期待のネット新技術

メッシュ対応で最大300kbpsの「Wi-SUN HAN」

【IoT時代の無線通信技術「LPWA」とは?】(第10回)

 LPWA、あるいはLPWANと呼ばれる規格は、Low Power Wide Area(もしくはLow Power Wide Area Network)の略だ。

 この規格、2016年ごろから、まず海外で次第に普及が始まり、2017年あたりから、日本でも取り組むベンダーやメーカーが増えてきた。2018年には一斉に開花……とまでは行かないものの、現実に商用サービスはすでに始まっている状況だ。

Wi-SUNプロファイルは4つ、「Wi-SUN HAN」はスマートメーターと「HEMS」を接続

 前回は「Wi-SUN」を紹介したのだが、実は全部は説明し切れていない。そんなわけで今週もWi-SUNについて。

 Wi-SUNは、基本的にはMAC層までで、後はアプリケーションに応じてWi-SUNプロファイルが提供される、という話は、前回説明した通りだ。具体的なプロファイルとして、現時点では以下の4つが公開されている。

  • HAN(Home Area Network)
      前回説明した、スマートメーター向けのネットワーク
  • FAN(Field Area Network)
      今回メインとなる、LPWA向け拡張
  • RLMM(Resource Limited Monitoring and Management)
      農業、防災、生産工場など、外部電源が利用できない/しにくい場所に向けた規格。これもLPWAに含まれるかもしれない。
  • ガスメーター(JUTA)
      「U-BUS」と呼ばれる、ガスメーター用スマートメータリングシステムをWi-SUNの上に載せたもの。JUTAはテレメータリング推進協議会(Japan Utility Telemetering Association)から来ている
ちなみにRLMMは、Wi-SUNアライアンス内に「RLMM WG(Working Group)」が発足した、というニュースが2014年頃に流れたが、その後音沙汰がない。「IEEE 802.15.10」が2017年に標準化されたことでよし、ということなのかもしれない。出典は、京都大学 原田博司教授の"IoT時代を支える国際無線通信規格Wi-SUN"(PDF)

 このうち「Wi-SUN HAN」は、スマートメーター同士、あるいはスマートメーターと「HEMS(Home Energy Management System)」の接続に使う規格であることは、前回紹介した通り。HEMSとの接続はBルートとなるかたちだ。

 Wi-SUNそのものは、Zigbeeと同じくマルチホップにも対応しているが、Wi-SUN HANでは、このHEMSを介したシングルホップの接続も一応サポートしていて、以下のように拡張HANとして扱われている。こちらはさらに対応製品が少ないものの、ロームが2019年3月に対応無線モジュールを発表している。まずはHEMSの普及が先かもしれないが、今後は何かしら登場が期待できるかもしれない。

前回紹介した「SA-M0」や「CUBEがこの場合はHEMSに相当する

LPWAのマーケットを狙った「Wi-SUN FAN」

 ここまでの話では、ちょっと到達距離が広いPANというかLANの範疇を脱しておらず、あまりLPWAっぽくはない感じだが、もう少しLPWAっぽいというか、まさしくLPWAのマーケットを狙っているのが「Wi-SUN FAN」である。

 以下の左は、このWi-SUN FANのイメージである。Wi-SUN FANはプロファイルが違うだけで、PHY層とMAC層はWi-SUNそのものだ。屋外だとシングルホップで500mほどの到達距離で、速度は50~200Kbps程度、国内の場合は100Kbpsあたりとはなるのだが、マルチホップによるメッシュ接続が可能なので、より広範囲での利用が可能だ。そして、実際の使い方の例として示されているのが以下の右だ。

これだとまるでスマートメーターがネットワークの核になってるようにも見えなくはない
バックボーンにWiMAXというあたりがちょっと時代に合ってない気はする。出典はPhil Beecher氏(Wi-SUN Alliance社長兼CEO)の"Wi-SUN テクノロジーと認証"(PDF)。

 要するに、Wi-SUN FANを使って機器同士をメッシュ接続し、どこかでこれをインターネットに繋いで、そこからクラウドへデータを送るといったイメージになっているようだ。

 ちなみにこのWi-SUN FANのWGの共同議長は、CiscoとItron(Tronプロジェクトの方ではなく、スマートグリッド関連のメータリングやサポートなどを提供する米国の企業)が務めている。Wi-SUN FANがスマートグリッドやスマートシティ方面を志向するのは、このあたりから致し方ないところかもしれない。

 実際、上の左の構図から分かるが、エンドデバイスは基本的に外部電源が期待できるものが多いため、元々のWi-SUNよりも送受信の頻度が増えてもそれほど問題がない。それにメッシュともなれば、自身が通信する以外に、ほかのデバイスからの通信の中継も入るので、どうしても送受信の頻度が増える。

 そうなると、外部電源さえあればメッシュが構築できるので、有線インフラに比べると、はるかに安上がりである。あとはバックホールとの接続をどうするかだが、それこそ今なら4Gや、今後は5Gを使ってもいいわけで、ここにビジネスチャンスがあると判断するのは理解できる。

