEEE 802.11ah」
- 日本発の規格「Wi-SUN」、スマートメーター向けに展開
- メッシュ対応で最大300kbpsの「Wi-SUN HAN」
- 広範囲カバー時のコストパフォーマンスに優れる「RPMA」
- 通信の冗長性を確保するLPWAらしからぬ通信技術「FlexNet」
- 20万台ものデバイスが対応、3ホップメッシュが可能な「WirelessHART」
- 柔軟さと相互接続性を確保した工場向け通信規格「ISA100.11a」
- バッテリーレスで動作する“超”低消費電力の「EnOcean」
- 周波数利用効率が高く、微弱な信号で通信可能な「Weightless-P」
- 4ホップまでのメッシュをサポート、今後の立ち上げを狙う「ZETA」
- ソニー開発の「ELTRES」、274kmの到達距離、時速40kmでも通信可能
- メッシュ前提の転送方式「CTF」を採用した「UNISONet」
- 最大150kbps、単三で電池寿命20年のIoTアプリ向け「Milli 5」
- 433MHz帯の利用で到達距離と低消費電力を両立した「DASH7」
- IoTはレッドオーシャン? LPWAはコストと期間での評価へ
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- LoRaやNB-IoTでカバーできないニッチメジャーを目指す ~ソナスインタビュー後編
Wi-SUNプロファイルは4つ、「Wi-SUN HAN」はスマートメーターと「HEMS」を接続
前回は「Wi-SUN」を紹介したのだが、実は全部は説明し切れていない。そんなわけで今週もWi-SUNについて。
Wi-SUNは、基本的にはMAC層までで、後はアプリケーションに応じてWi-SUNプロファイルが提供される、という話は、前回説明した通りだ。具体的なプロファイルとして、現時点では以下の4つが公開されている。
- HAN(Home Area Network)
前回説明した、スマートメーター向けのネットワーク - FAN(Field Area Network)
今回メインとなる、LPWA向け拡張 - RLMM(Resource Limited Monitoring and Management)
農業、防災、生産工場など、外部電源が利用できない/しにくい場所に向けた規格。これもLPWAに含まれるかもしれない。 - ガスメーター(JUTA)
「U-BUS」と呼ばれる、ガスメーター用スマートメータリングシステムをWi-SUNの上に載せたもの。JUTAはテレメータリング推進協議会(Japan Utility Telemetering Association)から来ている
このうち「Wi-SUN HAN」は、スマートメーター同士、あるいはスマートメーターと「HEMS(Home Energy Management System)」の接続に使う規格であることは、前回紹介した通り。HEMSとの接続はBルートとなるかたちだ。
Wi-SUNそのものは、Zigbeeと同じくマルチホップにも対応しているが、Wi-SUN HANでは、このHEMSを介したシングルホップの接続も一応サポートしていて、以下のように拡張HANとして扱われている。こちらはさらに対応製品が少ないものの、ロームが2019年3月に対応無線モジュールを発表している。まずはHEMSの普及が先かもしれないが、今後は何かしら登場が期待できるかもしれない。
LPWAのマーケットを狙った「Wi-SUN FAN」
ここまでの話では、ちょっと到達距離が広いPANというかLANの範疇を脱しておらず、あまりLPWAっぽくはない感じだが、もう少しLPWAっぽいというか、まさしくLPWAのマーケットを狙っているのが「Wi-SUN FAN」である。
以下の左は、このWi-SUN FANのイメージである。Wi-SUN FANはプロファイルが違うだけで、PHY層とMAC層はWi-SUNそのものだ。屋外だとシングルホップで500mほどの到達距離で、速度は50~200Kbps程度、国内の場合は100Kbpsあたりとはなるのだが、マルチホップによるメッシュ接続が可能なので、より広範囲での利用が可能だ。そして、実際の使い方の例として示されているのが以下の右だ。
要するに、Wi-SUN FANを使って機器同士をメッシュ接続し、どこかでこれをインターネットに繋いで、そこからクラウドへデータを送るといったイメージになっているようだ。
ちなみにこのWi-SUN FANのWGの共同議長は、CiscoとItron(Tronプロジェクトの方ではなく、スマートグリッド関連のメータリングやサポートなどを提供する米国の企業)が務めている。Wi-SUN FANがスマートグリッドやスマートシティ方面を志向するのは、このあたりから致し方ないところかもしれない。