 このWi-SUN FANのプロトコルスタックは、以下のようなかたちとなる。LLC層にL2メッシュの機能を追加したほか、セキュリティとしてIEEE 802.1X認証と、IEEE 802.11iのグループキー管理を追加し、さらにオプションで「ETSI TS 102 887-2」を利用可能としている。

ベースは6LoWPANだが、L2メッシュが入っている所がWi-SUN HANとは大きく異なる。セキュリティも、基本的にHEMSとの通信だけのHANとクラウド接続を念頭に置いたFANでは、要求レベルが変わるのは理解できる

メッシュベースが「Wi-SUN FAN」のメリット、LoRaやCat.NB1との比較で

 さてWi-SUN AllianceはこのWi-SUN FANがLPWAとして有力である、という点を強くアピールしている。メリットの1つは、メッシュベースのネットワークなので、環境が変わっても通信環境が維持されやすい、という点だ。Wi-SUN Allianceが公開した以下の動画を見ていただくと、この辺りは分かりやすい。

Peer-to-PeerのCat.NB1やLoRaと、メッシュのWi-SUN FANでは、同じように速度を比較はできない気もする。出典はWi-SUN Allianceのホワイトペーパー"Comparing IoT Networks at a Glance"

 また、Wi-SUN Allianceのホワイトペーパーでは、「LoRa」および「LTE(Cat.NB1)」との比較で、「そもそも通信速度も速く、レイテンシーも少ない上に、双方向通信をサポートする」とその性能がアピールされている。

 ちなみに、ホワイトペーパーでは、「LoRa及びCat.NB1は、Wi-SUN FANと比較して5~6倍速度が遅い。これは要するに、より消費電力が増えるということだ」とされている。CiscoとItronが共同議長という時点で、視点が北米中心になるのは無理もないが、そもそも300kbpsのバンド幅は北米など一部地域に限られる。

 LoRaやCat.NB1が、基本的に基地局と言うかアクセスポイントまでPeer-to-Peerで繋がるので、全デバイスが50~60kbpsの速度を一様に享受できるのに対し、メッシュであるWi-SUNでは、バックホールに繋がる部分がボトルネックになる。つまりメッシュ全体からバックホールに繋がる部分が300Kbpsになるわけで、間欠的に通信を行うデバイスばかりなら問題はないだろうが、ある程度通信頻度が増えてくると、実際は大きく変わらないことにもなりかねない。

 さらに、ホワイトペーパーでは、セキュリティ要件についても比較されている。確かにこの比較ではWi-SUN FANが非常に強力なセキュリティ要件に基づいているのは分かるが、そもそもLoRaはそういう要求はアプリケーション要件に丸投げしているわけなので、アプリケーション側でそうした実装を行う必要がないという意味ではWi-SUN FAN側にアドバンテージがあるのかもしれないが、ちょっと無理な比較をしている気もする。

ここでLoRaに認証がないとするのは、ちょっと無理がある気もする

 とはいえ、メッシュベースで1ホップ最大500mというのは、LoRaなどと比較してもそう見劣りするスピードではないし、速度や機能などの面では、LPWAを名乗るのに十分なスペックとなっているのは間違いない。

基地局は不要ながら、モジュールが高価な点がデメリット

 そして、これを担保するのがCertificationプログラムである。Wi-SUN FANに限らず、Wi-SUNではCertificationプログラムの手順が確立しており、Wi-SUN FANにも、もちろんCertificationが用意されている。

PHYに関してはWi-SUN HAN/FAN/JUTAのCertificationが提供されるが、Technical Profileに関しては今のところWi-SUN HANのみの提供となっている。バックボーンにWiMAXというあたり、やや時代に合ってない気はする
テストはTBUを使って行われる。今のところUS(902~928MHz)に対応したCertificationをTELEC/TUV North America/TUV Yokohama/Allionの4カ所が提供可能となっているそうだ

 Certificationプログラムは2018年10月にスタートしており、2019年2月4日には、京都大学と日新システムズ、ロームによる共同開発のモジュールがCertificationを取得している。

 Wi-SUN HANが、スマートメーターまでには入りつつもその展開に苦しんでいる感があるのに対し、Wi-SUN FANは特にItronなど海外のスマートシティ向け製品を提供しているメーカーが力を入れているため、今後じわじわと増えてゆく可能性はあるだろう。

 基地局なども不要なため、それこそスタートアップ企業などが、これをベースに何かをはじめるのも難しくない(これは、Wi-SUN HANが日本のスマートメーターに広範に採用された関係で、モジュール類が確実に入手できる点も大きい)。その一方で、モジュールが高止まりして値段が下がりそうにない(このあたりが公共向けビジネスの弊害だろう)のは、それこそLoRaなどと比較すると明確なデメリットで、価格性能比という観点ではちょっと悩みどころだろう。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/