実際、上の左の構図から分かるが、エンドデバイスは基本的に外部電源が期待できるものが多いため、元々のWi-SUNよりも送受信の頻度が増えてもそれほど問題がない。それにメッシュともなれば、自身が通信する以外に、ほかのデバイスからの通信の中継も入るので、どうしても送受信の頻度が増える。
そうなると、外部電源さえあればメッシュが構築できるので、有線インフラに比べると、はるかに安上がりである。あとはバックホールとの接続をどうするかだが、それこそ今なら4Gや、今後は5Gを使ってもいいわけで、ここにビジネスチャンスがあると判断するのは理解できる。
このWi-SUN FANのプロトコルスタックは、以下のようなかたちとなる。LLC層にL2メッシュの機能を追加したほか、セキュリティとしてIEEE 802.1X認証と、IEEE 802.11iのグループキー管理を追加し、さらにオプションで「ETSI TS 102 887-2」を利用可能としている。
メッシュベースが「Wi-SUN FAN」のメリット、LoRaやCat.NB1との比較で
さてWi-SUN AllianceはこのWi-SUN FANがLPWAとして有力である、という点を強くアピールしている。メリットの1つは、メッシュベースのネットワークなので、環境が変わっても通信環境が維持されやすい、という点だ。Wi-SUN Allianceが公開した以下の動画を見ていただくと、この辺りは分かりやすい。
また、Wi-SUN Allianceのホワイトペーパーでは、「LoRa」および「LTE(Cat.NB1)」との比較で、「そもそも通信速度も速く、レイテンシーも少ない上に、双方向通信をサポートする」とその性能がアピールされている。
ちなみに、ホワイトペーパーでは、「LoRa及びCat.NB1は、Wi-SUN FANと比較して5~6倍速度が遅い。これは要するに、より消費電力が増えるということだ」とされている。CiscoとItronが共同議長という時点で、視点が北米中心になるのは無理もないが、そもそも300kbpsのバンド幅は北米など一部地域に限られる。
LoRaやCat.NB1が、基本的に基地局と言うかアクセスポイントまでPeer-to-Peerで繋がるので、全デバイスが50~60kbpsの速度を一様に享受できるのに対し、メッシュであるWi-SUNでは、バックホールに繋がる部分がボトルネックになる。つまりメッシュ全体からバックホールに繋がる部分が300Kbpsになるわけで、間欠的に通信を行うデバイスばかりなら問題はないだろうが、ある程度通信頻度が増えてくると、実際は大きく変わらないことにもなりかねない。
さらに、ホワイトペーパーでは、セキュリティ要件についても比較されている。確かにこの比較ではWi-SUN FANが非常に強力なセキュリティ要件に基づいているのは分かるが、そもそもLoRaはそういう要求はアプリケーション要件に丸投げしているわけなので、アプリケーション側でそうした実装を行う必要がないという意味ではWi-SUN FAN側にアドバンテージがあるのかもしれないが、ちょっと無理な比較をしている気もする。
とはいえ、メッシュベースで1ホップ最大500mというのは、LoRaなどと比較してもそう見劣りするスピードではないし、速度や機能などの面では、LPWAを名乗るのに十分なスペックとなっているのは間違いない。
基地局は不要ながら、モジュールが高価な点がデメリット
そして、これを担保するのがCertificationプログラムである。Wi-SUN FANに限らず、Wi-SUNではCertificationプログラムの手順が確立しており、Wi-SUN FANにも、もちろんCertificationが用意されている。
Certificationプログラムは2018年10月にスタートしており、2019年2月4日には、京都大学と日新システムズ、ロームによる共同開発のモジュールがCertificationを取得している。
Wi-SUN HANが、スマートメーターまでには入りつつもその展開に苦しんでいる感があるのに対し、Wi-SUN FANは特にItronなど海外のスマートシティ向け製品を提供しているメーカーが力を入れているため、今後じわじわと増えてゆく可能性はあるだろう。
基地局なども不要なため、それこそスタートアップ企業などが、これをベースに何かをはじめるのも難しくない(これは、Wi-SUN HANが日本のスマートメーターに広範に採用された関係で、モジュール類が確実に入手できる点も大きい)。その一方で、モジュールが高止まりして値段が下がりそうにない(このあたりが公共向けビジネスの弊害だろう)のは、それこそLoRaなどと比較すると明確なデメリットで、価格性能比という観点ではちょっと悩みどころだろう。
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